クリスマスイブの夜、海の家で男たちの妄想が繰り広げられる⁉ 福田雄一の戯曲を佐藤正和がプロデュース 舞台『大洗にも星はふるなり』演出に松本哲也

クリスマスイブの夜、海の家で男たちの妄想が繰り広げられる⁉ 福田雄一の戯曲を佐藤正和がプロデュース 舞台『大洗にも星はふるなり』演出に松本哲也

 小劇場界で長年活躍する男性俳優のみで結成された「ゴツプロ!」。所属メンバーはそれぞれがプロデュース公演も行っており、派生公演も多い。その中で、佐藤正和が今見せたい・伝えたい“演劇”をより多くの人々に楽しんでもらうことを目的としてプロデュースしているのが「青春の会」だ。今や映画監督としても名高い福田雄一率いる劇団「ブラボーカンパニー」の旗揚げメンバーでもある佐藤が今回、同劇団の代表作『大洗にも星はふるなり』を青春の会で上演する。
 演出は「小松台東」の主宰・松本哲也。クリスマスイブに海の家で繰り広げられる男だけの妄想コメディ。上演にあたり、2人のこれまでの交流や、作品に向けて行われたオーディションについてなど、さまざまな話を聞いた。


―――今作の上演が決まった経緯を教えてください。

佐藤「青春の会は僕自身がやりたい!と思ったものを軽いフットワークでやろうと思っている団体で、これまでに『熱海殺人事件』・『父と暮せば』といずれも名作と謳われる作品を上演してきました。
 今回は……若い男性キャストとわちゃわちゃした芝居をやりたいと思って(笑)。その時にこの『大洗にも星はふるなり』を思い出して、福田さんにやっていいか聞いたら、どうぞ!と二つ返事でOKをいただきました」

松本「ブラボーカンパニー以外に、外部でも上演されてきたんですか?」

佐藤「実は結構やってはいるんですよ。特に映画が上映されてすぐの頃は、劇団(ブラボーカンパニー)に上演許可の申請がよく来ていました。今回僕がプロデュースしてこの『大洗~』をやろうと思った時に、演出は松本哲也しかいないなと思ってオファーしたのですが、いいっすよ!とこちらも二つ返事で(笑)」

松本「そんな軽い返事したっけ?(笑)」

佐藤「そんな感じでトントンと話が進みました」

―――佐藤さんと松本さんの関係性は? 松本さんはゴツプロ!メンバーの浜谷康幸がプロデュースされている「BOND52」で上演された『山笑う』で作・演出をされており、SNSでも松本さん主宰の小松台東とゴツプロ!の交流はよく見られますが……。

佐藤「そうなんですよ。僕はその『山笑う』の時に劇場でお手伝いをしていました。でも、深く話すようになったのは意外と最近かも……?
 ここ数年ゴツプロ!と小松台東の交流ができてから、僕も松本さんの作品を沢山拝見して、コメディセンスに長けた方だなと思っていました」

―――ただ今作のコメディ調は小松台東の作風とは違う雰囲気だと聞きました。

松本「全く違います(笑)」

佐藤「小松台東の作品は、ちょっとした笑いのセンスが絶妙で、福田さんの作風とは確かに違うんですけど、逆にそれがいいなと思ったんです。言葉・シチュエーション・人物の関係性を大事にする松本さんの演出に惹かれました。
 ブラボーカンパニーでもこの『大洗~』は3回上演していますが、それとは全く違うものになりそうな期待があって、今回オファーしました」

―――松本さんはオファーが来た時の心境は?

松本「ゴツプロ!とも交流があったし、佐藤さんとも何度かお話したことがあるので断る理由はなかったです。楽しそうだなと思いました。ただ台本を改めて拝読して、本当にこれ、僕が演出でいいのかな……とは思いましたけどね(笑)。僕が普段演出するようなタイプではないコメディ作品なので、大きな挑戦になります」

―――本作の出演キャストはオーディションで選ばれたと聞きました。

佐藤「そうなんです。せっかくなら今までご一緒したことがない、若いキャスト陣とやれたらいいなと思い、青春の会の僕と井上賢嗣、松本さんと、ゴツプロ!の塚原(大助)も一緒に審査しました」

―――錚々たる審査員でキャストは緊張してしまいそうですね。審査は難航しましたか?

佐藤「割とあっさり決まったんですよ。ありがたいことに沢山の方がエントリーしてくださり、面白い役者さんが沢山いたんですけど……脚本が既にあり、登場キャラクターは決まっているので、並んだ時のバランスや、面白い空気感になりそうな5人を選びました」

―――今作には青春の会の井上賢嗣さんも演者として出演されますが、実は青春の会には初出演だとか……?

佐藤「そうなんです! 『熱海殺人事件』の演出をしてくれたんですけど、出演は初です。僕が彼と共演するのも……15~16年ぶりかも」

松本「そうなの⁉」

佐藤「実はそうなんです。せっかくなので、松本さんにこっぴどくダメ出しされてほしいですね(笑)」

―――男たちを翻弄するヒロインの江里子について、映画では戸田恵梨香さんが演じていらっしゃいましたが、舞台の脚本では登場しません。あえて男性7人だけのコメディとなりますが、見所は?

松本「とあるキャラクターが、皆のことを『正直な人たち』だと言うセリフがあるんですけど、そのセリフが実はキーワードかなと思っています。結果論ですけど、オーディションで選んだ5人の役者も“正直さ”があるような人だなと……。
 ド直球のコメディをやるには“正直さ”って凄く大事なんです。いろいろな意味で素直に、一生懸命に、正直にやるってことが当たり前のようで本当に大事なことで、そこが見所かなと思っています」

―――コメディの方がシリアスよりも真面目にやらないと、コメディとして成立しないとは聞きますよね。

松本「まさにそうですね。本編は、素直に正直になれない男たちの話ではありますけど、芝居は正直にやらないといけません。そして、それができる5人が選ばれたと思っています。
 ……意外と大人な佐藤さんと井上さんが正直になるのが難しかったりするかも?(笑)」

佐藤「これは僕もこっぴどくダメ出しされる覚悟をしないと(笑)。映画をご覧になっている方は、あれ、江里子は出てこないんだって思う方も多いと思うんですけど、1人の女性を巡って右往左往する男の情けなさは、意外と舞台の方が伝わる気がしています。男たちを惑わすマドンナの姿を、ぜひお客様には想像しながら観ていただきたいです」

松本「不在を語るのが演劇の面白さだからね」

―――時代の変化もありますが、脚本は初演からほぼ変わらずですか?

佐藤「ほぼ変わらないですよね?」

松本「そうですね。福田さんの作品らしい時事ネタが散りばめられているので(笑)、今の人たちは全然知らないワードもあるかも……。でもあえて当時の雰囲気を大事にやれたらと思っています」

―――携帯電話もガラケーのまま、スマホにはならない?

佐藤「そうしようかなと! 時代も随分変わってきているので、ガラケー……折り畳み携帯電話の存在すら知らない若い子もそろそろいるんですかね。携帯電話の存在がかなりストーリーにも関わってきますが、あえてガラケーのままいきたいです」

松本「今の時代に無理に合わせてしまうと、僕の脚本みたいになっちゃいますしね。やっぱり福田さんが書いてくださった素晴らしい脚本をできるだけそのまま使いたいです」

―――約20年前の作品ということで、今作にはアンダー25(25歳以下のお客様向けのお得な)チケットもありますが、そちらを利用して観に来るお客様は、生まれてすぐくらいの作品ですよね。

佐藤「言われて気づきましたが、本当にそうですね……!」

松本「出演者の笹田伶くんが生まれてすぐくらいじゃない? そう考えると凄いね」

―――一般チケットも含めてかなりお手頃なチケット代なので、ぜひ観てほしいですね。

佐藤「お手頃ですか? 昔からいる演劇人としては、正直これでも高いなって思っているんですよ。それでも昨今の基準ではお手頃だと思っていただけたら、嬉しいですが……! 若い世代のお客様にもぜひ観に来ていただきたいです」

―――では、最後にお客様にメッセージをお願いします。

松本「純粋に楽しい作品なので、気楽に観てほしいです。東京公演の(下北沢)「劇」小劇場も、大阪公演の扇町ミュージアムキューブCUBE 01も、空間もグッと凝縮したような劇場なので、一緒に笑って元気になれる作品にしたいなと思います」

佐藤「何かを伝えたいっていう作品でもない、とにかく笑えないと意味がない作品です。芝居を始めて、福田さんと一緒にブラボーカンパニーでやってきた僕が、大好きな福田雄一の作品を他の人に演出してもらうという決断をしたのは今回が初めてで……実は凄く新しい挑戦をしているのかもしれないとワクワクしています。
 松本さんの演出で、また違った福田雄一の作品の魅力も出てくるんじゃないかなと思います。僕自身もそれが楽しみですし、お客様にも楽しんでもらえたら嬉しいです! 劇場でお待ちしております」

(取材・文&撮影:通崎千穂)

プロフィール

佐藤正和(さとう・まさかず)
1970年7月7日生まれ、福岡県出身。「ゴツプロ!」のメンバーであるとともに、子供向けの舞台企画「下北沢桃太郎プロジェクト」や、気軽に演劇を楽しんでもらうための「青春の会」をプロデュースしている。福田雄一主宰「ブラボーカンパニー」の創立メンバーであり、劇団作品のほぼ全作品に出演。ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズや、WOWOW×ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』など、映像作品への出演も多数。

松本哲也(まつもと・てつや)
1976年12月20日生まれ、宮崎県出身。2010年に「小松台東」を立ち上げ、主宰を務める。近年では舞台だけでなく、テレビ東京 ドラマ24『東京センチメンタル』、WOWOWオリジナルドラマ『竹内涼真の撮休』など、ドラマの脚本なども手がける。2022年よりファザーズコーポレーションに所属し、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、TBSドラマ『オールドルーキー』などにも出演。

公演情報

ゴツプロ! Presents 青春の会 第6回公演
『大洗にも星はふるなり』

日:2024年8月28日(水)~9月8日(日)
場:下北沢 「劇」小劇場

日:2024年9月14日(土)・15日(日)
場:扇町ミュージアムキューブ CUBE01

料:一般5,000円 早期割引[8/28~30]4,500円
  U-25[25歳以下]3,500円
  (全席自由・税込)
HP:https://52pro.info
問:青春の会制作部 mail:staff@52pro.info

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