童話『ピノッキオの冒険』から着想を得たゼペットの物語。 接触のないもの同士が織りなす交流的特異点

2003年『荒野のマンガン』で旗揚げした「お座敷コブラ」。全作品の脚本・演出を手掛ける伊藤裕一を中心にファンタジー作品からシチュエーションコメディ、サスペンス等幅広いジャンルの作品を発表し、観客を魅了してきた。最新作はカルロ・コッローディ作の童話『ピノッキオの冒険』から着想を得た、ゼペットの物語。コロナ禍で新しい作品創りを試行錯誤する中、“接触のない2人芝居”という境地にたどり着いた伊藤が、人間とAIの対話を1人芝居と朗読劇で描きだす新たな挑戦だ。ピノキオ役には毎回魅力的なゲスト出演者を迎えて贈る“2人”の対話は果たして観る者の心情にどんな変化をもたらすのか? 旗揚げメンバーの1人でゼペット役の古林一誠、そして初日のピノキオを演じる梶原航に本作への意気込みを聞いた。


2人芝居が描き出すそれぞれの時間軸

――――本作の脚本を読んだ印象を聞かせてください。

古林「またとんでもないアイデアを考えたなと思いました。自分は旗揚げメンバーで、伊藤が創りだす世界をずっと見てきたつもりですが、本作は群を抜いて驚かされました。
 脚本にはゼペットを通して伊藤自身の社会についての彼ならではの視点が描きだされています。そういう意味ではゼペットは伊藤自身なのかもしれません。コロナ禍だけでなく、SNSが発達した半面での息苦しさなど、恐らく多くの人が感じているけども口に出せない葛藤をぶつけてきなと(笑)。
 でもその中にも、どこか素直な部分が見え隠れしているので、そこを丁寧に整えた上で上手にお客様に伝えることができればいいなと思っています。“接触しない2人芝居”という設定自体がまず今まで見たことも聞いたこともないし、想像もできないですが、考え方次第では今からいくらでも世界を創っていけるし、アイデアもどんどん出してくれるので、今までにない新しい舞台が創れるのではとワクワクしています」

梶原「最初にお話を頂いた時点で、初稿が書きあがっていたと思います。約8年ぶりにお座敷コブラさんに出るのですが、脚本を読んで伊藤君はこの8年間を戦ってきたんだなと実感しました。
 20世紀前半にアンリ・ベルクソンというフランスの哲学者がいるのですが、時計としての時間とは別に、人間個人の主観としての時間の流れがあると説いているんですね。それを本作に当てはめたときに、ゼペットとピノキオの2人が感じている時間が明らかに違うと分かった時にはこれはすごい面白いぞと感じました。作家・伊藤裕一が描く〈未来と命〉の関係性は〈創り出す時間と与えられた時間〉でもあり。
 そうした相関が色濃く映し出されていると感じたのは、コロナ禍での生活習慣を見直したり、時間について考える機会が増えたことも影響しています。
 発語は、役者として一番関心がある分野ですね。言葉には質感や温度があって、見えない世界だからこそ、それらを駆使することで想像の世界が無限に広がっていく。そこが本作の肝と言えますね。こういうタイミングでこの役を頂けたことはとても有難いことです」

皆でピノキオを育てる感覚

――――ゼペットは1人芝居、ピノキオは朗読で対話をします。劇団としても初の試みが多い作品になります。

古林「梶原さんと初めてお会いした時に初めて観たお座敷コブラの舞台の感想を伊藤のモノマネを交えつつ朝まで熱く語ってくれて、それを僕が感動して泣きながら聞くと言う地獄絵図が広がっておりました(笑)。彼は感じた事を吟味した言葉で伝えることが非常に上手い。その後も彼のお芝居を観ながらこんな色気のある男がいるのかと思っていたので、今回一緒の舞台に立てることがとても光栄です。現在、稽古の9割をリモートでおこなっていますが、梶原さん含めてそれぞれの役者さんがこれまで培ってきたものを惜しげもなく出してくれます。だから『GEPPETTO』という作品名なのに、稽古を通して皆でピノキオを育てているような感覚になっています。結婚式のバージンロードを歩く父親の心情と言いましょうか、第1回の本番で感極まって泣いてしまわないかな(笑)。ここで育てたものが『GEPPETTO』としてどのようにお客様に伝わるのか今から非常に楽しみにしています。
 勿論、リモート稽古では物理的な難しさや台詞の間など、確かにやりにくいこともあります。でもピノキオから投げかけられるのは言葉だけ。稽古の時にカメラを切って音声だけにすることで、従来の稽古で身振り手振りなど、可視化できるものに甘えていたんだなと気付かされました。それはリモート形式だからこそですし、得られるものもあると感じています」

梶原「初めて観たお座敷コブラさんの作品は『A!MAZE』でした。僕は美術アシスタントとして関わらせてもらったのですが、衝撃的でしたね。自分と同年代がこんな世界を創れるのかと。僕は『エレファント・マン』を下地にしているのかと伊藤君に聞いたら、本も読んだことがないとの返答。ゼロからこのアイデアを生んだのか、と。そこからずっと創作を重ねて自分の世界を表現しつづける伊藤君はどうしても意識してしまう存在です。8年前に出させて頂いた時はラスト1シーンだけだったので、今回はその伊藤ワールドを表現する側として舞台に立てることは感無量ですね」

ご自身の気持ちの変化を楽しんで

――――より作品を楽しむ上で意識すべき視点はありますか?

古林「冒頭では『これは何だ?』と驚かれるはずです。それから話が進んでいくうちに、所々で気になるポイントが出てくると思いますが、それはお客様それぞれで違うかもしれません。『ピノキオ』という名作をなぞっているのではないので、全く違う作品と思って頂いて結構なのですが、『ピノキオ』の世界観を重ねて観ることも1つの視点ですね。AIであるピノキオと人間であるゼペットとの対話に生まれる矛盾や葛藤、共感様々な感情に是非注目してください。
 考えても感じても面白い作品ですので、素直な気持ちで観て頂いてご自身の気持ちの変化を楽しんで頂けると気持ち良く観て頂けると思います」

梶原「楽しい事に熱中するあまり時間を忘れてしまった。大失恋をして時間が止まってしまったという経験は誰にもある事だと思います。そういった瞬間と舞台の瞬間がどこかでリンクをするはずです。その感覚を是非楽しんでもらいたいですね」

――――最後に読者にメッセージお願いします。

古林「芝居はお客様に観て頂いてそこで完成します。あらゆる出会いが重なって出来上がった唯一無二の作品を観て頂いて、体感して頂いてお客様に完結させていただければと思います。是非皆様と時間を共有できれば幸いです。ご来場を心よりお待ちしております」

梶原「作家、演出、役者すべてが1つの殻を破ることでしか到達できないレベルがあります。その殻を破るきっかけとなるのが本作です。その様子を是非見届けに来て下さい。劇場でお会いしましょう!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

古林一誠(こばやし・いっせい)
1981年4月29日生まれ、東京都杉並区出身。
お座敷コブラ 俳優・マジシャン。
2003年の旗揚げ当時からお座敷コブラに所属し、現在まで中心メンバーとして活動。説得力のある低音の声を武器に、数多くの作品で存在感を発揮している。幼少期から奇術や忍術に興味を持ち研究を続け、自身でソロライブを行う等、マジシャンとしても活動。俳優とマジシャンのスキルを合わせ、ブライダルでのパフォーマンスや司会、小学校でのマジック指導等も行っている。その他、プロジェクトマネジメント、データベース言語の講師、タイでの海外講演経験、合気道初段など、一風変わった経歴と資格を持つ。
主な出演作品は、芸術によるまちづくり・かわさき2017実行委員会主催公演『パンクドランカー』、コラボスパイス『flower』、ベテル・クリエイティブ・モダン・バレエ・ダンス『小品集』(マジック出演)、はぶ談戯『せいし』、わたあめ工場『丘ノマタ旅』、セカンドライフ『シェアする女たち~2019冬~』、東京MT『Perfect Sick』、密室型マジックライブ『Frame』ほか。

梶原 航(かじわら・わたる)
1984年1月31日生まれ、北海道旭川市出身。
航跡主宰・俳優・演出家。昭和精吾事務所メンバー。新国立劇場演劇研修所第5期修了生、日本シェイクスピア協会会員。シェイクスピアから2.5次元系作品まで幅広く出演。
2007~2019年、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科「即興劇でイノベーションを学ぶ」トレーニングアクターを務め、一般社団法人 国際経営者協会 2012上半期べストプログラム賞受賞。舞台・演技に関するワークショップを定期開催。
主な出演作品は、NHK FM オーディオドラマ、新国立劇場開場15周年記念公演『リチャード三世』、ラゾーナ川崎プラザソル開館9周年記念公演『マクベス』(主演)、ラゾーナ川崎プラザソル開館10周年記念公演『ハムレット』(主演)、KAAT神奈川芸術劇場主催公演『アドルフに告ぐ』ほか。

公演情報

お座敷コブラ 13 畳半公演 『GEPPETTO』

日:2021年12月1日(水)~5日(日)
場:大岡山劇場
料:6,000円(全席指定・税込)
HP:https://ozashikikobura.jimdofree.com/
問:お座敷コブラ
  mail:ticket.ozashikikobura@gmail.com

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