今を懸命に生きる人々に捧げる作品を創り続ける演劇企画集団Jr.5の第15回公演『明けない夜明け』が、7月14日〜20日に東京芸術劇場 シアターウエストで上演される。
この作品は、夫婦間で実際に起こった殺人事件をモチーフに描いた、2022年上演の第13回公演『白が染まる』に続く物語。事件後、幼くして被害者の子であり、加害者の子になってしまった子供たち(3姉妹)が大人になってからの姿を描き、社会・家族・友人など、さまざまな問題を織り交ぜながら“生きるとは”を問いかけていく。
3姉妹を演じる小島藤子・吉本実憂・誠子と、脚本・演出の小野健太郎が、作品への思いや互いへの信頼を語ってくれた。
3姉妹の生活を覗き見ているような感覚に
―――今回の作品は第13回公演『白が染まる』に続く物語ということですね。
小野「(『白が染まる』は)2002年に福岡県久留米市で実際に起こった殺人事件をモチーフにした作品で、その中では妻のヒトミが夫のゴウを殺してしまうまでの心理描写を描きました。
でもそうなると父親は亡くなってしまい、母親は刑務所に入ってしまうわけですよね? 実際の事件のご夫婦にもお子さんがいらしたのですが、残された子供たちはどうなったんだろう?ということをずっと考えていて。実はこれよりも前に、子供たちの話を同じタイトルで書いて第8回公演として上演しています。そこから『白が染まる』を書き、新たに今『明けない夜明け』を改めてやろうということで、台本を書き直しているところです。
僕は演劇に対して、やっぱり弱い人に寄り添うものであって欲しいという願望があります。こうした事件の影に、実際にこういう人たちもいるということを、少しでも考えるきっかけになってもらえたらいいなと思っています」
―――その残された子供たち、3姉妹を演じる皆さんに作品に臨む気持ちを教えていただきたいです。
ではお姉さまからよろしいですか?
誠子「私からですか!? 私はお笑いをやってきた人間でお芝居をしたことがなかったので、未開の地に修行に参りました、という気持ちです。
ただ、お芝居はよく観にいっていて、演技に憧れややってみたいという気持ちを持っていたんです。ですからオファーをいただいた時にはとても嬉しかったですし、すごくワクワクしながら挑戦させていただいています」
小島「実在の事件がモチーフになっている非常に重たい作品ではあるのですが、3姉妹に焦点を当てることによって、重苦しい中にも家族の掛け合いなどが随所にあります。お客様に対して非常に見やすい作品になっているんじゃないかな、と台本を読んで思いました。
ただ重いものをお客様にある意味押し付けるのではなくて、観た後に皆さんの気持ちが軽くなるような、ちょっと希望が見えるようなお話になっているのが素敵だなと思っています」
吉本「舞台は3度目で、“お芝居に嘘をつかない”ということは(舞台に限らず)どのジャンルでも一緒だと思うのですが、舞台ならではの表現方法にまだあまり慣れていないところが課題です。今お稽古していてエネルギーの出し方など、まだまだ試行錯誤中です。
でも『3姉妹の三女の茉菜役で』と伺ってから脚本を読ませてもらった時に、自分と茉菜に共通点というか、考え方がすごく似ているなと感じました。茉菜を演じさせていただくことがとても嬉しいです」
誠子「一番しっかりしていますよね」
小島「3姉妹の末っ子という感じがリアルに出ていると思います」
―――吉本さんから役柄に共通点を感じるというお話がありましたが、お二人はいかがですか?
誠子「私に関しては正直真逆というか、もう言ったことのない言葉のオンパレードなんですよ。私は自分で言うのもなんですけど、本当にポジティブ思考で天真爛漫なんですが、愛はものすごくネガティブで『もう死にたい』というようなことを言うんです。
でも何しろ私は『死にたい』と思ったことは一度もありませんから、自分の中で最も辛かった、体を張った仕事の時のことなどを思い出したりしながら、愛の辛い気持ちを想像して、なんとか近づこうとしているところです」
小島「私自身は一人っ子なので、まず姉妹の関係性がよくわからないんですね。特に今回の3姉妹は置かれている状況もあって、仲が良いのか悪いのかもわかりにくいところがあって。
でも、結局3人は一緒にいることを選んでいる。嫌なことがどんなにあっても、やっぱり帰る場所があることに安心感もあるんだろうなと、台本を読んだり、お二人とお芝居をしていくなかで感じています」
―――小野さんは作・演出の立場で、お三方に期待されているところは、どのようなところでしょうか?
小野「このまま舞台の上に乗っていただけたらいいなと思いますね。
今、誠子さんがご自分と愛は真逆だと言っていましたが、それは敢えて世間が持つ『誠子さんぽいね』というところではないものを観ていただけたらいいのかな?という考えから(お願いした役)でした。藤子さん(小島)が一人っ子で、姉妹の関係がわからないというところも同じで、そういう人が姉妹を演じたらどうなるか?に期待しました。吉本さんが一番しっかりしている、と今の時点でもちょっと意外な感想がでてくる。
そうした新鮮なところをお客様に提示できたら、この3人でしかできない3姉妹になるし、そこからお客様に何を感じてもらえるかが楽しみです。全体で2時間ないくらいなのですが、3姉妹の生活をどこかでのぞき見ているような感覚で、それぞれの変化を観ていただけたらいいなと思っています」
個性が違うからこそ面白い
―――そんな3姉妹役を演じているなかで、お互いの印象はいかがですか?
誠子「今回2人とも初めてお会いしたのですが、藤子さんはほんまおもろい子やった!」
小島「えっ? そうですか(笑)?」
誠子「いや、第一印象はしゅっとしている方だな、だったんですよ。いまもそうでしょう? すごくしゅっとしている。でも稽古場で色々な瞬間を見ていると、その印象とは真逆でめちゃくちゃおもろいんですよ。
例えば、差し入れのチョコがあるんですけど、いろんな味があるのにチョコバナナ味しか食べないんです!」
小島「そこ(笑)!?」
誠子「いや、だってずっとそうだから、それを見た瞬間にめっちゃ興味が湧いて」
小島「嬉しい!」
誠子「すぐ大好きになりました。日常の何気ないところがおもろい人ですね。
(吉本)実憂ちゃんはね、私が何をやっても笑ってくれるんです。なんでも笑ってくれる。それがとっても嬉しくて」
小島「ちゃんと聞いてくれるしね。だから実憂ちゃんは一番大人というか、キラキラして笑いながらみんなをまとめてくれる存在です」
誠子「あと、すごいなと思ったのは、台本を1枚1枚できた順に留めていない紙でもらうんですけど、それを実憂ちゃんは自分で折ってのりで貼って、毎回毎回製本しているんです!」
小島「のりで貼るっていうのは本当にすごいと思った。クリップで挟むとかならよくあるんだけど」
誠子「しかも今日なんか、稽古の前にこの取材ってわかっていたのに、私が来たらもう先に来ていてのりづけしてたんです! 『いや、いますぐ使わんやろ!』と思うんだけど(笑)、まず貼るっていう作業をしていて!」
吉本「新しい台本を5枚ずつぐらいもらって、まずのりづけしながら考え事をしている時間がすごく楽しいんです」
小島「楽しいんだ!」
吉本「製本しないと覚えられないっていうこともあるんですけど、毎日作っていくのがとても楽しいです」
小野「個人的なセレモニーなんだ。でも全部できた段階で、台本ちゃんと製本するからね」
吉本「えっ? そうなんですか?」
小島「せっかく作ったのに(笑)!」
吉本「でも日々増えていくのが本当に楽しいです!」
誠子「なるほどね~。私はルーティンなんて何もないからなぁ」
吉本「私は自分の中で色々あって、『撮影の前にはこうでないと』とか結構自分の時間軸としてはあるんです。でもそれがカッチリ固定されているのではなくて、柔軟というかマイペースな感じです」
小島「きっちりしているところと、ゆるっとしているところがあるんだね」
吉本「そうです、そうです」
小島「私は両方の面があると思う。だからルーティンはないと言っている誠子さんの気持ちもわかるし、『これだけはしないとダメなんです』という実憂ちゃんの気持ちもわかる気がする。
だから誠子さんが見ていて面白いと言ってくれるのも、本当にそうだなって。私も誠子さんも実憂ちゃんも観ていて面白いもの」
吉本「みんな全然違いますよね」
小島「そうそう、その違うところが面白い」
―――既に良いコンビネーションが生まれているんですね。
小島「そうですね、他のキャストさんも、皆さん穏やかな人が多くて」
吉本「穏やかで個性的なので、皆さんを拝見していてとても楽しいです」
―――そういうキャストさんと共に、演劇企画集団Jr.5は今ある社会の問題を演劇にしてきていらっしゃいますが、そういう方向性はこれからも?
小野「例えばワイドショーなどでも、何か事件が起きた時にとても一方的な見解で情報が流されていくという印象があって。でも実際はどうだったんだろうとか、関係した方々の立ち位置によっても見え方は実は全く変わっているはずですよね。そういうことをちょっと立ち止まって考えるきっかけになるような作品は、これからも作り続けていきたいです。
演劇って“PLAY”なので“遊び”なんですが、その遊びのなかで疑似体験ができるものでもあると思っています。エンターテインメントに+αで、それこそ帰り道に郷里のお母さんに電話したとか、兄弟姉妹に電話したとか、そういうひとつのきっかけ、コミュニケーションのツールになってもらえたらいいなという気持ちで発信していきたいと思っています」
―――すごく素敵な考え方だなと思います。今後の活躍も楽しみにしております。
改めて、今回の作品『明けない夜明け』を楽しみにされている方々にメッセージをお願いします。
誠子「台本を読ませていただいて、すごく素敵で本当に色々なものを感じられる素敵なお芝居だと思うので、皆さんに観て欲しいと思っています。
また個人的には、初めてのお芝居への挑戦ですので、皆さんが知らなかった“尼神インター 誠子”が見られると思いますから、皆様、誠子のデビュー作品を(笑)、お楽しみに観にいらしてください!」
―――誠子さんのファンの方で、お芝居はご覧になったことがないという方も観にいらしてくださるでしょうし。
誠子「そうですね、少しでもそうした力になれるのであれば嬉しいなと思います。逆にお芝居しか観たことがない方に、これをきっかけにお笑いも観に来ていただけたら最高だなと思っています。よろしくお願いします!」
小島「お稽古が始まって何日かやってみた中で、3姉妹のやり取りがすごく自然にできているなと思っていて。周りのキャストさんも個性的すぎるというわけではなく、みんなが愛らしさのある方たちなので、そういうところが伝わるといいなと思っています。
日常的なものが溢れている作品なので、どれだけ観に来てくださった方々に寄り添える作品になれるかを、いま一生懸命作っているので、たくさんの人にご覧いただけたら。良い意味で敷居の低い舞台になっているので、きっと観やすいと思いますから、是非観にいらしてください!」
吉本「身近にいる大切な人への愛を実感していただける作品になっているんじゃないかなと思っています。個人的な意見なのですが、親の境遇によって子供が苦しむというのは、すごく自分的にもどかしさを感じます。
でもだからこそ、その全てを自分の意思で、自分の行動で、自分の言葉で変えられると私自身も信じています。ですから私としてもとても深くお届けしたいメッセージなので、それを大切に演じつつ、皆様には何よりもまず楽しんで観ていただきたいです」
小野「僕は何よりもまず俳優を観に来てほしいなと思っています。というのも、台本は俳優が乗る台だと僕は思っているんですね。台本はリングで、そこに立つ俳優たちはファイターなので、そのファイターたちに生き生きと、いい勝負を繰り広げてもらえたら、僕は熱狂するだけです。是非俳優たちを観て、心をいっぱい動かして、想像して感じていただけたらと思っています。劇場でお待ちしています!」
(取材・文&撮影:橘 涼香)
プロフィール
小島藤子(こじま・ふじこ)
東京都出身。2007年“おはガール”として、テレビ東京「おはスタ」に1年間レギュラー出演した。2008年、テレビ朝日『キミ犯人じゃないよね?』で女優デビュー。以降、映画『おっぱいバレー』、『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』、『青空エール』、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』、テレビ東京『共演NG』など多数出演。2011年、東海テレビ『明日の光をつかめ2』でドラマ初主演。2018年『馬の骨』で映画初主演を果たすなど、躍進を続けている。
吉本実憂(よしもと・みゆ)
福岡県北九州市。2012年、第13回全日本国民的美少女コンテストにてグランプリに輝く。2014年、読売テレビ『獣医さん、事件ですよ』にてドラマ初出演を果たし、NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で栄姫役に抜擢される。他、映画『ゆめはるか』、『レディ in ホワイト』、『透子のセカイ』、『瞽女GOZE』、『あの時、長崎。』、『逃げきれた夢』など数々の作品に出演し、活躍している。
誠子(せいこ)
兵庫県神戸市出身。2007年、渚と共に2人の出身地“尼崎”と“神戸”の頭文字を取り命名した、お笑いコンビ・尼神インターを結成。2011年、第32回ABCお笑い新人グランプで決勝進出。2015年、MBSオールザッツ漫才2015のネタバトル企画で優勝。2016年には第5回ytv漫才新人賞決定戦、第37回ABCお笑いグランプリで決勝進出を続けるなど、躍進。2020年、エッセイ本「B あなたのおかげで今の私があります」が発売。
小野健太郎(おの・けんたろう)
宮城県出身。劇団スタジオライフの5期生5人が2010年に立ち上げた、演劇企画集団Jr.5で全作品の脚本・演出を手掛ける。俳優としても活動を続け、小劇場芝居から商業演劇まであらゆるスタイルの演劇に関わっている。
公演情報
演劇企画集団Jr.5 第15回公演
『明けない夜明け』
日:2023年7月14日(金)〜20日(木)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト
料:一般4,500円
前半夜割[7/14・15・16夜公演]4,000円
3名以上割12,000円~(1人4,000円)
U25[25歳以下]3,500円
高校生以下1,500円(全席指定・税込)
HP:https://junifive.wixsite.com/juni5
問:演劇企画集団Jr.5
mail:jr5engeki@gmail.com