圧倒的な熱量の会話劇で魅せる硬派ビジネスドラマ 地面師詐欺事件があぶり出す、日本企業の問題点とは?

圧倒的な熱量の会話劇で魅せる硬派ビジネスドラマ 地面師詐欺事件があぶり出す、日本企業の問題点とは?

 「大人が楽しめる小劇場」をコンセプトに、社会的なモチーフで人間を描く会話劇を得意とする、JACROW。その最新作は、ある地面師(土地の所有者になりすまし、売却をもちかけ多額の代金をだまし取る詐欺師)の詐欺事件をモチーフに、被害者である企業側の視点を通して、この事件の側面を描くビジネスドラマだ。
 自身も会社員として組織に身を置く代表の中村ノブアキは本作を通して、「日本とは」、「会社とは」、「経営とは」を問いかける物語にしたいと意気込む。

―――本作は実際に起きた、ある地面師詐欺事件をモチーフにしていますよね。

中村「当時を振り返った時、僕も世間一般と同じく、なんでこんなに簡単に騙されるんだろうと詐欺師の手口に興味がありました。確かにその手口をドラマに仕立てるのも面白いのですが、調べているうちに、これは別の人にも描けるなと思うようになって。
 自分にしか描けないものは?と自問自答しているうちに、企業側がなぜ騙されたのかという視点に立つようになりました」

―――物語ではグローバル化が進む現代において、企業の内向き志向を指摘されていますね。

中村「今の政治にも繋がることなのですが、一言で言えば、忖度なんですよ。現場の人間が疑問を持ったとしても、トップが旗を振っている案件になかなかノーが言えない空気の中で突き進んでいったというのが、大きな構造です。それは恐らく『モリカケ(森友・加計)問題』や『桜を見る会』、引いては第二次世界大戦中の日本にも通じる気がしています。
 裏を返せば個人よりも組織を重んじる、組織力や団結力といった言葉にも言い換えることができますが、悪い方向にそれらが働いた時に、ノーと言えない空気が醸成されてしまうのではないかと思っています。会社員である自分自身の苦い失敗にも基づいていますが、より多くの方にこの“得体の知れないもの”について考えてもらうきっかけになれば嬉しいです。
 今のZ世代と呼ばれる層は分かりませんが、ある年齢以上の世代は教育そのものが、和を乱すなという教育を受けて育っているので、どうしてもDNAレベルで同調してしまう傾向がある気がしています。そこに問題提起をする作品になればと思っています」

―――密室での会話劇において、演者に求めるものはありますか?

中村「今回に限らずですが、熱量ですかね。アクションも少ない緻密な会話劇なので、有無を言わせない圧力や熱量が支配している空間をいかに表現できるかが大切になります。
 今回、出演する役者9人が全て企業内部の人間であり、地面師たちは1人も出てきません。でもなぜ騙されたか?その上で必ず地面師の手口を表現しないといけないので、お客さんにその場にいない人間を想像させることそのものがエンターテインメントになると思っています。
 2時間全編が息苦しいと辛いので、抜きどころもつくりながら、ゾクゾクするような瞬間をいくつもつくれたらいいですね」

―――タイトル『地の面』に込めた思いを教えてください。

中村「地面師詐欺事件に絡めて、企業内での権力闘争を主題に描きたいと思ったことが企画の出発点です。
 そこには組織を守ろうとする企業人としての顔と、権力闘争でいがみ合う2つの顔があるわけです。その“建前”と“本音”を地面師という言葉にかけて、“地の面”というタイトルをつけました」

――ー作品を観た方にどんな感情を期待していますか?

中村「一人ひとりが疑問や否定を抱いた時に、声を出す勇気みたいなものを持ってもらえたら成功な気がします。それは会社に限らず、仲間内や家族内にも言えることかもしれません。
 今回の話は最後まで声を出せない人間が主人公になっています。その彼の姿を通して何か共感を持ってもらえたら嬉しいです」

―――最後に読者の方にメッセージをお願いします。

「今回、おじさん9人だけの芝居です。ビジネスドラマをつくってきたJACROWですが、ビジネスドラマでありつつ、事件を扱うある種のヒューマンドラマになるはずです。
 ひりひりする男同士の駆け引きや、うちに秘めたドロドロした欲望を描くことが、今の日本社会に対する問題提起になって、観た方一人ひとりが自分のこととして捉えてもらえたら嬉しいです。是非、皆様のご来場をお待ちしております」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

中村ノブアキ(なかむら・のぶあき)
1967年生まれ、千葉県出身。JACROW代表、脚本家・演出家。横浜国立大学在学中に演劇活動開始。卒業後、サラリーマンとして働きながら演劇活動を続ける、二足の草鞋を履く演劇人。社会的なモチーフで人間を描く“会議”劇を得意とする。劇団青年座や椿組など、外部団体への脚本提供も積極的に行っている。日本劇作家協会会員、日本演出者協会会員。2015年、『ざくろのような』で第27回鶴屋南北戯曲賞 ノミネートと、テアトロ新人戯曲賞を受賞する。『カノチカラ ~リグラーの変態~』で若手演出家コンクール2016 優秀賞を受賞。『焔 −ほむら』は第24回劇作家協会新人戯曲賞 最終候補に選ばれる。「闇の将軍」シリーズ第3弾の脚本・演出に対し、第55回紀伊國屋演劇賞 個人賞を受賞した。

公演情報

JACROW #35『地の面』

日:2024年6月14日(金)~23日(日)
場:新宿シアタートップス
料:一般4,500円 前半割[6/14・15]4,000円
  学生割2,000円 ※要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://www.jacrow.com
問:J-Stage Navi
  03-6672-2421(平日12:00~18:00)

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