生存を脅かす脅威に追われて地下に逃げ込んだ人間達。そこには歳をとらない女神がいて、岬の灯台には怪物が住んでいると教えられ、地下道で育ったひとりの少女がいた……。エンターテインメントを追求した作品を発表し続けるENG。2023年初頭の新作は、これまでも多くの作品を提供している福地慎太郎の書き下ろしストーリー。一体どんな話になるのか。福地と、主要キャストとなるシミズアスナ、栗生みな、高田淳の4人に話を聞く。
―――今回の作品は、以前ENGで上演した『missing ~強がり彼氏と食べちゃう彼女~』の続編ですか?
福地「ええ。つまり『missing』というシリーズの2作目ということです。1作目で、人間を食べたいという欲求だけで動いている、ほぼゾンビのようなEATERという存在がいる世界を描きましたが、その世界観を引き継ぎます。前作から3人くらいはキャラクターを引き継ぐものの、それ以外は全く新しいストーリーなので、前作を知らなくても全く問題は無いです。1作目では“食”、今作では“性”をテーマに、最終的には人間を応援できるような話にしたいと思います」
―――今日ここにいらっしゃる高田さん、シミズさん、栗生さんはどんな役回りでしょう。
福地「ネタバレになるのであまり話せない事もあるのですが(笑)。シミズさんは主人公の少女で、栗生さんはそのお母さん。ただ、歳をとるのがとても遅く、お母さんなのに見た目が娘とそれほど変わりません。そして高田さんは岬の灯台に住んでいるものすごく強い怪物。共に人間とゾンビ両方の特質を持つ存在です」
―――ただ強いだけでなく、知性も残している怪物だそうですよ。高田さん。
高田「ええ。役柄についてはある程度聞いています。でも割と僕は知的、インテリジェンス系のキャラクターが多くて、今回のように強い獣のようなキャラは珍しいですね。でも演じ易い役は自分の中に作り方がわかってしまっているので、いつもと違う役の方が作り込んでいくのが楽しいです。殺陣も40歳越えたらもういいんじゃ無いかと思っているんですが(笑)、身体が動く限りは挑みます」
福地「多分めちゃくちゃ有りますよ(笑)」
―――栗生さんは今回母親役ですね。遂に来た、という感じでしょうか?
栗生「ずっと以前に1度やったことあるんですよ。でも今回は見た目は歳をとらず、内面だけ歳を重ねるということなので、そのキャラクターをどう表現するかが楽しみです。彼女が純粋な人間だった頃が大事だと思うので、そこをしっかり作り上げたいです」
―――そして人間が逃げ込んだ地下で生まれた少女が、シミズさんですね。
シミズ「最初にお話をいただいてメンバーを見た時に、こんなに素敵な皆さんとご一緒できるならどんな役でも参加したいと思いました。それがまさか主演とは。最初はドッキリだと思ったくらいです(笑)。だってENGさんの作品に参加するのはまだ2回目で、最初は『ラストスマイル』のWキャストでしたから。それだけに光栄です。世界観や設定を伺うと、きっとこれは成熟しすぎていたら駄目な役だと思いました。私はまだまだ未熟なことを自覚しているので、そんな部分が役柄とリンクできたら良いなと思います」
―――ちょっと意外な気がするんですが、栗生さんもシミズさんと同じく、2回目のENG作品ですね。
栗生「ええ。でもENGさんの作品は大好きです。キャストも素敵だし、話も絶対面白い。なんか安心感があるんです」
シミズ「信頼感がありますよね。だから舞台見たことがない友だちを連れて行くならENGさんの舞台だと思っています」
―――この作品は、EATERに追われて地下に立てこもった人間達の物語とのことですが、足止めされるというのはここ3年のコロナ禍に似た状況とも思えませんか。
福地「15年間地下に閉じ込められていた人間は、その環境下で暮らしやすいように努力して状況に順応する。影響はあるかも知れませんね」
―――今、ある程度コロナ禍を抜けつつあるとして、そうやって抑えられた状況がご自分に影響したところはありますか?
シミズ「コロナ禍になり出演舞台が7本くらい無くなってしまい、苦しさと同時に、自分ってこんなにお芝居が好きなんだと改めて思いました。最近ようやくお芝居ができるようになったとはいえ、千秋楽までできるかどうかわからないプレッシャーは、作品の中で精神を削るよりも大きくなっています。この期間を経て、それでも役者を続けていこうという強い想いを手に入れました」
栗生「アスナちゃんのTwitterは凄い演劇愛を感じるツイートが沢山あって、それを見ながら自分も頑張らなきゃと思います。
私はコロナ以降に配信を始めました。でもやっぱり根っこは演劇で、配信も演劇に繋げる為のものですけれど。ただ配信を通してまだ演劇を知らない人に沢山会えました。演劇が再開したらそういった方に演劇の楽しさを感じてもらえればと思います」
高田「人と会わなくなりました。飲み会も減りましたから。あと小劇場だと終演後にお客さまとの面会がありましたが、それがないのは寂しく感じます。僕はあの時間が大好きだったので。でも運が良くて、あまり中止公演にはあたらなかったんです。配信もトライしようかと思いましたが、なんだか合わない気がして(笑)」
福地「確かに家で呑む機会が増えましたね。でもそこで今まで自分は色々なことに『流されてきた』ことに気づきました。例えば大勢で飲みに行くのは何となく流されているわけで、それは楽なことです。
でも1人になって、家で『呑む』かどうかは自分で選択すること。意図を持って選ぶことで、そこからさらに自制心が生まれるなど、そういった自覚をするようになりました。さらに個人が意図的に選択するようになっても、共通項が出てくる。そんな人間らしさを意識するようになりました」
―――では最後に皆さんからのメッセージをいただきます。
高田「まだまだ状況がハッキリしません。我々からすると演劇の幕が開いて終わることは“当たり前”ではなく、奇跡的であることを、この数年意識するようになりました。でもいらっしゃるお客様は、奇跡などと大仰な意識はせず、気軽な娯楽としておいでいただきたいです」
栗生「皆さんと出会えたことと、この記事を読んで貰っていることは必然だと思います。もしも舞台を観たいと思ったらその気持ちのまま、私達と一緒の時間を過ごして貰えれば嬉しいです」
シミズ「ENGさんの今年1本目ということで、気合いも入っていますが、その気合いを緊張ではなく、ワクワクした楽しい気持ちに変えて稽古場から劇場まで突き進んでいきたいと思っています。その波に呑まれるようにおいで頂きたいです」
福地「この3人だけでなく、他にも素晴らしいキャストが揃っていて、その全員を自慢したいくらいです。作品に活かし、座組として一団となって皆さんにお届けしたいので、是非おいで下さい」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
福地慎太郎(ふくち・しんたろう)
栃木県出身。作・演出の他、俳優や声優としても活躍。2003年にDMFに入団し、その後数多くの作品に出演。作・演出家としても多数の作品に関わっている。
高田 淳(たかだ・じゅん)
埼玉県出身。松濤アクターズギムナジウム 俳優部基礎科修了後、アクションや時代殺陣を学ぶ。主な出演作に、舞台『刀剣乱舞』无伝 夕紅の士 -大阪夏の陣-、Pay it Forward Project 第一回主催公演『ヨミガエラセ屋』、X-QUEST 2015 WINTER PERFOMANCE『義経ギャラクシー ~銀河鉄道と五条大橋の999~』、『独りぼっちのブルース・レッドフィールド』など。2015年度佐藤佐吉賞にて最優秀助演男優賞を受賞した。
シミズアスナ
東京都出身。3歳からクラシックバレエを学び、現在まで継続している。20歳でレティクル東京座に入団し、2021年の解散まで劇団員として活動。現在は役者としての活躍の場を広げ、特徴的な声色とクラシックバレエ仕込みの身体表現を武器に多くの作品に出演。ENG作品には2019年のDMF/ENG提携公演vol.5『LAST SMILE -ラストスマイル-』に出演している。
栗生みな(くりゅう・みな)
長野県出身。俳優・アーティストとして幅広く活躍中。俳優としては、ENG第七回『ロスト花婿』を始め、90を超える舞台公演に出演。また第15回札幌国際短編映画祭2020 インターナショナル・コンペティション ジャパンプレミア部門入選作品 短編映画『Twilight』の主演など、映画にも出演している。アーティストとしても自らがプロデュースする「LASHISAPOSA」など多くのライブで音楽を通じて物語を届けている。
ENG
役者・佐藤修幸が2013年よりプロデュース団体として旗揚げ。以降20本以上の舞台をプロデュースする。2019年2月より株式会社ENG-AGEとしても活動。代表作として、DMF/ENG提携公演vol.5『LAST SMILE -ラストスマイル-』、『ロスト花婿』、松本稽古企画公演『ココロ踊ル』supported by ENG vol.1『ダンスピアの消失』などがある。
公演情報
ENG第17回公演『missing ~混血のハッシュタグ~』
日:2023年3月8日(水)~12日(日)
場:六行会ホール
料:SS席[最前・2~3列目のセンターブロック]8,000円 S席[2~3列目のサイドブロック・後方4列以外]6,500円 A席[後方4列]5,500円(全席指定・税込)
HP:https://eng-age.site/missing/
問:ENG mail:dear.eng.info@gmail.com