人間の本質と社会のシステムに迫る、アーサー・ミラーの戯曲「どんどん作品を好きになっている自分がいる」

 アーサー・ミラー作品の中でも上演機会の少ない『アメリカの時計』。1929年の世界恐慌を扱ったア
メリカ史劇で、株の大暴落により富の頂点にあった“アメリカの貌(かたち)”が脆くも崩れ去っていく姿を描く。

 「壮大で凄く昔の話のように感じますが、歴史でいうと100年前ぐらいの話。世界恐慌により人々の
暮らしが激変していく様は、今の経済状況を鑑みても身近な話に思えました。特に僕が演じるリーと
いう役は、時代の移り変わりを体現する役どころ。現代との共通点をより強く感じます」と作品の印
象を語るのは、矢崎広。市場の崩壊とともに財産を失ったボーム家の息子・リーを演じる。

 「今の日本経済もどうなるのか分からないですが、この作品を通して、やはり強く生きていかなく
てはいけないと思ったり、家族や人と人との繋がりを考えさせられたり。アーサー・ミラーは、世界恐
慌の中にいた1つの家族の崩壊と繋がりを軸として描いていますが、本当に面白い。このKAATで観たいお芝居です」

 なぜKAATで観たいのか? 理由を尋ねると。

 「僕の中でKAATは玄人向けな場所。じっくり演劇に浸れる作品が多い気がしていて」

 演出はKAATの芸術監督でもある長塚圭史。

 「長塚さんは、先輩たちと一緒にやられている演出家というイメージで、お会いするときにとても緊張しました。本読みの稽古の際に『歴史的な背景については、みんなで手分けして一緒に調べていこう』と仰って。いい意味で肩の力が抜けました。長塚さんと話す中で、どんどんこの作品を好きになっている自分がいます」

 6月に上演された、ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』でも“家族”を好演。

 「僕の年齢的に幅の広い役を任せてもらえるようになったこともありますし、人との繋がりを大事
にしたい世の中だからこそ、家族を描く作品が増えているのかもしれませんよね。僕自身、家族は大
好きだし大切な存在。もともと僕が持っている家族愛を曝け出せるのが演劇だと思うので、役とリン
クするならば、そこは惜しみなく出していきたいです」

 最後に矢崎は、観客へこうメッセージを送る。

 「『アメリカの時計』を通して、これからどう時代を生きていこうか、何に備えようか、どういう気
持ちでいようかということについて、もしかしたら1つの答えが出るんじゃないかな。不安を抱えて
いる人こそ、ぜひ本作を観て希望を持ってほしいなと思います」

(取材・文:五月女菜穂 撮影:峰田達也 ヘアメイク:ゆきや(SUNVALLEY) スタイリスト:田中トモコ(HIKORA))

プロフィール

矢崎 広(やざき・ひろし)
1987年7月10日生まれ、山形県出身。2004年、ミュージカル『空色匂玉』でデビュー。以降、舞台を中心にTV・映画など幅広く活躍。近年の主な出演に、ミュージカル『ダーウィン・ヤング 悪の起源』、『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』など。

衣装:ジャケット 42,000 円 シャツ31,000 円 パンツ35,000 円(OLD JOE / OLD JOE FLAGSHIP STORE tel.03-5738-7292) シューズ42,000 円(Paraboot / パラブーツ青山店 tel.03-5766-6688) ※価格は全て税抜き

公演情報

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『アメリカの時計』

日:2023年9月15日(金)~10月1日(日)
場:KAAT 神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:一般7,600円 平日夜割6,800円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://www.kaat.jp/d/the_american_clock
問:チケットかながわ 
  tel.0570-015-415(10:00~18:00)

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