世界中からリピーターが集い、通算4,300公演を突破! 至近距離で繰り広げられるパフォーマンスと、台詞のない演劇が融合した唯一無二の舞台

世界中からリピーターが集い、通算4,300公演を突破! 至近距離で繰り広げられるパフォーマンスと、台詞のない演劇が融合した唯一無二の舞台

 京都の市街地にある専用劇場で、12年にわたりロングラン公演を続けている『ギア-GEAR-』。マイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリングの各パフォーマーが演じる「ロボロイド」と、俳優が演じる「ドール」がひとつのストーリーを描き出す。
 細部まで作り込まれた舞台セットの中で、光や映像と連動しながら繰り広げられるパフォーマンスは圧巻の一言で、演劇としての情緒と深みがそれを包み込む。台詞を一切使わない演出も大きな特徴で、客席には幅広い年齢・国籍のオーディエンスが集まる。公演回数4300回、観客動員数30万人を超える実績が、その魅力の証だ。キャストはパート毎に5~6人メンバーがおり、日替わりで計5名出演、その組み合わせは6,000通り以上。
 ここでは、『ギア』の立ち上げ当初から出演している兵頭祐香(ドール)、2017年から出演しているじゅんいち(ブレイクダンス)、そして今年4月にデビューしたばかりのせとな(マジック)の3名に集まってもらい、奇跡のような時間を体感させてくれる『ギア』の裏側に迫った。

―――それぞれ異なるフィールドで活動しているパフォーマーと俳優が集まって、ここまでのものを見せてくれるということに感動しました。演じている側の感覚はいかがですか?

兵頭「私は、京都で公演するようになる前のトライアウトから出演しているので、これが当たり前すぎて、違うフィールドの人とやっている感じはほとんどないんです」

じゅんいち「公演ごとに、どんどん絆が深まっていくんですよね」

兵頭「フィールドの違いを感じるとしたら、劇場以外の場所ですね。例えば、じゅんいちが出ているブレイクダンスのショーを観に行ったら、“この人、めっちゃすごい人やった!”みたいな。きっと、せとなのマジックショーを観ても同じように感じると思います。
 そして、お互いにリスペクトがあるからこそ、それぞれの分野に関しては専門的な突っ込みをあまりしないというか、知らない人の目線で意見を言ってますね。技術的に難しいかどうかよりも、すごい!と感じるかどうかで判断してる」

じゅんいち「そうそう。僕自身、ブレイクダンスとしての難しさとか細かさみたいなところを攻めすぎると『ギア』が求めるものを提供できなかったりするんです。“俺だけのこだわり”みたいなものは通用しない」

―――パフォーマーの皆さんも、ただ技を披露するのではなく、『ギア』の世界観のもとで“演技”をしています。そこは普段のパフォーマンスと違うところですね。

じゅんいち「僕を誘ってくれたのは、もともと同じダンスチームにいた人なんですけど、その人が出ている『ギア』でブレイクダンスのソロを観たとき、僕だったら余裕でもっとすごいことができるって思ったんです(笑)。ところが実際にやってみると、演技の部分で頭を使うし、ロボットの動きで身体は固まるし、こんなにしんどいことをやってたんだと思いました。
 でも、演技をすることもやっぱり楽しくて、演技の大先輩の皆さんから学ぶこともたくさんあって……もう日々勉強です」

―――『ギア』の出演歴もキャストによって様々ですが、デビューしたばかりのせとなさんも全くそう感じないくらい馴染んでいて驚きました。

せとな「ありがとうございます。僕は高校生のとき、千葉で上演された『ギア』East Versionに知り合いのマジシャンが出ているのを観に行って、こんな世界があるんだ、とめちゃくちゃ感動したんです。
 マジックは『ギア』を観る前からやっていたんですけど、お芝居にも興味を持つようになって舞台芸術の専門学校に進学し、そこを去年卒業してマジックとお芝居の両方をやれる場所はないかなと探したとき、『ギア』のことを思い出してオーディションを受けました。
 ここではたくさんの先輩方に囲まれて緊張しつつも、なんて良い環境にいさせてもらえているんだという嬉しさがすごくあります」

―――そんな『ギア』に立ち上げから出演されているのが兵頭さんですが、当初はいろいろな苦労があったそうですね。

兵頭「さっきは“これが当たり前”と言いましたけど、最初はやっぱり別ジャンルの人と一緒にやるのが……もう“言葉が通じない!”みたいな感じで、ゴールがどこなのかも想像できないまま、暗中模索ってこういうことなんだって思いながらやっていました。コンセプトとプロットしかない状態から、“曲をかけてみるから何か踊ってみて”、“ここで机を使ったらどうなるかな”みたいな実験を続けて、その中から面白かった部分を抜き出して、さらに形を変えて……という作業をみんなでやっていくんです。
 そこに“演技”という分野も入っているから、絶対なんとかしてひとつの芝居に組み立てるということを稽古で繰り返していました。今でこそ、どのパートもみんなしっかり演技ができるから良いんですけど、最初はなかなかキャッチボールにならなくて大変でした」

―――台詞や言葉のない芝居なので、なおさらですよね。

兵頭「今でも、まだ技術が足りないキャストのデビュー前の稽古とかだと、“ごめん、今何言ったかわからへん”みたいなことがよくあります」

じゅんいち「だって、喋ってないからね(笑)」

兵頭「自分でも“そりゃそうやで”って思いますけど。でも不思議なことに、うまくいってるときは当たり前のように台詞が“聞こえて”くるんです。普段こうやって喋っている感じのまま動いているというか……それは『ギア』の特別なところかなって思います」

―――それは舞台を観ていても感じたことで、キャストの皆さんが今にも喋り出しそうに見える瞬間が何度もありました。

じゅんいち「実際に喋ったらもっと面白いだろうなと思うくらいのところはあるんですけど、そこで喋らない楽しさも『ギア』にはあるんですよ。逆に、稽古は喋りながらやることも多いんです」

兵頭「稽古はうるさいもんね(笑)」

じゅんいち「公演日の朝にみんなで集まって大事なシーンを確認したりするときとか、人それぞれで喋ったり喋らなかったりするんですけど、喋り始めたらずっと喋りまくってます。
 今日も、自分のソロのところは“本番ではそんなことやらないでしょ!”っていうくらいのことを言ってみたり、ふざけてみたりして」

兵頭「稽古で声として一度外に出しておくのは、そこで感じていたことが合っているかどうかの確認作業みたいなところがあるんだろうなと思います。でも本番では喋るモードが消えていて、絶対に喋らない」

せとな「僕は、本番では本当に感情をそのままお届けしているようなイメージがあります。そこで話している“会話”も、日本語で喋っている感じがあまりしないというか、何か全く別の言語を使っている感覚。逆に、稽古で声を出すときは、それを一度日本語に翻訳している感じがします」

兵頭「それ、すごくわかる。普段は台詞のある芝居をやっていて、『ギア』に帰ってきたときが一番新鮮ですね。
 喋らないことを特殊だと感じないこの環境では、たぶん“ギア語”っていう新しい言語を喋っているんだろうなと。それを会得したときは、海外の人と初めてコミュニケーションできるようになった瞬間のような、電気が走るみたいな感じがありました」

―――そういうやり取りを、毎回のようにキャストの組み合わせが変わる中でやっているのもすごいところだと思います。稽古の組み合わせもそのときによって違うんですよね?

せとな「そうです。だからキャストが変わるたびに違うことを求められるところもあって、最初はとても驚きました。でも、決まっているものも厳密に言えば毎回ちょっとずつ違うというか、別に決まったことをやるわけではないので、そこを見つめ直せるきっかけにはなっている気がします。
 普通の舞台でも、ずっと同じ台詞回しでやっていると思考が固まってしまったり、相手が次に言うことがわかっていると生の会話にならなかったりするところを、『ギア』では定期的に知らない“台詞”が飛んでくるので、台本上は決まっているものもお芝居としては決まっていないことのようにやらなきゃいけないんだなと思い出させてくれる。だからすごく楽しいです」

じゅんいち「刺激的だよね。もちろんストーリーがあるので、最低限決まっている流れはあるんだけど、それを当たり前と思って動いちゃうと、気持ちが乗ってなくて、ただ演じてるだけになってしまう。だけどそこに中身が伴うと、“あいつめっちゃ楽しそうだな”とか、“こいつ、こんなこと思ってるんだな”っていうのが舞台上で飛び交うんです。それがお客さんに飛ぶまでがまた難しいんですけど」

兵頭「『ギア』の演出はオン・キャクヨウ(=御客様)で、お客さんの意見をとても大切にしています。なので、最初はプロデューサーが終演後に自ら出てきて“良くなかったところをアンケートに書いて教えてください”とお願いしていたんです。なんでそんなこと言うねん!って思ってましたけど(笑)。その姿勢は今も変わっていません」

―――アンケートの回収率も約80%と非常に高く、集計結果は資料化されて共有しているそうですね。

じゅんいち「自分が出ていない日も含めて、そうしたフィードバックをみんなが自分の演技に活かしているのも『ギア』のすごいところだと思います」

兵頭「特に初期の頃は、辛辣なご意見もたくさんいただきました。その中でも、ドールは他のパートと違ってパフォーマンス的な技の見せ場があるわけではないので、アンケートで“ブレイクダンスがすごかった、マジックがすごかった、じゃあドールは?”みたいな感想が結構あったんです。でも私は、演じる技術だってすごく特別なものだと思っているし、だからこそ俳優として『ギア』に参加したい。そういう気持ちで今も続けています」

―――パフォーマーの皆さんにとっても、ここで“演じる”ことが普段の活動に影響する部分はありますか?

じゅんいち「ブレイクダンスって、ただただ音に乗って“俺すごいだろ!”みたいに踊るカッコ良さもあるんですけど、僕は自分の性格上、見ている人のボルテージも上げたいタイプなんです。
 そこで外に向けてパワーを発信する力は、『ギア』ですごく培われているなと思います。舞台上で何も喋っていないときも、普通なら我慢できなくて次に行きたくなるところを、間を感じて楽しんでいる……みたいな瞬間が、めちゃくちゃ自分の力になっているなと。ダンスの大きな舞台でとんでもないエネルギーを発していると、チームメイトも“『ギア』の感じが出てるわ~”って言ってくれたりします」

せとな「やっぱりマジックもお芝居なんだなと、あらためて思い直せるところはありますね。マジックはただ手順を追っていくだけじゃなくて、お客さんのリアクションを受け取って次の流れを作っていく。それはお芝居にも通じているし、しかも『ギア』は言葉を使わずにそれをやっているわけで、共通するところがあるなと思います。
 舞台芸術の学校にいたときも、友人から“マジックって全部芝居じゃん”って言われたことがありました。そこから僕は個人的に、マジシャンは魔法使いを演じるのに特化した役者なんだと解釈しているんです。だからやっぱり、お芝居なんだなと」

―――こうしてお話を聞いていると、やはり“演技”が『ギア』の大きな軸になっていると感じます。最初に、フィールドの異なる皆さんが集まってこれだけのものを見せられるのがすごいと言いましたが、一見混ざりそうもないパフォーマンスが物語の流れにちゃんと組み込まれていて、しかもそれぞれのパフォーマーの見せ場もあるという、そんな見せ方ができるんだということに心が動かされました。

兵頭「嬉しいです。私たちは『ギア』を紹介するときに“ノンバーバルシアター”という言葉を使っているんですけど、以前は“ノンバーバルパフォーマンス”と呼んでいたんです。でも今は“シアター”。パフォーマンスの要素は強いけど、ちゃんとストーリーがあるという新しいジャンルを私たちは目指し続けているし、唯一無二のところには来ているのかなと思います」

―――ただ、観たことがない人にこの面白さを伝えるのは難しいですね。

兵頭「そうなんですよ! お芝居があってパフォーマンスがあって、光や映像と融合してて、インスタレーションの要素もあって、客席と舞台の距離が近くて……みたいに頑張って説明しても、“うーん”ってなっちゃう。結局、観てもらうのが一番早いんです」

せとな「ちょっと違う話になってしまいますけど、『ギア』は海外からのお客さんもたくさんいらしていて、僕たちが無言で演じているのを皆さんはそれぞれの国の言語で解釈しているんだなと思うと、これって一種のアートだなと最近は感じます。とんでもないことが起きているんだなって」

兵頭「確かに! 面白いね」

―――では最後に、これから『ギア』を初めて観る人に向けてメッセージをお願いします。

兵頭「自画自賛で申し訳ないですけど、この『ギア』は、観に来てくれた人の今後の人生に必ず何かのパワーをくれるものだと私は確信しています。よくわからない舞台のチケットなんて買えないと思っている方も、元気の素を買うような気持ちで来ていただけたら嬉しいです。
 逆に演劇好きの人は、台詞がないと演劇じゃないって避けている可能性もあって……そういう感覚は私もわからなくはないんですけど、声がないぶん別のところで身体に届くものが確実にあるので、演劇が好きなら絶対好きになれると思います。食べず嫌いせずに一度ご賞味あれ、という感じですね」

じゅんいち「台詞がないからこそ、観る人の価値観で“言葉”が入ってくるし、それを心に落とし込んだときに、自分にハマるものがきっとあると思います。ぜひ、そういう感動を味わってほしいですね」

せとな「僕が初めて『ギア』を観たときは、知り合いが出ているからという理由でよくわからないまま観に行ったら“これはヤバイ!”ってなって、何ヶ月後かに友達をめっちゃ引き連れてリピートしていました。そんなふうにフラッと来て圧倒されるという体験ができるので、ぜひ来てほしいです。
 あと、もし観たことがある人が身近にいたら、その人に話を聞いてみてください。“どうしてこの人こんなに感動してるの?”っていうくらい、熱量がすごいことになっているはずなので、きっと観に行きたくなると思います」

(取材・文&撮影:西本 勲)

プロフィール

兵頭祐香(ひょうどう・ゆか)
2003年に第53回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門 正式出品作『沙羅双樹』(監督:河瀬直美)でデビューし、初主演にして第18回高崎映画祭 最優秀新人賞を受賞。2007年からはパフォーマンス集団「オリジナルテンポ」のメンバーとして活動を始め、海外でも多くの公演を行う。俳優業だけでなく演出・振付・ステージングなど幅広い活動を展開している。主な出演作に、シアターBRAVA! 10周年記念シリーズ  つながる音楽劇『麦ふみクーツェ』、朴璐美プロデュースLAL STORY 神楽坂怪奇譚『棲』・東海道四谷怪談外伝『嘘』、舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語などがある。

じゅんいち
2016年、日本を代表するブレイクダンスチーム「BODY CARNIVAL CREW」に加入。ユーモラスな性格を活かしたムードメーカー的存在としてチームを牽引している。ダイナミックな回転技を得意とし、小柄な身体を活かして日本人離れしたスピード感あふれる大技で観る者を魅了。世界最大のブレイクダンス大会「Battle Of The Year」では、2016年・2019年ともに日本予選優勝およびWorld Finalベスト4の実績を持つ他、チームとして世界的なコンテストやバトルで数々の実績を誇り、ソロバトルでも優勝経験多数。TV番組出演やフラッシュモブなどの幅広いジャンルでも活躍中。

せとな
10歳でマジックを始める。2017年、第16回 テンヨージュニアマジシャンビデオコンテストへ出場し、日本一に輝く。2019年には、台湾で開催された、第10回 808マジックコンベンション ジュニア部門においてアジア2位および特別賞を受賞。その他多数の受賞歴を重ねる。2023年、専門学校舞台芸術学院を卒業後は役者としても活動をスタート。イマーシブシアターとして話題の泊まれる演劇『QUEEN’S MOTEL』(8/31まで京都で開催中)ではマジック監修および出演中。

公演情報

ノンバーバルシアター『ギア-GEAR-』

日:公演中
場:ギア専用劇場(ART COMPLEX 1928)
料:S席 一般7,200円 小中高生5,200円
  A席 一般5,200円 小中高生4,200円
  未就学児[4~6歳]1,200円
  (全席指定・税込)
HP:https://www.gear.ac
問:ギア公演事務局
  tel.0120-937-882(10:00~19:00)

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