日本史や伝説をベースにした壮大な物語に定評のあるカムカムミニキーナ。次回作『鶴人(つるじん)』について、八嶋智人と山崎樹範に話を聞いた。
鶴人のタイトルは長屋王の伝説から
―――『鶴人(つるじん)』というタイトル、インパクトがありますね。いつも『古事記』や『日本書紀』などの古典をベースにしているカムカムミニキーナですが、今回はどんなお話になるのでしょう?
八嶋「奈良時代に長屋王という有力者がいて、鶴を飼っていたという伝説があるんですよ。『鶴人』というタイトルもそこから来ていると松村から聞きました。
長屋王は奈良の人の中では有名で、邸宅跡地にできた某デパートはすぐに潰れてなくなってしまい、その後も店がコロコロ変わるんです。“長屋王の呪い”が今でも続いているのかと言われるくらい。今回の公演では、長屋王の呪いの発端も描かれます」
山崎「物語の柱が、3本くらいあるんです。ワークショップの時はホワイトボードを使って、あらすじやその時代の説明を受けました。何代にもわたる長い話で、この芝居は5時間くらい上演するのかと思いましたけど(笑)」
―――ワークショップでは他にどんなことを?
山崎「物語全体の流れは一旦置いておいて、『この2人が出会った瞬間!』といった、シーンの断片をみんなで作っていくんです。ピースを埋めていくような、主宰の松村(武)さんの脚本のヒントにもなるような時間です。その時は自分がどの役を演じるかまだわかっていないので、全部の役をフラットに見られるのもワークショップの良さですね」
八嶋「感覚を共有するという時間でもあるけど、意外と性格が出たりする。今回は年齢層もわりと広いですしね。いろんなタイプの方がいるのが健全だなって気がします。チラシを見ていただいてもわかります通り、客演さんと劇団員で分かれてはいるものの、今回キャスト順が初めて“あいうえお順”に書いております。みんなで多面体を作っていくって感じだと思うんです」
葬られた物語を観ることで、今を俯瞰する
―――『鶴人』を通して観客に伝えたいこと、一緒に考えていきたいことなどはありますか?
八嶋「僕らの劇団は負けた側、葬られた側のお話をよくしています。そちら側の物語をちゃんと観ることで、勝っている側が全てが正しいわけじゃないと、世界を大きく捉えることができる。それによって、今を生きる僕らの世界がどういうものかを、少し自分の感情とは離れて俯瞰できるんです。今流行りのリベラルアーツみたいなところが松村のカムカム作品にあると思っています。
『戦争反対ですか?』と問われれば、大抵の人は『反対』って言いますよね。でもなんで戦争はなくならないか、なんで反対なのかをもう少しだけ考えようとか。『より良く生きた方がいい』って言うけど、より良くって何より良いことで、良いことって何のことなのか。そういうことをちょっとだけ考える時間になればいいな。説教くさくなく。それが演劇の役割でもあるとも思います。
すぐ忘れちゃっても、考えたことがどこかに残っていれば、町で困っている人を見かけたときに本当に助けようと体が動く。手を差し伸べた方が迷惑かもしれないと思っても、ちゃんと考えて手を差し伸べられるかどうかとか。そういう小さなことでいいって気はしますね。カムカムに限ったことではないですけど、そういう模索は常にし続けないと止まっちゃうんです」
山崎「僕は八嶋さんの考えているようなところまでいけてないし、今でもわりと受け流される側の人間なんですよ。でも、カムカムに出る度に、物語をもっと主観ではなく客観的に見なきゃと思うようになってきたし、自分がどうこうじゃないところにいた方がいいんだなって少しずつ思えてきてるんです。それをまだ形にできているかというと難しいし、正直、愚痴っぽくなるんですけど、他所の舞台に出るよりカムカムの舞台に出るときの自分の方が一番下手だと感じるんですよ!」
八嶋「(笑)」
山崎「何回か出て『やっぱカムカムの俺下手だな』ってホント思うんですよね。何とかそれをクリアして、もっともっと物語の中の1つになれるようになりたいです。どうしても自分を出すって方向のことばっか考えて生きてきたから、カムカムに出る度に『俺はまだまだだな、もっと自分のこと考えてたな』と。修行の場だと思ってます」
長台詞を言うのは大抵女性!?
―――本作では、女性天皇の活躍や虐げられる鶴など、印象深い女性が多数登場すると伺っています。
八嶋「『鶴人』の舞台になる奈良時代は女帝が多いんです。女性が当時の日本の中心にいて、その周りにうごめく人たちがいた。そんな時代を舞台に演じることで、“人間”というものを少し距離をもって客観的に捉えることができる。今に繋がる端緒みたいなものを考えてもらう。僕らもそういうことを考えながら作っています」
山崎「個人的な印象ですが、カムカムって実はずっと女性の劇団だと思ってるんです。僕が観客として観ていたころの松村さんや八嶋さんもちろん凄かったし、ワーッとやってるのは男性なんですけど。端的にいうと長台詞を言ってるのは大抵女性なんです。それを言える子たちが脈々と出てくる」
八嶋「今は(田原)靖子だったり(長谷部)洋子だったり」
山崎「(相原)未来やプリさん(藤田記子)もすごい。その前はあそこにいる制作の(佐藤)恭子ちゃんも、田端玲実も。カムカムは女性が大事なところをずっと担ってきています」
―――最後に読者の方へ一言お願いいたします。
八嶋「『鶴人』。いいタイトルだなって思います。不思議なお話だけど、今を生きる僕らには全然荒唐無稽じゃないお芝居に仕上がると思います。劇場で体感して、咀嚼していただければ本望です。劇場で待ってます!」
山崎「あらすじを読むとよく分からないと思いますが(笑)。真面目なだけじゃなく笑える。演劇が全部詰まっているのが、カムカムミニキーナです。演劇を存分に味わってほしいと思います」
(取材・文:いつか床子 撮影:平賀正明)
八嶋智人さん
「僕は、とにかくお喋りなのです。本番前に集中したい役者はたくさんいらっしゃると思います。が!! 僕は、とにかくお喋りが好きなのです。なぜかと申しますと、本番前は放っといても、緊張もするでしょ? だから、リラックスして、新鮮に本番に望むために、共演者に白い目で見られても、どうしてもお喋りしちゃうのです。ごめんなさい。そして、ありがとう」
山崎樹範さん
「本番前のお客様のいない客席をボーッと眺めること。20代中盤、大きな舞台のアンダースタディをやりました。稽古場での代役と劇場でゲネプロまでをやるお仕事でした。ゲネプロとは全て本番同様だが客席には演出家やスタッフが数人いるだけの通し稽古です。お客さんのいない客席は舞台から見ると無機質でシートの赤ばかりが映えます。『いつかこんな大きな舞台で満員のお客様の前で演じたい』この気持ちが私の原点です。そして気が付けば本番前に無人の客席をボーッと眺めてしまうようになりました。あの頃の気持ちを忘れないように」
プロフィール
八嶋智人(やしま・のりと)
1970年9月27日生まれ、奈良県出身。1990年、早稲田大学演劇倶楽部のメンバーであった松村武、吉田晋一ら5名でカムカムミニキーナを旗揚げ。以降、劇団の看板役者として、舞台・ドラマ・バラエティ・CM・映画などで幅広く活動している。近作に、ドラマ『不適切にもほどがある!』八嶋智人役、『マウンテンドクター』、舞台『リバーサイド名球会』など。2019年には、三谷幸喜 作・演出による新作歌舞伎『月光露針路日本 風雲児たち』で歌舞伎初出演を果たした。
山崎樹範(やまざき・しげのり)
1974年2月26日生まれ、東京都出身。1995年、『緊急美人』より、カムカムミニキーナに参加。1997年、『白線流し 19の春』でドラマデビューを果たし、現在は舞台出演の他、ドラマ・バラエティ・映画・ナレーションなどで精力的に活動。近作に、ドラマ『海のはじまり』、『ゲームの名は誘拐』、朗読劇『ハロルドとモード』など。八嶋との共演は、2022年の本公演『ときじく』以来となる。
公演情報
カムカムミニキーナ vol.74『鶴人(つるじん)』
【東京公演】
日:2024年12月5日(木)~15日(日)
場:座・高円寺1
料:スペシャルチケット[特典付]8,000円
一般5,000円 早割[12/5~7夜公演]4,600円
シニア割[65歳以上]4,600円 学割3,600円
(全席指定・税込)
【大阪公演】
日:2024年12月21日(土)・22日(日)
場:近鉄アート館
料:スペシャルチケット[特典付]8,000円
一般6,000円
シニア割[65歳以上]チケット5,600円
学割3,600円(全席指定・税込)
※スペシャルチケットは劇団のみ取扱
※シニア割・学割は要身分証明書提示
HP:https://3297.jp/tsurujin/
問:カムカムミニキーナ mail:ccm@3297.jp