峯村リエが魅せる“ミネムラさん”の3つの顔 3人の劇作家が「1人の女性」を見つめて紡ぐ

 劇壇ガルバの第6回公演にして、実験プロジェクトの第2弾となる『ミネムラさん』が9月13日から上演される。
 今回のプロジェクトでは、3名の劇作家 笠木泉・細川洋平・山崎元晴が「女性」をテーマにそれぞれの物語を書き起こし、演出家 西本由香が束ね、1人の主演 峯村リエが演じる。1人の女性の多面的な姿を切り取ることで、観客がどこかに自分を重ね合わせてしまう、抽象的な肖像画のような世界を描く。
 主演の峯村、そして作家の笠木、細川、山崎に公演への想いを聞いた。


―――最初に、今回の企画を聞いたときはどのように感じましたか?

峯村「『ミネムラさん』というタイトルにしたいというお話を伺ったときは、面白そうと軽く思っていましたが、今は、あのときの私の肩を『もうほんとにしっかりして』と揺さぶりたい気持ちです(笑)」

―――企画が進んでいくうちに「あれ?」と?

峯村「そうなんですよ(笑)。周りの人から『「ミネムラさん」という題名ってことは、峯村さんの一生を描いているの?』とか『峯村さんのお話なの?』とたくさん聞かれて、あれ、これちょっと大変なことになっていると(笑)。違うんだよ、『ミネムラさん』って題名で、峯村さんがやらせていただくけれども、作家さんたちが私とお話をした上で、私から閃いたものを書いてくださっているので、決して私ではないんだよと伝えているのですが、きっとそう思っていらっしゃる方もたくさんいらっしゃるんでしょうね。だから、もう少し考えてからタイトルを決めれば良かった(笑)。
 でも、聞いた時は『面白そう! そんな企画、これまでなかったんじゃない?』と思いました」

―――作家の皆さんはいかがですか?

山崎「毎回、主宰の山崎一さんのひらめきをみんなで真剣に考えているので、今回も投げられたフリスビーをみんなで追いかけるような感じでスタートした企画でした(笑)。うーんうーんと言いながら頑張っています(笑)」

峯村「『ええ?』とは思わなかったの?」

山崎「いや、毎回思いますが、でもそれが劇壇ガルバの面白さに繋がっていると思うので、みんなで頑張ろうと思います」

細川「僕も最初に聞いたときはどうなるんだろうと思いましたが、一さんの目がキラキラ輝いていたのでこれはやるしかないなと(笑)。
 個人的には、人間のドキュメンタリー的な部分を書いていくのは楽しく、自分の書く方法としても近しいものがあるとは思ったのですが、ただ、同時に誰か特定の人生を書くことは、その人の人生を見せ物にしてしまうのではないかという思いもあったので、それは避けようと決めて、皆さんと探りながらやってきました」

笠木「私が初めてお話を聞いたのは、昨年、劇壇ガルバの公演の演出をさせていただいているときだったと思います。自分がマックスになっている状態で聞いたので『やります、やります! やった!』と言って引き受けたことは覚えているのですが、後になってこれは大変なことになったぞと(笑)。
 最初は『ある女』というタイトルで、ひとりの女性を軸に、三者三様に見せていくオムニバスということで話が進んでいたんです。ですが、タイトルは『ミネムラさん』にしようという(山崎一の)ひらめきから、ワーッとなって(笑)。すごく面白い企画だと思いますし、峯村さんを主演にした作品を書かせていただけるということはすごくうれしいです」

―――執筆の工程としては、まず作家の皆さんが峯村さんとお話をされて、そこからインスパイアされたことをテーマにストーリーを作っているということでしょうか?

峯村「そうですね、皆さんとお話をさせていただいて。最初は私の好きな映画だったり、音楽だったりということをお話しして、私のことを少しだけ知ってもらうというところから始まりましたね」

山崎「お話を聞いて、峯村さんが主演するという想定のもとに書いています」

笠木「峯村さんを当て書きしないということはあり得ないので、ご本人がどういう方なのかなとか、どうやって普段は話すのかなということを知りたくて、気持ち悪いほど食いついて、見つめまくってお話を聞きました(笑)」

―――そうして出来上がったストーリーは、それぞれどのようなものになっているのですか?

山崎「僕は昔から気になっていた(アントン・)チェーホフの『ねむい』から着想を得ました。これは、子守りをしている少女があまりの眠さに赤ちゃんを殺してしまうというストーリーですが、今回は子守りをしていた女性が目を覚ますところから物語を書こうと思っています。
 あらすじだけ聞くと暗い話なんですが、ユーモラスな読後感があって、これを演じられるのは峯村リエさんしかいない!と今回の題材にしました。ミネムラさんは夢と現実の間を行き来する。そんな作品になればと思っています」

細川「リエさんの舞台をずっと拝見してきて、リエさんが真ん中にいて、さまざまな人が入れ替わりやってきて振り回される姿を描いてみようと思ったことが発想のきっかけですが、それから反転して、リエさんが出演しない作品になりました。『ミネムラさん』について議論を交わす人々が登場し、『ミネムラさん』は何者なのか、『妄想』と『現実』をつなぐ劇世界を描ければと思っています」

笠木「私も峯村さんが出演されていた舞台をたくさん観ていますし、SNSもフォローさせていただいてどんな方なのかを拝見してきました。そうしたら、例えば峯村さんは猫を飼っているとか、どうやらBTSが好きらしいといったことがだんだんとわかってきて、私も猫を飼っているとか、実はBTSも好きだと共通点を見つけて、すごく近しい存在になっていくような感覚が生まれてきました。
 それで、今回、友達の話を書いてみようと思ったんです。ミネムラさんとその友人 ヤスコさんのおしゃべりから始まる物語です」

―――峯村さんは、そうしたご自身をイメージして生まれた物語を読まれてどんな感想を抱きましたか?

峯村「不思議な気持ちではありますが、入りづらいというところが全くないんですよ。何回かお話しさせていただいて、峯村リエという人間を少しでも知っていただいて書いてくださっているので、すごくすんなりと自分の言葉になって出てくるという感覚があります。3作ともタイプは違うのですが、やはり必ずどこかに自分の中にあるものが入っているので、すごく入りやすかったです」

―――それぞれの作品を峯村さんから見て言葉で表すと、どんな作品ですか?

峯村「山崎さんの作品は、不気味でずっと不穏。細川さんは、少しナンセンスで、くすぐられるような面白さがあります。笠木さんは心にくる物語。悲しいわけではないですが、泣きそうになってしまうような作品になるのではないかなと思います」

―――3人の作家が自分のために書いた戯曲を演じるというのは役者冥利につきるのでは?

峯村「楽しみはありますが、同時に恐ろしくもあります(苦笑)。やっぱりセリフ量がすごいですから。体力的にも大変。ですが、還暦を迎えても、こういうことをさせていただけるのは、とてもありがたいことだなと感じています」

―――演出の西本さんと作品を作り上げていくことへの期待や楽しみも教えてください。

峯村「初めてご一緒させていただきますが、演劇のことをものすごく分かっていらっしゃる方だと感じていて、一緒に作っていくこと自体が楽しみです」

山崎「僕は西本さんとは3回目になりますが、とにかく信頼感と安心感のある方です。西本さんは、お客さんを驚かしてやろうという野心を持っている方で、常にどうお客さんの裏をかくかを考えていらっしゃると思います。それがすごく楽しみです」

細川「脚本を書いている段階から、雑談の中でさりげなくアイデアをくれるなど、台本の推進力をいただき、すごくありがたかったですね。
 僕は自分でも演出をするのですが、自分で演出をしたときと、他の方が自分の脚本を演出するときでは、言葉の扱い方が全く変わってくるので、今回、どう扱われていくのかすごく楽しみです」

笠木「私も今回、初めてご一緒しますが、お話をさせていただき、面白くて信頼できる方だと感じました。とにかく気が合うんですよ。
 私も普段は自分で書いたものを演出をするんですが、どうしても自分が演出する想定で書くというか、配置とか美術とかを思い浮かべながら戯曲を書きます。今回も癖でそうして書いてしまったので、きっと自分のイメージを超えたもの生まれるんだろうなとドキドキワクワクしています。
 今回は、私は役者としても出演することになったのですが、自分が書いたものを別の方に演出していただき、そこに出演するというのももう今後もないであろう貴重な体験だと思うので、楽しんで挑んでいこうと思います」

―――改めて公演への意気込みと読者にメッセージをお願いします。

山崎「まだ僕たちもどうなっていくのか手探り状態ではありますが、面白い人たちが集まって、真剣に面白いことを考えている作品ですので、いいものになるという確信があります。ぜひお越しください」

細川「キャストの皆さんの顔ぶれだけでも観たいと思える作品になると思います。そこに3者全く違う不思議な感覚を持った脚本家が、別のカラーを持った脚本を書き、それを演出家のもと1本にまとめあげます。面白くないわけがないと思っております。楽しみにしてほしいと思います」

笠木「きっとこんな作品に出会うことは二度とないと感じていただける、奇跡的な舞台になると思います。普遍的なものをお客さんが感じ取れる瞬間があったらいいなと思って作っているので、よかったら観に来てください」

峯村「とにかくワクワクしています。今までの芝居の中で1番真剣にやります(笑)。来てください」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

峯村リエ(みねむら・りえ)
1964年生まれ、東京都出身。劇団ナイロン100℃所属。舞台・映像と幅広く活躍中。近年の出演作に、【舞台】ナイロン100℃『江戸時代の思い出』、『骨と軽蔑』(作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ、)『ピエタ』(脚本・演出 ペヤンヌ・マキ)、『帰ってきたマイブラザー』(作 マギー/演出 小林顕作)、『ショウ・マスト・ゴー・オン」(作・演出 三谷幸喜)、【ドラマ】『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』(EX)、『仮想儀礼』(NHK BS)など。

笠木 泉(かさぎ・いづみ)
日本女子大学在学中、俳優として宮沢章夫主宰の「遊園地再生事業団」に参加。以後、ペンギンプルペイルパイルズ、劇団、本谷有希子、劇団はえぎわ、岡田利規作品、ニブロール、ミクニヤナイハラプロジェクト、明日のアー等の舞台作品や、ドラマ・映画等の映像作品に長年に渡り多数出演。また自身で作・演出も手掛け、戯曲『家の鍵』がせんだい短編戯曲賞2018の最終候補に選出。2018年に演劇ユニット「スヌーヌー」を立ち上げ、全劇作と演出を担当。第二回公演『モスクワの海』が第66回岸田國士戯曲賞最終候補作にノミネートされる。2023年、10 代のための新しいスクール「GAKU」内のクラス「新しい演劇のつくり方」の担当講師として10代と共に戯曲創作に取り組むなど活動の場を広げている。

細川洋平(ほそかわ・ようへい)
1999年、早稲田大学演劇俱楽部を経て演劇ユニット 水性音楽を結成(2006年解散)。2000年より劇団「猫ニャー(のちに演劇弁当猫ニャーと改名)」に俳優として解散まで参加する。2010年、演劇カンパニー「ほろびて」を始動。活動休止を経て、2015年より小さな舞台空間での創作のために再始動。さまざまな分断を描いた作品『ぼうだあ』(2020年2月)で一躍注目を浴びる。見過ごされる人々を主題にし、やがて世界が抱える問題へとフォーカスする作品を多く発表。物語の構造を疑いながら、演劇という枠組みの更新へ向けた思索を続けている。第11回せんがわ劇場演劇コンクールでほろびてがグランプリ、細川は劇作家賞を受賞。2024年2月には芸劇eyesに選出、東京芸術劇場シアターイーストで『センの夢見る』を上演した。公益財団法人セゾン文化財団セゾン・フェローⅡ。

山崎元晴(やまざき・もとはる)
日本大学藝術学部演劇学科劇作コース卒。2017年、劇団「人生旅行」を旗揚げ主宰。同年の作品に『ライオンの仔』(作・演出)、『汽車からの眺望』(作)、『霜月の非常』(作)。2018年には『冷たい微熱/溺死する女神』(上演台本)、『赤い水槽』(作・演出)を発表。2019年、新国立劇場×ロイヤルコートシアター主催劇作ワークショップ参加。劇壇ガルバには旗揚げ公演より演出部として参加し、2022年の第4弾公演『錆色の木馬』(西本由香演出)に作家として参加。来場者の声がSNS上で反響を呼んだ。2023年演劇集団プラチナネクスト『なにもなかった』(西本由香演出)の脚本を担当。

公演情報

劇壇ガルバ 第6回公演『ミネムラさん』

日:2024年9月13日(金)~23日(月・振休)
場:新宿シアタートップス
料:7,000円 中間割[9/15・16]6,500円
  前半割[9/13・14]6,000円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://gekidangalba.studio.site
問:劇壇ガルバ
  mail:gekidangalba2018@gmail.com

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