近づく戦争の足音、老若男女がキネマに託そうとする夢 来春解散のゲキバカが挑む、愛と青春の物語 初見でも「何も怖がらずに、観に来て」

 2024年春に解散を発表したゲキバカ。“大千穐楽”に向けた解散公演の第2弾として上演するのは、ゲキバカを代表する作品の1つである『0号』。昭和初期の映画撮影所を舞台にした、愛と青春の物語だ。
 今回、ゲキバカのメンバーで今作に出演する鈴木ハルニに、公演の見どころを聞いたほか、これまでの活動を振り返ってもらった。

―――どんなお話か教えてください。

 「舞台は昭和初期の映画撮影所。映画監督や若手俳優、食堂のおばちゃんらが登場人物として出てくるんですけども、戦争が始まって、若い男の人たちがどんどん撮影所から姿を消していくんです。
 年老いた監督が新たな“スタァ”を生み出すために、今まで男子中心で映画を撮っていたところ、女性を主役にして新作を撮ろうとするんです。とある女性が監督に見い出されて、トップになっていく中で、後藤という斬られ役の男優と恋に落ちて……昭和の時代に輝くような素晴らしい作品を作るために生きた人たちの群像劇です」

―――ハルニさんはどんな役を演じるのですか?

 「僕は斬られ役の後藤の同僚・さぶを演じます。初演のときは(ゲキバカ主宰の)柿ノ木(タケヲ)がやっていた役です。僕は今までずっと監督役をやっていたんですけど、今回新しい役に挑戦させてもらいます。
 このさぶちゃんという役はちょっと特殊な役で。あんまりセリフはないんですが、コメディ色が強い役なんですね。初演で柿ノ木が演出をつけているときに、僕が代役でさぶちゃんを演じていたこともあるんですが、今回、柿ノ木がキャスティングを考える中で『ハルニだったらやれるんじゃないか』ということで任せてくれました」

―――解散を発表されて、大千穐楽に向けた第2弾という位置付けの公演。何か感覚は違いますか?

 「どうですかね? 前回の『ララ・バイ』が“解散ロード”の第1弾でしたが、解散すること自体に関しては、割とスッキリしていますかね。メンバーそれぞれがどう思っているかまでは分からないですけど……稽古場の雰囲気もネガティブな雰囲気はないですよ。解散だから、今回の『0号』をどうするか……とは特には考えてないです。
 いつも通りのゲキバカを、今までの中で1番の『0号』をつくって、皆さんにお届けできたらという思いの方が強いです」

―――これまでの活動を振り返っていきたいと思います。ハルニさんは、ひょんなことから劇団コーヒー牛乳(現ゲキバカ)に入られたそうですね。

 「そうなんです。僕は、今も残っている西川康太郎と、今もう抜けちゃいましたけど石黒圭一郎が大学の同期なんですが、大学に入学した年のゴールデンウィーク明けに、コーヒー牛乳がワークショップをやると聞いて。
 大学に入ってからお芝居を始めた僕は、当時、コーヒー牛乳を観たことがなかったんですけど、周りの同級生がこぞって面白かったというので、僕も参加してみたんですね。まさに右も左も、それこそ上手も下手も分からないところから入ったんですけど(笑)、1年生に対して、丁寧に教えてくれました。
 それでワークショップに参加した人から何人か選ばれて『蒲田行進曲』を上演したんです。今思うとなかなかチャレンジングだと思いますけどね(笑)。僕も出演させていただいて、楽しかった。
 で、公演が終わった後に『コーヒー牛乳がユニットから劇団化するからよろしく』と言われたんです。僕らとしては『ここでお芝居をやりたいので入れてください!』と頼み込んだわけでもないんですけど、半強制的に劇団員になって。
 で、そこからもう二十数年経ってしまった。本当にワークショップに行ってなければ、もしくはワークショップ公演に選ばれてなければ、鈴木ハルニにはなかったと思います」

―――運命的ですね。でも二十数年続けるのは並大抵のことではないです。ここまで続けてこられた理由はなんですか?

 「周りのメンバーがいたからですかね。……ずっとお芝居をやってきましたけど、20代前半はあんまり楽しいとは思っていなかったですよ。できないことだらけだったから。でも同時に、俳優になるのは、そんな楽しいことばかりじゃないだろうとも思っていた。
 ゲキバカに名前が変わって、自分も20代後半、30代になって、初めて主役をやらせてもらえるようになって、そのときぐらいからちょっとずつ楽しいかもしれないと思い始めたかな。どんだけ鈍感なんだよっていう話ですよね(笑)」

―――それも踏まえて、ずばり「ゲキバカらしさ」は何だと思いますか?

 「一言で言うのは難しいけど、高校の部室みたいな雰囲気かな。『世の中に役に立とう!貢献しよう!』とは思ってないですから。そんなのどうでもいいんです。『俺ら、楽しいじゃん!』という思いだけでずっと続けてきた気がします。
 だから成長はしてないんですよ(笑)。ただ、変わらなくても、長くやっていけば少しは価値があるかなと思ったりするんですけどね」

―――ハルニさんご自身は今後も俳優を?

 「そうですね。演劇活動は続けます。でもずっと演劇ばかりやってきたので、他のことにもチャレンジしてみようかなと思っています。

まだ内緒ですけど、来年の今頃にちょっと個展みたいなことをやってみたいなと思っています。思っているだけで、素晴らしいものが作れるかどうか分からないですけど、やってみようかなって。せっかくの人生なので!」

―――最後に観客の皆さまへのメッセージをお願いします!

 「ゲキバカのお芝居って、僕は本当に演劇入門だなと思っています。そんなに難しいことを考えないで、スパッと見てもらえる。だから初めてゲキバカを観るという方や、演劇を観たいけど何を観に行ったら分からないという方がいらっしゃったら、ぜひチョイスの1つとして、ゲキバカの公演を考えてもらえたら。
 来年僕らは解散しちゃうんですけど、ゲキバカは、演劇のお客様の裾野を広げる一つになれればいいなと思ってずっと活動してきました。 何も怖がらずに、観に来ていただければ!
 特に『0号』は自信がある作品の1つで、ゲキバカを代表する作品の1つ。そこはもう間違いなく安心して観に来ていただければいいなと思います」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

鈴木ハルニ(すずき・はるに)
1981年3月24日生まれ、東京都出身。人並みに映画などは観ていたものの、特にそういった世界に興味があったわけではなかったが、高校最後の年に急に「夢は役者だ」と言いだす。日本大学芸術学部演劇学科入学。入学直後、本公演も観たことなかったのに、ひょんなことから劇団コーヒー牛乳(現ゲキバカ)に入団。特技は英会話、ドラム、楽屋の掃除、ハンバーガーを美味しそうに食べること。

公演情報

ゲキバカ『0号』
日:2023年8月23日(水)~27日(日)
場:中野 ザ・ポケット
料:一般チケット6,000円
  見切れるかも!?チケット[見切れ席]5,000円
  U-18チケット[18歳以下]1,000円
  ※要身分証明書提示(全席自由・税込)
HP:
https://gekibakaweb.wixsite.com/gekibaka
問:ゲキバカ mail:gekibaka.ticket@gmail.com

インタビューカテゴリの最新記事