斎藤友佳理芸術監督のもと、2019年に新制作を果たした東京バレエ団の『くるみ割り人形』。本場ロシアの伝統を大切に、少女マーシャの冒険を幻想的に描いた同団の新たな人気作だ。今年マーシャを踊るのは金子仁美。昨年本作で同役に選ばれ、念願の全幕初主演を叶えている。
「『くるみ割り人形』は子供の頃初めて観た全幕作品で、バレリーナなら誰もが憧れる役。遂にこの役が踊れるんだという喜びがありました」
堂々たる演技で見事務め上げた主演デビュー。だが実はケガに見舞われ、一時は出演が危惧されていた。
「斎藤芸術監督が“今ここで降ろしたら彼女の今後に関わる。信じてるから踊っておいで”と送り出して下さって。いざ舞台に立ったら自分でも驚くほどアドレナリンが出て、緊張感もあまり感じず踊り切れました。なので今回は二度目の挑戦ですが、これがデビューという気持ちでいます」
作中は1幕で少女マーシャを、2幕では金平糖の精を踊る。技術はもちろんその演じ分けも大きな課題だ。
「どちらかというと金平糖の精の方が自分のキャラクターに合っているような気がします。マーシャは7歳の少女という設定ですが、演技が過剰でも足りなくてもダメで、その加減を探るのが難しい。7歳の頃の自分を思い出しつつ、しっかり表現を研究していこうと考えています」
金子は東京バレエ学校を経て2011年に入団。地道にキャリアを重ね、10年目で初主演の座を掴んでいる。
「色々な舞台に立たせて頂きましたが、必死すぎて最初の5年間のことはほとんど覚えていないんです。自分を出せるようになったのはその後から。常に目標を持ってきたけれど、今はそれがより明確になり、もっと成長していきたい、限界まで踊り続けたいと考えるようになりました」
昨年に続き、パートナーはファーストソリストの池本祥真。「絶対身を任せて大丈夫という感覚がある」と絶大な信頼を寄せ、息の合った演技でマーシャの夢物語を体現していく。
「私が一番好きなのはマーシャが王子と出会うシーン。憧れていた男性に初めて会ってワクワクしながら踊る、少女の気持ちを大切に表現していきたい。純粋なマーシャをオーラいっぱいに演じ、劇場全てを物語で包み込んでいけたらと思っています」
(取材・文:小野寺悦子 撮影:間野真由美)
プロフィール
金子仁美(かねこ・ひとみ)
群馬県邑楽郡出身。東京バレエ団ソリスト。6歳よりバレエを始める。11年、東京バレエ団入団。12年、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』で初舞台。20年『くるみ割り人形』で全幕初主演。その他の主なレパートリーに、アシュトン版『真夏の夜の夢』タイターニア、子どものためのバレエ『ねむれる森の美女』オーロラ姫、『ラ・シルフィード』パ・ド・ドゥ、『ジゼル』(ドゥ・ウィリ/ペザント)、キリアン振付『小さな死』、『ドリームタイム』、バランシン振付『セレナーデ』、『ラ・バヤデール』(パ・ダクシオン/8人の巫女/影の王国)、ブルメイステル版『白鳥の湖』(ナポリのソリスト/四羽の白鳥)、『パキータ』ヴァリエーション1、ほか。
公演情報
東京バレエ団『くるみ割り人形』
日:2021年12月10日(金)~12日(日)
場:東京文化会館 大ホール
料:S席13,000円 A席11,000円 B席9,000円
※他、各種席種あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://www.nbs.or.jp/
問:NBSチケットセンター
tel.03-3791-8888(平日10:00~16:00)