旗揚げから7年目となるおぶちゃ。2024年2月の記念公演では、今回3度目の上演となる『Joie!』を上演する。本作では、両親を亡くし、2人だけの家族だった兄と妹、そして彼らの周りの人間が織りなす物語を丁寧に、温かい視線で描き出す。
兄・須永小次郎を演じる橋本真一、妹のあゆみ役の茜屋日海夏、そして作・演出を手掛ける大部恭平に作品への熱い想いを聞いた。
―――まずは、大部さんからこの作品についてご説明をお願いします!
大部「この『Joie!』という作品は、僕が2015年に初めて書いた脚本です。2020年に再演し、今回が3回目の上演になります。
作品とは少し話がそれますが、僕は初めて立った舞台が東京芸術劇場 シアターウエストでした。当時は、まだ何も分からずにステージに立っていましたが、こうしてさまざまな活動をしていく中で、改めていつか最初の場所だったシアターウエストで主催公演をやりたいという気持ちが芽生えていました。そうした中、さまざまな巡り合わせがあり、今回こうして公演をさせていただくことになりました。
初めての脚本作品を、初舞台で立ったシアターウエストで上演できるというのは、とても不思議な巡り合わせを感じています。まだ技術も全くなく、ただ強い思いだけで書いた脚本です。読み返すたびに恥ずかしくなることも多いですが、僕にとっては大事な作品です。おぶちゃも7周年を迎え、僕が脚本を書き始めて10年近く経ちました。成長した『Joie!』をお見せできたらという思いで挑みます」
―――どのような物語なのですか?
大部「兄と妹を中心とした物語です。初演と再演では、お兄ちゃんの小次郎が営むバー『Joie』が閉店する前の3日間を描きましたが、今回はさらに兄妹にフォーカスを当てていこうと思っています」
―――橋本さん、そして茜屋さんから今回演じる役柄について、そして作品の印象を教えてください。
橋本「先日、大部さんと2人で食事に行って自分の人生についても話をしたり、この作品についても色々と語り合ったので、その結果、どんな物語になるのかすごく楽しみにしています。
役柄についてですが……僕には姉がいて、僕自身は弟という立場です。父親が15歳の時に病気で亡くなってしまってからは母が必死で働いて女手一つで育ててくれたこともあり、“おかん”が2人いるような家族でした(笑)。男一人なのだから、しっかりしなくてはと思いながらも、母と姉に守られてきたんだと思います。
小次郎は、守ってくれる親がいなくなってしまってからはずっと妹を守るための生き方をしてきた人物だと思います。僕とは真逆の人生の歩み方をしている人物ですが、それがものすごくかっこいいし、すごく大人で素敵だなと思います。
僕は、この仕事が好きで、好きなことをやって生きていますが、きっと小次郎も自分が興味があることや、やりたいことがあったと思います。でも、それよりも妹を守るという選択をした。強い信念を持っているんだなと感じました。そうした役を演じるのはすごく難しいですが、やりがいや一人の人間としても得られるものがたくさんあるのではないかと思っています。
それから、瞬間を切り取った演劇はたくさんあると思いますが、キャラクターたちの人生が長期スパンで見られるような作品はあまりないと思うので、どんな役になるのかすごく楽しみですし、覚悟を持って臨まないといけないなと思っています」
茜屋「私は逆で、姉なんです」
大部・橋本「すごい! そうなんですね!」
茜屋「なので、私自身は“守ってあげなくては”という気持ちはすごくよく理解できます。ただ、今回は妹役なので、お兄ちゃんに甘える部分を自分なりに出していけたらいいなと思います。
あゆみちゃんは、明るくて負けず嫌いだけれど、その負けず嫌いをガツガツ表に出さないタイプ。私は顔にすぐ出てしまうので、あゆみちゃんとは違うところも多いので、役に歩み寄っていって作っていこうと考えています」
―――大部さんは、橋本さんの小次郎、そして茜屋さんのあゆみに対して、どんなことを期待していますか?
大部「今のお話を聞いていると、似ているけれども対照的な2人というイメージがあります。今回のお話とは違う家族構成ではありますが、それもまた面白い。
先ほども話しましたが、この作品は僕が最初に書いた脚本なので、当時は一人ひとりの人物を掘り下げて考えるところまでできていなかったと思います。ですが、最近ようやく僕も腰を据えて、一人の人間、一人の空間を作るということを楽しめるようになってきた実感があります。今回は、それを2人と一緒に作っていけることが楽しみです。
小次郎とあゆみのイメージは、僕自身は一度全て捨てた上で台本と向き合っている最中なので、改めてお互いに寄り添いながら、ここで生まれるものを楽しみながら作っていきたいと思っています」
―――今作は、いわゆる会話劇と呼ばれる作品ですが、そうした会話劇に挑む思いを聞かせてください。橋本さんはいかがですか?
橋本「僕は会話劇は大好きです。ここ数年は特に2.5次元舞台と呼ばれる作品や、エンタメ色の強い作品も多くやらせてもらっていますが、会話劇のような作品をやらせていただいていた時期もありました。どちらにも良さがあると思いますが、会話劇はその瞬間に感じたことやその場で生まれたものをより素直に表現できる演劇だと思います。
エンタメ色の強い作品では、表現する上でフェーダーを上げていかないといけない。それはそれで素敵なことだと思いますが、会話劇ではその作業がいらないんですよ。もちろん、あげなくてはいけないタイミングもありますが、それよりも相手の方との芝居で受け取ったものやその瞬間に感じたことを素直に返していくことが大事だと僕は思います。それを積み重ねていくというのが、表現として純度が高いなと感じます。
その場で生まれるものも毎公演違いますし、稽古でもどんどん変わっていく。形式美を気にしないで演じることができるというのは、役者としては心に無理がなく、とても素直な表現ができるように感じて僕は好きです。なので、今回もすごく楽しみにしています」
―――茜屋さんは会話劇についてどんな思いがありますか?
茜屋「私もすごく好きです。私も2.5次元舞台やアニメの声優など、さまざまなお仕事をさせていただいていますが、会話劇をやると“帰ってきたな”、“これこれ”という感覚があります。
そもそも私は、生活というのは誰かとの会話で成り立っているから、誰しも一人では生きていけない、みんなで助け合いながら生きていると思っているのですが、それを作品として昇華できるのが会話劇だと思います。誰かの日常を切り抜いた作品に救われる人もたくさんいると思いますし、私自身もどんなに悲しいことがあっても、物語を観ることで気持ちが昇華されることがあるので、誰かの手助けになればいいなと思っています」
―――今回の上演に伴って、「オブ会2023」と銘打った事前イベントも開催されていますね。(※「オブ会」は、おぶちゃが行っているイベント企画。2023年は8月から連続企画として毎月開催されている)
10月に開催された「オブ会2023」には茜屋さんが出演されていました。出演した際の感想やその時に感じたおぶちゃの印象を教えてください。
茜屋「とっても楽しかったです。共演者の方にはまだ何人かしかお会いできていませんが、このメンバーでお芝居ができるなら絶対に盛り上がると思いました。それぞれ個性が強い方ばかりだったので、役に入って演じるときに皆さん、どんなお芝居をされるのかなと楽しみです」
―――顔合わせ前にキャストさん同士が話す機会はなかなかないと思うので、すごくいい機会になりましたね。
大部「そうなんです。事前イベントも以前からやりたいとは思っていたのですが、今回、皆さんが協力してくれるおかげで開催できていることには感謝しかありません。今回は、7周年の記念公演でもあるので、この『Joie!』という一つのお祭りに向けて、少しでも楽しんでいただける方が増えればいいなと思っています」
―――橋本さんは、大部さんやおぶちゃメンバーとの対談動画の配信がありました。
橋本「はい、人生を掘り下げ合うような対談でした(笑)。スナックにきたお客さんというテーマがあったんです。僕は今回、おぶちゃに参加するのは初めてなので、今回の対談などを通して、色々と知ることができたように思います。
大部さんは、とても人間を愛してくれる方だという印象があります。作品に対しても愛と情熱を持っている方。作品作りは愛と情熱が絶対に必要なものだと思うんですよ。興行として成立させることやスキル面も大事なことですが、その全ての核になるのは作品への愛や熱量だと思います。それがなかったら良いものにならない。大部さんはそれを確実に持っている方だなと思いました」
―――改めて、大部さんからこの企画に対するこだわりを教えていただけますか?
大部「演劇では、どこかで不条理や絶望、深淵を生々しく、またはメタ的に描くことがカリスマ性を伴って評価される傾向があると思います。僕もそれに憧れ、尊敬し、マネをしてみたこともありました。ここ2~3年は、バッドエンドやサッドエンドを書こうと思っていたのですが、どうしても可能性を残してしまって……。自分でも弱い男だなと思いますが、書けないなら仕方ないと諦めました。なので、カリスマになることも諦めました。僕は僕でいいや、と(笑)。
今回は、そうした方向にかなり振り切って作ろうと考えています。『Joie!』はお店を閉める前の3日間を描いている物語ですが、今回はもっと広く描きたい。例えば、小次郎とあゆみが生まれてから死ぬまでという気持ちでいます。実際にどこを描いて、どこを切り取るのかはこれから執筆してみてから決めることになると思いますが、もし、初演や再演を観てくれた方がいたとしたら、エンディングの先もお見せしたいなと思っています」
―――演出面ではどんなことを考えていますか?
大部「基本的には日常を見せながらも、演劇ならではのドラマをお見せしたいと思っています。劇場で演劇を、みんなで稽古の時間を割いて集まってやる。そんな原体験的なことを忘れずに演劇公演をするということを心がけたいと考えています」
―――最後に、公演を楽しみにしているお客さまに一言ずつメッセージをお願いします。
大部「どんなきっかけでも構わないので、この作品を知っていただきそして楽しんでいただけたら嬉しいです。今回は7周年を記念する公演なので、ある意味ではお祭りです。このお祭りを一緒に熱狂してもらえたら最高だなと思っています」
茜屋「おぶちゃは初めてですが、共演者の方の中には昔ご一緒させていただいた方もいらっしゃるので、そうした方たちとまたお芝居できるのもとても楽しみです。
お芝居は、自分をさらけ出すことが大事だと思いますが、今回はすでにイベントでだいぶさらけだしてしまったので(笑)、もう心配ないなと思います。もちろん、苦しいこともあると思いますが、みんなで一つのものに向かって楽しく作り上げていけば、それがきっとお客さまにも伝わると思うので、真摯に向き合いながらも楽しんで作っていけたらいいなと思っています」
橋本「小次郎という人間は、様々なものを抱えて生きています。僕も含めて、みんな何かしらの悩みや不安を抱えながら生きていると思います。ただ、そうした不安を具体的に追求したり、逆に自分にとっての幸せとは何かを掘り下げる機会は日常の中でなかなかないと思うので、この作品が、自分の不安や悩み、そして幸せは何か、改めて目を向けるきっかけになれば嬉しいです。
心が救われるような愛に溢れた温かいものになると思います。観劇後にそうした温かい気持ちを持って帰ってもらえたら、演劇としてお届けする意味があると思うので、そんな作品になるようみんなで頑張っていきたいと思います」
(取材・文&撮影:嶋田真己)
プロフィール
橋本真一(はしもと・しんいち)
1989年10月9日生まれ、大阪府出身。2011年12月よりミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンに出演。2012年に舞台『合唱ブラボー!』にて初座長を務めた。以後、舞台を中心に映像作品にも出演して活躍。主な出演作品に、メディアミックスプロジェクト『メサイア』シリーズ、オフブロードウェイ・ミュージカル『bare』など。2019年からはメディアミックスプロジェクト『ARGONAVIS from BanG Dream!』のキャストとして初の声優、及び連動するリアルバンド「GYROAXIA(ジャイロアクシア)」のリードギター担当としての活動を開始した。
茜屋日海夏(あかねや・ひみか)
1994年7月16日生まれ、秋田県出身。TVアニメ『プリパラ』シリーズ 真中らぁら役や、『終末のイゼッタ』イゼッタ役など、声優として人気キャラクターを務める。声優アイドルユニット「i☆Ris」のメンバーとしても活躍。俳優としても『ワールドトリガー the Stage』B級ランク戦開始編など、数々の作品に出演。
大部恭平(おおぶ・きょうへい)
1988年8月17日生まれ、神奈川県出身。おぶちゃ主宰。おぶちゃの全公演の脚本・演出を担当。作風としてリズム感のある台詞回し、人間味、温かみのある雰囲気・空間づくりの演出には定評がある。近年の主な脚本演出作に、『キミに贈る朗読会 ~ほむら先生はたぶんモテない~』(演出)、U-NEXT配信ドラマ『見上げた空に、あなたを想う』(脚本・監督)など。俳優としても活動している。
公演情報
おぶちゃ 7周年記念公演『Joie!』
日:2024年2月7日(水)~11日(日・祝)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト
料:SS席[A・B列]9,900円
S席[C~EX列]8,800円
A席[F~L列、一部LA・RA列]5,500円
※他、学割あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://ofcha.biz/Joie2024
問:おぶちゃ mail:info@ofcha.biz