テーマの花言葉は「困難に負けない」 自閉症の青年とその家族や周囲の人たちを通して、直向きに生きる姿を描く

 花言葉をテーマにして作品を作り続け、立ち上げから10周年を迎える「teamキーチェーン」。今回上演するのは、自閉症を持つ一人の男性を軸にした成長の物語。混沌とした状況下でも、まっすぐに、直向きに生きる登場人物たちの姿に心動かされる作品になりそうだ。
 脚本・演出を務めるAzuki、出演する山中雄輔、田中温子、モロ師岡に、作品の見どころや意気込みを聞いた。


―――今回の『朝ぼらけ』のあらすじを教えてください。

Azuki「関東郊外に住む近田家というご家族のお話です。近田家には、自閉症を持つ息子・翼がいるのですが、翼を中心に、本人も周囲の人間も成長していく物語です。観ている方の心が開放されていくような、そんな物語になればいいなと思って描きました」

―――障がいを持つ人を主人公にするという着想はどこから得たのですか?

Azuki「teamキーチェーンは今までいろいろな社会問題を扱ってきました。例えば、冤罪や少年犯罪、虐待など。私が何かを伝えたいと考えた時に、その世の中で問題視されている“ナウ”なテーマを拾うことが多いんですね。
 コロナ禍になって2年近くになりますが、人との対話がなくなって、絆が薄くなって、人間の心が荒んでいく感じがあって。私自身、世の中が嫌になって、日本が嫌いになりそうなこともあったんです。
 でも、こんな混沌とした状況下でも、変わらず、まっすぐに生きている方々がいる。それが彼ら(障がい者)です。彼らはまっすぐ前を向いて生きていくということに必死だし、一生懸命じゃないですか。その直向きさが観客に伝わるといいなと思っています。彼らをテーマにするというより、彼らを通して伝えたいです」

―――脚本を読まれた感想やご自身の役について教えてください。

モロ「本を読ませていただいて、特に後半は、そのシビアな感じに心を打たれて、泣きながら読んでいました。とても重いテーマで。これはまさに演劇でなければ表現できないものだろうと思いました。
 僕は自閉症を持つ翼の父親役をやらせていただきます。家庭の中でいうと、緩衝材みたいな存在ではあるのですが、父親として感じているであろう、ある種の葛藤を表現できればなと思っています」

山中「もともとある舞台で共演したことをきっかけに、teamキーチェーンとAzukiさんとは10年来の付き合いです。全部の公演は観ていないですけど、節目節目で公演を観に行って。社会問題など、言ってみれば重いものを扱っているように見えるんですけど、僕はteamキーチェーンの舞台を観ると、いつも温もりや優しさを感じるんです。
 それはなぜかなと思うと、どうしても暗い部分や重い部分に直面しないといけない世の中ではあるんですけど、劇団とAzukiさんの作家のカラーとして、そこから先の光を作品として提示しているんですよ。だから温もりや優しさが作品全体から漂う。今回の脚本を読んだ時も、それは変わらないなと思いました。
 僕は自閉症の翼を演じます。彼は太陽で、彼を中心にいろいろなことが起こるんですが、人のぬくもりや優しさを感じざるを得ない本ですね。2022年1月、お正月明けにふさわしい作品にしたいし、きっとなるんじゃないかな。一生懸命臨みたいと思います」

―――自閉症の役柄をどう深めていくのでしょうか?

山中「20代のときに、障がいのある子どもたちを支援するアルバイトをしていたことがありました。
 僕が当時向き合っていた子どもたちは、小学生や中学生。その子たちが28歳になった感じを想像しながら、その辺りから役づくりをしていければと思っています。とにかく手探りではありますが、自分にとっても挑戦ではありますね」

―――田中さんは脚本を読まれてどう感じられましたか?

田中「私は河合由佳という役を演じるのですが、自閉症の息子を持つシングルマザーという設定です。その役を意識しながら読むと、私も途中で読み進められなくなってしまうぐらい、ずしんと心を打たれました。私自身、私生活では結婚もしたことないし、子どもを産んだこともないんですけど、実際に障がいを持つお子さんと寄り添って生きている方々の思いを精一杯想像して。
 私はteamキーチェーンともAzukiさんとも今回がはじめましてで、いろいろなご縁がつながって、出演が決まって。役者として役をいただけたことがありがたいなと思いますし、個人的には30代も後半になって、今までは家族の子ども側を演じることが多かったのですが、ついに親側を演じる年代になったのだなと感じたりもしました。
 私の演じる由佳は、近田家のおかげで、自分の子どもとの距離感が変わっていく。観客のみなさまには、その過程を見ていただきたいです。もちろん由佳以外の登場人物にも感情移入できると思うので、作品を通じて、フッと心が軽くなるような瞬間があると嬉しいです」

―――かなりリアリティをもった脚本ということですね。取材は結構されたのですか?

Azuki「はい。障がい者の支援をしている社会福祉法人東京コロニー アートビリティの方にお話を伺ったり、本や医学書などを読みあさったりして、できる限りの準備をしました。
 私たちそれぞれに違いがあるように、自閉症の方々も、十人十色でみんな違うんです。みんな違うということは、みんな一緒。「自閉症だからこう演じる」と決め付けるのではなく、伝えたいことをまっすぐみんなで表現できたらと思っています」

―――10周年迎えるにあたって、今どんなお気持ちですか?

Azuki「『10年続けてきたんだな、10周年と言っているから』という感じです(笑)。お祭り感覚はないですね。あくまでワンステップ上がっていくためのスタートラインでしかないかなという感じ。だから、そんなに気負いしているわけでも、気合いが入りすぎているわけでもなく、いつも通りやれたらいいなと思っています」

―――みなさんteamキーチェーンとのつながりの濃淡はいろいろあると思いますが、期待するところや好きなところを教えてください。

モロ「6年ほど前に、僕はAzukiちゃんと、舞台のスタッフと役者という関係で初めて出会って。そして、それから舞台を2度ほど観させていただいたのですが、『こんなに重い作品を書く人なんだ、若いし、顔かわいいのに』と思いました。衝撃的でした。彼女はいつもこんなに重いことを考えているのかと(笑)」

AzukiI「いつも考えているわけではないです(笑)」

モロ「そうか(笑)。でも良い意味でギャップがありましたね」

田中「私は最近の2作品ほどを観させていただきました。その上でAzukiさんとお話しして、今回の台本読んで。一つひとつの役に対しても、作品に対しても、ものすごく愛がある方なんです。今日、実際に会うのは2回目ぐらいなんですけど、『本当にはじめましてでしたっけ?』というくらい。いろいろなご縁で、巡り合うべくしてお会いできたと勝手に思っています。
 Azukiさんの愛を、カンパニーのみんなでもっともっと大きくして、お客さんに届いたら。ちょっとでも気持ちが軽くなったり、強くなったりできたらなという期待が膨らみます」

山中「僕はteamキーチェーンの芝居を客として観ている時に、素敵だなと思うことが多いんですね。それはなぜかというと、役者さんの長所がのびのびと出ていることが多いからなのかなと思って。
 今回の芝居は登場人物が18人と多いですけど、とても個性豊かな役者さんがそろっていますし、どこかしらに感情移入する作品になるのではないかなと期待しています」

―――18人! でも「アンサンブル」などではなく、それぞれにお名前があるのが素敵ですよね。

山中「そうなんですよ。台本の最初に、登場人物の紹介があるんですけど、そこに花言葉みたいな『美しい』とか『守る』とかキーワードが書かれているのも特徴的だと思います」

Azuki「私、今までの脚本、全部そうなんですけど、役名を考えるときにその人物が産まれた時代とか漢字の意味を調べて『この人にはこういう人になってほしい』と思いを込めて、名前を全部つけているんです。親が我が子に名前をつけるのと同じ気持ちです」

山中・モロ・田中「知らなかった!」

モロ「台本って、読めば読むほど、『こんなこと書いてある!』という発見がありますよね。だいたい、俺、いつも上っ面で読んでいるから、千秋楽ぐらいでやっと分かることがあるよ(笑)」

―――ちなみに、花言葉はどの段階で思い浮かぶものなんですか? 今回は「石蕗(つわぶき)」という多年草を選ばれて、「先を見通す能力」「困難に負けない」が花言葉だそうですが。

Azuki「早いです。プロットの段階で花が思い浮かんで、脚本を書く時には決まっています。今回は、花にフォーカスが当たるわけではないんですけど、石蕗を見た時に、ふとこの物語を思い出してもらいたいなと思って」

―――最後に、コロナ禍でも舞台に立つ意義と合わせて、お客さまにメッセージをお願いします。

モロ「コロナ禍で思ったことは『誰も人ごとじゃない』ということ。今回は障がいにまつわる話ですけど、これも人ごとじゃない。稽古を重ねながら、セリフの一言一言の裏にある、役を動かすものを見つめたいです。厚みや深みを出すと言ったら簡単だけどね。細かい芝居を観客の皆さんには見ていただきたいです」

山中「コロナ禍で、自分自身、いろいろ迷った時期もありました。本当に演劇をやっていいのかって。でも、自分は生きていて、どこか物語を欲しているんです。映画でも舞台でも、物語を欲していて、そこがよりどころなんですね、僕は。だからこの仕事をやっていたんだなということに気づけたんですけども。
 僕はこのコロナ禍で初めて舞台のお仕事させていただくんですけど、そういう物語を欲している人たちが必ずいると信じて、一生懸命やりたいなと思っています。この物語を必要としてくれる人たちがきっといる。素敵なキャストの皆様と一緒に作品を作って、幕が無事に上がればいいなと思っています。ぜひ多くの人に観に来てほしいなと思っております」

田中「私もこのコロナ禍で仕事環境や住む場所など、いろいろ変わったんです。そして、自分が大変なときに寄り添ってくれる人、大事な人は誰なんだろうと改めて考えたりもしました。
 それはこの作品のテーマともつながる気がしていて。コロナ禍で劇場にまだ行けないという方も、お仕事に影響がある方もきっといらっしゃると思いますが、でもそういう方たちにとっても、大事な人のことを考えるきっかけになってくれたら、私たちが舞台をやる意味はきっとあると思います。必死に役と作品に向き合いたいと思います」

Azuki「私自身が物語の中で伝えたいこと、そして私がそもそも演劇をやっている理由が世界平和なんですよ。世界平和をしたいために、媒体として演劇を選んでいるんです。
 今回の作品のゴールは、お客さまに舞台を観にきていただいて、それで完結するものではなくて。観劇によって心が和らいで、例えば、帰り道に誰かの手助けしたりとか、今まで『ありがとう』と言えなかった人に一言感謝が言える世界になったりとかすること。その幸せって伝染すると思うし、それをどんどん広げることが、私は世界平和だと思う。
 たくさんの方に観に来ていただいて、その幸せの輪が広がっていくこと。そこに、私たちが舞台をやる意味があるのかなと思います」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

Azuki(あずき)
1982年2月12日生まれ、大阪府出身。
teamキーチェーン代表。脚本、演出、監督、舞台監督、制作、演出助手、演出部、役者とマルチにこなす。

モロ師岡(もろ・もろおか)
1959年2月20日生まれ、千葉県出身。
1978年、劇団「現代」に入団。映画、舞台、テレビドラマで活躍。コントの舞台や一人芝居なども開催。主な出演作は、映画『キッズ・リターン』、『ラヂオの時間』、『シン・ゴジラ』、ドラマ『古畑任三郎』、『白い巨塔』、『下町ロケット』など。

山中雄輔(やまなか・ゆうすけ)
1987年4月15日生まれ、千葉県出身。
劇団スパイスガーデン所属。TVドラマや映画、舞台などに幅広く出演。

田中温子(たなか・あつこ)
1985年8月26日生まれ、千葉県出身。
フリーの役者として舞台、MC、声優、など幅広く活動中。

公演情報

teamキーチェーン10周年記念公演『朝ぼらけ』

日:2022年1月7日(金)~10日(月・祝)
場:吉祥寺シアター
料:4,800円(全席指定・税込)
HP:https://www.teamkey-chain.net/
問:teamキーチェーン
  mail:qurioustokyo@gmail.com

インタビューカテゴリの最新記事