2015年に、小劇場界で長いこと活躍していた男性俳優のみで結成された「ゴツプロ!」。2018年の本多劇場進出を皮切りに、大阪公演といった地方は勿論、台北公演で海外進出も果たした。そんなゴツプロ!が今回は田村孝裕を作・演出に、声優・女優の田中真弓を客演に迎え、カリスマ住職とワケありで出家した坊主たちの物語『イノレバカ』を上演する。
ゴツプロ!を母体としつつ、それぞれ自分のコンセプトを胸にプロデュース公演を実現させているメンバーの塚原大助・浜谷康幸・佐藤正和・泉知束に改めて話を聞いた。
―――今作『イノレバカ』については、いつから構想があったのでしょうか?
塚原「ゴツプロ!は男だけの集団なので、今後はどういう設定や状況があるかねとアイディアを出し合った際に、前々から“お坊さんの話をやってみたいね”というのはあったんですよ。
今回の作・演出に田村くんが決まって、どんな作品にしようか彼と話し合った時にその話題が出て、面白そうだねということで今回はこちらに決まりました」
―――これまでの公演では、三味線や阿波踊りなどに挑戦してきたゴツプロ!ですが、今回挑戦したいこと、現在進行形で挑戦していることはありますか?
塚原「……ありません!」
他3人「(笑)」
―――てっきり「煩悩を消そう! 座禅を組もう!」などやっていらっしゃるのかと(笑)。
佐藤「煩悩は消さない方がいいからね(笑)」
塚原「そうだね。楽しくやりましょう」
―――第六回公演『向こうの果て』では、初の女性キャストとして小泉今日子さんをお迎えしましたが、今作では田中真弓さんが出演されるのも見所かと思います。
塚原「文字通り顔がゴツゴツした男集団である僕らですが、その中に、ベテランの女優さんが入ったらきっと面白いと思って。
今回は僕が以前、(今回の作・演出の)田村くんの作品で共演した田中真弓さんにご出演いただくことになりました。その時から真弓さんの演劇に対する姿勢に感銘を受けていましたし、ゴツプロ!を率いる田中真弓さんの絵面は面白いなと思って、ビジュアルでもそれを意識しました」
―――チラシビジュアルでは、田中さん演じる元気いっぱいの住職が、坊主姿のゴツプロ!の皆さんをまさに率いていますね。
塚原「合成ではなく、荒川の土手で実際に撮影しました。近所に本当にお寺があったのでそこのお坊さんたちだと思われちゃったかもしれません……」
泉「信号待ちで止まる度に、ドライバーの人たちから二度見されましたね」
塚原「なんならSNSで写真が拡散されてもいいなと思いながら撮影に挑んだのですが、そんなことはなかったです(笑)。まさか先頭を切っているのが田中真弓さんだとは、見かけた人たちも思わなかったでしょうけどね」
佐藤「『おめぇら行くぞ!』と僕らを率いる田中さん……正直、僕ら坊主じゃなくて海賊になった気分でした(笑)。少年の心がうずうずしちゃった」
塚原「様々な事情を抱えた人間たちが住職の元に相談をしに行きます。普通の住職なら説法して心を宥めてくれるであろうところ、田中さんが演じる住職は『そんな酷いことされたのか! 殴り込みに行くぞ!』っていう血の気の多い住職で……。このビジュアルはその構図を表しているんです」
―――なるほど! まさかそういう意図があったとは……! 少し見え方が変わってきますね。
皆さんはゴツプロ!の一員でありつつも、それぞれがプロデュース公演も行われていらっしゃいますよね。せっかくの機会なので、そちらのお話も伺えたらと思います。
塚原「ゴツプロ!は年に1度、本多劇場で公演をするのが恒例でした。しかし2020年のコロナ禍以降、本多劇場やシアタートップスでやる予定だった公演が中止になってしまい、今後も演劇を続けていくために色々と考えさせられました。本多劇場での公演の他にも小さな劇場で少人数の公演をおこなっていくのもいいのではないかという発案が佐藤さんからあって、演劇界を活性化させるためにもそういう活動も大事だなと思いましたね。
そこから佐藤さんが『青春の会』を、浜谷さんが『BOND52』を、僕が『ブロッケン』というプロデュース公演を立ち上げて、泉さんは前からあった自身のユニット『Team Chica』を再始動させました」
佐藤「僕は若い頃からつかこうへいさんの作品が好きで、学生の頃ぶりに『熱海殺人事件』がやりたいと思って、青春の会というプロデュース公演を始めました。2021年に念願の『熱海殺人事件』を公演できたのですが、殊の外楽しくて、続けていきたいなと思い……。
僕らゴツプロ!は役者集団で、メンバーだと泉以外は脚本を書くことはできないので、やりたい作品はあれど、キャスティングしてもらうのを待っていることがこれまでは多かったんですね。でも自分でプロデュース公演をすることで、自分がやりたい作品をやることができるんだなと。そこで昨年はこれも前からやりたかった『父と暮せば』を、そして先日また『熱海殺人事件』を再上演しました。
全く新しい作品を生み出すのも素晴らしいことだなと思うのですが、僕は名作とされるものを公演し続けることにも意味があると思っています。さらに、同じ作品でもキャストが変わるとガラッと雰囲気が変わるのも面白いなと思っているので、僕が立ち上げた青春の会ではそういった名作の再上演を続けている感じですね。
やってみて分かったことでしたが、少人数で作る公演には大規模にやる公演とはまた別の楽しさがあるんですよ。お客様により近いところで芝居を見せられるのもいいなと思いました」
浜谷「佐藤さんが言う通り、本多劇場のような規模感の劇場と、100人キャパくらいの劇場だと、現場でお客様が体感できる空気感が全然違うんです。僕がBOND52を立ち上げたのは佐藤さんの活動に触発されて、小さい劇場でゴツプロ!とはまた違った空気感をお客様に体感してほしいなと思ったのもあります。
あとは劇団って横の繋がりがありそうでなくて、劇団員個人個人は共演したり、仲良くなったりすることもありますが……。大変なご時世だったからこそ、劇団同士を繋げたいなという気持ちから『52pro(ゴツプロ!)』と周りを繋ぐ『BOND』という意味で『BOND52』と名付けました」
塚原「天才的なネーミングだよね(笑)」
浜谷「そのままだけども(笑)」
泉「僕がプロデュースしているTeam Chicaは、僕が24歳の時に立ち上げたユニットです。先日は劇団東京マハロの看板女優である福田ユミさんに出演していただいて、深井邦彦さんの作・演出で『朝、私は寝るよ』という二人芝居の本番をやりきったばかりなのですが……。
BOND52と同じで、こういった形で別の劇団の方と繋がりが持てるのはいいなと思いました。佐藤さんの青春の会で2021年に公演された『仮面夫婦の鑑』では僕が演出をやらせていただいて、その時に二人芝居の面白さを感じたのが、今回のTeam Chica公演のきっかけでもあります。
ゴツプロ!という母体、後ろ盾がしっかりある安心感の上で、コロナ禍で変わってしまった演劇界に柔軟に対応しつつ、色々なチャレンジができるようになったのは、いい変化だなと思います」
―――それぞれが活躍して、それを母体であるゴツプロ!に還元していくという素敵な循環ですね。
塚原「そうですね。個々が強くなることで団体としても強くなっている実感もあって、まさに今が理想の形だなと思います(ドヤ顔)」
他3人「(笑)」
佐藤「文字だと伝わらないのよ!!」
―――(ドヤ顔)って書いておきます(笑)。
コロナ禍以前のゴツプロ!では地方は勿論、台湾での公演もありましたが、少しずつ世の中が元に戻りつつある今、皆さんの今後の展望は?
塚原「ゴツプロ!本体としては、今年はまだ東京公演だけですが、地方公演や海外公演もやっぱり再開していきたいですね。昨年8月、9月で上演した青春の会の『父と暮せば』は広島、大阪、そして大牟田でも上演をしました。」
佐藤「そう! 少人数だからこそできたというのもあるけれど……。ゴツプロ!はもう活動歴が長くなってきて面白そうなことを見つけたら何でもやれちゃう集団だと思うので、今後に対しては楽しみしかないです。
応援してくださっている皆さんも、もし僕らのプロデュース公演までチェックしてくれているとしたら、意外と公演が多くて、追うのも大変なんじゃないかなと思うんですが……僕ら自身がすごく楽しく演劇をやっていることもきっと感じ取ってくれているんじゃないかなと思っていて。これからも双方向に楽しいエンタメを作っていきたいです」
浜谷「年齢を重ねてきた分、役者として演じさせていただく役柄も変わってきましたが、そこをあえて楽しみながら歳を重ねていきたいなと思っています。
あと、僕は若い役者さん向けに『ゴツプロ!演劇部』というのをやっていまして……」
塚原「コロナ禍で演劇を続けることが難しくなってしまった劇団も沢山あるし、若者たちで新しい劇団を立ち上げる人たちも減ってしまって……。そうなると劇場の運営も苦しくなる。この負の連鎖を断ち切りたいなというのがあって、浜谷さんがゴツプロ!演劇部を立ち上げたんです。若手たちの育成や、演劇の楽しさを知ってもらう活動にも力を入れてくれています」
浜谷「若い役者さんたちが演劇を辞めずに続けていくにはどうしたらいいか、ただ続けるだけじゃなくてどうしたら演劇って楽しいという気持ちを持ち続けたままいられるか……。簡単なことではないですが、一緒に考えながらやっています。
今年度末には3期生の公演があり、ブロッケン・Team Chicaでお世話になった深井さんに作・演出をお願いする予定なので、ぜひそちらもチェックしていただけたら嬉しいです」
泉「今後も素敵な役者さん・演出家さん・スタッフさんたちと出会って、もっともっといい作品をお届けしたいですし、僕自身もそんな作品に出会えたら幸せだなと思います。自分自身が作・演出をやるのもあって、純粋に面白いものを見つけたい、インプットしていきたいという思いが強くて。演劇のお客様の間口ももっと広がればいいなと思うので、気軽に観に来られる演劇を作っていきたいなと思います。
ゴツプロ!のファンの方が派生して僕らそれぞれのプロデュース公演も観に来てくださったら嬉しいですし、逆もしかりです。あとは地元・熊本での公演もまた出来るように頑張ります」
―――沢山お話を聞かせていただき、ありがとうございます。
最後に作品にちなんでの質問なのですが、『イノレバカ』にちなんで、今後について何か祈っておきたいことはありますか?
塚原「『イノレバカ』に溢れんばかりのお客様が来てくださいますように、としか……!」
―――そうですよね! それを大前提として何かプライベートなことでも……。
佐藤「……モテたい! キャーキャー言われたい! とか(笑)?」
塚原「お金持ちになりたいとか、マンションがほしいとか(笑)」
―――煩悩だらけじゃないですか(笑)!
佐藤『真面目な話、実は僕ら4人の子供が同い年なんですよ。しかもゴツプロ!の結成と同時に生まれた子たちなので、今回が第8回公演で、全員8歳なんです。彼らがスクスクと育ってくれたらそれだけでいいのですが……そろそろゴツプロ!の公演を観に来てほしいなって。
学校でも演劇鑑賞会がありますけど、若いうちに沢山演劇に触れて、舞台に親しんでもらえたら嬉しいですよね」
―――素敵な願いですね! まずは今作の大成功を祈りつつ、観に来てくださるお客様に一言ずつお願いします。
浜谷「第八回公演にして、夏の公演は実は初めてで、キャストも過去イチ多いんです。暑い中稽古をして、今までで1番熱いお芝居をお届けできると思うので、楽しみに劇場にお越しいただけたらと思います」
泉「第六回公演までは座付き作家であった竹田(新)さんのお芝居をやってきて、昨年翻訳作品である『十二人の怒れる男』を公演しましたが、作・演出で外部の方をお迎えしてオリジナル作品をやるのは、実は今回が初めてになります。
キャストの年齢層も幅広く、いい意味でガチャガチャして華やかな作品になると思います! 余談ですが、公演中の9月4日は僕の誕生日ですので、お祝いがてら観に来てください(笑)」
佐藤「休演日にする??」
泉「ちょっと!!(笑) なんとアフタートークもある日です!」
佐藤「なんだよ~! 祝われる気満々じゃん!(笑)
僕はこの1年、ゴツプロ!のメンバー以外とお芝居をする機会も多かったので、久しぶりにホームグラウンドに帰ってきたなという不思議な気持ちです。今までとは違うゴツプロ!をお届けできると思いますので、僕自身もすごく楽しみです。幸せな時間をお届けできればと思います」
塚原「ほとんど皆が話してくれた通りなのですが、それぞれが活発に活動を続けてきたメンバーが本公演ということで結集して、さらにそこに力強い客演のキャストの皆さんが加わってくださり、演出の田村くんが指揮をとって、一体どういう化学反応が起こるのか……。加えて一流のスタッフさんたちも揃っているので、ぜひ皆様、楽しみに劇場にお越しいただけたらと思います」
(取材・文:通崎千穂(SrotaStage) 撮影:間野真由美)
プロフィール
塚原大助(つかはら・だいすけ)
1976年7月16日生まれ、東京都出身。ゴツプロ!主宰。本公演のプロデュースも務め、本多劇場進出、地方や海外公演の実現、メディアミックスや全公演生配信など、次々と新しい取組を推進。大小様々な劇場で様々な作家・演出家とコラボレーションしていく舞台企画「ブロッケン」もプロデュース。こまつ座 第133回公演『人間合格』、KURAGE PROJECT Vol.1『売春捜査官』、映画『ソワレ』などに出演。
浜谷康幸(はまや・やすゆき)
1972年3月21日生まれ、東京都出身。ゴツプロ!と他劇団を繋ぐユニットBOND52を立ち上げ、VOL.1 小松台東 BOND ゴツプロ!『山笑う』をプロデュース。次世代への橋渡しとして立ち上げた、演劇を創る過程を学ぶプロジェクト「ゴツプロ!演劇部」部長を務める。Nana Produce Vol.20『チノハテ』、舞台『まるは食堂』等へ出演するほか、独特の感性で舞台演出も手掛ける。
佐藤正和(さとう・まさかず)
1970年7月7日生まれ、福岡県出身。子供向けの舞台企画「下北沢桃太郎プロジェクト」、気軽に演劇を楽しんでもらうことを目的とした「青春の会」に参加。青春の会では、第二回公演『父と暮せば』を東京・広島・大阪・大牟田(福岡)の4都市で上演。ブラボーカンパニー(福田雄一主宰)の創立メンバーであり、同劇団ほぼ全作品のほか、WOWOW×ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』などにも出演。
泉 知束(いずみ・ともちか)
1976年9月4日生まれ、熊本県出身。演劇ユニットTeam Chica(チームチカ)主宰。ゴツプロ!演劇部 第一回公演『チクリ、冬が胸をさす。』など、舞台の脚本・演出も手掛けており、外部公演の演出も多数。また、VRドラマや企業VPなど映像作品の脚本・監督も務める。TVドラマ『就活タイムカプセル』、『駐在刑事Season3』など映像作品にも出演。
公演情報
ゴツプロ!第八回公演『イノレバカ』
日:2023年8月30日(水)~9月10日(日)
場:下北沢 本多劇場
料:一般7,500円
早期割引[8/30~9/1]7,000円
U-22割引[22歳以下・枚数限定]4,000円
※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://52pro.info
問:ゴツプロ合同会社 mail:staff@52pro.info