素直になれない似たもの父娘(おやこ)の旅路を描く 時代劇×落語=新感覚のエンタメ!? 「ざ☆くりもん」最新作、10月・1月に連続上演

 “エンターテイメント時代劇”として、幅広い年齢層に分かりやすく親しみやすい、笑って泣ける人情劇を創造する「ざ☆くりもん」。江戸を舞台に単一の世界観の元で全ての作品が書かれ、同じ登場人物が複数作品に登場する“スターシステム”を採用しており、初見でも楽しめる作りながら、複数作品を観れば観るほどに解釈が深まる仕組みになっている。
 そんな「ざ☆くりもん」で2017年に“旅”をテーマに公演された『父娘旅情』、『冥途遊山』がこの度再演される。10月の第31回本公演『父娘旅情』では母を亡くし、残された父と娘がすれ違いつつも、家族の絆を確かめる物語。娘・おりん役の高岡薫、父・半七役の渡辺克己に意気込みを聞いた。


―――出演が決まった時のお気持ちは?

高岡「以前も江戸時代を舞台にした作品に出演させていただいたことはあったのですが、その作品はミュージカルだったので、ストレート舞台で時代劇に出演するのは初めてになります。オファーをいただいて、あらすじを拝見した時から『凄く面白そう!』と思って出演させていただくことをずっと楽しみにしていました」

渡辺「僕はこれまで侍や大名や……昨年出演した作品は後鳥羽上皇役で(笑)、他にもさまざまな役柄で時代劇に出てはいますが、意外と“町人”の役は初めてなんです。
 今作はエンターテインメント時代劇として落語の要素を取り入れているということで、僕は落語が昔から大好きなので、その点を凄く楽しみにしています」

―――落語ファン歴はどのくらいなのでしょうか?

渡辺「小学生の頃から『ラジオ寄席』を聴いていて、一時期(立川)談志師匠の追っかけをやっていたほど夢中でした! 友達にも落語家がいて、馴染みがあります。
 でもやるのはハードルが高いんですよね……あの粋な感じ、江戸弁の独特なリズムと節回しが難しくて。そこも魅力の1つなのですが」

―――ご自身が演じる役に感情移入できる部分はありますか?

高岡「おりんの頑固で、自分の意見を貫き通すところは、私に似ているなと親近感を覚えました。私も変な所にこだわりがあって頑固なので」

渡辺「そうなの⁉ そうは見えないけど……」

高岡「ふふふ(笑)。すみません、実はそうなんです。そしてそれが“父親譲りの性格”である、という点もおりんとの共通点です。」

渡辺「半七は口調こそ乱暴だけど性根は優しい父親で、その優しさを素直に表に出せないんですよね。どうやって表現するか悩みながら台本を読んでいるところです」

―――古き良き昭和の父親、という感じでしょうか。

渡辺「そうですね! 今あんな口調で娘にあたったら、時代に合わないだろうでしょうけれど(笑)。
 もともと僕自身は喋るのが苦手だったので、世の中には思ったことを素直に言える人ばっかりじゃないというのを、身をもって実感しているんです。だからこそ、半七のような“言葉にできないけれど、色々な想いを抱えている人物”というのは上手く表現したいなと思います」

―――今作のように、赤の他人ではなくて親子だからこそ言えなかったり、素直になれなかったり……ということもありますよね。

渡辺「ましてや、(半七は)嫁さんが亡くなっていて、男手ひとつで娘を育てているのですから、大変ですよ」

―――先ほど高岡さんは頑固な性格はご自身のお父様譲りだとおっしゃっていましたが、お父様との関係性は?

高岡「結構仲がいい親子だと思います。父親に対する反抗期はあまりなかったんです。共通の趣味が多いからでしょうか。父の影響で私がPerfumeにハマったり、父が読んでいるマンガがアニメ化して、それに私がハマって一緒に盛り上がったり……。

―――もしかして、高岡さんもお若いので、若めのお父様なのでしょうか?

高岡「いや、姉が2人いるので同級生のお父さんたちよりも少し上の年代くらいです。姉2人も父と仲良しなんですよ。ちなみに、母に対する反抗期はありましたので(笑)、役作りをする時はそっちを参考にするかもしれません」

―――おりんは母がいないがゆえに、全てのイライラ・もやもやが父親に向かってしまうんでしょうね。旅の道中、おりんの恋愛話を聞いて半七が不機嫌になってしまい、気持ちがすれ違う……という思春期の娘と父らしいエピソードがありますが、高岡さんご自身には思春期の頃の思い出やエピソードはありますか?

渡辺「あれ、まだ思春期なのでは?」

高岡「流石にもう終わりました!(笑) そうですね……思春期というよりは反抗期なんですけど『習い事の練習をしなさい!』って母に言われるのが嫌で『もうやった!』って嘘をついちゃったことは何度かあります」

―――とてもかわいらしいエピソードですね!(笑) 渡辺さんは今作を通じて、ご自身の家族を思い出すことはありましたか?

渡辺「僕の父親がまさに半七にタイプが近いんですよ。他人に頼まれ事をされると自分を犠牲にしてでも助けちゃう、昔気質な……まさに落語でいうところの『井戸の茶碗』の登場人物のような人でした。優しいんですけど、物言いがキツイところも(半七に)よく似ていますね。
 48歳の若さで亡くなった父ですが、亡くなった後に『生前お世話になって……』っていう人が沢山訪ねてきたんです。家族が知らないところで施設に寄付をしていた、なんていう話も出てきて、生きている時にはそんなこと、おくびにも出さなかったのに……と。お金のことよりも義理人情に厚いところが半七に通ずるように思います」

―――おふたりともご自身の家族とのやりとりが、役作りのヒントになりそうですね。では続いて、“旅”という作品のテーマにちなんで、思い出に残っている旅のエピソードがあれば教えてください。

高岡「昨年の春に初めて1人旅をして、秋田県に行きました。以前共演した方がいるご縁から秋田の『劇団わらび座』のミュージカルが現地で観たくて。ただ、1人だからとロクに計画を立てずに行ってしまって、てんやわんやしてしまいました。
 特に想定外だったのは、道に街灯が全然なくて、夜に1人で歩くのが凄く怖かったことです。ただそういった部分も含めて、いい経験・いい旅でした」

渡辺「街灯がなくて真っ暗といえば、北海道の大雪山に行った時に、夜は星空が降ってきそうな感覚を味わったのが印象的です。寒いのでテントに身体を入れて、顔だけを出して見ていたのですが、こんなに星ってあるんだってビックリするくらい瞬いていました。
 確かに街灯がないのは不便で怖いですけど、広大な星空というのはネオンだらけの都会では見られない光景ですよね」

―――暗いのも悪い事だけではないということですね! おふたりとの素敵なエピソードを沢山お聞かせいただいて、ありがとうございました。最後に、ご来場される皆様へメッセージをお願いします。

渡辺「半七とおりん、そして亡き妻・おつうの『家族の物語』を通じて、ご自身がなんとなく“大事なのに大事だって素直に言えていないもの”に気づいてもらえたら。僕自身も含めてですが、皆が周りに優しくなれて、よりよい世界になるんじゃないかなと思っています。最近心がかさついているな、ささくれているなと感じている方にこそ観てほしいお芝居です。
 時代劇とは言いますが、言葉遣いは現代っぽくなっているので分かりやすく、コミカルなパートもある、シンプルに楽しんでいただける作品かなと思いますので老若男女問わず、お待ちしております」

高岡「舞台に馴染みがないお客様も、落語パートがあるので、色々な角度から楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。私が台本を読んだ時のワクワク感を皆さんに体感していただけるように、これから始まる稽古を頑張っていきたいと思っています。
 1月には今作『父娘旅情』とリンクして、亡くなった母をフィーチャーした物語『冥途遊山』が公演されますので、ぜひ2作品続けて楽しんでいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします!」

(取材・文&撮影:通崎千穂(SrotaStage))

プロフィール

高岡 薫(たかおか・かおる)
2000年11月29日生まれ、愛媛県出身。2014年「AKB48 Team8 全国一⻫オーディション」に愛媛県代表として合格し、Team8のメンバーとして活動。2023年に卒業してから、主に舞台を中心に活躍。舞台『白豚貴族ですが前世の記憶が生えたのでひよこな弟育てます』菊乃井鳳蝶役(主演)、舞台『スパイ教室』サラ役、舞台『グリザイア:ファントムトリガーTHE STAGE』アイ役など、2.5次元舞台への出演も続いている。

渡辺克己(わたなべ・かつみ)
1965年4月11日生まれ、東京都出身。ナレーター・俳優・MCを務めながら、発声・演技教師、コミュニケーションコンサルタント、番組ディレクターなどさまざまな分野で活躍。吃音のため、想いがあるのに伝えられない苦しみを感じていたことから、「自分のことばを発することで、お互いを尊重し合える世界」を実現するために活動している。主な舞台出演作品に、ミュージカル『悪の娘』、ショーGEKI大魔王『新撰組・維新士』、だるま座『煙が目に染みる』、気晴らしBOYZ『ふらちな侍』など。

公演情報

片肌☆倶利伽羅紋紋一座 ざ☆くりもん 2024
第31回本公演『父娘旅情』

日:2024年10月23日(水)~27日(日)
場:シアターグリーン BOX in BOX THEATER
料:【劇場】SS席[前2列]8,000円
   S席6,000円 A席5,500円
   ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
   (全席指定・税込)
  【配信】3,500円 ※Confetti Streaming Theater
   にて10/24より配信
HP:https://alii-inc.co.jp/kurimon/
問:アリー・エンターテイメント
  mail:kurimon@alii-inc.co.jp

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