野心に満ちてのし上がる男を描いたシェイクスピア史劇に挑む 単なる悪漢ではない、人間・リチャード三世の心のひだを描きたい 

野心に満ちてのし上がる男を描いたシェイクスピア史劇に挑む 単なる悪漢ではない、人間・リチャード三世の心のひだを描きたい 

 生まれながらに醜い外見を持ち、王になるという野心に満ちた男の生涯を描いたシェイクピア史劇の傑作『リチャード三世』。狡猾で残虐な主人公、グロスター公リチャード(後のリチャード三世)は希代の悪党として描かれることが多い。
 りゅーとぴあ能楽堂や彩の国さいたま芸術劇場でのシェイクスピア・シリーズで活躍し、現在演劇ユニットG.Garage///を主宰する河内大和は、悪の面だけではないリチャードに注目して本作に挑むという。


「彼は最初から悪魔、完全悪として生まれてきたわけではなく、ちょっと歪んで生まれてきただけなのに、周囲からの視線や、母親からまともな愛を受けなかったせいでコンプレックスを強烈に抱いてしまった人間なのではないかと思います。だから今回は外見をあまりデフォルメしません。王になると決めたリチャードはずっと悪夢を見ていますが、本当の悪人は悪夢なんて見ないと思います。生まれたときの純粋な心が残っているから、最後に葛藤が起こる。その辺りで彼もまた一人の人間なんだなと思い知らされます。よくあるイメージの“単なる悪人”ではなく、もっと人間としてのリチャードを描きたい。王になるまで、そしてその座に就いてからの心のひだを見逃さずに描きたいと思います」

 記録をたぐるとG.Garage///の旗揚げ公演(当時は別名称)も『リチャード三世』だ。そして河内は数多のシェイクスピア作品に出演しているが、その原点は栗田芳宏や吉田鋼太郎との出会いにある。

「この作品が大好きで、もはやライフワークみたいになっています。出身は山口ですが大学進学で新潟に来て演劇研究部に入りました。そして師匠の栗田芳宏さんと出会って、そこからずっとシェイクスピアに取り組んでいます。新潟に行かなかったら栗田さんや吉田鋼太郎さんとは出会ってなかったでしょうね」

 栗田の下で新潟の「りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ」で活躍した河内は、上京してから吉田に誘われて「彩の国シェイクスピア・シリーズ」にも出演を重ねてきた。

「新潟で10年、東京に出てきてからも続けているから20数年シェイクスピアばかりです(笑)」

 そんな河内の『リチャード三世』。旗揚げの時はタップダンサーを引き入れてリチャードの心の内を表現するというユニークな手法をみせたが、今回はサックスとドラムの生演奏が入る。

「ドラムのユージさんとサックスの副田さんとはこれまでも一緒にやっています。この前も秩父の山奥の山頂で、横井翔二郎さんを加えた4人でマクベスを即興で作り映像にしました。(『MACBETH TO MORI 〜野外即興朗読シェイクスピア劇〜』)。ドラムとサックスの組み合わせが好きですね。非常に暴力的な部分に血が騒ぐと同時に、美しさと哀しみを感じる。それがリチャードの心の中身にぴったりです。どちらも乾いた空虚な響きがあるじゃないですか。それがリチャードの“心の空洞”にリンクしていると思います。まあ単純にカッコイイからでもありますが、今回はドラムとサックスの限界を突破します。それと生でセッションするのが大好きで、その時々の呼吸で音楽と一緒にうごめきながら、芝居も音も生でお客さんに届けられる。それこそ舞台の醍醐味だと思うので生演奏には毎回こだわっています」

 キャストも河内自身が信頼できる、そして物語に必要なメンバーを選び抜いた。

「リチャードを取り囲む周りの人間も悪党。みんな罪を犯しているし、だまし合い裏切りもしている。その視線で今回は取り組みます。一人ひとりの心を丁寧に紡ぎ上げて、クラッシュさせたいですね。もうこのメンバーは2度と集まらないと思います。スタッフも含めて最高のメンバーが集まりましたから」

また翻訳は松岡和子版だが、ここにもまた河内の強い想い入れがある。

「新潟時代から松岡先生の翻訳でやってますが、僕には感覚的にあっていると思います。詩的な部分は詩のまま残しているし原文に近いから自分の言葉にするのはとても難しい。でもそこに挑戦する意味と価値があると思っています。発した言葉に喜んでもらえるように頑張ります。」

 こうして創り上げる『リチャード三世』で、観客には何かしらの力を与えられたらと河内は言う。

「明日に向かう元気が得られたらいいな、と単純に思います。芸術でもおもちゃでも良いものに触れると意欲が湧くじゃないですか。少し前のめりになれる。難しいことではなくてそういった単純なことだと思います。シェイクスピアって言葉も多いし、お客さんも頭で考えがちですが、それをぶち破りたい。お客さんが脳みそを働かせる前に楽しませる。素直に面白かったと思ってもらいたいです。まあ“シェイクスピア浴”をするつもりで(笑)全身で浴びていただければと思います」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

河内大和(こうち・やまと)
山口県出身。新潟大学の演劇研究部を経て、栗田芳宏に出会い師事。2004年から新潟りゅーとぴあでの「能楽堂シェイクスピアシリーズ」の中核を成す俳優となる。退団後上京し、彩の国さいたま芸術劇場でのシェイクスピア・シリーズをはじめ、シェイクスピア作品以外にも出演も重ねる。2013年に「G.Garage///」を旗揚げし、これまで2本の作品を発表。さらに「朗毒会」、「即興狂読」シリーズも展開している。最近ではハロルド・ピンターの『ダム・ウェイター』やTeam申の『君子無朋~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』、野田秀樹の『THE BEE』に出演している。

公演情報

G.Garage/// 第3回本公演『リチャード三世』
日:2022年1月27日(木)~31日(月)
場:すみだパークシアター倉
料:一般6,500円
  U-25[25歳以下]4,500円
  高校生以下1,000円
 (全席指定・税込)
HP:https://g-garage-richard3.studio.site/
問:LUCKUP 
  mail:contact@luckup.co.jp

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事