男がヒーローとなって40年後、世界はいったいどうなったのか 役柄とリアルに歳が重なる夢麻呂が、歳を重ねたヒーローを演じる

男がヒーローとなって40年後、世界はいったいどうなったのか 役柄とリアルに歳が重なる夢麻呂が、歳を重ねたヒーローを演じる

 「社会に⽣きる演劇。オールハピネスを約束する」をスローガンに掲げて作品を発表し続けている、劇団わ。2015年に旗揚げし、2017年にはヒーローに憧れて、どんな逆境に出逢おうともそれを貫く大学生を描いた『僕のヒーロー願望』を上演した。今回上演する、コロナ禍を乗り越えて世に問う『僕のヒーロー願望2』は、前作から40年が経過した当事者達を描く作品だという。
 作・演出は前作と同じく村上芳。そして40年後のヒーローに夢麻呂。その妻に南名弥。そして息子に佑太を起用して「ヒーローのその後」を描くという。村上と、主演の3人に話を聞いた。

―――前作から40年後の話だそうですね。

村上「歳を食ったヒーローの話なんです(笑)。舞台はヒーローという職種が社会の中で確立している世界となります。誰しも若い頃は勢いで出来ますが、60歳にもなると結婚したり、子供が産まれたりなど色々なことがおきて、主人公は現実的な問題に直面する。実生活に沿った物語になっています。
 前作の後しばらくして、これを夢麻呂さんがやったら面白いんじゃないかという発想が主宰の青山の中に芽生え、じゃあ書いてみようかということになりました。夢麻呂さんにはそれからオファーしました(笑)」

夢麻呂「だいぶ前に話は聞いていました。コロナ前の話ですよ。でもその時点から僕もさらに歳を重ねたので、ちょうど今やるべき年齢になった気がします。この作品が還暦1発目ですが、やるべき時に取り組む作品だと思います。
 それにしても僕をイメージして書いてくれるのは嬉しいです。稽古するとセリフの違和感がゼロで、すごく気持ちが乗せやすいですね」

―――佑太さんは夢麻呂さん演じるヒーローの息子役ですね。

佑太「夢麻呂さんとの共演はありましたが、その時はバチバチに闘う相手という設定で、今度は親子です。僕自身、母子家庭で育っているので、自分の中に“お父さん”がいる設定の人がないんですね。だからこそ今から楽しみだし、胸を借りて懐に飛び込んでいきたいと思います」

―――ここに出てくるヒーローというのは、いわゆる超人的ヒーローですか?

村上「いいえ、超人じゃないんです。僕は凡人が好きで、手がける作品の主人公も凡人が多いんですが、このヒーローも凡人なんです。そんな普通の人がどうやって世の中を変えていくかを考えるのが好きなんです。だから超人ではなく、ただ頑張る人なんです(笑)。
 主人公は前作で凄く頑張ってヒーローに上り詰め、ヒーローという職業を確立します。そして今作ではそこから40年後の彼を描きます。たぶん公務員です(笑)」

夢麻呂「公務員なの? どういう報告するのよ(笑)」

佑太「実際にそんな職があったら憧れるかもしれませんし、それが父親なら今度は引くかもしれませんね」

―――そして南さん。ヒーローの奥さんでヒロインとなりますが、劇団わさんとは初めてですか?

南「全くもって初めてです。きっと最後まで緊張していると思います。夢麻呂さんのお名前は存じていましたが、舞台は拝見していません。こんな私ですから、オファーはいただものの恐れ多いなぁと思って、『大丈夫ですか?』と確認を入れました。
 そもそも私は(作品の中で)飛び道具として使われるのが多いので、ヒロインなんてビックリです」

佑太「(小声で)飛び道具……?」

南「こんな素敵なご縁はないぞ!というくらい嬉しいのですが、『それでも大丈夫ですか?』とさらに確認して(笑)。でも台本を拝読したら、私でも遊べそうだなあと思い、今度は夢膨らむ時間になりました。とにかく胸が一杯で、ワクワクと緊張で頭がグルグルしてます」

―――戸惑いも大きいようですが、嬉しさも大きいと。

南「今どき、新しい団体からのオファーは少ないので、凄く嬉しいです。コロナ禍で辞めてしまった団体や俳優がいるなかで、新しいご縁や企画が生まれるのは嬉しいことです。そして劇団わの皆さんはすごく長く頑張っている。そんな皆さんに出会えるのも嬉しく幸せです」

―――では、皆さんそれぞれのヒーロー像をうかがってみたいと思います。

夢麻呂「生きていくことに関してヒーローでありたいですね。それに僕はサンタクロースが好きで、職業にあるなら目指しているでしょう。実際はもともと教師志望でした。人に何かを与えたい、楽しいことを与えたいと思っていました」

佑太「僕も人を楽しませたくてこの仕事に就いたので、夢麻呂さんに近いです。そしてこの劇団わは、お客さんに対するもてなし心が凄いんです、これは皆さんに体験してもらいたいですね」

南「私は父親ですね。コロナ禍の最中に亡くなってしまったのですが、ちょうど仕事が少ない時期だから最期の時期を一緒に過ごすことが出来ました。だから今この台本を読むとグッとくるし、家族の繋がりが愛おしく感じます」

村上「僕自身の、というより、皆さんに伝えたいヒーロー像。それはやっぱり凡人に戻ってくるんです。ヒーローは特殊なことをしないといけないという観念を持ちがちですが、何者にならなくても人間には価値があるし、誰かはきっと誰かを幸せにできる。そこに気づいて大切にしてもらいたいですね」

―――さらに具体的なヒーローやアイドルは誰でしょう。

村上「最近だと母親ですね、うちも母親が男3兄弟を育ててくれましたが、今になるとその凄さがわかります。最近、ますますその人間性の深さに惹かれます」

夢麻呂「僕は本郷猛。仮面ライダー1号ですね。僕等の世代だと。他にも長嶋茂雄さんとか、金八先生。僕はあの作品を観て先生を志望しました。でも1番は仮面ライダー1号(笑)」

南「ヒーロー像が父親だといいつつ……昔から木村拓哉さんが大好きで、4歳の時にこの人と結婚する!と思ってました。でもずっと誰かに憧れるのは原動力になることで、大切なことだと思いますね」

佑太「僕もSMAPさん。彼らに憧れてこの世界に入りましたから。テレビで活躍する姿を見ていて、楽しいなと思うし、楽しいと思わせるのはすごいなと。そこから自分も唯一無二の表現者になることを目指すようになりました」

―――それでは皆さんそれぞれの抱負やメッセージを聞かせてください。

佑太「前作では主人公の親友役、今回は息子役を務めることに深い感慨を感じています。これからどうなるかワクワクしますし、この3人でどんな家族を見せるかも楽しみです」

南「初めての劇団さんでわからないことが多いのですが、それでも絶対面白いし面白くするので、その根拠のない自信がある舞台に刮目していただきたい! 気分はSMAPみたいなものなので、ぜひ見届けて、あとはなんとでも言ってください。損はさせません」

夢麻呂「作品と役者の情熱を観に来てください。もうそれだけです」

村上「とにかく楽しんでいただきたいです。書き手としていろいろなメッセージを込めていますが、それは僕のエゴだからどうでも良くて、ただ皆さんが楽しむ気持ちを持っておいでいただきたい。そして観た後にふとセリフやシーンを思い浮かべていただいたら、それでもう僕は幸せです」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

夢麻呂(ゆめまろ)
岡山県出身。大学在学中に芸能養成所に通い、卒業後、芸能人になることを目指して上京。浅井企画に所属し、バラエティー番組の前説からキャリアをスタート。さらに俳優としてドラマ・映画に出演。1990年にはエンターテインメント集団「YANKEE STADIUM 20XX」(現「熱ら。」)を旗揚げ。全作品の脚本・演出・キャストを務める(2015年に活動休止)。イベント・結婚式の司会、トークライブ、演技講師としても幅広く活躍している。モットーは「生涯一少年」。演人の夜​『もしも生殺与奪の権を私が握ったら』にて、黄金のコメディフェスティバル2022 最優秀俳優賞を受賞。

南 名弥(みなみ・なみ)
東京都出身。幼少期、MLS(モデル・ランゲージ・スタジオ)のミニプロダクションで英語劇に出演し、演劇に興味を持つ。中高一貫校に通う間は週に3本のペースで観劇し、加えて学校に演劇部を設立、舞台熱を高めていく。19歳でロサンゼルスへ短期留学、サンタモニカ劇団の児童文化交流に参加する。20歳で新国立劇場演劇研修所6期入所、修了。さらにロンドンやニューヨークに短期留学をしつつ、小劇場を中心に活動する。近年は舞台出演の合間に、コミュニケーションセミナーの講師やアクティングトレーナーとしても活動する。

佑太(ゆうた)
東京都出身。アイドル事務所のオーディションを経て、帝国劇場や東京ドームでバックダンサーとして活躍。舞台俳優としての活動の傍ら、バンド「The LADYBIRD」にギタリストとして加入。ストレートプレイからミュージカルなど、幅広いスタイルの作品に多数参加している。

村上 芳(むらかみ・かおる)
熊本県出身。脚本家・演出家。「劇団わ」所属。ホストでのトーク技術から、幕張メッセなどで様々なイベントの司会を行う。それにも飽き足らず実演販売士を始め、2日間の対面販売でiPhoneを63台売る偉業を成し遂げる。そのトーク技術を活かし演出を始め、劇団わへ入団。得意とするジャンルはファンタジーとコメディで、ユーモアと風刺を交えた独特のアプローチで観客に強い印象を与えており、常に新しい視点と挑戦を提供し続けている。

公演情報

劇団わ『僕のヒーロー願望2』〜諦めたらそこで世界終了ですよ~

日:2024年7月10日(水)~14日(日)
場:中目黒キンケロ・シアター
料:10,000円(全席指定・税込)
HP:http://www.wagumi.site
問:劇団わ mail:cs@gekidan-wa.tokyo

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