新たなメンバーを迎えた鵺的、渾身の新作公演 ある脚本家を取り巻く10人の女たちが巻き起こす物語

 脚本家・高木登の作品を上演する演劇ユニット鵺的。ウェブサイトの紹介文に「アクチュアルな題材を悪夢的に描くことを特徴としています」とあるが、演劇空間が作り出す非日常空間を、人間の本質が内包する負の漆喰で塗り固めたような独特の空間で物語を躍動させる作風は、麻薬的ともいえる魅力をはらんでいる。
 その鵺的は、しばらく脚本で主宰の高木と宣伝広報担当の加瀬、そして構成員である唯一の俳優・奥野亮子の3人による体制だったが、一昨年奥野が脱退。入れ替わりに3人の女優が構成員となった。旗揚げ当時は2人の俳優を擁し、その後奥野1人となったので、今回の3名加入で第3期というべきフェーズに突入したといえるだろう。そして3月には新加入の3人も参加する新作『デラシネ』を上演する。出演者は男性ひとりと10人の女性というこの作品について、脚本の高木と新たに加わった小崎愛美理・堤千穂・とみやまあゆみに話を聞く。

―――新作『デラシネ』はひとりの男性を10人の女性が取り囲む、そんな物語ですか?

高木「佐瀬弘幸さんが演じる脚本家と、その奥さんと娘、作品を書かせている弟子、テレビ局の関係者、そして彼の愛人といった女性たちをめぐる物語です。市川崑の『黒い十人の女』という映画がありますが、ああいう物語を現代的な価値観で発想したらどうなるんだろう……と思ったのがはじまりでした。うちは出演者に女性が多く、さまざまな女性問題を認識する機会がありました。そうしたこともきっかけになっています」

―――その脚本家を巡ってのドロドロした話になるのでしょうか。

高木「あまりドロドロしたものにはしたくないですね。コメディでも社会派でもない、いわゆる『重喜劇』にしたいなと。『バロック』や『悪魔を汚せ』のような幻想怪奇系の作品は当面封印しようかと思っています。現実に根ざしたフィクションを構築することにしばらくは専念するつもりです」

―――キャストには昨年新たに加入した3人(小崎・堤・とみやま)のほかに、同い年の女性ユニット“チタキヨ”の4人がまるごと参加しますね。

高木「チタキヨの皆さんとは以前から交流があり、チタキヨ全員にご参加いただくことは以前から目論んでいました。最初は役者さん3人だけのキャスティングを考えていましたが、やはり米内山陽子さんにも出てもらいたくなりまして、結局4人全員にご参加いただくことになりました」

―――では新加入された皆さんから、きっかけやこれからの抱負を聞かせてください。

とみやま「3人が構成員になったことを発表して1年くらいたちますが、ようやく初めて揃って出演する舞台になります。当初高木さんからは『修羅』を書き直すと聞いていたのですが、大幅に変わるようで、どうなるかわからなくなりました。真摯な気持ちで一生懸命頑張りたいと思います。
 鵺的の作品にはこれまで3作品参加しています。サンモールスタジオで上演していた『夜会行』を観に行った際、高木さんからサシで話したいと言われまして(笑)。高木さんの脚本はどんどん言葉が洗練されていっていると感じていたので、同じ船に乗ってみようかと思いました」

堤「コロナを経験して価値観が変化したことで、劇団に入ってもいいかな、と思えました。抱負は、この1年くらい演劇界が暗くなっていると思っていたので、現場を明るくして、みんなで楽しく作品を作りたいです。バカみたいですけどそれが大切なことだなと。
 私はこれまで本公演には参加していませんが、特別公演や『鵺的トライアル』には全部出ているので、自分がトライアルのメンバーだと思っていました。他には小崎さん、奥野さん、そして川添美和さんがいたのですけど」

高木「トライアルは本公演ではやらないような企画をやろうと思って始めたもので、いつもはあまり使いたくないと思っていた映像を多用した『フォトジェニック』が最初でした。そのとき出演していただいた4人(奥野・川添美和・小崎・堤)の相性がすごくよかったので、この先トライアルはこの4人を中心にやったらどうだろう、と奥野さんに提案したら『それは素敵なことだ』ということになって同じメンバーで続けることにしたんです」

小崎「『構成員にならないか』と、ある日、高木さんから突然電話がかかってきました。びっくりしましたが……。私の主宰する“フロアトポロジー”という団体がコロナ前から本公演ができていなかったこともあり、これもタイミングなのだろうと感じ、お受けすることにしました。団体のためにも自分のためにも、自身の経験値を増やしたいと思ったんです。」

―――3人揃って、ということで心強さもありますか?

堤「すごく安心感があります」

とみやま「お互いに以前から知り合いで、小崎さんのフロアトポロジーにも呼んでいただいたこともありますし……」

小崎「なんだかんだ3人とも性格が全然違っていて、いいバランスになっていると思います」

とみやま「高木さんがどう見ているかはわかりませんが(笑)」

堤「稽古に入っても喧嘩せず仲良くできたらいいな、とおもいます(笑)」

小崎「『バロック【再演】』の時、劇団員は私1人だったんです。勝手もわからなくてオドオドしていたので、堤さんが助っ人として稽古場に来てくれたときは、本当に嬉しかったです」

―――周囲の反応はどうでしたか。

堤「高木さんの作品には何度か出ていたので、演劇に詳しくない友人にはもう劇団員だと思われていました。劇団という組織にはもう加入したくないと思っていた時期もありましたが、今回の加入を昔所属していた劇団の先輩にも報告をして、感謝の気持ちを伝えました。正式に構成員になっても作品に向かう姿勢に変わりは無いですけれど」

小崎「みんな驚いていました。特にこの3人が揃って加入することに。『鵺的が変わる?』と。それに私は劇団を掛け持つことについても驚かれました。ここで得たものをフロアトポロジーにも反映できればいいなと思います」

とみやま「驚きと納得と期待といった反応でしょうか……。あとはこの作品の結果次第でしょうから、ぜひ第3期の第一歩に立ち会っていただけたら嬉しいです」

―――ところで今回の劇場はシアタートップスで、これまでに数多くの劇団が拠点にして、閉鎖の時にはずいぶんと惜しまれた劇場です。それだけに再開にあたってはいろいろな想いを持つ演劇人が多いのですが、皆さんはどうですか。

高木「僕にとっては東京サンシャインボーイズの一時期の拠点というイメージですが、まさか自分の芝居がトップスにかかるとは思わなかったですね。でも取り立てて特別視せず、気負わずやろうとは思っています」

堤「早稲田大学演劇研究会にいた大学1年生の時、何度かお手伝いにいってました。いつか私もこの舞台に、と思っていたらなくなってしまって。純粋に憧れていました。今はその当時と比べるとだいぶ近しい存在になった気がします」

小崎「素直にうれしいし、楽しみです。私が小劇場を知った頃にはもうトップスは閉まってましたが、再開後に何作品か観にいきました。素敵な劇場だなと思います」

とみやま「大学生のころからとてもお世話になっている、演劇企画集団THE・ガジラの鐘下辰男さんがトップスで上演されていたというお話を聞いていたので、劇場がもう無いのかと、切ない気持ちでした。高木さんと同じであまり気負わないようにしたいです」

―――脚本家には演出にも関わるタイプと、まったく関わらず書くだけというタイプがいますが、高木さんはどうですか?

高木「書いた後は基本演出家にお任せしていましたが、これからは少し口を出すようにしようと思っています。仕事でやる作品とは違って、鵺的の場合は主宰でもあり、責任がともないますからね」

―――では最後に高木さんの抱負を聞かせてください。

高木「さまざまな思惑があって、3人に加入してもらいました。それは団体の活動のなかでおいおい明らかになっていくと思いますが、まずは3人全員そろっての初舞台になりますので、華やかなものになればいいなと思っています。お客様にもご参加いただいての祝祭のような時間にできたら、というのが今回の抱負ですね」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

高木 登(たかぎのぼる)
東京都出身。2009年に「演劇ユニット鵺的」を旗揚げし全作品の劇作を担当。たまに演出も手がける。2021年、牡丹茶房の赤猫座ちこと「動物自殺倶楽部」を旗揚げ。そちらもたまに公演をする予定。

小崎愛美理(こさきえみり)
2000年からミュージカル子役としてツアーを回る。2013年に「フロアトポロジー」を旗揚げ。2014年以降、全作品の演出を担当。映像ディレクションも行っている。鵺的には、鵺的トライアル vol.1『フォトジェニック』、鵺的トライアル vol.2『天はすべて許し給う』、オフィス上の空6団体プロデュース「1つの部屋のいくつかの生活」参加作品『修羅』、第15回公演『バロック【再演】』に出演している。

 千穂(つつみちほ)
2005年に早稲田大学演劇研究会で演劇を始める。2006年~2010年、劇団三年物語の劇団員として活動。退団後10年余りはフリーでJACROW、あやめ十八番、TRASHMASTERSなどの舞台へ出演。鵺的への出演歴は本公演以外の全作品。たまにドラマやCMでも活躍。

とみやまあゆみ
神奈川県出身。桜美林大学総合文化学群演劇専修卒。俳優活動と並行し、劇場や小学校などでの、演劇ワークショップのファシリテーションを展開している。鵺的には第7回公演『この世の楽園』に出演。その後『鵺的第一短編集』、tsumazuki no ishi×鵺的合同公演『死旗』に参加している。

公演情報

演劇ユニット鵺的第16回公演 デラシネ

日:2023年3月6日(月)〜12日(日)
場:新宿シアタートップス
料:4,800円
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席指定・税込)
HP:http://nueteki.org
問:J-Stage Navi
  tel.03-6672-2421(平日12:00〜18:00)

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