花や花言葉をテーマにオリジナル作品を上演し続けているteamキーチェーン。最新作となる第19回本公演『ゆらりゆられ』では、介護をテーマに、難病を患った母親とその家族の物語を真摯に描く。
昨今、社会問題として取り上げられることも多い介護問題を、団体の代表で脚本・演出を手掛けるAzukiが、優しく問いかける。本作に出演するわかばやしめぐみ・伊藤萌々香・熊野仁と共に、公演への意気込みを聞いた。
―――まずは、Azukiさんからどのような想いで本作の制作に至ったのかを教えていただけますか?
Azuki「物語の中で『ヤングケアラー』という言葉は出していませんが、お母さんが病気になって子どもたちが介護するというのが物語の軸になっています。
日本は介護に関して少子高齢化や人手不足、さらに子どもたちが親を介護しなければならない環境下に対する国の取り組みがすごく遅れているなど、様々な問題を抱えていると感じています。(その中でも)介護は、誰しもがかなりの確率で『される側』か『する側』になると思うんですよね。
ですが、その経験がない人たちには状況が見え辛く、不安なものだという漠然とした感覚だけがあると思います。介護する側の苦悩、される側の苦悩を知ることができれば、そこに一歩踏み出せたり手を差し伸べることができるんじゃないかなと考えて書きました。もちろん苦しいこともあるけれども、受け入れ方や周りとの連携で介護への見えない不安を少しでも変えられればと思っています。
もともとteamキーチェーンには、作品を介して人の心を豊かにしたいというテーマがあるので、今回も介護を軸に心を豊かにしていける物語を作っていきます」
―――キャストの皆さんから、最初にこのお話を聞いた時、そしてご出演が決まった時のお気持ちを聞かせてください。
伊藤さんは、teamキーチェーンには第18回公演『雨、晴れる』に続いてのご出演になりますよね。
伊藤「そうです。『雨、晴れる』で、初めてキーチェーンさんの空気を感じつつ、Azukiさんと久しぶりにお仕事ができ、ソワソワ・ワクワクした時間でした。またご一緒できるということで、楽しみながら作品を作っていけたらいいなと思っています。
『雨、晴れる』の時に、Azukiさんは私をイメージして役を書いてくださっていたようなのですが、自分に似た役が来るのかなと思ったら、真逆だったのでめちゃくちゃ難しかったんですよ(苦笑)。Azukiさんは、私のどこを見てこの役を書いたのかなと不思議に思っていたのですが(笑)、稽古をして、皆さんとディスカッションをして演じていくうちに、自分の中にあるものを徐々に実感できて、私にもこうした一面があるなと感じることができました。
きっと今回もAzukiさんから見た、自分でも知らない一面を描いている役になっていると思うので、身を任せてお芝居をしたいなと思っています」
―――ストーリーについては、どんなことを感じていますか?
伊藤「私が演じる香奈は、実際の私よりもはるかに若い設定なので、当時はどうだったかなと考えながら脚本を読んだのですが、途中から号泣してしまいました。
前回の作品は、他のキャラクターともともとは深い関係にない役でしたが、今回は家族という絆がある人たちに囲まれた役なので、きっとこの作品は何回も泣いてしまうんだろうなと思います。実はポスター撮影をする時もすでに泣きそうでした(笑)。
家族は誰にでもいる存在なので、絶対に自分と重なる部分はあると思います。観に来てくださる方に響くものを与えられたらいいなと思いました」
―――わかばやしさんはいかがですか?
わかばやし「私は今回初めてteamキーチェーンさんに参加させてもらいますが、前回の『雨、晴れる』を拝見して、人間をすごく優しく捉えているなと感じました。生きていく上での問題はたくさんあって、人は業を背負って生まれてきているけれど、人間同士が繋がっていき、その中に思いが生まれてくることを描いていて、センシティブな題材にも関わらず、優しい目線で捉えているAzukiさんの作品がすごく胸に響きました。
以前にもキーチェーンさんにお誘いいただいたことがあったのですが、その時はタイミングが合わず出演が叶わなかったので、今回、改めてお話をいただいて、ぜひにと思って出演を決めました。
実は、2年前の暮れに亡くした母が、亡くなる3年前に脳幹出血を起こし、寝たきりだったんですよ。母は看護が必要だったので自宅では介護ができない状況で、病院に預けていたのですが、コロナ禍ということもあり、なかなか会いにも行けず、本当は介護したいけれども介護もできないという、逆の立場を経験したばかりでした。
今回、私は難病を抱えたお母さんを演じますが、看取る側を経験したことでより身近に感じましたし、これから老齢化が進んでいく状況をみるとこうした介護の問題はこれからみんなが見つめていかなければいけない問題だなと思います。そうした問題をAzukiさんがとても優しい視線で捉えて提示してくれているので、この作品にはぜひ参加させていただきたいと思い、今、本当に楽しみです」
―――難病を抱える女性を演じることに関してはいかがですか? とても難しい役どころだと思いますが。
わかばやし「今はネットなどで病気について調べて勉強しています。演じる上では、リアルに、でもお客さんに不快感を与えるのではなく、これが現実だということをうまく伝えたいと思っています。もし可能ならば、実際に病気を抱えている方のお話をお聞かせいただけたらと思って、今、コンタクトを取ろうと思っているところです。
ト書きに『食べるのもおぼつかなくて、口の周りに食べ物をつけてしまう』と書かれているシーンがあるのですが、私の母もやはりそうでした。自分では食べられなくなってしまって、汚してしまうんですよ。例えば、そうしたシーンをどう見せていけばいいのかを今、考えているところです。あまりきれいには見えないシーンかもしれませんが、娘たちからすると、そうした姿から昔の母ではないことを感じると思うので、印象付けられるように見事にやれたらと自分の中でたくらんでいます。
むしろ、少しコミカルに見せることで、それを見た娘たちも反応しやすく、悲しみも伝えられるのかなとも思ったり……そうやってお芝居について考えていますが、今、初めてAzukiさんにお伝えしたので、そんなことをさせませんと言われてしまうかもしれませんが(笑)。お稽古を私も楽しみにしています」
―――ありがとうございます。熊野さんからもご出演が決まった時の心境を聞かせてください。
熊野「僕はこれまで何度かキーチェーンさんの作品には出演させていただいていますが、どの作品もまずドラマとして面白いんです。なので、観ていただいたお客さまにも『観て良かった』と言ってもらえるんですよね。
脚本を読んでいる時に、こういう世界が現実にあるということを、説教臭くなく、ただあるがままとして優しく包み込んで出してくれる。それがすごく素敵だなといつも思っています。今回も出演させていただけると聞いて、是非と」
―――今回演じる相馬義仁という役柄についても教えてください。
熊野「自力でコミュニケーションが取れなくなってしまった人が視線だけで他者とコミュニケーションを取るためのツールを開発して、それを普及させようと頑張っているNPO法人の代表という役どころです。
コミュニケーションが取れなくなることへの恐怖は、すごく大きいものがあると思います。僕の祖母が認知症で、母が介護をしているのですが、そうした経験から思うところがあったようで、母は『私には絶対に人工呼吸器をつけないで』と言ってるんですよ。
僕もその気持ちはとてもよくわかります。人工呼吸器をつけてしまうと、コミュニケーションを取るのがとても難しいんですよね。本人がどう考えて、どう感じているのか、周りは分からないんです。もしかしたらすごく痛いのかもしれないし、退屈すぎてどうにかなってしまうと思っているのかもしれないし、色々な空想をしていて、たまに家族の顔が見られることだけでも幸せを感じているのかもしれない。そうした感じていることを伝えられないのはすごく辛いことだと思います。
なので、自分が感じていることをスムーズに、あるいは正確に他者に伝えることができれば、状況は劇的に変わると思うんです。実際に、そうしたシステムを開発した人たちもいらっしゃって、そのシステムを使っている人たちは劇的に生活が変わっているそうです。今回、僕が演じるのはそうしたシステムを普及させようとしている人物で、この取り組みで人を救えるという強い信念を軸に持って演じられたらと思っています」
―――今回、Azukiさんはどのような思いで皆さんにお声掛けをしたのですか?
Azuki「かなり前から介護の話は絶対にやろうと決めていたんですよ。自分の親がいい歳になってきて、いずれそうした問題に直面する時のことを考えたら、私自身メンタルが今のところ保てない。だからこそ、自身のためにも作品を書くことで、向き合う少しの覚悟が生まれるんじゃないかという思いがありました。自分の心の余裕がそこに生まれるということは、周りの人たちにも作品を介してそうした気持ちを持ってもらうことができるんじゃないか、介護の話は絶対にどこかのタイミングでやらなければと思っていました。
ただ、それをやる上で、絶対的な役柄を担っていただける人が決まらない限りはできないと思っていたんですよね。介護の形は色々あって、どの枠でも作れるけれども、この人たちとやりたいと思えるまでは絶対にやらないと温めていた題材なんですよ。そんな中で、今回こうして作品を作ろうと思ったのは、やっぱりわかばやしさんに出演していただけることになったのが大きかったです。それから、萌々香も決まった。よし、今だと。
今回、家族が一度、バラバラになって、また元に戻っていくという構成になっていて、家族のために経済面で支えようとするお兄ちゃんと、介護をひたすら1人で担おうとするお姉ちゃんと、どうしても母親の状況を受けられない妹という3人の関係性と、とにかく明るくて元気なお母さんというコントラストをこの方たちなら担ってもらえると思っています。
それから、熊野さんは、これまでにもたくさんの作品に出演していただいていますが、とにかく、信じられないくらいいい人なんですよ。共演した方は皆さん、言うと思います、『いい人』って。やっぱりそうした人の良さが、どの作品をやっても役柄に出てくるんですよ。これまでは、近くにいる誰かを守ろうとして、そのために強く、優しくある人を演じてもらっていましたが、今回は、初めて広く苦しんでいる人に対して優しく見守る姿を見せていただけたらと思っています」
―――改めて、作品の見どころや公演への意気込みをお願いします。
伊藤「『雨、晴れる』に続いて、キーチェーンさんの作品に出演させていただきます。前回、私のファンの方が初めてキーチェーンさんの作品を観てくださって、たくさんの方から『よかった』とか『泣いた』と言っていただけて、それぞれ刺さるものや持ち帰ってくれるものもたくさんあったようで、私も少し得意げだったんですよ(笑)。
『本当にいい作品でしょう?』と胸を張って言えたので、今回も観にきてくださる方にこの作品の、そしてキーチェーンさんの作品の素敵なところを見つけて帰っていただけるように私も頑張りたいと思います。今回の役も、自分の気持ちや意思をしっかりと持っている子なので、Azukiさんが見てくださっている私の部分を生かしつつ、気持ちを丁寧に表現していきたいと思います。ぜひ観に来てください」
わかばやし「私は今回、キーチェーンさんに初参加となるので、本当に楽しみにしています。先ほども言いましたが、私自身が看取る側を経験したばかりですが、どんな人も親を看取ったり、身近な人に看取られたりするものです。家族とさよならする過程を描くというのは、皆さんに響く作品だと思っています。
自分がいただいた役をしっかりと生き抜き、お客さまに何かを持って帰ってもらえたらと思います。私もたくさん『楽しみです』というお声をファンの方からいただいていますし、演じるのも楽しみです。頑張りたいと思います」
熊野「介護や病気というすごく繊細な題材を描いていますが、それは決して他人事ではないものだと思います。これまでのキーチェーンさんの作品を通して自分が感じているのは、そのままを描いている作品が多いということです。なので、今回もさまざまなことを感じ取っていただける作品になると思いますし、きっとたくさんの思いがよぎると思います。一歩、踏み出して、観に来ていただけたらと思います」
Azuki「実際に介護中の方や病気に罹っていらっしゃる方というのは、演劇を観る余裕はないと思います。この作品を渦中の方に直接届けることは難しい。
だけど先ほども言いましたが、それは誰にとっても、これから先、起こり得ることです。自分が病気に罹るかもしれないし、介護をするかもしれない。今はまだ目を逸らしたり、怖いと思って恐れているところはあると思いますが、いずれそうなる、近くにあるものと考えた時に、それは普遍的なものだと感じました。
揺るがないし、動かないし、変えられない。でも、『諦める』ではない現実にしていきたい。『病気は諦めなければならないもの。介護は何かを諦めなければならないもの』という否定的なものではなく、受け入れることで、変わると思います。それを知れば、周りにいる人が渦中にいる人たちに手を差し伸べることもできるし、自分が実際に目の前にその問題があった時に、周りに助けを乞うこともできる。そうすることでこの問題に対しての向き合い方が変わると思います。
介護というテーマを扱った時、もちろん辛さも描きますが、それ以上に生きた証や諦めないということをしっかりと伝えられたらいいなと思っています。
それから、私は芸術家ではないと自分で思っています。演劇は芸術だというところももちろんあると思いますが、自分の作品は芸術という面は薄いと思っているんですよ。ただ唯一、演劇をやっている人たちの中で、自分が勝てると思っているのは、人に対する優しさや豊かにしようとする想いだと思います。
今回ご一緒させていただく18名のキャストさん、そしてスタッフのみんなと一緒に、人に対する想いや優しさを塊として作品の要にできたらいいなと思っています」
(取材・文&撮影:嶋田真己)
プロフィール
わかばやしめぐみ(わかばやし・めぐみ)
9月22日生まれ、東京都出身。桐朋短期大学演劇科を卒業後、演劇集団 円付属 円・研究所を経て、現在は劇団おぼんろに所属。語り部として全作品に参加。舞台を中心に活動。若手育成のため演技指導、舞台演出を手掛ける。
伊藤萌々香(いとう・ももか)
1997年12月15日生まれ、埼玉県出身。ダンスボーカルグループのメンバーとして、2011年にデビュー。2020年からは、個人として活動中。12月から始まる舞台『東京リベンジャーズ ―聖夜決戦編―』に佐野エマ役で出演する。
熊野 仁(くまの・じん)
1984年5月20日生まれ、埼玉県出身。2022年には、俳優4名で構成されたグループ「TENCOUNT」に参加。芝居や歌・コントなど多彩なジャンルのエンターテインメントを繰り広げている。主な出演作に、ABCテレビ ドラマ+『OTHELLO』など。
Azuki(あずき)
1982年2月12日生まれ、大阪府出身。teamキーチェーン代表。脚本・演出、監督、舞台監督、制作、演出助手、演出部、役者と小劇場から大劇場まで国内外問わずジャンル問わず多数の公演に関わっている。
公演情報
teamキーチェーン第19回本公演
『ゆらりゆられ』
日:2023年11月8日(水)〜12日(日)
※他、大阪公演あり
場:吉祥寺シアター
料:4,900円(全席指定・税込)
HP:https://www.teamkey-chain.net/
問:teamキーチェーン
mail:teamkeychain1221@gmail.com