旺なつき&阿知波悟美“ふたりミュージカル” ステージに託す夢やぶれ。オールドガールズに起きた奇跡

 旺なつきと阿知波悟美による2人だけのミュージカルとして、2016年夏に初演となった本作。新宿・歌舞伎町の閉店が決まった場末のグランド・キャバレーを舞台に、スターを夢見て上京するも、理想と現実の間で葛藤した末、その夢も間もなく消えようとする女性シンガー2人に起きる奇跡を描く物語だ。旺と阿知波による渾身のステージは多くの観客を魅了し、2度の再演を経てスケールアップ。そして3度目の再演が決まった。

阿知波「お互いに知っていたとはいえ初共演だった旺さんと舞台袖で『2人で何かやりたいね』と話してから形になるまで5年がかかりました。最初はお互いに思いついたことを並べて徐々に形にし、最終的に脚本のまきりかさんにお願いした要素は、『楽屋やバックヤードで物語が始まること』、『2人とも何らかの事情を抱えていること』、『最後は明るいショーで終わること』でした。一度出来上がった本も展開に無理があれば文脈自体も変えてもらう。稽古よりも打ち合わせの時間が長いという状況でしたが、演出の本藤起久子さんがとても柔軟な方で綺麗にまとめてくださりました」

旺「2人芝居ですので、体調やメンタル面など含めて互いを信頼していないと絶対できないと思っています。普段、脚本に口出しすることはありませんが、本作については一字一句、自分たちが背負っていないとできない。私にとっては人生の大きな部分を占める作品です。登場するスミ子とカズエを含め、私たちの年齢の女性は何かしら人生の葛藤を抱えて生きていると思うのです。これまであまり深い話をせずに生きてきた2人が、キャバレーの閉店にともない、お互いの本音の部分を吐露しはじめるんですね。そこを是非、同年代の女性に観てもらいたいです」

 役者だけでなく、人生経験豊富な2人だからこそ、描くことができる世界は多くの共感を生むはずだ。

阿知波「2人の関係みたいなものが、最終的に見えてくることで、スカッとする内容です。特に芝居とショーがそれぞれを生かしていると思います。とにかく楽しんで、観終わったあとにスカッとしていただきたい。それに尽きます!」

旺「楽曲の中に『これからの人生、今日が一番若い』という歌詞があって、私はそれが本作のテーマだと思います。何を始めるのも遅すぎることはない。きっと多くの方の心に引っ掛かる作品です。是非、劇場でご覧になっていただきたいです」

(取材・文:小笠原大介)

子供の頃から変わってないなぁ~と思うところはありますか?

旺なつきさん
「子供の頃、田んぼのれんげがあまりにもきれいで、花束を作ろうと友達と一緒に必死で摘んだ事があります。もうれんげしか見えなくて、ふと気付くと友達はみんないなくて一人ぼっち。真っ暗な田んぼ――。急に怖くなって大泣きしたのを覚えています。『何かに夢中になるとまわりが全く見えなくなる』この性質は変わらないかな? 私を良く知る仲間たちは、『ロム(私の愛称)は、目が合っているのに違う世界に居る事がある』と笑います」

阿知波悟美さん
「いつもでは無いが、気がつくと横断歩道の白いところを踏まないように歩いていたりすること。踏むと悪い事が有るとか、縁起が悪いとかそんな事は全く考えていないのに、何故かそうしています。他にも、何分でこれが出来たら嬉しい。とか、保存容器に食事の残り物を移す時、ピッタリの大きさを選び出した時の嬉しさは格別とか、日々の生活の中に自分への小さな課題を与えて、ささやかな達成感を味わっています。時々、あまりにもバカバカしい事を課題にしている自分に爆笑することもあります」

プロフィール

旺なつき(おう・なつき)
6月19日生まれ、岡山県出身。1977年、宝塚歌劇団に入団、月組男役として活躍。1985年の退団後は舞台を中心に活動。1993年、舞台『コレットコラージュ』第48回文化庁芸術祭賞受賞。2014年、舞台『マレーネ』第49回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞。主な出演に、舞台『ジュディ・ガーラント』、『鬼平犯科帳』、『女系家族』、『桜の園』、『奴婢訓』、『夏の夜の夢』、『ジェーン・エア』、Musical『O.G』など。

阿知波悟美(あちわ・さとみ)
5月16日生まれ、北海道出身。日本工学院卒業後、故・賀原夏子が主宰の「劇団NLT」に入団。28歳の時に『レ・ミゼラブル』初演オーディションに合格し、テナルディエ夫人で出演。2010年、ミュージカル『キャンディード』で読売演劇賞 優秀女優賞を受賞。ドラマや映画では、世話好きなおばちゃんから厳格な母親や上司といった幅広い役どころで多くの作品に出演。2016年、故郷である今金町の「ふるさと応援大使」に任命される。

公演情報

劇団NLT公演 No.167 Musical『O.G.』

日:2023年4月11日(火)・12日(水)
場:博品館劇場
料:S席[前方2列・特典付]7,500円 A席6,000円 ※他、割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:http://www.nlt.co.jp/index.html
問:劇団NLT tel.03-5363-6048(平日13:00~17:00)

インタビューカテゴリの最新記事