「キャストやスタッフが能動的に芝居に関われる集団」を目指し、俳優・山崎一が劇壇ガルバを旗揚げしたのが2018年11月。第3回公演となる今回は、20世紀を代表するアメリカの劇作家アーサー・ミラー『THE PRICE(ザ・プライス)』を吉祥寺シアターにて上演する。1929年の大恐慌で破産した父親を持つ兄弟の葛藤を描く会話劇で、今回は新訳となる。
これまでガルバは、第1回公演『森から来たカーニバル』で山崎が初演出に挑み、第2回公演『門』では配信をおこなった。演劇人として、演劇という表現に様々な角度から真摯にアプローチするガルバ。今回の『THE PRICE』はどのような作品になるのか……。
劇壇ガルバの旗揚げ公演の面々、大石継太、高田聖子、山崎一に、初参加の堀文明が合流する4人芝居。なんと稽古初日、初の読み合わせを終え、興奮が漂う4人に話を聞いた。
不況下の家族を描く、深刻だけど実は笑える物語に
―――なぜこの作品を上演することにしたのでしょう?
山崎「この作品は世界恐慌によって父親の、あるいは家族の人生が大きく変わってしまったことが背景にあるんです。そのことと今のこのコロナ禍でモノの価値観や生活様式を一変させてしまったことが重なって見えて、今この作品をやるのは面白いなと思ったんです。でも、最初はアーサー・ミラーの『セールスマンの死』をやりたかったんですよ。ところが、いろいろなことがあって出来なくて、それでも、アーサー・ミラーを諦め切れなくてこの作品に行き着いたという経緯があります(笑)」
―――戯曲を読んで、印象はいかがでしたか?
高田「最初に文庫本で、すでに翻訳されたものを読んだんですけれど、なかなか読み進められなかったんです。あまり身近に感じられなくて、深刻な、重苦しい話だという印象でした。でも稽古にあたって新しい翻訳をいただいたら、自分達の話に近づいていたんです」
全員「うんうん」
高田「言葉の違いはあって、たとえば“世界恐慌”と言われるとピンとこないけど、“不況”だと現代でも共感できる。親との関係についても、ああわかるな、と」
山崎「そうそう。最終的には家族の話。それが新訳ではとてもクローズアップされて、それぞれの役がわかりやすくなった。兄弟の関係でも、兄弟だからこそなかなか確信に触れられなかったりするの、わかるんですよね」
高田「身近な物語なんだなと思いました。今日が初めての読み合わせだったんですが、みなさんの声を聞きながら、自分の家のことを想像してしまう時があったんですよね。物がいっぱいあるところで、自分の実家の物が思い浮かんだりしました」
大石「僕もです。文字で読むと難しいと思ったけれど、みなさんの声になるとイメージがまったく変わりました。具体的に立ち上がって、人間が出てくる。これが演劇ですね。ドキドキして楽しかったです。声に出したらそんなに難しい話じゃなくて、家族の問題や兄弟の関係性という、とても普遍的なものでした。チャーミングな4人があーだこーだ言っている話なんだな、と」
堀「そうなんですよね。家族間の揉め事やわだかまりって、70年前のアメリカでも現代の日本人でも、そんなに感覚は変わらない。部外者から見れば『そんなの話し合えばいいじゃん』と思うようなことが、家族だとなぜかできない。そのもどかしさに共感される人は多分どの世代にもいらっしゃるんじゃないかな」
山崎「しかもけっこう笑えるんですよね(笑)。演出の桐山(知也)君も言っていたんですが、これは笑っちゃう物語なんだ!ということは、声に出して読んでみて初めてわかりました」
―――翻訳を担当される髙田曜子さんも「翻訳するとき演じる俳優さんの声をイメージすることが、すごく助けになりました」とおっしゃっています。今回の座組みに合った翻訳になっているのかもしれないですね!
メンバーと共に演劇を創る場を大切に
―――劇壇ガルバへは、堀さんは初参加ですね。
堀「そうなんです! 一さんも大石さんも尊敬する大先輩なので、ご一緒できて嬉しいです。聖子さんは初めてなのですが、ご挨拶する前は『厳しくて怖い人だったらどうしよう』と思っていて……」
高田「それ、言われがちです……」
堀「でもとても柔らかくて優しく接してくださって。夫婦役なので安心しました。実は今日、初めてお会いしたんです」
―――今日が初対面なんですね!? 初対面でこんなに和やかな雰囲気ということは、きっと読み合わせが良かったんですね。
堀「楽しかったですね。これから先輩方の胸を借りまくって甘えまくってやりたいです(笑)」
―――大石さんと高田さんは2018年のガルバ旗揚げ公演から出演されています。その遍歴を見てきていかがですか?
高田「ガルバでは楽しく勉強させていただいています。これまでの2作は別役実さんの戯曲で、今回はアーサー・ミラーの戯曲。どちらも初めて演じるきっかけをいただきました。それでもあまり緊張せずに挑めるのは、稽古場で変なことをしても受け止めてもらえそうな雰囲気があるんですよね。この歳で新しいことにリラックスしながらチャレンジできるのはありがたいですね」
大石「僕もそうです。ガルバは旗揚げ公演の『森から来たカーニバル』の時から、みんなで『小道具どうする?』と相談しながら作った。俳優と演出家で『どうしたらいい?』『じゃあここでこうしてみよう』と話してみんなで作っていく。やっぱり、お仕事をいただいてお芝居をすると演出家に言われたことを大切にしようとしたりするけれど、ひとつの芝居をみんなで作っていくと『ああ、昔はこうやって芝居を作っていたな』と若い頃を思い出しますね。それがこの年齢になってもできるのは嬉しいです」
山崎「いやね、2人は積極的に自ら動いてくださるんですよ。たとえば『森から来たカーニバル』には象が出てくるんです。その象の大きさを表すのに足だけを登場させたんですね。これは舞台美術を担当してくださった松岡泉さんのアイデアですが、その足をどのように動かせばより象っぽく見えるかをみんなで試行錯誤しながら考えたんです。その時一番先頭に立っていろいろなアイデアを出してくれたのが聖子ちゃんでした。聖子ちゃんがやると本当に生きた象が立ち現れるんですよ(笑)」
高田「お祭りの準備みたいな感覚です。『山車(だし)をこう出してみたらどう?』みたいな(笑)」
山崎「そうやって全部関わってくれる。継太も、ほぼ最年長なのに一番早く来て小道具作りをしてくれて、すごく頭が下がる。これからも一緒にやりたいなと思った人達なのでまた出演してくれて嬉しいです」
―――ガルバは今回が第3回公演です。「キャストやスタッフが能動的に活動できる場が欲しい」と作られた場とのことですが、劇団活動はいかがですか? コロナの影響で想定通りにいかないこともたくさんあると思うんですけれども……。
山崎「そこが一番のネックなんですよ。やっぱりコロナの影響は大きいですね。しばらく後遺症のようなものが残るのかもしれない……。でも、公演を続けて、新しい試みにも取り組みたいです。たとえばオリジナルの戯曲をみんなで作ってみたり」
全員「おお~!」
山崎「作家、演出家、役者、スタッフとみんなで試行錯誤しながら劇壇ガルバのオリジナル作品を作れたらいいですね。時間はかかるかもしれませんが、出来る限り継続していきたいですね」
―――今は次回の1月公演に向けて、ですね。吉祥寺シアターの奈落を見学されたりと、いろんな使い方を模索されているそうで、とても楽しみにしています!
(取材・文&撮影:河野桃子)
【劇壇ガルバの今を伝えるガルバログ】
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プロフィール
大石継太(おおいし・けいた)
大阪府出身。1983年にニナガワ・スタジオ入団、『タンゴ・冬の終わりに』に出演。その後、蜷川幸雄の演出にて『三人姉妹』、『夏の夜の夢』、『近松心中物語』、『NINAGAWA・マクベス』ほか。最近の舞台は、『ムサシ』、『東京ゴッドファーザーズ』など。劇壇ガルバ公演へは2018年の旗揚げ公演よりすべて出演。
高田聖子(たかだ・しょうこ)
奈良県出身。1987年『阿修羅城の瞳』より劇団☆新感線に参加。映画やドラマへも出演。1995年にはプロデュースユニット「月影十番勝負」(現「月影番外地」)を立ち上げる。2016年『どどめ雪』で第51回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。劇壇ガルバ公演へは2018年の旗揚げ公演よりすべて出演。
堀 文明(ほり・ふみあき)
秋田県出身。1989年にニナガワ・スタジオ入団し、『NINAGWA・マクベス』(静岡県護国神社境内)に出演。その後、蜷川幸雄の演出にて『ペール・ギュント』、『ハムレット』、『オイディプス王』、『リチャード三世』、『ひばり』などに出演。舞台を中心にも映画やドラマにも多く出演する。劇壇ガルバ出演は今回が初。
山崎 一(やまざき・はじめ)
神奈川県出身。大学卒業後、早稲田小劇場に入団。その後小劇場を中心に活動。舞台・映画・TVドラマなど多くの作品に出演。2015年「松田町ふるさと大使」に任命される。2018年に「劇壇ガルバ」を旗揚げし、第1回公演『森から来たカーニバル』(作:別役実)では初演出を担う。2019年こまつ座『シャンハイムーン』、『父と暮せば』にて第26回読売演劇大賞 優秀男優賞受賞、2021年『十二人の怒れる男』、『23階の笑い』にて第28回同賞 最優秀男優賞を受賞。
公演情報
劇壇ガルバ『THE PRICE』
日:2022年1月16日(日)~23日(日)
場:吉祥寺シアター
料:6,800円(全席指定・税込)
HP:https://gekidangalba.studio.site/
問:劇壇ガルバ
mail:gekidangalba2018@gmail.com