能楽堂×フランスの傑作戯曲×リーディング×キャストは組替わり 演出家にとってもキャストにとってもチャレンジングな公演で、見た方を楽しませる

能楽堂×フランスの傑作戯曲×リーディング×キャストは組替わり 演出家にとってもキャストにとってもチャレンジングな公演で、見た方を楽しませる

 CCCreation Presents 無題シリーズvol.1は、ジャン・ジュネの傑作戯曲『女中たち』を男女様々なキャストによるリーディング劇で見せる。
豪華俳優陣による組替わり公演、能楽堂での生演奏+リーディングと、チャレンジングな公演に挑む演出の堀越涼と、女性版でソランジュを演じる山田真歩にインタビューを行った。


―――まずは今回の企画について、堀越さんにお聞きしたいです。

堀越「CCCreationさんから『また一緒にやりませんか』というご連絡があり、『やりましょう』とお返事しました。元々、既成戯曲を僕が演出することだけ決まっていたんです。その後プロデューサーから、『女中たち』という作品を提案していただき、本を読んだら面白くて、これで作ろうとなり、様々な俳優さんに声をかけました」

―――山田さんは、お話をいただいてどう思われましたか?

山田「朗読劇も初めてですし、『女中たち』という作品も知っていたけどちゃんと読んだことはありませんでした。読んだ印象は“手強い”というか、朗読劇でどうやるのだろうと。でも、読んでいくうちに自分の知らない魅惑的な世界が広がって、濃密な何かが生まれるんじゃないかという期待と不安がありましたね」

―――改めて『女中たち』という物語の魅力はどこに感じましたか?

堀越「ストーリー展開もそうですが、台詞の美しさも大きいと思います。俳優がやりたい作品じゃないですか?」

山田「そうかもしれない」

堀越「独特の美しい台詞回し、シェイクスピアくらい長い台詞は魅力に映るだろうなと感じます。役者って常にチャレンジする現場を求めているんですよ。自分の実力を最大限発揮できる、むしろ『私じゃ届かないのでは』くらいの戯曲に挑戦したがる生き物。今回お呼びした皆さんのように、実力ある方がチャレンジしたくなる戯曲だと思います」

山田「確かに言葉の美しさは一つあります。あとはジャン・ジュネという人に興味があります。例えば『急いで』と言った次の瞬間に『時間はあるのよ』と言ったり、『すごく憎んでいる』といった相手に『お慕い申しています』と言ったり。作中で役柄もコロコロ変わるんです」

堀越「ごっこ遊びから始まっていくから」

山田「見ていくと二人の女中が奥様を演じあっているのがわかるんですが、読んでいると謎解きのような感じもある」

堀越「大枠だけ見ると難しくないけど、深めようとするとすごく難しい。そこが魅力ですよね」

山田「いろいろなことを考えて、それを朗読劇でどう演じられるかが課題かなと。ちょっと身に余る感じがあります」

堀越「すごく古い感じがするけど、初演は1947年。一見シェイクスピアの時代くらい古く感じるのはあえてなのか、意図を汲み取るのも難しいですが面白い。僕は脚本も書くので、『なんでこの行の次にこの行が?』と思うし」

山田「そう。世界が成立していたはずなのに崩してくる部分がある」

堀越「『この一言がなければすんなり繋がるのに』と。なにか意図があるんでしょうね」

―――戯曲には『女中たちの演じ方』として、台詞の言い方、衣装や小道具について様々な指示が書かれています。今回はリーディング劇ということで制約が多い中でのお芝居になりますが、現時点で演出はどのように考えていますか?

堀越「実はかなり困っています。僕らは、脚本を読むと動きがパッと絵で浮かぶことがある。普通の上演ならそれで良いけど、リーディングだと手に台本を持っていたり、目線を台本に向けていたりするので、できない動きも出てきます。頭にポンと浮かんだものと違うものを作らなきゃいけない難しさがある」

山田「ただ、お互い長台詞を言うシーンがあるので、両手が空くときに身振りや仕草で見せられるかもしれませんね。例えば女中たちが本当は汚い雑巾を優雅なものに見立てるとか、ないものをあることにしたり、奥様らしい“仕草”を盗んでなりすまそうとするのは役者っぽいなと思います。朗読劇ですが、ジャン・ジュネが重視している仕草はどんなふうに盛り込まれるのかなと思いました」

堀越「動きをどうするんだっていうのが今の課題です。リーディングと銘打っているからには朗読劇である必要がある。しかも今回は能楽堂というもう一つのフックがかかっているので、何重にもなっている虚構世界にどこで落としどころをつけるのか。さらに今回は男性版と女性版もあり、その違いも大きい。つまり要素が盛りだくさんです」

山田「でも、ジュネについて調べたときに読んだ本で『演劇と死は不可分で、劇場は墓地の中に建てるのが最適だ。都市から死や死者を締め出すことは、そのまま演劇を締め出すことに等しい』というようなことを書いていました。今回の劇場は青山の一等地にある能楽堂。お能と死者は切り離せないものですし、私は女中たち二人を死者だと感じたので、世界観に合いすぎていると思いました。それをどうやるのかまだわからないけど……」

堀越「まず椅子を出すのか出さないのかでプランがはっきり変わる。演出家が言っていいのは『Yes』と『No』と『I don’t know』と教わったんですが、そろそろ決断の時期が迫っているので悩みながらやっています」

山田「ジュネも日本の能や世阿弥のことを話していたので、生きていたら能楽堂での上演にテンションが上がったと思います(笑)」

堀越「そうかもしれない(笑)」

山田「未知の世界だから楽しみですよね。今まで見たことがないものを作ろうとするのは怖いけど楽しい。でも、『沈丁花』でご一緒したときにKAATの空間の作り方が素晴らしかったので大丈夫です!」

堀越「まだわからないことも多いですが、みんなで一生懸命作ることになると思います」

山田「朗読劇を見たときに『台本から自由になれない』というもどかしさを感じることがある。本を持つことで生まれる制約が、主従関係があって自由に動けない『女中たち』に繋がったらいいのかなと思っています。朗読劇だから挑戦できることを見つけたいなと」

堀越「ちなみに、朗読劇の経験は?」

山田「小さな喫茶店で、友人に誘われてやったことがあります。でも、その時も朗読と演劇の中間みたいになって、最後まで本を持っているのがもどかしかった。役者は覚えてしまって台本を手放す方が自由だけど、朗読劇の面白さを発見できたらといいなと。あと、(能舞台の)橋掛かりも面白い空間。楽しみです!」

堀越「山田さん、ワクワクしてらっしゃるんですね(笑)」

山田「はい(笑)。堀越さんは絶対にユニークなアイデアを出してくださるので」

―――能舞台だと、観客の視線や座る位置も通常の劇場と異なります。

堀越「そうですね。多面舞台はわりと経験がありますし、あやめ十八番の吉田能くんが生演奏で入ってくれるので、そこは協力しながら。特殊な舞台で、どういうふうに作るかは楽しみにしてほしいなと思います」

山田「吉田さんは『沈丁花』でも音楽を担当してくれましたが、素晴らしいです。もう一人の登場人物という感じ。貝殻みたいなものとか、いろんな楽器を持ってらっしゃるので、今回はどんな楽器を使うのかも楽しみです」

堀越「僕も知らないんですよ。吉田くんがお稽古を見て『じゃあこれを使おう』とセレクトして楽器を持ってくる。本業はピアニストですが、パーカッションもやるし僕らには名前がわからない楽器もある」

―――山田さんは一緒に演じる臼田あさ美さん、円井わんさんと共演経験があります。

堀越「そうなの?」

山田「臼田さんとは『架空OL日記』のドラマと映画でご一緒しましたが、今回みたいな掛け合いは初めて。わんさんはホラードラマ『憑きそい』で私の若い頃を演じられたんです。一緒のシーンはなかったけど、お会いしたことはあります。わんさんも『現場で山田真歩さんに雰囲気が似てるって言われることがあるんです』と言ってくれて、嬉しかったです」

堀越「チームの関係性を作るのも大切なので、いいですね」

―――リーディングだとお稽古期間は少ないのかなと思いますが……。

山田「どうなんですか? 聞きたい」

堀越「山田さんはお稽古大好きなのでいっぱいやりたいと思いますが、多分少ないです。最近知り合った演出家さんに『リーディングってどれくらい稽古するんですか?』って聞いたら『やっぱり2日とか3日』って言ってらっしゃいました」

山田「それでいいと思ってますか(笑)? ジャン・ジュネを3日で?」

堀越「いや~、それは無理でしょう! でもみなさんのスケジュールもあるし、1チームじゃないから」

山田「えー」

堀越「山田さんって映像メインのイメージが強いですが、めちゃくちゃ舞台に熱いんですよ。そして稽古をめちゃくちゃしたいタイプ。だから山田さんには合わせない(笑)」

山田「稽古が好きっていうより、良い台本だからですよ。どこまで掘り下げられるか見てみたいっていうのがある」

―――山田さんは『沈丁花』のときも舞台への情熱を語ってらっしゃいましたが、山田さんが感じる舞台ならではの面白さや魅力はどこにありますか?

堀越「僕は映像がわからないから聞きたい」

山田「空間をみんなで作るのが好きかも。映像って、空間を作るというよりはカットを積み重ねていく感じ。舞台は、空間をみんなで熟成させていく。あの過程が楽しい」

堀越「確かに、チームでやっている感じもありますよね」

山田「『沈丁花』で五年ぶりの舞台を終えた時、生きてて良かったと思えたから」

堀越「(山田さんは)可愛らしいんですよ。千秋楽のカーテンコールで泣いてて、みんなはもうお辞儀していて(笑)。それに気づいて『あ、みんなもう礼してる!』って慌てているのを見て『この人可愛らしいなあ』って思いました」

山田「(笑)。根っこと繋がれる感じがあるんですよね。子供の時から演劇が好きで、友達と即興劇をやって遊んでいたんです」

堀越「だいぶ変わってますよね」

山田「私にとっては演じることが普通のことだったんです。今回は朗読劇という新たなジャンルでのチャレンジが楽しみです」

―――最後に、みなさんへのメッセージをお願いします。

堀越「『女中たち』は“傑作戯曲”と言われていますが、読んだら『おいおい、傑作戯曲だな』と感じるくらいよくできています。そんな作品にさまざまな制約付きで挑むのは、CCCreationさんとしても、俳優・演出家・スタッフ全員にとってチャレンジングなことです。その結果としてどんなものが生まれるのか、劇場で目撃していただきたいと思っています。未知数だから楽しみです」

山田「こんなにやるのを怖いと思ったことはないくらいすごい戯曲です。たくさん読み込むのは怖いから。見に来てほしいけど、自分がちゃんとその空間に立てるかどうかまだ不安です。とはいえ、堀越さんや吉田さん、共演者の皆さんもいて一人じゃない。声と身体の存在と空間で、見た方が『良かった』と感じられるものにしたいと思っています」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

堀越 涼(ほりこし・りょう)
1984年7月1日生まれ。千葉県出身。大学卒業後、花組芝居に俳優として入座(2021年、退団)。2012年、あやめ十八番を旗揚げし、作・演出を務める。古典のエッセンスを盗み現代劇の中に昇華すること、現代人の感覚で古典演劇を再構築することの両面から創作活動を行う。

山田真歩(やまだ・まほ)
1981年9月29日生まれ、東京都出身。2011年公開の映画『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』で本格的に女優デビュー。主な出演作に、映画『SRサイタマノラッパー2女子ラッパー☆傷だらけのライム』、『アレノ』、『正欲』、TVドラマ『あなたの番です』、NHK連続テレビ小説『花子とアン』、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』、NHK大河ドラマ『どうする家康』、『海のはじまり』など。公開待機作に『Cloud クラウド』がある。

公演情報

CCCreation Presents 無題シリーズvol.1 リーディング劇『女中たち』
日:2024年9月20日(金)~23日(月・振休)
場:銕仙会能楽研修所
料:一般7,000円 U-22[22歳以下]4,300円(全席指定・税込)
HP:https://www.cccreation.co.jp/stage/jyochu-tachi/
問:CCCreation mail:contact@cccreation.co.jp

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