結成30周年記念公演第2弾は松本陽一が初めて描く「家族の物語」 別荘の屋根裏部屋に集った互いの顔も名前も知らない「6人の兄妹」がみせる人間模様

 計算された言葉の掛け合い・パワフルで疾走感あふれる展開のハイスピードコメディを主軸に、数多くの作品を輩出してきた劇団6番シード。結成30周年記念公演第2弾は新宿シアタートップスに初上陸し、ある郊外の別荘の屋根裏部屋を舞台に、すれ違い続ける家族、名前も顔も知らない兄妹たち、そして不可思議な来訪者を交えて涙あり笑いありの人間模様を描く。
 主宰の松本陽一が初めて手掛ける「家族の物語」はどのような結末を迎えるのだろうか。劇団員の小沢和之、藤堂瞬と共に本作への意気込みを聞いた。

―――30周年記念公演第2弾は屋根裏部屋が舞台になります。

松本「今回、シアタートップスさんの劇場に見学に行かせてもらった際に、ここに屋根裏部屋を建てたらいいなと、当初の企画から急遽変更して生まれた作品です。
 舞台はある別荘の屋根裏部屋。飲食事業で名を馳せた別荘の家主の死後、お別れ会をする為に色んな人達が集ってきた1日を描きます。屋根裏と言っても、洋館風の別荘の良い感じに陽が差し込むゆったりしたスペースをイメージしていて、そこに集った人間たちの悲喜こもごもというか、笑いあり涙ありのヒューマンドラマになればいいなと思っています。
 特徴としては屋根裏のワンシーンで終結するので、出捌け口が階下からのはしごのみ。これも高さのあるトップスさんの劇場だからできることですね。可能ならば屋根も作れたらと思っています」

―――題名にもなっている「バーニャカウダー」が気になります。

松本「僕自身、料理が好きというのもあるのですが、『屋根裏』と『バーニャカウダー』という掛け算にお客さんが興味を示してくれたらなと。
 バーニャカウダーって聞いて、すぐにどんな料理かイメージできない響が面白くないですか? 実際はイタリア北部の郷土料理で、『バーニャ』が“ソース”、『カウダ』が“熱い”という意味だそうです。
 でも実はキャリアでほぼ初めてといえる家族をしっかり描く物語にするつもりです。家族は劇団員を中心とした配役にしているので、ある意味“6番家の物語”になるかもしれません(笑)。
 30周年記念公演という節目もあるので、そういう配役になったとも言えますね。家族を真正面から描きますが、そこにはいくつかの仕掛けを入れていきますので、また楽しみにしてもらえたらなと思っています」

―――作品の背景を聞いた印象はいかがですか?

小沢「家族というテーマが僕の中では結構大きいですね。今も昔も家族というテーマはずっとあると思うのです。それを我々カンパニーがどう見せていけるかなと最初に思いました。
 亡くなった別荘の家主の回想の中で、様々な形でつながりのあった家族に対して伝えたいメッセージがどういう感じで描かれていくのかすごく楽しみです。僕も今年54歳を迎えて、誰かに伝えたい思いやメッセージは、生きてきた証としてのキーワードだと思っているので、それを自分がうまくリードできたらなと思っています」

藤堂「6番シードで家族ものは確かに珍しいなと思いました。僕が1番好きなのは家族ものなんですね。でも親子を描いたものは共感を得やすい反面、きちんと関係性を演じることができないと、気持ちが離れてしまう難しさもあります。
 父親役は小沢さんらしいので、そこはしっかりと絆を強めて臨んでいけたらなと思います(笑)。」

―――家族をテーマにした理由については?

松本「30周年記念公演第1弾として、4月に『Call me Connect you~交渉人遠山弥生~』というサスペンスものを上演したのですが、スピーディーな展開や伏線回収など、脚本のギミックとしてはかなりやり切ったなという感覚がありました。
 今回はもう少しベルトを緩めてというか、ハラハラドキドキとは対照的に、屋根裏部屋という独特な空間や役者が醸し出す空気感など、観終わったあとにじんわりと良かったなと思えるような作品にしたいなと思いました。
 家族ものは、昔からずっと世の中にはありますが、僕の持論としては若干流行り廃りがあるんじゃないかと思っています。世の中が元気で調子が良い時ってあまり家族ものは受けなくて、何か生きづらさを感じている不穏な時代、今でいうところの物価高騰や戦争、異常気象など少ししんどい時代だからこそ、家族の絆という言葉がより響くのかも知れません。お客さんの心の琴線に触れるこのタイミングだからこそ、この作品をつくろうとしている気がします。
 僕自身、映画『レオン』での殺し屋と少女の絆のような、疑似家族を描く作品はこれまでいくつか手掛けてきました。赤の他人同士が家族のようになっていく、形は違えども1つの愛情表現が好きで、ちょっとした照れもあるんだと思います。特に複雑な背景がなくても、何かお互い素直になれない、改まって言えないことなどを抱えたのが僕の考える家族なのかもしれません。
 恐らく皆さんが気にされている、作中でのバーニャカウダーが果たす役割についてはネタバレになりますので、そこは楽しみにしていてください」

―――家族を描く作品にはどういう気持ちで向き合っていますか?

藤堂「何か、特別な感情を持ってというのはないですね。でも親子の関係性は色々あって必ずしも仲が良いとは限らない。当然、確執だってあるはずです。
 本作では亡き父と知られざる足跡が明かされていきますが、そこと対峙した場面で息子がどんな感情を見せるかを、距離感や声のトーンなどを意識しながらうまく表現できたらなと思っています」

小沢「色んな所に子供を遺した別荘の主人はより多く子孫を遺したいという意味では男性の性にかなったものなのでしょうね。独身の自分とは真逆の生き方ですが、彼の伝えたかったメッセージも含めて向き合っていきたいです」

―――最後に読者の方へメッセージをお願いします

小沢「家族の在り方については、色んな考え方がありますよね。本作を通して皆さんがどのように捉えているのかを想像しながら演じることができたらと思います。30周年という節目にふさわしい作品にするつもりです。是非ご来場ください」

藤堂「コメディテイストも入ると聞いているので、今から楽しみにしています。屋根裏部屋のワンシーンにどんな物語が繰り広げられていくのか、皆様に楽しんで頂けるような作品にしますので是非是非ご期待ください!」

松本「ワンシチュエーションに人が集まって生まれる会話劇は、僕がデビューからずっとやってきたものです。その最新作として、これまで劇団員が積み重ねてきた味わいを加えて、屋根裏部屋を温かい空間にできればと思っています。分かりやすく言うと、泣けると思います。どうぞハンカチをご持参ください」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

小沢和之(おざわ・かずゆき)
1969年生まれ、大阪府出身。2000年、劇団6番シードに入団。1999年、『紅い華の、デ・ジャ・ヴュー』で初参加。地声のバリトンボイスを活かし、破壊力あるコメディキャラから、哀愁漂う悲哀に満ちた囚人役や、人間味溢れる父親役など、大胆かつ繊細な芝居に定評がある。最近では吹き替えや朗読劇にも参加。映画出演、ナレーション他多数。

藤堂 瞬(とうどう・しゅん)
1982年生まれ、千葉県出身。2009年、劇団6番シードに入団。2008年、『賊』で初参加。純朴な青年や熱血不良生徒など、キャラクターや心情を飾らずに演じるナチュラルさに定評がある。最近では、冴えない男やオタクなニート役など、癖のあるコメディーキャラクターなど幅広く演じる。映画・ドラマ出演作多数。

松本陽一(まつもと・よういち)
1974年生まれ、広島県出身。1997年に劇団6番シードに入団。2001年、『ホテルニューバンプシャー206』で脚本・演出デビュー。2007年より代表。スピード感溢れるノンストップコメディーを身上とし、他団体への作品提供や演出も手がけるほか、映像作品の脚本や演劇ワークショップ、セミナーなどその活躍は多岐に渡る。

公演情報

劇団6番シード 結成30周年記念公演第2弾
『屋根裏のバーニャカウダー』

日:2023年10月25日(水)~29日(日)
場:新宿シアタートップス
料:S席8,000円 A席6,500円(全席指定・税込)
HP:http://www.6banceed.com
問:劇団6番シード mail:web@6banceed.com

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