700年続いてきた能を、さらに未来に繋げていくために。 トップダンサーSAMが本格的な能に挑戦

700年続いてきた能を、さらに未来に繋げていくために。 トップダンサーSAMが本格的な能に挑戦

 まずは上の写真をご覧頂きたい。能舞台の松の絵を背にした男性が2人。和服姿は宝生流シテ方能楽師 佐野登。そしてもう1人は……、ストリートダンスを牽引してきたダンサー SAMだ。ダンス&ボーカル・グループの礎をTRFで築き、並行して後進のストリートダンサー達を育てているSAMがなぜそこに?
 実は2019年に入門して能の稽古を重ねているSAM。佐野は師匠であり、上の写真は師弟のツーショットというわけだ。

SAM「漠然と日本の伝統芸能に興味を持つようになるうちに能に惹かれていきました。丁度その時に雑誌で対談の機会をつくってくださり、佐野先生と出会ったんです。それがきっかけですね」

 佐野とSAMはほぼ同世代。しかもディスコ全盛の時代を経験しているだけに、思いの外話が合ったという。

SAM「雑談の中で、いつか能とストリートダンスの融合ができればいいですね、と話したら、佐野先生も賛同してくださったんです。それならば自分も学ばないとということで弟子入りしました」

 今回SAMが装束と面をつけて『猩々』を舞うのは、佐野が主宰して2015年から続けている『未来につながる伝統』公演。今回で7回目の開催となる。

佐野「能は700年続いているといわれますが、続けてきたのは先人達であって、これから先は我々が繋げないと未来がありません。ただし新しいことを興すのではなく、これまでやってきたことを護りつつ伝えていく。それが僕の思う伝統と革新です。能そのものは伝統の物だけど、それをどう設えたら未体験の人にも観てもらえるか。常にそれを考えています」 

 ここで佐野が舞うのは『清経』。武将の霊が主人公となる修羅物(しゅらもの)に分類される作品だ。その後に、やはり佐野が推進する“参加型能”の取り組みである能楽謡隊とSAMがシテ方を勤める『猩々』が控えている。

SAM「この演目に取り組むようになったのは、2021年に横浜であったイベントで佐野先生に振付・構成をお願いしたのがきっかけですね」

佐野「SAMさんの人生を表現した作品でしたが、動線は能舞台での動きを使いつつダンスを繋げていき、最後には徐々に能の構えになって最後は『猩々』で終わるという構成にしたんです。それが上手くいったこともありました」

 先日、装束と面をつけて動いてみて、なかなか大変なことだと実感したSAM。そしてその様子を見て成功を確信した佐野。対極の頂点に居る2人による創作こそが、未来への架け橋になることだろう。

(取材・文:渡部晋也 撮影:友澤綾乃)

自宅(またはお部屋)のこだわりポイントを教えてください

佐野 登さん
「私は、車とバイクが趣味です。小学6年生の国語の授業では『レーサーへの道』という小説を書きました。ある少年(自分)が、オートバイレースから最後はF1レーサーになる物語です。今では数台の車、バイクが家にはあります。地下のガレージには、楽屋の仲間が洗車しに来たり、バイクを置いていったり、皆の集う場になっています。時に食事や飲み会も。これが我が家のこだわりスペースです」

SAMさん
「スタジオで1番こだわっているのは床の素材です。昨年都市開発に伴い20年ほど慣れ親しんでいたスタジオをでなければならなくなってしまい移転をしたのですが、やっぱり踊りの部分で床との相性は大事ですので何種類も木材を取り寄せ、時間を掛けて選定をし、最終的にニスも何も塗っていない無垢の桜の木にしました。これからもここでたくさん踊っていきたいと思っています」

プロフィール

佐野 登(さの・のぼる)
東京都出身。宝生流能楽師シテ方。重要無形文化財総合指定(能楽)保持者。東京藝術大学卒。宝生流18代宗家宝生英雄に師事。全国各地での演能活動、謡曲・仕舞を指導。幼保小中高などの教育現場においては、伝統を通した「生きる力」をテーマに次世代育成を目的とする指導を実施し、教員・教育関係者への講演も多数行う。海外公演への参加や中島みゆき『夜会』出演をはじめ、他ジャンルのアーティストとの交流も多く、現代に活きる能楽を目指し活動をしている。

SAM(さむ)
15歳でダンスの面白さを知り、単身ニューヨークへ。あらゆるジャンルのDANCEをバックボーンに持ち、DANCE界における活躍は周知の通りである。誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、子供から高齢者まで幅広い年代へのダンスの普及と質の高い指導者の育成、ダンサーの活躍の場の拡大を目指す活動を行っている。2019年には日本最古の伝統芸能「能」の舞台にダンサーとして初めて出演した。

公演情報

未来につながる伝統 ―能公演―
日:2023年12月24日(日)14:00開演(13:00開場) 
場:宝生能楽堂
料:S席[正面]10,000円
  A席[脇正面]8,000円 
  B席[中正面]7,000円
  自由席[脇正面後方]5,000円
  学生3,000円 ※要身分証明書提示(税込)
HP:https://www.nohgaku.jp/
問:一般社団法人日本能楽謡隊協会 mail:shihoukai202@gmail.com

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