人形劇団ひとみ座による新作舞台『メープル農場のどうぶつたち』。農場で暮らす動物たちが各々の願いや希望と向き合いながら、今生きていることの価値に気づき、ありのままの自分と向き合う物語で、骨格が露出している斬新な人形の造形や、生演奏も見どころになりそうだ。
脚本・演出のくすのき燕(人形芝居燕屋)、美術の若狭博子、出演する齋藤俊輔・佐藤綾奈の4名に作品に懸ける思いを聞いた。
―――まずは今回の演出的な見どころを教えてください。
くすのき「まずは人形美術が面白いと思います。その人形をどれだけ活かせるか。今やっている稽古でまさに挑戦しているところなのですが、その点で期待していただいていいかなと」
―――人形はほぼほぼできているので、それをどう見せていくか、活かしていくかということですね。
くすのき「はい。ご覧の通りちょっと変わった人形なので、通常とは変わった遣い方をするんですよ。まずは役者さんにこの人形の扱いに慣れてもらった上で、お話の大枠や枠組みの中で、人形をどう見せていくか、どう活かしていくかを研究しているところです」
―――なるほど。その変わった人形をデザインされたのが、若狭さん。どういう思いで人形を作られたのですか?
若狭「実はリアルな人形も1回考えたんですけれども、それだと見たことあるかもしれないなと思って。今回は、動物(人形)の“動き”を意識した人形劇を作りたいという思いが強かったので、動物の骨を意識したり、彫刻的な要素を取り入れたりしながら、木の棒で試作を重ねて、人形を作り上げました」
―――木だけではなく、ワイヤーも使われていますよね?
若狭「そうですね。動きをつけたいので、ところどころ使っています。また、色味に関しても、それぞれのキャラクターの個性が全部違うので、個性的なビビットな色にしました。
ひとみ座としても、人形劇としても珍しい造形なので、今回の人形を見かけた人は『面白そうだね』という反応をくれます。
―――お話から美術を作るというよりも、美術先行でお話を作っていったわけですか。人形劇としてもかなり珍しいパターンなのでは?
若狭「そうですね。木の棒やワイヤーで骨組みを作って肉付けをした時期もあったんですが、それだけだと動きづらい。そこで、骨格だけで作ってみたら、意外と面白い仕上がりになって、くすのきさんにも『面白いのでは』と言ってもらえたので、こういう尖った方向になったんです(笑)」
―――ロバのボラーチョを担当する齋藤さん。人形を最初に見たときはどう思われましたか?
齋藤「いや、びっくりしましたよ(笑)。だけれど、普段人形を遣ってるときのことを冷静に考えてみると、結構骨や関節を想像して人形を動かすことが多いんですよね。だからこれらの人形を見たときに、関節が丸見えで、それはそれで面白いのかなと思いました」
―――犬のパンサ役は佐藤さん。人形についてはどうですか?
佐藤「稽古が始まる前に、ワークショップがあって、若狭さんが『こうやって動かすと、足が動きます』などとデモンストレーションで動かしてくれたんですね。人形としてしっかり動くし、不思議と動物に見えるし、面白いなぁと思いました。
パンサ役に決まって人形を動かしていくうちに、『だんだん犬っぽく見えてきて、すごく可愛くなってきたよ』と言われるのが嬉しくて。ちなみにパンサは臆病な性格で、脚が少し悪いんですね。そういう細かいところをどう表現するか、今、稽古で練習しているところです」
―――今回の物語ではどういうことを伝えたいと思っていますか?
くすのき「“居場所”がキーワードになるかなと思っています。農場って本来、人が目的を持って、動物を育てていく場所ですよね。だからこそ人と動物の関係性を考えると、結局暗い話になりがちだと思うんですけど、今回はそうではなくて、動物たちがどこに自分の存在を感じるかを表現したいと思って。居場所が見つかる動物もいるし、見つける途中の動物もいるし、農場の中に見出す動物も、農場の外を夢見る動物もいる。各々が各々の選択をしていく物語になっています。
で、その“居場所”というキーワードを伝えるために、大道具を椅子にしました。具体的な草や立木を置かず、一部板は用意していますが、できるだけ椅子で表現できないかなと思っています」
―――ところで、くすのきさんは今回がひとみ座は初めてだそうですね? 改めてひとみ座の魅力を教えてください。
くすのき「一応そうなんですが、同じ敷地内にある『デフ・パペットシアター・ひとみ』という別劇団で過去に2本演出をしているんですよ。だからひとみ座自体にはよく来ていて、顔見知りも多いので、『え、初めてなんですか?』とよく突っ込まれます(笑)。
ひとみ座は劇団という枠組みではありますが、比較的自由な集団という印象を持っています。また、今回のメンバーもそうなんですけど、若くて元気な劇団員、特に女性が多い。やはり若い人がいないと、人形劇界の未来が暗くなってしまいますから、若くて優秀な人たちがたくさん所属していることは、業界にとってとても喜ばしいことですし、ひとみ座の魅力だなと思います」
―――劇団員の方々の入団したきっかけや、ひとみ座のいいところを教えてください。
若狭「私はもともと美術系の大学に通い、人形劇のサークルでやっていました。ずっと人形劇のことを考えていたので、これが自分のやりたいことなんじゃないかと思って、ひとみ座の養成所(当時は研究所)に入所して、そのまま劇団員になりました。
ひとみ座は色々やらせてもらえる場所。今回美術担当にお声がけしていただいたのも、本当にありがたいことだなと思います。ああでもない、こうでもないと試作を重ねて、『いいね』と言ってもらえたときは本当に嬉しいです」
齋藤「僕は映画の学校に通い、映画監督になりたいと思っていました。ただ、『セサミストリート』など、人形はもともと好きでした。
ひとみ座に入ったときも演出や脚本をやろうと思っていたんですが、人形を動かすことも経験した方がいいなと思っていたら……今に至ります(笑)。人形劇の魅力は、舞台を観に来た子どもたちの反応がダイレクトに感じられることですね」
佐藤「私は小さいときから『ひょっこりひょうたん島』が好きで、高校では演劇部に入ったり、大学でも美術を学んだりしてきました。
そして、1回社会人として働くんですが、『ひょっこりひょうたん島』の人形劇を川崎でやると知って、絶対に観に行こうと思い、住んでいた仙台から川崎に行ったんです。そのときに養成所のチラシが入っていて、未経験でもできると知って! これは運命に違いないと思い、1ヶ月後には仕事を辞めて、ひとみ座に入りました。
ひとみ座は、アトリエがあって、人形を遣う人たちがいて、『やりたいことができるんだよ』と言われて、自分が求めているものはまさにこれだなと感じました。実際に劇団員として活動する中でも、劇を観ている子どもたちの反応も嬉しいですし、その反応にまた自分も応えていくことも楽しい。客席と舞台とのつながりが感じられるのが素敵だなと思っています」
―――最後に観劇を楽しみにされている皆さんに一言ずつお願いします!
佐藤「今回、人形が面白い形をしているので、まさに客席と一体になって作品を作っていくことになると思うんです。『木の塊が○○に見えてきた』、『椅子が○○に見える』などと、想像力をいっぱいに使って、一緒に作品を作れたらと思います」
齋藤「まだ稽古の途中なのですが、くすのきさんの演出が面白いです。ワークショップから始まって、『とにかくここにあるもので動いてみて』という無茶な振りもありつつも、そこからどんどん物語が広がっていって、確実に面白いものになっている気がします。いい意味で予測ができないのが本当に面白いです」
若狭「私はもともと海外の人形劇に憧れがあって。日本の人形劇って、片手で遣うようなイメージが強いと思うのですが、今回はそれとはまた全然違うイメージに仕上がっているので、ぜひいつもと違う人形劇を楽しんでもらえたら嬉しいです」
くすのき「僕は舞台を作るときに、想像力の余地がある舞台を作りたいと思っています。今回の人形はとても面白いし、舞台上にも具体的なものが何もない分、『これがこう見えたらいいな」と思いながら作っています。
同じように、自分の頭の中で考えていることだけがそこにあるのは僕は面白くない。自分では考えつかないようなことが起こった方が面白いと思うので、『なんかない?』といいながら稽古を進めていくんです。まぁ最後には僕が意見をまとめて判断を下すんですけれどね。
そして今回、特徴的なのは、音楽が全部生演奏であること! もしかしたら立派な音をつけた方がいいかもしれないんだけど、録音だとどうしてもそのときの役者が持っている空気感や観客の温度感に合わせることができないのでね。今回は生演奏にしました。ちょっと贅沢な舞台になっているので、その点も楽しみにしていて欲しいと思います」
(取材・文&撮影:五月女菜穂)
プロフィール
くすのき燕(くすのき・つばめ)
大学在学中に人形劇を始め、プーク人形劇アカデミーで本格的に人形劇を学ぶ。2005年4月より「人形芝居 燕屋」として、演出とひとり人形芝居の公演を中心とした活動を始める。2009年6月、作・演出の『シアタートライアングル』が、チェコで隔年で行われているプロによるこどものための国際人形劇フェスティバル「マテジンカ’09」で5歳以上の部門のグランプリを受賞。2013年~2022年までNPO法人日本ウニマ(国際人形劇連盟日本センター)会長を務める。現在は副会長。
若狭博子(わかさ・ひろこ)
2011年入団。ひとみ座劇団員。ひとみ座の出演作は、『賢治のカバン』(たぬき・子ねずみ・犬・山猫)、『ゲゲゲの鬼太郎 決戦!竜宮島』(ねこ娘)、『ロミオとジュリエット』(パリス)、『ブレーメンの音楽隊』(ロバ)ほか。『ごきげんなすてご』で美術も担当。ひとみ座幼児劇場でも活動。
齋藤俊輔(さいとう・しゅんすけ)
1995年入団。ひとみ座劇団員。出演作は、日生劇場パペットファンタジー『ムーミン谷の夏まつり』(スナフキン)、日生劇場ファミリーフェスティバル『ひなたと月の姫』(大伴御行)、『リア王』(ケント)ほか。ひとみ座幼児劇場『がんばれオバケちゃん』では脚本・演出も担当。
佐藤綾奈(さとう・あやな)
2019年入団。ひとみ座劇団員。出演作は『モモ』(リリアーナ・子ども)、『花田少年史』(市村桂)、『9月0日大冒険』(語り・先生・プテラノドン・メガネウラ)ほか。学期ごとに違う演目で幼稚園・保育園を中心に上演するひとみ座幼児劇場で長年活動。
公演情報
人形劇団ひとみ座 White Sketchbook vol.3
『メープル農場のどうぶつたち』
日:2024年8月21日(水)~25日(日)
場:県民共済みらいホール
料:一般 大人2,800円
子ども[4才~高校生]2,200円
(全席指定・税込)
HP:https://sites.google.com/view/maplefarm-hitomiza/
問:人形劇団ひとみ座
tel.044-777-2225(平日10:00~18:00)