2020年、多くの舞台作品が公演の中止や縮小を余儀なくされたことは記憶に新しい。昨年4月に上演予定だった、こまつ座『雪やこんこん』も例外ではない。激動の時代に翻弄されながらも逞しく生きる、愛しき庶民の姿を描いた本作が、上演中止を乗り越え、この冬、改めて上演される。
「前回、上演できていたとしたら、もしかすると自分の中では不完全燃焼に終わったかもしれません」
本作の主役、崩壊寸前の大衆演劇一座の座長・中村梅子を演じる熊谷真実の口から飛び出したのは、思いもかけない言葉だった。
「この一年半の間、東京から浜松に引っ越しをしたこともですが、私生活でも大きな変化がありました。そんな中、表現者として、YouTubeだったり、Instagramの生配信に新たに挑戦するなど、演劇と同じように誰かを元気にしたい、誰かの力になればと思ってやってきました。この一年間、舞台に立つことを制限されたからこそ、本当の演劇の楽しさ、ライブの素晴らしさをお伝えしたいと思います」
大衆演劇の作者・役者たちの生んだ名台詞の数々が、雪吹雪のように繰り出される本作。そこには劇作家・井上ひさしの演劇への情熱が、真摯に込められている。
「この『雪やこんこん』は、井上先生の、演劇の持つ力、芝居の持つ力を信じる想いのつまった作品だと思います。一つの作品を創り上げる素晴らしさ、それはいつの時代も変わらないもの。ただ、演じる側にウソがあっては通用しない時代になったのではないかと思います。そんな今だからこそ、演劇という枠の中で真剣に生きる姿が、観てくださる方の心に響くのではないでしょうか」
熊谷曰く、演じる中村梅子は、懐深く愛情深く、またおちゃめなところもある女性。共感する部分も多くあるという。
「この井上先生の名作に参加できることが、本当に幸せ。熊谷真実という肉体を通して、その魅力が存分に発揮できるよう、そして、足を運んでくださったお客様にわくわくした気持ちで帰っていただけるよう、一生懸命努めさせていただきます!」
“きびしく辛い浮草の旅芝居を座長はなぜ捨てようとしないのか。……きっと心の中でお客様の拍手が轟いているからだわ”
熊谷の言葉から、『雪やこんこん』の中にあるそんな一節が浮かんだ。芝居の力を信じる全ての人へ。今だからこそ届けたい想いが、ここにある。
(取材・文:前田有貴)
「洋服屋の娘なので寒くなると重ね着の季節。洋服が好きなのでファッションを楽しみたいです。最近は安くてもデザインの良い若い方の洋服がたくさんあるので、楽しいです。それでも今年の冬はがっちり雪やこんこんのお稽古と本番! 暖をとって体の冷えないように食べ物にも気をつけたいと思います!」
プロフィール
熊谷真実(くまがい・まみ)
1960年3月10日生まれ、東京都出身。1979年、NHKの連続テレビ小説『マー姉ちゃん』の主役に抜擢され、エランドール賞を受賞。女優として、映像作品や舞台の第一線で活躍を続ける。2016年には、こまつ座の『マンザナ、わが町』で紀伊國屋演劇賞、および読売演劇大賞 優秀女優賞を受賞した。
公演情報
こまつ座 第140回公演『雪やこんこん』
日:2021年12月17日(金)~26日(日)
場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
料:一般8,800円
U-30[観劇時30歳以下]6,600円
(全席指定・税込)
HP:http://www.komatsuza.co.jp/
問:こまつ座 tel.03-3862-5941