真夏の下北沢を暑くするスーパーポジティブ演劇集団「エンターテインメント風集団 秘密兵器」 30回目は、リーサルウェポン・松野井雅主演でさらにパワーアップ!

 コントにシリアス劇、余興(?)とボリュームたっぷりなのに、なぜか何度でも観たくなるという話題の劇団「エンターテインメント風集団 秘密兵器」。“MISSION IN POSITIVE 30th Attack”と銘打った記念すべき30回目の本公演は、女優・松野井雅を主演に迎える。タイトルは『白か、黒か。』。
 本格的に稽古が始動するタイミングで、主宰の岩田有弘と脚本を担当する五十嵐和弘、女優の松野井雅にインタビューした。

がんばっている過程のグレーも美しい

―――今回のタイトルは『白か、黒か。』ですが、タイトルに込めたメッセージは何でしょうか。

岩田「世の中、がんばっている人ってたくさんいると思いますが、ただ『がんばっているな、凄いな』じゃなくて、その人のがんばっている理由がわかるとまた違ってくると思うんです。がんばっている本人は理由なんて、なかなか伝えないじゃないですか。
 でも周りにいる人がそれをわかっていたら、実はすごく平和というか。頑張った結果が“白か黒か”じゃなくて、がんばっている過程のグレーがある。その過程が大事になってくるのが、僕ら40~50歳になっている劇団のおじさん達。結果が決まってくるじゃないですか、いまさらハリウッドに出るとか厳しいですし。まあ、でも諦めた訳じゃないですけど(笑)」

―――もう人生も半分過ぎちゃいましたということですか。

岩田「そう、でもがんばってる過程が美しいなと思うんですよ。その姿を皆さんにもわかってもらって、より僕らを応援してもらえたら嬉しいなと(笑)」

―――そうなんですね、意外でした。『白か、黒か。』で、きっちりジャッジするストーリーかと思いました。

岩田「ああ、なるほど。そのつもりで観ていただいても大丈夫です」

五十嵐「まさにそれでいいと思います」

岩田「でも、結果、それだけではないですよ、に持っていければいいなと思ってます」

キャッチーな言葉でお客さんの共感を呼ぶ、五十嵐和弘の脚本

―――ストーリーですが、原案が岩田さんで脚本が五十嵐さんという役割分担なのでしょうか。

岩田「そうです。全体のテーマ、登場人物のキャラクターと関係性、バックボーン的なものをブワッーっと箇条書きにして、五十嵐さんに渡しています。僕の無理難題を五十嵐さんが全部叶えてくれるという。
 僕らは20年以上一緒にいますけど、この作り方は後期からのものなんです。より極限に特色を生かすのはどうしたらいいのかというところで、五十嵐さんに脚本をお願いしてます。演劇って、つい作家の芸術性をぶつける人が多いじゃないですか」

五十嵐「ああ、多いねぇ」

岩田「五十嵐さんはそうじゃなくて、すごく誰もがわかりやすいところを切り抜いて、お客さんに共感を持たせる脚本を書いてくださるし、言葉のフレーズもすごく優しく響くんです。僕ら基本、お笑いとかコメディをベースに作ってるんですが、笑いって驚きから生まれると思っていて。でもそれだけじゃなくて、お客さんに共感してもらって驚かすから笑いが起こるんです。
 共感というものがとても大事で、特に“短編喜劇”というコントを何本か用意してるのですが、文字通り短いから共感してもらえる時間も短いんですよ。瞬間で『あ、この人はこういうことなんだ』、『あ、わかるわかる』、でもちょっと違う『えっ?』という小さな起承転結がいっぱいで、それが笑いが積み重なることになります。“役者が作れるコント”をコンセプトにおいているので、繊細な芝居を作るためにもキャッチーな言葉の連続は必須で五十嵐さんしか書けないよな、といつも思っています」

五十嵐「嬉しい……」

岩田「もう秘密兵器といえば五十嵐の脚本というイメージ」

五十嵐「おいしいご飯が食べられますね(笑)」

―――今、手元に出演者の写真が入ったキャラクター相関図があるんですが、これも岩田さんが作って五十嵐さんに渡しているんですね。

五十嵐「はい。一応タイトルが決まっているじゃないですか『白か、黒か。』。それについて原案をいただいて、それぞれのキャラクターの性格とか職業があって、テーマも決まっているので『じゃ、こういう感じで』と、それがもうブワーッと箇条書きになっている。
 あと、コントの組み合わせも。『この人とこの人がこう関わって』とか。そこが決まってて、こういう場所設定で何か短編を。という」

岩田「僕は渡した設定を全部は確定にしないんですよ。何パターンか作って、それで五十嵐さんの脳みそが刺激されてくれたらと思って渡してます」

五十嵐「取捨選択は任してくれるんです」

岩田「あ、秘密兵器の公演構成は短編喜劇と、全員が出るロングの本編ストーリーなど諸々があって、その全てを観て1つの作品になっているという感じです」

五十嵐「初めて観た方は最初は短編喜劇が3つくらいあるのかな、と思うんですけど、本編も全部観終わると『うわっ、全部繋がってるんだ!』となる」

―――マジックな構成と脚本なんですね。

岩田「はい。そこにもよく感動していただけます。あと秘密兵器の作り方としては、キャスティングから先に決めるんです。だから今回、秘密兵器初の、ど主役で僕らが1番信頼している大好きな松野井雅さんに座っていただいて、松野井さんが輝くよう『今の彼女だったら、こういう風に演じてく』ということを僕なりに見せられたらと」

―――岩田さんから見る松野井さんの魅力はどんなところですか?

岩田「見てわかる通り絶世の美女ですよ! なんですけども美貌にアレしてないんですよ」

松野井「アレ!(笑)」

岩田「見た目以上にエネルギッシュですし、情熱的ですし。色々な経験もされていて、普通なら斜に構えてるところもあるじゃないですか。でも僕らみたいなおじさんに何より楽しんで乗っかってくれるんですよ。個性の強いおじさん達にがっぷり4つで付き合ってくれるという。
 秘密兵器の色を彼女なら一身で受け止めてくれるなと思って。ゲストで最初の主演なら絶対彼女にと思ってました」

ラストから始まった松野井雅と「秘密兵器」の濃密な関係

―――松野井さんは2016年が初出演とのことですが、秘密兵器に初めて出演してみてどうでしたか?

松野井「2016年が解散公演だったんですよ。解散で終わると聞いてからの始まりというか、ちょっと不思議な日本語ですが」

―――秘密兵器は一旦解散しているんですか?

岩田「そうなんです。2016年に一旦解散して1年後にはまた戻ってきたという……すみません!」

松野井「(笑)。最初に岩田さんと知り合ったのがきっかけで、岩田さんから『実は、自分たちがやってきた劇団がラストだから一緒にやってくれない?』と言われて、『ええっ!』っとなってしまって。長年やられてるのに辞めるっていう決断をするなんて、劇団を愛してるのに終わるなんて、この人たちは人生を変えるすごい決断をするんだなって。
 秘密兵器の舞台を観たことはなくて、観るチャンスがないのに終わっちゃうのかと。そういうところから入って『終わることを全力でやる!』と私が勝手に背負ってしまって、おじさま達の人生変える瞬間をどうにか私に何かできることがないか、と出させていただいて。
 ラストの公演はカーテンコール含めて3時間半超えで、お客さん全員泣いていたし私も泣いてたし、『人が人生を変える瞬間に立ち会ったぞ!』というか。それで好きになって、一人ひとりに感想を書いたり、もう愛が凄すぎて。そんなところから1年くらい経ってまたスッと(笑)、復活したと」

五十嵐「ね(苦笑)」

岩田「僕たち解散前から1年に1回のペースでやってたんですが、間隔を開けずにまた演るという暴挙に……」

松野井「本公演をまた演るのもなんだから、とコントライブだったんですが、それにも私、参加してるんですよ」

岩田「一緒に罪まで被っていただきました」

松野井「最初は『えーっ!』と驚きましたがステージ上でお客さんにみんなで謝って。でも『こんな愛されている人たちが終わるの? やっぱりみんなに求められてるじゃん』と思ったんです。
 そんな出会いからだったので私的にはすっかり心を奪われてしまって。そこから何度か声をかけていただいて、コントライブ含めると7回目の出演になるという。私としてもすごく居心地もいい。色々な役者さんと出会えるんですけど、みんな人間として最高!というか、好きにならざるを得ない、ずるい環境が作られてます(笑)」

時代も役者も今の状況を反映させる

―――松野井さんは去年双子のお子さんを出産されたとSNSで知りました。

松野井「ありがたいことに2人の命に恵まれて、それはすごく嬉しい日々なんですが、今までどおり役者を続けていける環境じゃなくなっちゃったと思っていたんです。
 そんな中でお声がけいただいて『えーっ! やっていいのかな……』と思って。でも、今だからこそ演るのか!みたいにも思って。『大変な時は子ども連れてきていいよ』とも言っていただけて、そんな環境もなかなかないかな、と。
 舞台はもう3~4年は出られないのかなと思っていたので、だからこそいつかの思い出にもなれる。今だからの私の全力で、放てるものがあると思ってます」

岩田「そんな松野井さんのがんばっている姿、がんばる理由をいろんなかたちで伝えられれば。今回の『白か、黒か。』のテーマそのものです。松野井さんのようにご出産されて『何かを諦めるのか? やれるのか? やっていいのか?』と同じような悩みを抱えている方々に、元気と勇気を与えられる存在の方だなと思っています。
 それと、もう1人、仙石みなみさん。松野井さんと同じ時期にご出産されて、松野井さんとすごく仲がいいんです。そんなソウルメイトでもある仙石さんにも、今回久しぶりに舞台に立っていただきます。すでにお互い励ましあっていただいてて。今回仙石さんには、全公演出演は叶わなかったのですが特別出演として、でもとても印象的にご出演してもらいます。出られない回も印象に残ります(笑)。秘密兵器30回目にしてこのような作り方は初挑戦で燃えてます」

―――20年以上も続けていくと、役者さんがどんどん大人になっていって環境が変わっていくということもありますよね。

松野井「確かに!」

岩田「そうなんですよ。だから再演ができないんです」

五十嵐「『今しかできないことを』と常に思っているから、作品も今しかできないものが多いという。あて書きが多いので、役者さんも誰か違う人を当てはめても多分違うものになっちゃうから再演しないという」

―――今の旬の話題をパッと取り入れるということですか。

岩田「それはもう、五十嵐さんが得意というか。僕も知らない時事ネタとか入れてくるから『あ、これが今、面白いんだ!』と思ったり」

五十嵐「その方がお客さんにも親しみやすいじゃないですか。特に現代劇だったらそういうものがひとつ入るだけで、結構、観ている人が入りこみやすいんですよ」

全てをぶっ壊す「余興」と言う名の最終兵器

―――松野井さんは今まで出演されたなかで「これは面白かったな」と印象に残ったセリフやシーンなどはありますか。

松野井「いや、もう……それは全部なんですけどね(笑)。(特に)余興が。
 秘密兵器さんは、いつも短編喜劇から始まって、ロングがあって、その1番最後に“余興”っていうものがありまして。実はお客さんの中にも余興のファンがいて、私は余興も、もう全力で参加させてもらうという」

岩田「いろんな素敵なシーンがいっぱい頭の中に巡ったんだけどな。そこで余興って言っちゃう(笑)」

松野井「ほんと、すいません(笑)」

―――余興というものがあるんですか?

松野井「そうなんです。秘密兵器さんは本当に腹を抱えて笑って、いっぱい感動して泣いて、これで終わればいいんですけど、そこを終わらせずにこのおじさま達と客演皆さんの余興を観て帰ってもらうところまでが秘密兵器っていう感じで」

―――遠足みたいですね。

松野井「そう、たぶん、他の団体さんにはないんじゃないかと毎回思ってるんです」

五十嵐「すごく感動する作品を作ったとしても、その余興で全部忘れて帰ってもらうというか」

松野井「スカッと!『あれ? 今日、何だったんだっけ?』みたいな、それがなんか爽快で気持ちよかったんです」

岩田「深く感動して帰ってもらうのは当たり前で、僕らは敢えてそういう余韻を良い意味でぶち壊して、中毒性を演出といいますか。余韻に浸っちゃうともう満足しちゃって来ないじゃないですか(笑)。『じゃあ、また来年行こうか……』じゃなくて『明日も行きたい』、なんですよ」

―――「一体、何を観たんだろう……」みたいな感じですか?

松野井「そう! ほんとそんな感じ」

五十嵐「SNSで『何を観てたんだっけ、これは……』というコメントはよく見ますね」

松野井「みんな笑いながら『あれなかったらすごく感動して帰ったのに!』みたいな」

―――それは面白いですね。

松野井「それが爽快でたまらないところがありますね」

五十嵐「僕が脚本には関わっていない部分なんですよ。新實(啓介)くんが書いてる。出演はしますが僕が立ち入っていない部分なので、本当にもう色々な意味で空気が違うんですよ」

松野井「余興のセリフ、五十嵐さんが1番多いのに、1番最後に台本が来る。五十嵐さんのセリフを覚える瞬発力もいつもすごいなと思ってます」

―――余興にもセリフがあるんですね。

岩田「多分15分ほどの寸劇です」


松野井「コントがあって、ずっと続いているストーリー設定があって、それを秘密兵器の皆さんが演じられてそこに客演が入っていったり、そして寸劇があるという」

岩田「元々、本編で作った雰囲気やキャストイメージがあるので、新實くんには例えば『こういうことを余興に入れてみては?』と共有してるし、とても考えてくれているので、めちゃくちゃ雰囲気は変わるけど、スカッとすると思います」

五十嵐「余興と本編のテーマは一緒なんです」



岩田「そう、今回のタイトルは『白か、黒か。』なので、多分『白か、黒か。』に合わせた寸劇になってくると思います(笑)」

松野井「なんなら、お客さんがこの寸劇を求めてきてくれてる部分もあるかな、と。それがまた面白いなと」

コント(短編喜劇)と本編を見ると全ての謎が明かされる

岩田「ありがたいことにリピーター率が本当に多くて、何度も見てくれるような仕組みを作っています。短編喜劇も本当は5本用意してるんですけど、1公演で3本しか出さないんですよ。日替わりで変えるんです。それで全部観てもらうとちゃんとストーリーを補完できて、1つの作品になるという。そこを余興であえて壊す」

五十嵐「でも、コントを全部観なくてもお話としてはわかるように作ってるんですけど、全部観たらより深くなる。キャストが色んな形で見られるから、短編喜劇で個性的なキャラクターが出てくるんですけど、そのキャラクターが本編でも実はこうだったんですよ。というようなストーリーの作りで」

―――なんだか漫画の二次創作というか、スピンオフ作品みたいですね。

岩田「ああ~! そうですねスピンオフ。団体の名前は胡散臭いし、怖がられるところはあるかもしれないんですが、すごく緻密には作ってます」

―――この相関図を見ても、キャラクターの作り込みが最初にすごくしっかりありますよね。それがあるからストーリーがどんどん動き始めるっていう感じでしょうか。何だか漫画家さんの作品作りを思い出しました。

五十嵐「かも知れないです。漫画大好きですし、漫画脳なのかも知れません。書くときは、言葉遣いや語尾も気にします。『このキャラクターだったらこの言葉遣い』とか。漫画みたいに絵に描いて渡したりはできないので、それは役者さんに読みとってもらって」

登場人物全てが主役級の存在感

松野井「登場人物みんなが主役みたいな感じで、毎回同じぐらいの存在感で出てくるんですよ。わかりやすく極端にセリフが少ない人もいなくて、その人だけでストーリーが進んでいるみたいなのもあります。今回の主役は私ですけど、『ああ、そこにも物語があるんだ』、『こっちもあるのか』みたいな。もう、『どうやって作っているんだろう』とびっくりしかなくて、どのキャラクターも印象に残ってる。それが秘密兵器なのかなって思ってます」

―――人生も半ばに差し掛かった個性溢れる面々が織りなす笑いと涙のストーリー。そんな本編にコントが3本、寸劇までついたボリュームたっぷりの「秘密兵器」。でも、何度でもおかわりしたくなるという。禁断の「秘密兵器」を味わいに、今年も下北沢へGO!

(取材・文&撮影:新井鏡子)

公演情報

松野井 雅(まつのい・みやび)
広島県出身。15歳で芸能界デビュー。2014年、松野井 雅と名前を改め心機一転。テレビドラマ・映画・舞台など、幅広く活躍。出演作は『牙狼<GARO>』シリーズなど。趣味はランニング、猫と遊ぶこと。フィンランド政府観光局公認のフィンランドサウナアンバサダーを務める。秘密兵器の作品には客演を重ね、最多記録を継続している。昨年双子を出産した。

岩田有弘(いわた・ありひろ)
1979年10月30日生まれ、東京都出身。「エンターテインメント風集団 秘密兵器」の主宰をはじめ、舞台プロデュースユニット「銀岩塩」代表、劇団「大人の麦茶」劇団員。これまで下北沢 本多グループで500ステージ以上の舞台出演と製作をおこない、“下北沢小劇場の申し子”と異名を得る。近年の主な出演作品に、ドラマ『意味が分かると怖い配信停止になった婚活ドキュメンタリー』、YouTube初特撮ドラマ『華衛士F8ABA6ジサリス』、大人の麦茶 ラストオーダー公演『ネムレナイト』など。

五十嵐和弘(いがらし・かずひろ)
1973年3月31日生まれ、東京都出身。俳優・声優・脚本・ラジオDJ。2002年より「エンターテインメント風集団 秘密兵器」の主要メンバーとして出演、脚本を手がける。近年の主な出演作品に、演劇ユニットBACK ATTACKERS 第10回公演『陰陽師』、銀岩塩SATELLITE『想紅 オモイクレナイ』、脚本作品に舞台『天地無用!魍皇鬼』など。

公演情報

エンターテインメント風集団 秘密兵器
MISSION IN POSITIVE 30th Attack
『白か、黒か。』

日:2024年8月10日(土)~18日(日)
場:下北沢 「劇」小劇場
料:前売5,000円 当日5,500円
  学割2,500円 ※要学生証提示
  (全席自由・税込)
HP:https://www.himitsuheiki.com
問:エンターテイメント風集団 秘密兵器
  mail:himitsuheiki.swp@gmail.com

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