エリア51の連続企画「KAMOME」 『家』『喪』『女 ME』を経た最終章・舞台『カモメ』とは

エリア51の連続企画「KAMOME」 『家』『喪』『女 ME』を経た最終章・舞台『カモメ』とは

 神保治暉を中心としたアートチーム・エリア51による連続企画「KAMOME」がついに最終章を迎える。エリア51「KAMOME」は、チェーホフの『かもめ』の世界を現代日本に置き換え、物語を『家』『喪』『女 ME』の3作に分けて解体し上演したシリーズ。
 『家』では、テーマを「生活」としてトレープレフ視点で描き、『喪』ではマーシャを主演として「生死」を、『女 ME』ではニーナ視点で「恋」を表現してきた。その集大成となる舞台『カモメ』から作品を代表して神保治暉、門田宗大、高田歩、円井わんに話を聞いた。


時間を経て腑に落ちた

―――コロナ禍ではありますが、長期企画を立ち上げ今回で集大成を迎える率直な感想は?

神保「みなさんが予防対策など徹底してくださっているおかげで成り立っていて、感謝しています。この企画の合間に他の作品もやっているので(集大成としては)まだ実感がわいてないです。まだまだやることも多いのでこれからという気持ちです」

―――そもそも『かもめ』を解体することになったきっかけは?

神保「大学の授業で扱ったんですけど、その時はまだ20歳ぐらいで、面白味がわからなかったんです。25歳になって大学の授業を見学させて頂いた時ちょうど『かもめ』をやっていて、生徒たちの取り組みを見て魅力がわかって。色々な要素が複雑に入っていて、だから難しかったのかもしれないと。ひとつずつ分割して噛み砕いていくみたいなことができたらもう少しこの作品がわかるのかもしれない、と思った事がきっかけですね」

―――門田さん、高田さん、円井さん、1つの作品に長く関わり、同じ役を演じることについてはいかがでしょうか。

門田「公演ごとに世界観がちょっと変わったり、その時の神保のモードがある気がしていて、『家』と『喪』をやった時はキャラクター的に近かったけれど、『女 ME』ではだいぶ変わった気がしました。トレ―プレフ役を演じる面で、いろんなトレープレフと旅ができている気もしていますね。最初は(3作品で)役を引き継ごうと思ったんですけど、台本を読むと考え直してもいいのかなという気持ちにもなって、そこから作品ごとに再構築し続けていましたね」

高田「ニーナ役と私が舞台を初めたタイミングが近かったので、最初の『家』の時は、4幕の気持ちが全然わからなくて(笑)。でもやっていくうちに芝居の大変さを体感して、こういう事か!と次の『喪』『女 ME』につなげていけたのは良かったと思っています。ニーナはじっくりと染みていったような感覚です。普通に生活していて、ふと、こういう気持ちなのかな?と役がよぎることも多々あって、1年一緒にいられて良かったなって思います」

円井「最初の『家』の時は、マーシャが精神的に一番しんどかったのかな。『喪』に関しては体力的な方が消耗されていて、『女 ME』には出演していませんが観客として観ていて。私はいないけど、言葉でマーシャを登場させてくれていて客観的に観ることができて、神保さんの舞台ってこういう感じに見えてるのかと思った時に携われて良かったという感覚がありました。
 役作りとしては、全部統一しないでちょっとずらしてもいいのかなと、それが神保さんの見えている「かもめ」の解体なのかなと。ひとりで3つのマーシャを演じて、次は4つ目のマーシャを演じると思っています。根っこの内部が変わらなければ良いのかな」

―――出演していないのに存在しているのはドッキリしますね。

円井「神保さんズルいと(笑)。私がガン泣きするようなセリフを入れてきたんです。客席で震えて、めっちゃ出たくなりました(笑)」

拡大していく感覚と関係性が深まっていく感覚がリンクしていったら

―――過去作で印象深いことは?

門田「メンバーによって空気感が変わっていくことが印象深いですね。稽古場はそれぞれのメンタルが合体して雰囲気が出るので、その時その時の空気感が出来上がっていきます。そして稽古をガッツリ集中してやって、作る人のその瞬間の状態が出るというか、それが舞台の面白味の気がしますね」

―――最初の『家』の時はトレープレフ視点だったので、エリア51メンバーですし門田さんがカンパニーをまとめる的な想いはありましたか?

門田「僕は実は気にしいで」

円井「え! そうなの?(笑)」

門田「そうよ!(笑) 僕つながりの出演者が多かったので、僕がしっかりなきゃとか思うことが多々ありました。『家』の時は特に迎える立場だったので、ちゃんとしなきゃみたいな、ちょっとガチガチで力が入っていたかもしれないですね。なに笑ってるんですか!」

円井「(笑)ガチガチというより、とても和ませてくれたイメージがありました。ありがたい現場でしたね」

門田「結果、楽しかったんです!」

高田「『家』の時、舞台セットが本当の民家だったんです。会場に入って驚いたことを覚えています。『喪』ではギャラリーで何もないところに美術が作られていき、それぞれの空気感が全然違っていて、会場が作りたい雰囲気の後押しをしてくれていたなと思いますね。
 『女 ME』の時は、会場がカフェで外の空気が入ってくる開けた所で雰囲気が凄く合っていて、こんなにも会場と台本の空気感がマッチするのかと印象的でした。次は劇場になるので、会場が空気感を後押ししてくれないから、自分たちで空気感を作っていくのも、また楽しみです。」

―――前3作はカフェなど普通の劇場公演ではなかったので、出演者としてはやりづらい事もあったのかなと推察してしまったのですが、そうではなかったと。

高田「そうなんです。会場に助けられたところがたくさんありましたね。」

円井「私は舞台出演が初めてで、稽古でもどうしていいかわからず、映像で声を張らない芝居をしてきたので、どこが正解なのかと。でも民家やギャラリーで演じて、エリア51の空気感に当てはめていく作業が楽しくなりました。1年かけてやっているので、みんな家族みたいな感じになってきた印象があります」

―――集大成で普通の劇場公演になって逆に良かったかもしれませんね。

円井「いきなり大きな劇場だったら緊張して失神していたかも(笑)。舞台の感覚を掴むには良かったのかもしれません」

神保「劇場って本当に何もなくて(笑)。劇場自体は好きなんです。何をしてもいい、自由であるが故に、何を抽出して乗せるか試されるのが劇場ではないかと。いまは怖さが勝っていますね。台本は現状100ページ以上書いているのになぜかまだ何も書けていないような気持ちもあって。
 でも“人”を乗せたいんです。この1年以上をかけて作ってきた関係性みたいなものが舞台上に乗っかったらいいなと思っていて、その躯体(柱)として『かもめ』を利用するようなイメージがあります。
 場所を意識して書いているので、カフェや空間に助けられたというのは、その通りです。(公演を重ねるたびに)少しづつ規模を大きくしたい想いもあって、拡大していく感覚と自分たちの関係性が深まっていく感覚がリンクしていったら面白いかなと」

『かもめ』であって『かもめ』ではない

 物語はコロナ禍を経た日本が舞台。役者は『かもめ』の登場人物のほかに自分自身も演じていく。
フェイクドキュメンタリーのように。

―――今作はタイトルの『カモメ』の前に“舞台”と書かれています。どんな作品に? 

神保「『かもめ』であって、『かもめ』ではないところを目指しています。内容的にはコロナ後の作品であってほしくて、『かもめ』は色んな人が出てきて社会の縮図のようにひしめき合っていて、誰が悪いということでもないのにすれ違っていく、そのおかしみが面白いポイントだと思っています。その世界観で現代日本を舞台にどう再構築しようかなと考えた時に、コロナを受けて世の中がどう変わったのか、これからどう生きていくのかを盛込みたく思っていて、社会で分断が起きてその煽りを受けてしまっている弱い存在が“生きるぞ”と思える作品になったらいいなと思っています」

―――プロローグの部分がドキュメンタリータッチで描かれていて、神保さんは今作で出演もされます。何を意識して作っていこうと?

神保「僕が出演することは凄く悩んで、構想上出た方が良いことがあったので出演するのですが、どうありのままであるか、『家』と『喪』と『女 ME』をやって劇場公演をする連続性、「KAMOME」に取り組んでいる自分たち自体が凄く『かもめ』的だと捉えていまして、そこにもう一度フォーカスしていく印象です」

―――テーマが「続ける」となっていたので、前作とループするのかと勝手に想像してしまって。

神保「確かに『家』と『喪』と『女 ME』はループしているイメージはありましたが、今作はそのひとつ上のイメージですね。キャッチコピーを考えた時に“舞台は舞台裏”みたいなフレーズが浮かんで。舞台上で大事なことは起こらない、事件はいつも舞台裏で起こる、その余白をお客さまが埋めていくことが演劇の本質だと思うし、舞台上で演じている彼らが彼ら自身を演じている、人格に層があるというところを皮肉っているというか、チェーホフってそういう所があって、それが現代を生きる自分たちとどこかリンクするところがあったら『かもめ』の理解が深まるし、新しい現代劇としても面白味になるのかなと。そこにいま向き合っているところです」

初めていらっしゃる方でも大丈夫です

―――台本を読んだ感想は?

門田「性格悪いな(笑)って思いましたね。演出家は性格が悪くてナンボですけど」

神保「嬉しくないな!(笑)」(全員爆笑)

門田「芝居の中で、演じている時の役と稽古場にいる目線、使い分けが面白そうで、やりごたえがありそうと思いながら読みました」

円井「難しそうだよね、名前の区別がつかない」

門田「そうなの! トレープレフ、カドタ、宗ちゃん。役名と現実世界の役名と、現実世界で演じている人の役名が僕は一緒で」

高田「私はニーナ、ノゾミ、アンヨですが、門田さんは、門田さんと門田さんで」

神保「たしかにそこがバグりはじめているんですよね。門田宗大が門田宗大役を演じていることが溶け込みすぎて、気をつけなきゃと思ったり」

門田「その時その時にとらえられている神保から見た僕が面白いですね、こう見えているんだと」

高田「私は日常でも“素の自分”“社会の外側のベールをかぶった自分”“役”と3役あって。自分とリンクさせて1年間役作りをしてきたので、そこを外から見てもわかるように分けて演じることが今回の課題になると思っています。神保さんの手の上でいつもころがされています」

円井「私はマーシャ、ユノ、ワンコを演じますが、台本を読んで神保さんだなって思いました。生々しくて、聞いたことがあるなって言葉が入っていて。大きな山が目の前にあるなと感じますが、とても楽しみで不安はないですね。千秋楽では燃え尽きそうです」

―――神保さんのお人柄に興味が湧いてきます。神保さんあるあるを教えてください。

高田「わんちゃんも言ってましたが、神保さんと関わっていると、一言でも発したことが神保さんに吸収されていて、それが台本に反映されていくんです」

神保「あははは!」

高田「口癖とか入っていて、けっこう怖いんですよ!」

円井「凄く覚えてるよね。演出家ってこういうことなのかと、びっくりします。逆に話を聞いてない時もあって、そう思っていたら実は聞いてたとか(笑)」

神保「無自覚なんだよね、それ宗大にも言われた、この会話聞いてたの?と」

門田「あと、きのこの山を食べがち」

神保「あはは! 確かに甘いものを食べるかもね。よく何を考えているかわからないと言われます。作品もよくわからなかったと言われることが多いし」

―――今後はどうなっていきたいですか?

神保「迷っています。ただ、いま自分が考えていることを整理したい気持ちが演劇に出てきていると思っていて、それが創作の源泉になっているのかなと思います」

―――最後にお誘いのメッセージをお願いします。

神保「泣いても笑っても最後です。『かもめ』を知らない人も、3作観てきた方も、初めていらっしゃる方でも大丈夫です。必ず何かしら持ち帰ることができる作品にできたらと思っていますので、ぜひ遊びに来てください」

(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

エリア51
令和元年5月1日に誕生した舞台芸術・映像・音楽をはじめ、ジャンルを問わない表現者の集合体。テーマは「社会にはたらきかけるものづくり」。人と出会い相互作用しながら創造のエリアを拡大するアートチーム。

神保治暉(じんぼ・はるき)
1994年12月28日生まれ、埼玉県出身。
2019年「エリア51」を発足、演劇作家として参加。旗揚げ公演『ノゾミ』はクラウドファンディングの支援金をもとに上演。その後もZOOM配信劇、古民家ギャラリーで展示演劇など、映像と演劇の表現形態のさらなる可能性を追求し続けている。演劇人コンクール2021『胎内』演出で奨励賞を受賞。

門田宗大(かどた・そうだい)
1994年12月14日生まれ、東京都出身。
映像・舞台・CMなどで活動中。近作は、映画『今日から俺は!!劇場版』、映画『歩けない僕らは』、短編映画『ステイ・ホーム・ハネムーン』主演、映画『12D815-6』主演・リュウ役など。主演映画『赫くなれば其れ』の公開を控えている。

高田 歩(たかだ・あゆみ)
1995年11月4日生まれ、東京都出身。
看護師として働きながら、2020年より映像、舞台、CM、MVなどで活動中。映画『レミングたち』に渚役で出演し、国内の映画祭で様々な賞を受賞。ほか『トエユモイ』ユミ役、ドラマ『コールドケースIII』、MV『サンライズブルー』『Dang Dang気になる』などに出演している。

円井わん(まるい・わん)
1998年1月3日生まれ、大阪府出身。
映画『獣道』でスクリーンデビュー。近作に、2021年はドラマ『ブラックシンデレラ』(ABEMA)で初のレギュラー出演、映画『KONTORA-コントラ』では初の主演を務めたほか、ドラマ『バンクオーバー!史上最弱の強盗』(NTV)や映画『鳩の撃退法』、『DIVOC-12』などがある。

公演情報

エリア51
舞台『カモメ』

日:2021年12月3日(金)~7日(火) 
場:浅草九劇
料:5,000円(全席自由・税込)
HP:https://www.area51map.net/
問:エリア51 
  mail:manager.area51@gmail.com

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