2007年にニューヨークで上演され、ニューヨークタイムズ誌では「神秘的で素晴らしい前衛的な作品」とも評された、アメリカの劇作家 サラ・ルールによる『エウリディケ』。ギリシャ神話を現代に置き換えて再構築し、切なくも美しいラブストーリーと物語の根底に描かれる父と娘の愛の物語を情感豊かに描いた本作が、白井晃演出のもと、日本で初演される。
今回、エウリディケ役の水嶋凜と、オルフェ役の和田雅成に話を聞いた。
―――改めて、出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
水嶋「難しいお話なのかなと思ったのですが、実際に本を読み進めると、エウリディケという人物や、彼女を取り巻く人たちに興味が出てきて……。『気になる! やってみたい!』という気持ちになっていきました。出演が決まったときは、純粋にすごく嬉しかったですね」
和田「最初は『うわ、自分が白井(晃)さんとご一緒する世界線があるんだ』と思いました(笑)。僕は『自分はどこまで通用するのだろう』とずっと不安を抱えているタイプなんですけど、でも一方で、32歳で自分の中で転機が起こると信じてきたんですよね。ちょうど今がその32歳。間違いなくこの舞台が転機になると思い、出演を決めました」
―――脚本を読んだ感想を教えてください。役について思うこともあわせてお聞きしたいです。
水嶋「エウリディケは、すごく感情の起伏が激しい女の子。『あ、こういうときに、確かにこんな風に感じるよな』と共感できる場面もたくさんあるし、『私はここでこういう感情にはならないと思うけれど、こんな風に感じることもあるんだ』などと気づきも与えてくれています。それがエウリディケの魅力なのでしょうね。
オルフェに手紙を書く場面があるんです。中身はネタバレになるので今は言えませんが……私はそこで号泣しちゃいました。悲しすぎて……。感情を動かされっぱなしでした」
和田「オルフェは何よりもエウリディケに対する思いが強いなと思いました。もう本編を通してエウリディケのことしか言っていないですもの(笑)。オルフェは、本当にエウリディケに固執しているというか、エウリディケが亡くなっても彼女のことが忘れられなくて、愛し続けている。その気持ちがなんとなく分かるんです。
僕自身、友達が少なくて、同じ人とずっと一緒にいるタイプ。その一緒にいる友達は、自分と似てない人が多いんですよね。ある意味、自分と考えが似ている人は一緒にいて楽なのかもしれないですけど、考えが似たり寄ったりで新しいものが生まれないと思うんです。いろいろと発見が欲しいし、自分とは違う感性に触れるのは楽しいからこそ、自分とは似ていない人に惹かれるというか。そう考えると、オルフェが全然違う性格のエウリディケを愛した理由も分かる気がしています」
―――演出の白井晃さんについては、どのような印象をお持ちですか?
和田「いち観客として作品を拝見してきたことを振り返ると、どの作品も特にラストのシーンがめちゃくちゃ心に残るんですよね。言葉にするのがなかなか難しいんですけど、お芝居を観終わった後も余韻に浸るというか、情景が残るというか。
今回の舞台もラストをどういう風に演出されるのかなぁ。僕も出ているシーンなので、とても楽しみです」
―――観客として感じた印象が強いからこそ、演出を受けるのが楽しみなのですね。俳優としてはどうでしょう。何かが変わる予感はありますか?
和田「はい。確実に変わると思います。過去に白井さんの演出作品に出演されている俳優さんのインタビューを拝読すると、『考えが変わった』と答えている方が多くいらっしゃるんですよね。まぁ別に考えを変えに行くつもりがあったわけではなく、自然と変わっていったことがほとんどなのだと思いますが、絶対自分の中で生まれるものがあると思うので、その変化も楽しみにしています」
―――水嶋さんは白井さんについてどのような印象をお持ちですか?
水嶋「白井さんと初めてお話ししたときから思っているのですが、すごく私の感性を大事にしてくださるんです。私が感じたことを些細なことでも全部拾ってくださって、『あ、そうですね。確かにそういう感じです』と分かりあおうとしてくださる。丁寧に向き合ってくださる分、ここからどんな世界観が構築されるのか……。楽しみでしかないです」
―――取材当日がほぼ初対面ということなので、話しづらかったら申し訳ないのですが……お互いの印象を教えてください。
和田「第一印象はすごく品がある方だなと思いました。年齢的には僕が8つぐらい上になるんですけど、気を遣ってもらっています(笑)」
水嶋「白井さんのお話を2人で聞く機会があったのですが、それが1番最初にお会いしたときで。そのとき、すごく真面目というか、もらったものを自分なりに解析する方だなと思って、刺激を受けました。この舞台では、和田さんがパートナーなので、『置いていかれないように頑張らないと!』って」
―――頼りがいがあるなと思われたわけですね。
水嶋「そうですね! そういう印象が最初はありました」
和田「『最初は』? え、今はそうでもない?(笑)」
水嶋「いやいや! そんなことないです! 今日の取材の合間にたこ焼きの話をしていて、意外に話しやすい人だなと思いました(笑)」
和田「あはは。僕が大阪府出身なので、大阪でおいしいたこ焼き屋さんの話をしていただけです(笑)」
―――なるほど(笑)。2023年を少し振り返っていただきたいのですが、お二人にとってどんな一年でしたか?
水嶋「意外に平穏な1年でした。2022年に初めてミュージカルをやらせていただいたんですけど、そのときは何もかもが初めてで、激動の日々でした。積み上げてきたものをお観せできる状態にすることで精一杯な状況だったんです。
でも一度経験を積んで、基礎を学ぶことができたので、『何も分からない!』という状況からは一歩脱して、冷静に自分を見ることができたなと思うんですよね」
―――それもある意味、成長ですね。
水嶋「はい。だといいなと思っています」
―――和田さんはいかがですか。
和田「大人の階段を一歩上ったんじゃないですかね。僕はこれまで主演をあまりやってこなかったんですけど、ありがたいことに2023年は全部主演をやらせてもらっていて。周りに年下の人が増えて、いつもより無意識に周りを見て、頼って頼られて……。そうすると『こうやった方がみんな動きやすいだろうな』と新たに感じることも増えていきました。
それに、さっきも言ったんですけど、僕は32歳で絶対自分の中で転機が起こると信じてきたんですね。32歳になって1発目の舞台がこの『エウリディケ』。何かが起こる予感がめちゃくちゃあります!」
―――観客やファンの皆さまにメッセージをお願いします。
和田「僕はこれまで多くの舞台に立たせてもらってきて、やはりコロナ禍で舞台ができない状況になったときに、どこか物足りなさを感じていました。ようやくコロナ禍が明け始め、どんどん舞台の幕が開くようになってきて、改めてお客様の力はすごいなと思うんですよ。僕はこれがあるからやっぱり生きていけるし、輝けると感じるんです。
願わくば、お客様もそうであってほしいですね。僕やこの舞台を観て、人生が少しでも輝いてほしい。お互いに支え合って生きていきたいなと思うので、今回もそういう作品になるように尽くします」
水嶋「私は、コロナ禍に舞台のお仕事を始めたんです。なので、コロナ禍での演劇しか経験がなくて。『エウリディケ』の本番を迎えるとき、お客様がマスクを取っているかどうか分からないですが、お客様の顔が徐々に見え始めているといいなと思っています。
この作品を観て、最後、お客様がどんな顔をしているのか、すごく楽しみですね。『作品に没頭できた!』という充実感が客席から感じられる舞台にできるよう頑張ります」
(取材・文:五月女菜穂 撮影:安藤史紘)
※本インタビューはカンフェティ2024年2月号掲載の記事を関西版vol.1発行に伴い、ロングインタビューに再編集したものです。
プロフィール
水嶋 凜(みずしま・りん)
1999年11月18日生まれ、東京都出身。2021年、ドラマ『直ちゃんは小学三年生』に出演し、女優デビュー。2022年、ミュージカル『シンデレラストーリー』で主演に抜擢され、同年、1st Digital Single「予感」でアーティストデビューを果たしている。主な出演に、ミュージカル『ザ・ミュージック・マン』、ドラマ『泥濘の食卓』など。
和田雅成(わだ・まさなり)
1991年9月5日生まれ、大阪府出身。主な出演に、舞台『呪術廻戦』、ドラマ『あいつが上手で下手が僕で』、『REAL⇔FAKE』、舞台『刀剣乱舞』、『燕のいる駅-ツバメノイルエキ-』、ミュージカル『ヴィンチェンツォ』など。また、ドラマ『あいつが上手で下手が僕で』シーズン3が7月期放送決定。5月には舞台の上演も決定している。
公演情報
エウリディケ
日:2024年2月4日(日)~18日(日)
場:世田谷パブリックシアター
日:2024年2月24日(土)~25日(日)
場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
料:12,000円
前方サイドシート12,000円
U-25[25歳以下]6,000円 ※要身分証明書提示
(全席指定・税込)
HP:https://setagaya-pt.jp/stage/13273/
問:公演事務局 公演HP内よりお問合せください(平日11:00〜17:00)