劇作家・演出家の古川貴義が、日本大学芸術学部演劇学科在学中に旗揚げし、現在までコンスタントに作品を上演している箱庭円舞曲。現在活動している劇団員は5名。最新作は、豪華客演陣を迎え、11名でお贈りする群像劇。古川と、2016年から劇団員として所属する白勢未生に、作品の展望を聞いた。
―――まず古川さんから、最新作『彼女も丸くなった』についてご紹介ください。
古川「人って丸くなるじゃないですか、色々な意味で(笑)。僕も40歳を越えて、自分自身、色んな意味で丸くなったなあと感じてまして。
友人たちもそうです。かつて瘦せ型でシュっとしていた人に十数年ぶりに会ったら、それはそれは丸くなっていたり。結婚なんてしない!と言っていた人がシレっと籍を入れていたり、田舎で結婚していたり。若い頃に尖っていた人が、カドが取れて性格が丸くなった、なんてことにも興味がありました。
そんな肌感覚からタイトルが先行して浮かんできて、なんとか作品化できないかなあと思っていました」
―――外見も内面も、いろいろな「丸くなる」がありますよね
古川「色んな要素を1人に背負ってもらうのではなく、何人かに分けて物語にしました。外見や内面が丸くなった人の他に、現代にはびこる市民警察(炎上案件に群がって当事者を叩きたがる庶民たち)に怯えて、人前で何かを発言することが怖くなって引きこもって背中を丸めている、そんな風に丸くなっている人の悲喜こもごもも描きます」
―――白勢さんはそのうちの誰か? ですか。
古川「そうなると思います」
白勢「ウン? まだ何も聞いていないんです(笑)」
―――箱庭円舞曲は古川さんが主宰で、2000年に旗揚げですよね。
古川「僕が言い出して周囲に集まった仲間と旗揚げしました。7割は日芸(日本大学芸術学部)の友人で後は高校の後輩とか。でも当時のメンバーは今は誰も残っていませんね……。」
―――白勢さんが加入したきっかけは?
白勢「2014年くらいの公演に客演して、2016年に所属となりました。以前在籍していた劇団であるオムニバス作品の為に古川さんが演出家としていらっしゃって。それが終わったときに箱庭のワークショップオーディションの情報を貰って、それがきっかけですね。そのころ古川さんもいろいろあった頃でしたね」
古川「“劇団”という仕組みに疑問を持って、2013年に1回リセットしたんです。そこから3年くらいは全員外から呼んで、プロデュース公演の形をとっていました」
―――演劇では当たり前だった劇団という形が、これまた多様性というか色々な形に分かれてきている。大きな境目は劇団かプロデュース形式かというところでしょうか。
劇団の維持問題も含めて、話題になるところですが、古川さんの場合はその両岸を往来してますね。
古川「今またコロナ禍のせいでよくわからなくなっていますが、集団の在り方としてアート寄りではビジネスが伴わない。でもビジネス指向だけだと本筋から外れてしまう。その間での綱渡りをしていたんですが、気持ち的にちょっときつくなって、再び仲閒に加わってもらった感じですね。信頼できる人と一緒に作品創作できるというのは心強い部分です」
―――作品の特徴として、日常で起こるちょっとしたズレに注目されるようですが、古川さんの脚本を上演する側として、白勢さん、いかがでしょう。
白勢「かみ合わない会話とか、すれ違いの要素は昔からずっとあると思います。そこをベースにコミュニケーション、人との関わりについて触れていくのが古川さんの根底にあると思います。コミュニケーションのズレと個人のズレ。そんなすれ違いを積み重ねていくような。でも以前は人を辛い気持ちにさせる脚本が多かった気がします。箱庭の作品は群像劇なので、誰かが確実に悪者になる空気感がうまれるんです」
―――観ていて痛々しい感じ?
白勢「そうですね。誰かが悪役になって」
古川「悪役になった人が本当に悪いのか、実はその人を悪役にしてしまっている周囲との関係性が悪いのか。『あの人が悪役なんだ!』と観客全員が思ったとしても、悪役の側にも正義があって。
だとすれば、悪役が悪役に見えるということは、その人が純粋に悪いのではなく、関係性の中で導き出された悪でしかない、その関係性の一端を、お客さまも担っている、という構図が面白かったんです」
白勢「参加したころはそうだったのが、最近は変わってきました。集団で責め立てなくなりましたね」
古川「当時は、東日本大震災の後に生まれた、マスヒステリーみたいな部分に注目していたんです。今はそれも一段落して、個々のサブカル化が極度に進行している感覚があります。そこをすくい取ろうとしています」
―――2020年からのマスク騒ぎから、まさにマスヒステリーは未だ継続していますが、今回の作品はそれへのアンチテーゼになりますか?
古川「実はそういった作品を昨年2本書いてしまったので、問題意識としては結構スッキリしちゃいました(笑)」
―――そうするともっと未来志向に進んで行く?
古川「そうですね。“丸=円”って大団円とか明るいイメージもありますから。その先の光を見たいなと思って。ただ、今感じている空気感や感覚は、来年にはもう古いんです。だからこそ今の、僕自身の肌感覚と社会の肌感覚をすくい上げたいと思っています」
―――役者陣は11人ですね
古川「劇団員4人に客演が7人。年明けにオーディションもやりました。11人の群像劇です」
―――そして劇場は新宿のシアタートップスです。ちょうど旗揚げ当時は前期トップスの全盛期でしょうか。
古川「聖地です。高校時代に、入口は三谷幸喜さんのお芝居やナイロン100℃といった、当時ブイブイ言わせていた演劇をビデオや深夜の舞台中継で観て演劇にひかれていったこともあるので。シアタートップスでは、当時は名だたる団体がやっていましたよね。
僕達も目指していて、駅前劇場、ザ・スズナリでやらせてもらえるようになって、いよいよトップス!と思っていたら閉めちゃった。あの喪失感は大きかったです。だから復活してくれて芝居が掛けられるのは夢がひとつ叶った感じ……。一時は一生叶わなくなったと思っていましたから。凄く盛り上がっていますが、その分プレッシャーも大きいです」
―――そんな気持ちをメッセージとするなら?
古川「箱庭円舞曲はシアタートップスが似合うね、と周囲から言われながらできていませんでした。しかも僕達は新宿の街の雰囲気にも馴染む劇団だと思います。いよいよ登場となりますから是非劇場に足を運んでいただきたいです」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
古川貴義(ふるかわ・たかよし)
1980年.高校時代に演劇に触れ、日本大学芸術学部に進学。在学中の2000年に箱庭円舞曲を旗揚げ。以降、全作品の脚本・演出を務める。日常会話に潜む、ズレたコミュニケーションの可笑しみをベースにした会話劇を展開する。戯曲の本質を読み解き俳優の個性を活かす細やかな演出と、思い切りの良いダイナミックな空間演出の双方の手腕を買われ、脚本提供のほかに外部演出でも活躍中。主食はラーメンとコーヒー。
白勢未生(しらせ・みお)
長野県生まれ、福岡県・愛知県で育つ。高校時代に観た映画『映画舞妓Haaan!!』で、ブリーフで街中を走っても警察に捕まらない職業があることに衝撃を受け、京都造形芸術大学 映画学科に進学。卒業後は京都でしばらく舞台出演し、その後上京。映画『キツネ窓の群星』で、第一回京都造形芸術大学 映画学科アカデミー賞 主演女優賞を受賞。また、NICE STALKER『ロリコンのすべて』で佐藤佐吉演劇祭2015 優秀主演女優賞を受賞した。
公演情報
箱庭円舞曲 第二十九楽章
『彼女も丸くなった』
日:2023年4月12日(水)~18日(火)
場:新宿シアタートップス
料:前売4,500円 当日5,500円
初日割引[4/12]3,500円
HP:http://hakoniwa-e.com/
問:箱庭円舞曲
mail:mail@hakoniwa-e.com