負けた側、忘れられた側を想像し続ける カムカムミニキーナが紡ぐ「神を追放する」物語

負けた側、忘れられた側を想像し続ける カムカムミニキーナが紡ぐ「神を追放する」物語

 日本の歴史や伝説をベースにした、ハイテンションで壮大な物語に定評のあるカムカムミニキーナ。次回作『かむやらい』はバックボーンに『日本書紀』があるという。全作品の作・演出を担当してきた松村武と、看板役者の八嶋智人に本作の見どころを伺った。


負けた側、忘れ去られた側を描きたい

―――次回公演のタイトルは『かむやらい』ですが、これはどういった意味なのでしょう?

松村「意味としては“神をやらう”=“神様を追放する”という意味です。神話上ではスサノオを指しますが、今回はもうちょっと大きく、神様を追放することが起こる世界という意味でとっています。バックボーンには『日本書紀』がありますね」

―――神様を追放する世界。

松村「深く話すと小難しい話になってしまうんですけど(笑)。神様を追放するというのは、国が国を征服するということです。違う宗教を持つ国が戦って、勝った方の国が負けた方の国を従わせる。そんな争いは今も行われていますよね。日本でもそんなことがあって天皇の支配が出来上がりましたが、記録されていない、伝わっていないことも多い。でも、『日本書紀』にはちょっと書いてあるんですよ。女王様の国が3つあって、退治したと。たったそれだけなんですが、書いてあることが重要なんです。だからこそ、この3人の女王を描いてみたいと思いました」

八嶋「松村が本を書くときは、負けた側や忘れ去られそうな側からネタを拾うことがよくあって。実際に何があったかはもうわかりませんが、俳優の身体を通して想像したり、それを忘れられないようにしていくという行為が、僕らのお芝居の醍醐味のような気がしています。演劇は創造物ですし、空想なのかもしれません。しかし。そこに本当の歴史があるのではないかということを想起することで、今自分たちがいる場所や、世界で問題が起こっていることの見方が変わるんじゃないかと思います」

―――あらすじによれば作中で万博も行われるとのこと。現実でも大阪万博が物議を醸していますが、題材を決めるときには社会問題も意識されるのでしょうか?

松村「公演の企画が立ち上がるのは、2年くらい前からなんですよね。僕はつねに『古事記』や『日本書紀』のなかでお芝居にできそうなことを狙っているので、『次はこのネタをやってみよう!』という感じで題材を決めています。で、2年間のあいだに現実で起こっていることとリンクさせていく。
 例えば万博は2年前はもっと華々しくいきそうな気配もあって、だからこそ斜めから見てやろうと思っていたら予想外なことになって……。だからだいぶ軌道修正したんです。万博みたいな催しが、要は、色んなものを一元的にコントロールしていますよっていう権力のアピールであり、それによって金を巻き上げる装置だと感じていることは変わりませんが」

―――この2年でかなり雲行きは変わっていきましたね……。作中では歌も重要なモチーフになるとのことですが、いかがでしょう?

松村「もともと、歌っていうモノは一体なんなんだろうという思いがあって。言葉というものは政治的にも機能するもので、作為として嘘をついて真実を曲げたり、隠すこともできる。でも歌ってね、もう少し純粋な何かの要素を含んでいる気がするんですよね。そんな歌の持つ力も浮き出ればと。キャストにもね、すげー歌える人いるから(笑)」

多彩なキャストに期待!

―――今回も劇団員に加えて、オーディションを行いキャストを決定しています。総勢23人の大所帯ですね。

松村「オーディションが良い方向に予想外で、この人を落とすのは惜しいと思う人が多かったんです。なので多く採ってしまった(笑)。
 天宮良さんは以前ご一緒したことがあって、何度かお願いをしていたんですけど、今回とうとうタイミングがあって。坂本慶介くんも、これからの演劇界を担う大物だと思っています。先物買いじゃないですけど、いつかやりたいと何年も前から思っていたのが今回とうとう叶いました」

八嶋「特に今回は客演の幅が広いし、カムカムに参加するのが初めての方も多いです。とても楽しみな反面、見本にならなければならない僕の勘が鈍ったりしていないかという不安はあります(笑)。
 だって怖いんですよ! 舞台に出ているときは役があるからいいですけど、それ以外のときにも音を鳴らすとか常にやることがあって、そっちの方が緊張するんですよね。芝居だと自分が失敗しても自分の責任になるけど、その芝居のために何か動かしてる時はミスできないんですよ。当たり前だけど」

松村「うちの稽古場は非常にシステマティックで、やることが普通の芝居よりすげー多いんですよ。手数演劇って自分で言ってます(笑)」

変な体験をしにきてほしい

―――カムカムミニキーナの結成から30年以上。変化していることや、変わらずに伝えていきたいことなどはありますか。

松村「うちみたいな芝居が減ってきたことは確実ですね。昔は面白さのポイントが似てるところはいっぱいあったけど、今では変わった集団になってる気がするんです。特に若い方たちにとってはかなりの変化球をやっているように見えるのではないでしょうか。
 逆にこういう人たちへのアンサーとして思うのは、今の人たちが『お芝居ってこういうもの』って思っている平均は、我々からするとまあまあ偏っているのではないかと。我々はそこを頑張りたいんですよ。可能性は色々あるよ、表現の仕方は100万くらいあるよって」

八嶋「昔、『カムカムってよくわかんない芝居やってるよね』って言われたことがあって。でもわかんなくてもいいんじゃないかって思うんです。僕は中3とか高1の時に、南河内万歳一座を観ましたが、わかんなかったんです。でも、だからお芝居を始めたっていうのがある。
 観たことがない、感じたこともない空間に自分が存在するという体験が僕にはよかったから今こうしているんです。そういう人生の中でも変な体験してから、二度とごめんだと思えば来なくていいし、なんかそういう風に出会いたいなぁとは思いますね」

―――ありがとうございます。最後に読者に一言お願いします!

八嶋「新しいエネルギーに満ちた作品が生まれる瞬間にぜひ立ち会っていただきたい。知的好奇心の高い方、歴史が好きな方、世界をどう捉えればいいのか悩んでいる方が体験したら、何か持って帰るものがあるんじゃないかと思っています」

松村「テーマを押し付けるつもりはありません。人によって何が見えているかは全然違いますから。受け取るものも違うだろうし、それが演劇のいいところだと思って大事にしています」

(取材・文:いつか床子 撮影:平賀正明)

※本インタビューはカンフェティ2024年1月号掲載の記事を関西版Vol.1発行に伴い、ロングインタビューとして再編集したものです。

2023年を総括!と聞いて、一番最初に浮かんだ出来事は?

八嶋智人さん
「カムカムミニキーナの芝居は”新幹線の車窓を覗き見る”ようなものだと座長・松村武は言う。凄いスピードで風景が移り変わってゆく中で何処をどの様にフォーカスするのかは乗客に委ねられていると。実際に旅に出ると、この事を実感できる。自分の脳内に、自分なりの風景が綴られたりして、自分だけの旅の物語ができるのだ。2023年は例年より旅をした。故郷の奈良、京都、大阪、兵庫、広島、高知、福岡、宮城、カナダのイエローナイフ。細かくはまだある。貴重な体験の連続。地元の方とのコミュニケーション。気候、匂い、その皮膚感。人生も芝居も、旅だとよく言う。2023年は良い1年だったと思う」

松村 武さん
「師走から正月にかけてコロナに罹患し、稽古も中止、帰省も中止で家籠り。そんなモヤっとしたスタートを切った昨年は、劇団の本公演がまるまる1年なく、恐らくそんなことは旗揚げ以来なかったことで、落ち着くんだか、落ち着かないんだか、静かにソワソワした1年でした」

プロフィール

八嶋智人(やしま・のりと)
1970年9月27日生まれ、奈良県出身。1990年、早稲田大学演劇倶楽部のメンバーであった 松村武、吉田晋一ら5名でカムカムミニキーナを旗揚げ。以降、劇団の看板役者として、舞台・ドラマ・バラエティー・CM・映画などで幅広く活動している。近作に、NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や、映画『劇場版ラジエーションハウス』など。2019年には、三谷幸喜 作・演出による新作歌舞伎『月光露針路日本 風雲児たち』で歌舞伎初出演を果たした。

松村 武(まつむら・たけし)
1970年10月24日生まれ、奈良県出身。早稲田大学在学中の1990年、カムカムミニキーナを旗揚げ。以降、劇団の全作品の作・演出を担当。外部作品での作・演出も多く、2010年に演出を努めた『叔母との旅』では、読売演劇大賞の優秀作品賞に選ばれるなど4部門にノミネート。ミュージカルからストレートプレイ、商業演劇まで幅広く手掛ける。最新の演出作は、パルコ・プロデュース『腹黒弁天町』。また俳優としてもNODA・MAP、阿佐ヶ谷スパイダース、ラッパ屋、KAKUTAなどに出演。ストリンドベリ作『父』においては、シアターサンモール最優秀男優賞を受賞。最近の出演は、パルコ・プロデュース『三十郎大活劇』、『SECRET WAR ~ひみつせん
~』、『アカシアの雨が降る時』など。

公演情報

カムカムミニキーナ vol.73『かむやらい』

日:2024年2月1日(木)~11日(日・祝)
場:座・高円寺1
料:一般5,000円
  ※他、各種割引あり。詳細は公式HPにて
  (全席指定・税込)

日:2024年2月17日 (土) ~2024年2月18日 (日)
場:近鉄アート館
料:一般6,000円
  ※他、各種割引あり。詳細は公式HPにて
  (全席指定・税込)

HP:https://www.3297.jp/kamuyarai/
問:カムカムミニキーナ mail:ccm@3297.jp

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