TAACは「その後」を描いてきた。「その時」はテレビなどでニュースになり、話題にもなる。だが、当事者たちの人生は「その後」も続いていく。演劇を通して彼らの「その後」の日々に目を向けてきたTAAC。今作では、コロナ禍による生活様式の変化で隆盛したフードデリバリーサービスの「その後」を描く。
みなさんは『ゴーストレストラン』をご存知だろうか。店内で飲食することなく、デリバリーに特化して料理を提供する飲食店のことだ。コロナ禍のデリバリー需要がきっかけで登場し増加傾向にあったが、現在は過渡期を迎えている。
劇作家・演出家のタカイアキフミによる演劇ユニット「TAAC」による次回作品は、そんなゴーストレストランを経営する兄弟の話だ。彼らは社会の隙間に潜り込み、市井の人々からは見えづらい小さな世界で生きていた。そんな2人はゴーストレストランを閉める決断をするが、最終営業日を終え片付けをしていると、なぜかもう来ないはずの注文が舞い込んでくる。そんな中、デリバリーサービスの配達員もやって来て、物語が動き出していく……。
主宰のタカイアキフミに加えて、弟役を演じる永嶋柊吾、兄役の小林リュージュ、配達員役の高畑裕太に話を聞いた。
―――まず、『静かにしないで』のテーマを教えていただけますか。
タカイ「ようやく一段落したコロナ禍ですが、ゴーストレストランというのはコロナ禍によって躍進した業態ですよね。当時大多数の人間は苦しい状況だったわけですが、デリバリーサービスに携わる人々はある種おいしい思いをしていた。そして、ようやく世の中が落ち着いてきた今、どういう風に生きているのだろうと思って。
ゴーストレストランはデリバリー対応専門ですから、店内では飲食をしない。つまり第三者が介入しない、普段僕達が目を向けることがない場所です。そこに目を向けたかったんです。そこが現代の不寛容な社会の中で、他者を想像するきっかけの1つになるかと思ったんです」
―――今回は三人芝居です。永嶋さんはTAACの作品に何度か出演していますが、他のお二人は初めて組むことになるようですね。
タカイ「こちらからのオファーですが、既にお互い付き合いのあるメンバーです。そもそも最初は(永嶋)柊吾くんと何かやりたいねと話していたのがきっかけですね」
永嶋「TAACの作品に出るのは4度目ですね。タカイさんとそんな話をして、一緒にやってみたい人をお互い聞きあって、話していく中でこの3人で固まっていきました。
気心知れたメンバーだからこそ濃密なものをやりたいねとなり、タカイさんからゴーストレストランという設定が出てきて『おもしろいな』と。そこからはもうお任せでしたが、構想を聞いてみたら僕が思っていたよりだいぶ繊細で重たい役になっていました。演じるにあたって色々と気をつけないといけないですが、芝居するのは同じだし、共演の2人も信頼しているので、色々と試してみたいと思います」
小林「タカイさんの芝居は3本観ています。最初に観たときから芝居のテーマが社会の中で生きづらい人達に向いているなと感じていました。コロナ禍が終わった今でしかできないものをやろうとしているので、すごくやる意義がありますし、楽しみです。
柊吾くんとは10年以上の知り合いなのに、一緒に芝居をやったことがないんです。彼が出演していた、タカイさんの『狂人なおもて往生をとぐ』を観たら、いつも以上に素晴らしかったんです。その時一緒に芝居をしたいという気持ちが高まっていました。だからこの顔ぶれは嬉しいです」
高畑「あのぉ、僕も居るんですが(笑)」
小林「(笑)。高畑くんも10年以上知っている仲だし、彼の芝居は何本も観ています。でもこうして面と向かっての共演は初めてです。とにかく、この座組で挑めるのは楽しみですね」
高畑「この前メンバーが集まってのディスカッションがありました。台本はまだですが、設定などを色々話し合って深掘りする機会です。そこでいくつかエチュードをやりましたが、2人と生で初めてやり合ってみて、単純に上手だなと思ったし、魅力的だと感じました。そして心に響くことや得るものが多かった。
ゴーストレストランにやってくる配達員として、兄弟に巻き込まれる役ですが、その設定がセリフに起こされて台本になり、そして上演した後に自分にどんな変化が起こるか。いや、大きな変化が起こるんじゃないかという予感がしています」
―――代表して永嶋さんに、タカイさんはどんな作家であり演出家か、お話しいただけますか。
永嶋「実は彼が書いた作品は1本だけしか出演していないんです。僕は演劇ってどんなことが書いてあって結末はどうあれ、すべて愛の話だと思っているのですが、タカイさんの作品は見終わった後に優しさや人への愛が残るなと最初に思いました。
その後一緒に作業する様になって気づきましたが、彼は芝居を作る中でテーマや見せたいシーンが明確に自分の中にあるんです。それを実現するために僕たち役者が手助けをし、上手くいったときに彼の台本はその真価を発揮するのだろうと思っています」
―――最後に、皆さんそれぞれの抱負を伺いたいと思います。
高畑「自分の劇団では、いじめなどの繊細かつ社会的なテーマを掲げて活動していますが、最近、コメディ作品の出演が多かったので、こうした会話劇は久しぶりです。
だから凄く楽しみだし、タカイさんのTAACにとって集大成という意気込みがある公演に、昔から付き合いがあってお互いを尊敬できる3人で挑めるのは、特別な今まで以上に強い意味を持った公演になるんじゃないかと思います。きっとひと味違うものがお見せできると思います。全力で頑張りますので、凄く観に来て欲しいですね。心からそう思っています」
小林「普段舞台に立つときに、演出家や共演者、スタッフとのコミュニケーションを考えると、今回のように下準備からこのような距離感でできる現場は少ないです。だからこそ楽しみでワクワクしていますし、その中でどういった作品が作られるかが楽しみです。
お客さんには理解してもらいにくいかもしれませんが、また違った何かが出来るんじゃないかという高揚感がすでにあるんです。しかも普段付き合いのある仲間と、普段とは全然違う役柄を通した付き合いが出来ることには興奮します」
タカイ「みんな同世代ですからね」
永嶋「同世代で作れるのは嬉しいことだよね。“観に来ることが出来てよかった”と思わせたいと、みんながそう思っている。さらにこの後、撮影や稽古などの準備にもさまざまな仲間が関わっていきますから。昨今は配信もありますが、やはり劇場で観る演劇の底力はあると思うので、それを楽しめる舞台にしたいです」
タカイ「TAACは僕のソロユニットのようなものですが、ここに居る役者たちや参加してくれるスタッフがみんな経験豊かで実力があって劇団員かのような動きをしてくれるメンバーだから、いつも以上に孤独感はなく、いい心地よさで取り組めていると思います。それが作品に現れれば良いなと思ってます。
僕は観た後すぐに高揚感に包まれるエナジードリンク的な芝居より、しばらくしてからふと思い出すような、お守りみたいな芝居を作りたいと思っています。社会で生きづらさを感じている人も包み込める作品だと思っていますし、作品と空間を共有して、お客さんの体の芯が少しでも温かくなれば嬉しいです。(シアター)711という濃密な劇場で小さな世界を目撃してください」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
タカイアキフミ
1992年7月27日生まれ、大阪府出身。大手広告代理店に勤務しながら、演劇にも取り組む。2018年、個人ユニットTAAC(Takai Akifumi and Comradesの略)を立ち上げ。2021年には演劇活動に専念。TAACでは脚本・演出を担当。関西演劇祭2022 ベスト演出賞受賞。
永嶋柊吾(ながしま・しゅうご)
1992年6月12日生まれ、福岡県出身。母親が応募した市民ミュージカルで初舞台を踏み、子役として活躍。舞台『鞍馬天狗…if』で芸能界デビュー。その後、ミュージカルやストレートプレイだけでなく、映画やテレビドラマにも多数出演する。更に、元The Cigavettesのフロントマン 山本幹宗とのユニットsunsiteでの活動や、俳優 菅田将暉のアルバム「LOVE」への楽曲提供など、音楽活動も展開している。
小林リュージュ(こばやし・りゅーじゅ)
1989年5月30日生まれ、神奈川県出身。高校時代に親しんだ洋画の影響で英語の芝居に興味を持ち、その後のオーストラリア留学がきっかけで俳優を志すようになる。2011年、『恋の罪』で映画デビュー。数多くのテレビドラマや映画に出演する。並行して舞台でも活躍。今回は6年振りの舞台作品となる。
高畑裕太(たかはた・ゆうた)
1993年9月13日生まれ、東京都出身。2012年、『あっこと僕らが生きた夏』で俳優デビュー。自身が主宰する劇団「ハイワイヤ」では作・演出を担当するなど、俳優に囚われない形で表現活動の幅を広げている。近年では劇団かもめんたる、かわいいコンビニ店員飯田さん、ONEOR8、ゴツプロ、ろりえなど、名だたる劇団の作品に出演して精力的に活動を行っている。
公演情報
TAAC『静かにしないで』
日:2024年5月24日(金)~6月2日(日)
場:下北沢 シアター711
料:TAAC応援!一般[特典付]9,800円
一般4,900円
U-18[18歳以下]1,500円
※U-18は要身分証明書提示
(全席指定・税込)
HP:https://www.taac.co
問:TAAC mail:info@taac.co