阪神・淡路大震災から5年後の神戸を舞台に、悲しみから立ち上がろうとする人々の姿を描き、多くの涙を誘った音楽朗読劇『ヘブンズ・レコード』。再々演となる今回は、声優から2.5次元の人気俳優まで豪華キャストが集い、被災地で生きる3組の男女の物語をオムニバス形式で紡ぐ。
「関西出身者をはじめ、震災に思い入れのあるキャストを集めました。関西で上演する意味合いも大きく、方言もシビアに稽古しています」というのは脚本演出の岡本貴也。自身も神戸出身で、実家が全壊した経験を持つ。
「僕は当時東京にいて、地震を直接は経験していません。だからこそあの震災を知りたいという想いが強い。被災して更地になった実家の跡地に黄色い花が咲いていて、その花に家を盗られた気がして悲しかった。それがこの結末に繋がっているのかもしれません」
大震災から27年が経つ今、当時を知るキャストは少ない。朗読劇で被災を体現するには、俳優としての確かな力量が求められる。
「被災者を演じるには、まず震災体験を心の中につくらなければいけない。なので、朗読劇ではありますが立ち稽古もします。全員で共通の景色を作り、相手の目を見て演技をする。それを座った状態で再現すると劇的によくなる。朗読劇は動けない分、声と感情だけで表現する必要がある。単語一つで風景や思いを伝えねばならず、演者は大変です」
5年経っても被災者の中では『震災』はなかなか終わらない。その一方で、世間は記憶を風化させていく。物語は発災の瞬間ではなく、あえてその歪みの時を切り取る。
「仮設住宅は5年で撤去されたけど、元の場所には住めない。それでも生きていかなければならない。5年というのは、被災者の心中に隠されていた苦悩が表に出てくる時期。これは被災に限らないことだと思います。だからこそ皆さんの心に響くのかも」
震災を題材に描くも、物語は悲劇に終始せず、温かくその先の未来を思わせる。
「希望を失いたくないけれど、希望だけでは終われない。“復興して良かったね”と片付けてほしくないという気持ちがあって。ライフワークとしてずっと震災を扱ってきたけれど、自分はもうこれ以上のものは書けない気がします。前回本番を見て、それを強く確信しました。派手な物語ではないけれど、心に残る言葉たちとともに、この物語をきちんと伝えていけたらなと思っています」
(取材・文:小野寺悦子 撮影:友澤綾乃)
「長時間の執筆でも疲れない椅子と机を探し求めて20数年。ファミレス『デニーズ』にあるソファとテーブルの組み合わせが至高だと判明しまして、あれが家に欲しいです。テーブルにはできればメニューが置いてあって、あと、呼び出しボタンも置いてあって、それを押したら店員さんが現れて、牛肉ハンバーグなんかが出てきてほしいです。24時間営業だとなおいいですね」
プロフィール
岡本貴也(おかもと・たかや)
脚本家・舞台演出家。1972年生まれ、神戸市出身。早稲田大学理工学研究科修了。出版社勤務を経て、2000年糸井重里賞を受賞し脚本家デビュー。主な脚本・演出作品に、朗読劇『私の頭の中の消しゴム』、『世界が記憶であふれる前に』、舞台『WELL ~井戸の底から見た景色~』、朗読劇『しっぽのなかまたち』、舞台『惡』、『源氏物語×大黒摩季songs ~ボクは、十二単に恋をする~』、NHKドラマ『銀二貫』、阪神・淡路大震災20年 ドラマ『二十歳と一匹』、映画『想いのこし』、『スイッチを押すとき』、『俺たちの明日』、『僕らの方程式』など多数。
公演情報
音楽朗読劇 『ヘブンズ・レコード #2022』
日:2022年1月27日(木)~30日(日)
場:ニッショーホール(新橋・旧ヤクルトホール) ※他、大阪公演あり
料:7,500円(全席指定・税込)
HP:https://twitter.com/heven2022
問:キョードーインフォメーション
tel.0570-20-0888(平日11:00~16:00)
サンライズプロモーション東京
tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)