「現代の私たちの物語だと思っていただけるように演じたい」 寺山修司幻の異色作に演出家・稲葉賀恵が挑む 

「現代の私たちの物語だと思っていただけるように演じたい」 寺山修司幻の異色作に演出家・稲葉賀恵が挑む 

 アリストパネスの代表作であるギリシャ喜劇『女の平和』をベースに、寺山修司がユニークな視点を加えて描いた音楽劇『不思議な国のエロス』に、文学座の稲葉賀恵が挑む。

 戦いに明け暮れる男たちに愛想を尽かしたギリシャの女たちが、戦争終結を要求するため、敵味方の垣根を超えて立ち上がる姿を描いた本作。アテネの女たちのリーダー・ヘレネーを松岡依都子、物語の案内人・ナルシスを朝海ひかるが演じる。

 「最初にお話をいただいた時には、私の役柄は傴僂(せむし)男と聞いていたので、どうやって舞台の上に出るのだろう?と疑問もたくさんあったのですが、稲葉さんが『この作品を俯瞰で見ているドローンのような役』とおっしゃっていたと聞いて、なるほどと。傍観者として作品を見て、作品の世界観とお客さまを繋げる役割を担っていければと思います」

 反戦と平和への願い、ジェンダーの概念を覆す挑戦的な視点で描かれた本作は、執筆当時には上演されなかった幻の異色作だ。

 「『女の平和』は書かれてから2500年が経っていますが、この脚本を読んでいると人間の根本は何一つ変わっていないのだなと感じさせられました。尚且つ、寺山さんが日本人の心に刺さる言葉を使って、日本人に向けた作品に作り直してくださっているので、観客の方たちはより分かりやすく、作品のテーマを拾い上げることができると思います。今を大切に生きようと感じていただけたら嬉しいです。タイトルに“エロス”とついているので、エッチな話じゃないかしら?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、人間のおかしさ、バカバカしさ、愛しさが描かれている作品ですし、今の私たちが観ても共感できるものになると思います。自分のことのように感じていただけるように、そして現代の私たちの物語だと思っていただけるように演じたいです」

 演出の稲葉とは2022年の『サロメ奇譚』以来のタッグとなる。

 「稲葉さんは、1つの作品を俳優、スタッフ全員が納得するまで話し合い、解決策を見つけていく丁寧な作品づくりをされる方。困難なことがあっても絶対に諦めない精神的なタフさがあって、とても信頼していますし、尊敬しています。こうやってみたらどうだろうと、1つずつプロセスを踏んでくださるので、今回もナルシスという役がどの方向に向かっていくのか、稲葉さんと一緒に探っていきたいと思います」

(取材・文:嶋田真己 撮影:間野真由美)

プロフィール

朝海ひかる(あさみ・ひかる)
1月24日生まれ、宮城県出身。1991年、宝塚歌劇団に入団。2002年、雪組男役トップスターに就任。2006 年、『ベルサイユのばら』では主演のオスカル役が好評を博した。同年、宝塚歌劇団を退団。その後もミュージカル・ストレートプレイ・映像などで活躍。日本を代表する演出家の舞台へ多数出演し続けている。

公演情報

音楽劇『不思議な国のエロス』~アリストパネス「女の平和」より~

日:2024年2月16日(金)~25日(日)
場:新国立劇場 小劇場
料:パンフレット付き9,800円
  8,800円(全席指定・税込)
HP:https://ae-on.co.jp/fushiginaeros/
問:公演事務局 公式HP内よりお問い合わせください(平日10:00~17:00)

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