パリ派画家の舞台美術による“ 愛の讃歌”、2年ぶり再演! 連綿と受け継がれる日本の美が描きだす、力強くも叙情的な『白鳥の湖』

 1946年『白鳥の湖』全幕の日本初演時に、エコール・ド・パリ(パリ派)の代表的画家、藤田嗣治(レオナール・フジタ、1886-1968)が手掛けた舞台美術を、2018年に資料と草案に基づいて新製作し、石田種生の演出による日本人の感性、精神性を融合させ新たな総合芸術を生み出した東京シティ・バレエ団。
 22年の再演までは海外ゲストを主演に据えてきたが、2年ぶりの再演となる今回は、初のカンパニー所属日本人キャストのみで贈る。3組のプリンシパルが、オデット/オディール、ジークフリード演じる中、最終公演をつとめる清田カレン、キム・セジョンの2人に本公演への意気込みを聞いた。


―――その立体的な描写により重厚な印象すら与える藤田嗣治美術にお2人はどのような印象をお持ちですか?

キム「とても好きな作品ですし、藤田の舞台美術の前で踊ることができるのは大変光栄なことです。藤田の美術は人を引き込む強い力があり、舞台と美術が調和する一体感があります。

またあの世界の中に入れるのかと思うと今からワクワクしています。美術に負けないように踊らないといけないなというプレッシャーもより一層、感じていますが、初演で感じたあの感動をきちんと表現しようと思っています」

清田「私はまだ実物を見たことがありませんが、舞台写真を見て、その美しさに圧倒されました。木々の葉の1枚1枚や、背景の奥へと続く階段が、とても立体的で、あたかもそこに存在していような、天才画家の凄みをひしひしと感じました。客席から俯瞰した時は、きっと皆さん驚かれると思いますし、ダンサーの私達にもお客様の感動する表情を想像しながら踊ることのワクワク感があります。早く舞台に立ちたいという思いが強いですね」

―――キムさんは2018年の初演時のジークフリード王子役でしたが、その時のお客様の反応は覚えていらっしゃいますか?

キム「凄かったですね。お客様が舞台、美術、音楽を全て楽しんでいる空気が伝わってきましたし、その反応が温かい拍手となって贈られた時はとても感動しました。今回6年ぶりにあの舞台に立てるわけですが、藤田の美術の世界観に合せてよりノーブルに(貴族的に)と言いましょうか、ステップ1つ1つにより高貴な雰囲気をまとわせて踊ることができたらと考えています。技術的な要素よりも、もっと感情を込めてジークフリードに入り込んだ踊りを意識したいです」

―――清田さんは藤田美術版では初主演となります。

清田「とにかく藤田美術のスケールの大きさに負けないようにしたいですね。お客様がダンサーではなく、後ろの舞台美術ばかりを見てしまったらどうしようという不安もありますが、自分をより大きく見せようとするのは違うと思っています。だからこそ、細かいところに神経を使って、1つ1つのステップを正確に踊ることが必要になると思いました。あとは想像力やセンスを普段から意識して磨くことも大事になってきますよね。今、踊っている瞬間も自分が何を感じているかと心に向き合う姿勢など、日々の積み重ねがあれば、表現の幅もまた広がっていくのではと感じています。藤田の美術だけでなく、オーケストラや衣裳、照明も含めた総合芸術の中に、自分は1人のダンサーではなく、芸術の一部としてありたいという意識を高く持つよう心がけています」

―――ダンサーとして、お互いにどのように映っていますか?

キム「色んなパートナーと組んだことがありますが、彼女にはとても素質を感じますね。

舞台に立った時のオーラがありますし、動きを出していない状態でも綺麗。入団から3年経たずにプリンシパルになった理由がすぐ分かりました。

メンタルも強いですし、これからさらに経験を積んでいけばもっともっと成長する可能性を秘めたダンサーだと思っています」

清田「周囲からは、『全幕でプリンシパルの大先輩と踊るって緊張するよね?』と言われることがあるのですが、踊っている時は全くそんなことはなくて、セジョンさんとなら不思議と呼吸が合うという自信があります。日頃のレッスンから、もっともっと頑張りたい!という思いにさせてくれるのでとても有難いです。

本当に優しい方でバレエに対してもパーフェクト。私の動きを想像以上のところまでサポートしてもらえるので、こんなにやりやすいんだと驚いています。全幕は体力的にも技術的にもハードルが上がりますが、トータルでセジョンさんには助けられていています。

気を付けたいのは、助けてもらっている感を出さないようにすることです。そう考えるほど気合いが入りすぎてしまいますが、そこはうまく表現できたらなと思います」

―――是非、注目して欲しい場面はありますか?

キム「自分を見てというのも厚かましいですが(笑)、1幕終盤、宮殿での成人祝いの宴が終わって、今後の人生について悩むジークフリードのシーンでしょうか。白鳥狩りに訪れた湖で美しい白鳥から人間に姿を変えたオデットとの出会いへつながる、いわば物語が始まる大事なシーンです。曲も照明の雰囲気もがらっと変わるので、僕は好きですね。

それと、白鳥のオデットと黒鳥のオディール、対照的な2役を清田さんがどのように演じ分けるのかは今から楽しみにしています」

清田「すごいプレッシャーが!」

一同「(笑)」

清田「壮大なストーリーの中でも、私はシティの4幕が本当にすごいと思います。詳しくは言えませんが、最後のシーンの仕掛けはきっと皆さん驚かれるはずです。

4幕はどの幕よりも感情的といいましょうか、ジークフリードが結果的に悪魔に騙されたことで、裏切られたと悲嘆に暮れるオデットの感情を最大限に表現した踊りに是非注目してもらいたいです。また、コール・ド・バレエ(群舞)の白鳥たちの動きもとても印象的で、静的な2幕に対して、4幕の荒々しさは同じ白鳥たちに思えないぐらいです。私もコール・ド・バレエの白鳥も演じたことがあるので、お客様の反応をよく覚えています。それからシティのエンディングはハッピーエンドなのも嬉しいです」

―――最後に読者の方にメッセージをお願いします。

清田「今回、ステージに立つ1人1人が“特別な舞台”という気持ちを持って臨みます。公演に向けて一致団結して突き進む熱意や、リハーサルから持ち続けた緊張感もすべて舞台に出ると思います。バレエに始まり、音楽、照明、衣裳、舞台美術が融合した生の芸術がお客様の心を動かすことができたら幸せです」

キム「2度も藤田美術の『白鳥の湖』を踊れることがすごく幸せです。バレエはパートナーとの相乗効果が大きい芸術なので、清田さんとの呼吸や目線などの細かい部分も含めてお客様に感じ取ってもらえたらと思います。全幕を通した王子の心境の変化など、一緒に壮大な物語を楽しみましょう!心から皆様のご来場をお待ちしています」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

清田カレン(きよた・かれん)
3歳よりバレエ・エトワールにて清田公美に師事。9歳より法村友井バレエ学校にて法村牧緒に師事する。2012年、Pittsburgh Ballet Schoolに短期留学。2013年、香港Asian Grand Prix 国際コンクール 第1位受賞。翌年、全日本バレエコンクール 第1位受賞。2016年、Royal Winnipeg Ballet School 研修留学。2019年、Ballet Company West Japan登録ダンサーとして活動する。2021年、NBA全国バレエコンクール 第1位、東京新聞全国舞踊コンクール 第1位を受賞し、同年7月に東京シティ・バレエ団に入団。2023年4月、ソリストに昇格。2023年12月、プリンシパルに就任。主な出演作品に、『火の鳥』王女、『パキータ』エトワール、『白鳥の湖』オデット/オディール、パ・ド・トロワ、3羽の白鳥、『眠れる森の美女』オーロラ姫など。

キム・セジョン
韓国カンウォン国立大学バレエ学部舞踊学科卒業。2002年、韓国バレエ協会男子クラシックバレエ部門にて大賞受賞。2005年に韓国ユニバーサル・バレエ団に入団し、ドゥミソリストとして多くの作品に出演。在団中に、2006年韓国舞踊協会新人舞踊コンクールバレエ部門男子第1位、2007年韓国舞踊協会新人舞踊コンクールバレエ部門男子特賞、2009年韓国バレエ協会新人賞、バレエ部門銀賞を受賞する。2011年東京シティ・バレエ入団。2021年4月、プリンシパルに就任。主な出演作品に、『白鳥の湖』ジークフリード王子、『眠れる森の美女』デジレ王子、『くるみ割り人形』コクリューシュ王子、『ロミオとジュリエット』ロミオ、『ジゼル』アルブレヒト、『パキータ』エトワール、『コッペリア』フランツ、『ベートーヴェン交響曲第7番』(ウヴェ・ショルツ振付)ソリスト、『死と乙女』(レオ・ムジック振付)、『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付)ソリスト、『天地創造』よりパ・ド・ドゥ(ウヴェ・ショルツ振付)など。

公演情報

東京シティ・バレエ団『白鳥の湖 〜大いなる愛の讃歌〜』
日:2024年11月30日(土)・12月1日(日)
場:東京文化会館 大ホール
料:S席15,000円 A席12,000円
  B席6,000円 C席3,000円
  U25シート[25歳以下]S席8,000円 A席5,000円 ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://www.tokyocityballet.org
問:東京シティ・バレエ団 mail:contact@tokyocityballet.org

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