穂の国とよはし芸術劇場 開館10周年記念作品 今を生きる人々を見つめ直す、「言葉を疑う言葉の芝居」とは

穂の国とよはし芸術劇場 開館10周年記念作品 今を生きる人々を見つめ直す、「言葉を疑う言葉の芝居」とは

 自ら創造発信する魅力的な作品づくりで注目されている、穂の国とよはし芸術劇場PLAT。その開館
10周年記念とPLATプロデュース第3弾として新作上演が決定。作・演出は、前作『荒れ野』で、ハヤカワ「悲劇喜劇」賞と読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した、本館の芸術監督でもある桑原裕子。

 「密に舞台に向き合う時間を取らせて頂けています。何作も追ってきて下さっている豊橋のお客様にまず観てもらって、成長を感じてほしいです」

 今作では“言葉が持つ力と不確かさ”をテーマに取り組んだという。

 「インターネットを開けば言葉が氾濫していて、私達はそれに対して腹を立てたり喜んだりと言葉に踊らされています。情報は溢れてるのに知ろうとするほど肝心なことが見えなくなったり、本当の気持ちは最後まで言葉にできなかったり、なんて言葉って便利で不便で信用ならないんだろう。例えば、“いつまでも愛してるよ、ずっと一緒だよ”と、その言葉をよすがに生きてきたのに、別れてしまったら、
あの言葉は何だったの? ただの戯言(たわごと)だったのねと。時間の変化で言葉なんていつでも戯言に変わってしまうと思ったんです」

 物語は、遺言書に翻弄される人々の悲喜交々を描く。

 「人は普段、深層にある本心を言葉にできず会話していると思うので、大事なことをほとんど台詞に乗せないで書けたらと、それが難しく挑戦でした」

 次男役に渋川清彦、長男役に渡辺いっけい、その妻役に田中美里、松金よね子など、桑原が“人間的に色気を感じる”という実力派俳優達が物語を紡いでいく。

 「渋川さんは舞台で拝見した時に映像の時とはまた違う魅力を感じて、いつかご一緒したいと。喋らなくても存在が雄弁。こちらが色々書き立てられる方で、役が自然とできました。そこに反して、いっけいさんがとにかく喋る。喋りで何かを埋めようとするような、その対比ができたら。家族の遺言騒動そのものではなく、血縁でも通じ合える言葉がない、会話しながら破綻し矛盾している関係性の面白さを見せるのは、やはり俳優の力だと思うんです。素敵な役者達のケミストリーを楽しんでいただきたいです」

 幅広い年齢層に加え、歳を重ねた大人の心に刺さる作品になりそうだ。

 「自分の中で言葉にできないものがあったのであれば、それをちょっとでも解きほぐすような、この作品が自分と向き合うきっかけになったらと思っています。気を楽に観に来て頂けたら嬉しいです」

(取材・文:谷中理音 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

桑原裕子(くわばら ゆうこ)
東京都出身。劇作家・演出家・俳優・KAKUTA 主宰。2018年4月、穂の国とよはし芸術劇場芸術文化アドバイザー就任。2023年4月、芸術監督に名称変更。ワークショップや、ぷらっと文化祭「Art Platter」、「市民と創造する演劇」などを手掛ける。テレビ・ラジオ・映画の脚本、舞台の作・演出と多方面で活動中。受賞歴も多く、2009年、KAKUTA『甘い丘』が第64回文化庁芸術祭 芸術祭新人賞受賞。2016年、KAKUTA『痕跡』で第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。2019年には、劇団作品『ひとよ』が白石和彌監督で映画化された。2018年、穂の国とよはし芸術劇場PLAT プロデュース『荒れ野』では、第5回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞、第70回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞している。

公演情報

穂の国とよはし芸術劇場PLATプロデュース『たわごと』

日:2023年12月8日(金)~17日(日) ※他、愛知・京都・岡山公演あり
場:東京芸術劇場 シアターイースト
料:S席5,500円 A席3,000円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.geigeki.jp/performance/theater347/
問:プラットチケットセンター
  tel.0532-39-3090(10:00~19:00/休館日除く)

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