演劇・映像・音楽など、様々なジャンルを混ぜ込んだ表現活動を展開する神保治暉。情報の速度が上がるにつれて続々と登場してきたボーダーレスな才能を持つ1人といえるが、そんな神保が代表を務めるアートチーム エリア51が、旗揚げ5年目の節目となる作品を発表する。これまで彼らが実践してきた集団創作の形で、しかも音楽やダンスを盛り込んだ作品は、まさに新世代の演劇の姿を予見させるかのようだ。
俳優陣の1人として、最近頭角を現しつつある荻野未友治と共に、新作『冠婚葬祭』について、さらにそのユニークな思考について話を聞いた。
―――神保さんが主催するエリア51は、いわゆる劇団とは毛色が違う気がしますが。
神保「演劇だけでなく、様々なジャンルの要素が混ざり合った創作活動をする集団だと思ってもらえたらいい気がします。そのなかで僕が主に演劇作家ですから、演劇を軸にした活動になってはいますが……。メンバーは僕を含めて9人で、そこには役者だけでなくバンドのメンバー、さらにビジュアルアーティストや古着屋とか、スタッフも含まれているんです」
―――旗揚げから5周年の節目に送る今作は、以前上演した音楽演劇『ま、いっか煙になって今夜』を軸にしているそうですね。
神保「あの作品は“死”をテーマにしていたのですが、今作では冠婚葬祭。つまり生まれてから死ぬまでの4つのシーンを、それぞれ1人の俳優……これを僕等は“わざおぎ”と呼んでいますが、その彼らが演じていきます。
それを縦断する“旅人”が星善之さんですね。星さんもまた演出もされる方で、せんがわ劇場演劇コンクールを通して知り合ったんです」
―――荻野さんはメンバーというわけではなく、この4人のうちの1人を担当するんですね。
荻野「客演扱いで、“葬”の部分を担当します。でも僕は元になっている『ま、いっか煙になって今夜』の時に手伝いで入っていました。
その時の独特な劇場空間、人々が力を抜いて集まって眺めている、そんな雰囲気が好きでした。観劇、つまり演劇を見るというのはついつい気負ってしまいがちですが、あの音楽演劇だと自分が溶け込んでいる感覚で違和感がなかったんです」
神保「まだ創作段階なのですが、元の『ま、いっか煙になって今夜』からはだいぶ変わると思います。あの作品は“死”にスポットを当てていたので、単純にその4倍になるはずですから」
―――先ほど名前の出た「せんがわ劇場演劇コンクール」、この第12回で神保さんは劇作家賞を受けていますね。
神保「あの時はメンバーみんなで戯曲を立ち上げた集団創作でした。一応僕が代表して賞をいただきました」
―――そもそも神保さんは過去にアイドルグループ NEWSのツアーなどに参加されていて、荻野さんはその後輩なんですね。
荻野「神保さんとの出逢いはその頃です。僕の方が後輩ですが、2人ともNEWSのバックで踊っていたので」
神保「演劇が好きだと知ったのは退所後だったのですが、何かやれたらいいね、とそんな話をしていました」
荻野「退所するときにも、いろいろと相談に乗ってもらっていたんです」
神保「“チームNEWS”は特別に繋がりが強いんです」
荻野「でも神保さんの影響がなければここまで演劇にのめり込んでいなかったでしょうね。俳優を始めて3年くらいになりますが、すっかり演劇に惚れ込んでいます」
―――神保さんは退所以前に日本大学芸術学部に入学して学ばれているんですね。
神保「俳優としての学びになるかと思って、日芸に入ったのですが、通っているうちに作る方が面白くなってきました。当時所属していた事務所も文武両道を奨励していましたしね。当初は俳優コースで入ろうかと思いましたが、倍率が高かったので、演出コースに鞍替えしました」
―――その卒業制作で、川野希典賞を受けられましたよね。しかも題材が寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』を下地にされたとのこと。寺山、お好きですか。
神保「好きだし、かなり影響を受けていますね。大学の頃に野外劇にチャレンジしたこともあります」
―――今作で神保さんが荻野さんを作品に誘った理由は? ただ後輩だったからではなさそうですね」
神保「彼は『まいっか~』の全公演を観てくれているんです。そこは1番大きいですね。
僕は前の事務所で大きなエンタメに関わっていたわけですが、そのなかで知らず知らずに培った物があります。そして最近まではそれを避けていて、そういった側面が出てこないようにしていましたが、最近はだんだんどうでも良くなってきて、とにかく楽しいものを作りたくなってきました。
そんな時、同じ現場にいたことでの共通言語を持ちつつ、リラックスできる場を作ることに関心がある荻野君と一緒にやろうかと思いました』
荻野「でもエリア51は他の創作現場とちょっと違うんです。他の現場だと心臓が締め付けられる感じがあるんですが、エリア51ではそれがなくていい感じです。時間がゆっくり流れている感覚ですね。普段の生活よりも落ち着けるかも知れません」
―――さて、ストレートプレイの作品で音楽の為に演奏家が入るときは、オーケストラピットや袖の奥にいらっしゃることが多いですが、エリア51の作品ではステージ上に普通にバンドセットが組まれます。これはとてもユニークですね。
神保「だからステージの大きさがある程度ないと入らないんです。制作サイドからは叱られますが(笑)。演者とスタッフを区別しない作品作りなんです。神奈川のコンクールに出品した作品は、スタッフが隠れないで堂々と舞台上に出てきましたから」
―――マリンバとヴィブラフォンという場所を取る楽器がそれぞれありますもんね(笑)。しかも今作では18曲も演奏される。曲は誰の担当ですか。
神保「まず僕がデモ音源を作って、そこにみんなが手を加えるというスタイルです。全部オンラインですね」
―――イマドキですね(笑)。でも劇場内でお客様全員にドリンクがついたり、チケット代が結構安かったりと、今の演劇界と逆行している部分もありますよね。
神保「芝居小屋で飲み食いする、昔の大衆芸能からのインスパイアかも知れません。チケット代は安いに越したことはないですよ。要するに収益を当てにしていない、演劇で食おうという野心がないんですね。
演劇ってやっぱり庶民の物であるべきだと思うんです。一方で必要な資金は要るのでそこのバランスはむずかしいです。でもチームとして5年目でいい感じに回り始めてきた感じがしています」
―――最後に、お客様へメッセージをお願いします。
荻野「夏祭のように、みんなで盛り上げていきたいですね」
神保「楽しい作品にみんなで仕上げていきますから、是非遊びに来て下さい。会場の近所にはスカイツリーとか大横川親水公園とか、色々なスポットもあるので、散歩の一部に組み込む感じで立ち寄ってほしいです」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
神保治暉(じんぼ・はるき)
演劇作家・振付家・作曲家。「自由」と「居場所」をテーマに、映像・音楽・身体表現・空間演出など、さまざまなジャンルを混ぜ合わせた複合的な舞台芸術の創作に取り組んでいる。特に、創作プロセスにおける俳優やスタッフとの身体的・対話的・演奏的なセッション(相互作用)を最も重視する。エリア51代表、じおらま主宰、旅するたたき場メンバー、AOI biotope所属。
荻野未友治(おぎの・みゅうじ)
東京都出身。学習院大学在学中。2021年までアイドルグループ NEWSなどのバックで踊り、活躍。事務所を退所後は、俳優として舞台を中心に活動の幅を拡げている。
公演情報
エリア51 5周年記念公演
音楽演劇『冠婚葬祭』
日:2024年7月25日(木)~28日(日)
場:すみだパークシアター倉
料:一般3,500円 U35[35歳以下]3,000円
U22[22歳以下]2,500円
すみだ割[墨田区に在住・在勤・在学中の方]
500円(全席自由・1ドリンク付・税込)
HP:https://www.area51map.net
問:エリア51
mail:manager.area51@gmail.com