葉真中顕の傑作社会派ミステリー小説を舞台化 1人の女性の死が問う、生きるとは?

 脚本家・森岡利行主宰の“STRAYDOG”(ストレイドッグ)、2022年最初のプロデュース公演は2019年に尾野真千子主演でドラマ化され話題を呼んだ、葉真中顕原作の『絶叫』を舞台化。家族に愛されず、仕事も失い、世の中からも棄てられ、最期は遺体で発見された1人の女・鈴木陽子の壮絶な人生を通して、現代社会における「生きるとは?」を投げかける社会派ミステリーだ。陽子役に舞台版『海街diary』(2017年)や『嫌われ松子の一生』(2019年)など多くの人気作に出演した円谷優希、陽子の死を捜査する女性刑事役に『心は孤独なアトム』(2021年)を始めとする多くの“STRAYDOG”作品で重要な役を演じてきた富樫未来を迎え、舞台版ならではの濃密な一本に昇華させる。主演の2人に本作への意気込みを聞いた。


ひとつもカットできるシーンはない

―――原作小説、テレビドラマと多くのファンを持つ作品ですが、脚本を読んだ印象、役を演じる上で心がけたい部分などお聞かせください。

円谷「私は出演が決まった時は色んな感情がありましたね。嬉しいという気持ちの反面、自分で大丈夫なのかという不安やプレッシャーもありました。作品としてはメッセージ性が強いという印象で、登場人物の行動が『極端だけども、自分もこうなっていたかもしれない』という現実と物語の間に良い距離間があると感じました。ショッキングな形で40代半ばにして人生を終えた鈴木陽子はごく普通の女性でしたが、出会った人々や周囲の状況、その関係性の中で人が変わり転落していく様子をさかのぼって描いていく展開で、出来事一つひとつに大きな意味があると思います。個人的にはどんな状況になっても諦めずに前を向いて生きようとする陽子の姿は生命力に溢れていて同性から見てもカッコイイと感じました。それでいて陽子はスーパーポジティブではなくて、しっかり落ち込むんですね。絶望の淵に立たされながらも、それでも諦めずに立ち上がろうとする。そういった彼女の芯の強さをいかに表現できるかは役者として頑張りたいところですね。あの世界観を森岡さんがいかにして2時間の舞台で描くのか。ひとつもカットできるシーンがないぐらい緻密で情報量が濃いので、演じる私達もしっかりとお客さまに伝わるように丁寧に演じていきたいです」

富樫「私は最初に尾野真千子さん主演のドラマを観たのですが、心にズシン!と来る感覚が忘れられません。本当に起こった事件なのかもと錯覚するぐらいリアルな物語ですし、舞台版では本当に起こった災害や事件などの描写も入って尚更、現実味を帯びていて、ぐいぐい入り込んでいく作品だと思います。孤独の中で人生を閉じることとなった主人公の鈴木陽子ですが、同じ女性としても共感する部分も多々あり、観終わった後もいろいろ考えさせられると思います。また私が演じる刑事の奥貫綾乃も捜査を通して陽子の壮絶な人生に迫るうちに、影響を受けていきます。そういう意味では綾乃はお客さまの視点に近いのかもしれません。一方で陽子の人生に強く共感する方もいらっしゃるかもしれませんね。
 綾乃は刑事として事件と相対するわけですが、彼女自身も人生で挫折した経験があり、陽子の人生に何かを感じるわけです。そういった2人の共通する部分をお客さまに感じてもらえれば一層、この作品の魅力が上がると思います。個人的には初の刑事役なので、頼りがいがある雰囲気を出せるかが挑戦です」

私の軸を作ってくれた“STRAYDOG”

―――お2人とも“STRAYDOG”さんの公演に多数出演されていますが、やはり特別な思いはあるのでしょうか?

円谷「森岡さんには右も左も分からない時から育ててもらって、“STRAYDOG”さんの作品には30本以上出演させて頂いてます。役者として生きていくための基礎というか、役者としての芯の部分を教えて頂いたので、今でも“STRAYDOG”さんの舞台に立たせてもらうと初心に帰りますね」

富樫「森岡さんからは稽古場に入る時に靴を揃えるところから教わりました。役に入るまでに1人の人間としての『大切な気づき』を教わったような気がして、それは今でも私の中の軸になっています」

円谷「それはすごくわかる。私も森岡さんから直接お芝居のテクニックは教わったことはありません。例えば靴を揃えるか揃えないか、はたまた裸足なのか。その1つの習慣の違いで演じる役のイメージや台詞回しも変わってくる。そういう沢山のヒントを与えてくださった気がします。
 『台本は現場で見ず、事前に(台詞は)入れてくるもの』という癖を叩き込まれたおかがけで、他の現場に行っても、すでに台詞が入った状態で他の役者の動きを見て自分を修正するという余裕も生まれました。これは自分にとっても大きな強みです」

ダンス、歌、それぞれに意味がある

―――本作で特に注目してもらいたい部分を教えてください。

富樫「“STRAYDOG”らしさと言えば、やはり全作品に登場するダンスになるでしょうか。『このストーリーにダンス?』と思われるかもしれませんが、観終わったら、『あのダンスはこういうわけか』と納得してもらえると思います。あとは歌ですね。若い世代に人気の楽曲が使用されているので、ポップな演出も必見です」

円谷「どうしても内容的にヘビーなので、初めて観劇する方でも楽しんでもらえるようなエンターテインメント性は大事ですよね。ダンスと歌など目でも楽しめる要素もあります。1つの台詞だけでなく、ダンスにもしっかり意味が込められているので、聞き逃し、見逃しは厳禁です!

 捜査が進むにつれて、なぜ陽子がこうならなければならなかったかと紐解いていく中で、お客さまに瞬きすら忘れさせるぐらい、引き込まれる作品です。驚きと感動と感情は忙しいですが、いつの間にか2時間経っていたという感覚を体験してもらいたいですね」

―――最後に読者にメッセージをお願いします。

富樫「この作品は私にとっても役者として一皮むける機会になると感じています。だからこそ覚悟を決めてしっかりと向き合っていければ、その先の道も広がると信じて頑張りたいですね。
 原作小説やドラマを観た方にもきっと楽しんでもらえると思いますし、舞台ならではのラストスパートにもご期待ください。新年明けてすぐの作品なので、明るい1年になることを願いつつ、少しでもみなさまにハッピーな気持ちになって帰ってもらえるように一生懸命取り組みますので、是非、劇場にお越しください」

円谷「新年早々、なかなかヘビーな内容ですが、それもまたパワーに変えられると思います。
 私も舞台を観る機会がありますが、やはり生ならではの迫力が違いますよね。観劇後の景色はどこか違って見える気がします。この作品は今年も頑張ろう!と思ってもらえるパワーが溢れ、登場人物だけでなく、それを演じる役者達の生きざまもセットで見られる機会だと思うので、2022年の幕開けにはふさわしいと思います。相当な覚悟で挑みますので、是非多くの方に観て頂きたいです!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

円谷優希(つむらや・ゆき)
1994年6月29日生まれ、新潟県出身。
2014年“STRAYDOG”seedling公演『まひるのあたたかな1日』で初舞台。以後、2017年新国立劇場小劇場『海街diary』、2019年『嫌われ松子の一生』、『売春捜査官』では主演の木村伝兵衛役を務めるなど、話題作に多く出演。

富樫未来(とがし・みく)
1992年2月17日生まれ、新潟県出身。
舞台『Juliet』湯川里奈役で初舞台。以後、2017年『海街dialy』坂下美海役、2018年『心は孤独なアトム』サファイア役、『路地裏の優しい猫』フブキ役など多くの“STRAYDOG”作品に出演。

公演情報

“STRAYDOG”Produce『絶叫』


日:2022年1月21日(金)~30日(日)
場:テアトルBONBON ※他、大阪公演
料:一般5,000円
  高校生以下2,500円 ※要学生証提示
  (全席指定・税込)
HP:http://www.straydog.info/stage/zekkyo2022.html
問:STRAYDOG PROMOTION
  mail:s-pro@straydog.info

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