エチュード密室劇『いい人間の教科書。』を元に初の全編戯曲化 師走の東京。突如として1つの空間に閉じ込められた、ある4人の人生

 舞台のみならず、映像作品でも比類なき才能を見せる來河侑希が主宰し、スリリングで脆く、不確かな“人”を通して輝く固い作品を送り出すことを目指す劇団アレン座(スワル)。
 2022年を締めくくる第9回本公演は、演出と脚本を手掛ける鈴木茉美と役者達が約3年かけて点と線を繋ぎ紡いできたエチュード(即興劇)、舞台『いい人間の教科書。』(以下、“イイショ”)をもとに、初めて全編戯曲としてゼロから書き下ろした『点滅』だ。初雪が舞う師走の東京を舞台に、ある空間に閉じ込められた4人の人間の姿を描く本作は、劇団員4人のみによる都内劇場3ヶ所でのロングラン公演と初めての試みづくし。鈴木が語る「“イイショ”の要素は残しつつも、全く新しいものになる」という新作は果たしてどんな世界になるのだろう。鈴木を含め、劇団員の栗田学武・磯野大の3人に本作への意気込みを聞いた。

―――“イイショ”は突如として密室に閉じ込められ、それぞれの罪を持った人間の業をあぶりだす、全編エチュードによるワンシチュエーション密室劇として劇団の代表作となりました。本作はそこをベースにしながらも全く新しい戯曲として描かれます。

鈴木「エチュードという形式で役者さん達と一緒に“イイショ”を創ってきましたが、劇団に竹中凌平という新メンバーも加わったことで、劇団員だけでやってみようというのと、“イイショ”の原点みたいなものを描いてみたくて、今回は戯曲という形をとることで私のやりたいことを詰め込むことにしました。でもこれまでの作品をなぞるのではなく、“イイショ”を念頭に置いた上で全く新しい戯曲として描きたかったので、着想は一緒ですが、全く違うものになると思います。
 一方で4人の人間が密室に閉じ込められているという部分は同じ要素とも言えますし、それでも今まで観て下さった方には『あ、ここは一緒だ』と分かってもらえて、初めて観る方には新鮮に感じてもらえる作品になっていると思います。
 物語は師走の東京が舞台ですが、そこにも意味を持たせていて。私、年末になると今年は何が出来たかな?と振り返ってみたり、来年の目標について考えたりするんです。『私も』と共感してもらえる方も多いと思うのですが、自分がお客さんだったら年末にこそ観たい作品をという着想もあるので、是非期待して頂けると嬉しいです」

―――キャストの皆さんから見た本作はどのような印象がありますか?

磯野「何作もエチュードで創ってきた“イイショ”に今回、台詞がつくことで、また違った緊張感があります。久しぶりに劇団員だけで演じることができるので、各自が経験してきたものを、どう台詞に落とし込んでいくか。そこはエチュードでの作業とは大きく変わってくるだろうと感じています。ですが劇団員同士が持てる互いの信頼も生かしてできることは沢山あるはずなので、一ヶ月の稽古の中でより密にできるのではと思っています」

栗田「“イイショ”自体はエチュードで創っていく性質もあり、茉美さんの糸に操られながら我々役者が踊らされているイメージがありますが、もっと茉美さんの哲学や考え方を言葉にして作品に入れたいと劇団として考えていました。エチュードを通して我々のことを1番知っていますし、台詞を通した僕達の言葉でありながら、茉美さんの思想がミックスされているすごい深い作品だと思います」

―――エチュードと戯曲という手法以外で、本作と“イイショ”が違う部分はありますか?

磯野「前回の“イイショ”は茉美さんが敢えてゴールを決めないことで、僕らはそのゴールを見つけるまで僕ら役者は何時間も無言で試行錯誤をしていました。その一言が出るまでどれだけかかるんだろうという産みの苦しみはありましたが、今回は逆に結末というゴールがあるので、そこから逆算して考えていく感じになるのではと思います」

栗田「僕の中では正直、本作が“イイショ”か?と言われたらそうではないという感覚があります。とは言え、4人の人間が置かれている状況があるメタファー(比喩)になっていると言いましょうか、想像したらかなりゾッとする展開でもあり、またそれがこの現代社会ともつながっていたりして、どこまで深い作品なんだろうと思えます。“イイショ”では役者1人1人にスポットが当たるとも言えますが、戯曲化することでより作品としての作家の哲学が強くなると感じました」

鈴木「その人が生きてきた環境や受けてきた教育というものを念頭に置いた上で、フィルターを通さずにそのまま出したのがこれまでの“イイショ”だったのかなと思います。
 本作ではそういった背景を意識した上で、敢えて人と関わること上でのフィルターを作りました。より人と人のコミュニケーションを意識したとも言えますね。加えて、今までは1人1役が基本でしたが、今回初めて1人が数役を演じます。そういう意味では大きなチャレンジですね」

磯野「え? 1人複数役!? それは全くの初耳です。この取材を通してどんどん新しい情報が出てきますが(笑)」

一同「(笑)」

磯野「僕は21年7月に上演した『ホウム』という作品でも、男性と女性役を演じたのですが、男性がやるふざけた女性役ではなくて、本当にこういう女性いるよねといった感じで茉美さんは役を作ってくださったので、今回もアレン座ならではの複数役になるんじゃないかと。だからこそ、より体力勝負なりますね(笑)。でも体使って頭使ってなんぼの世界だと思うので、闘ってやろうじゃないと意思を固めています!」

―――改めて本作の見どころと、読者へのメッセージをお願いします。

鈴木「今回は劇団員4人のみ、都内3劇場公演という挑戦だらけの公演で、今まで以上に気合が入っています。アレン座のファンに方にはきっと重い作品でまた覚悟していく必要があるんじゃないかと思われる方もいるかもしれませんが、今回は決してそんなことはなく、新しい劇団アレン座の方向性を提示できる作品になると思いますし、初めての方にも楽しんで頂けるはずです。一年を演劇で締めくくるにはピッタリのエンターテインメント作品ですので、是非、皆様のご来場をお待ちしております」

磯野「初の劇場員のみによる公演、初の3会場公演、そして初のロングランと、とにかく初物づくしです。心から信頼できる劇団員、鈴木茉美さん、スタッフさんと最強のチームと共にお客様に最高の作品をお届けできるように全力で取り組みたいと思います。生で観る演劇は格別な体験ですので、是非多くの皆様に劇場に足を運んで頂ければと思います」

栗田「鈴木茉美さんと劇団員たった4人の劇団ですが、各自それぞれのジャンルで活躍していて、皆が得てきたものが集結することでまた新たな化学反応を生み出すと思いますし、稽古が今から楽しみです。全20公演、人生を賭けて取り組みたいと思います。
 僕自身、お芝居自体が気軽に観に行ける文化になればいいなと思っていて、今日時間が空いたから観に行こうかというぐらいの気軽な気持ちで来て頂ければ嬉しいです。それにはうってつけの作品です。お忙しい師走の時期ですが、是非お越し頂ければ嬉しいです」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

鈴木茉美(すずき・まみ)
1月30日生まれ、静岡県出身。日本演出者協会員。大学で心理学(主に臨床心理)を専攻していたこともあり、人間心理の深層を追求している脚本を得意とする。最近では社会心理や行動心理、発達心理にも興味を持つ。俳優とは、役について納得がいくまで話し合う。教員免許を取得しており、新人俳優には自身で成長できるよう役への考え方・向き合い方を丁寧に教え、また役者自身の知らない自分に気づかせる演出手法を用いている。沖縄のシングルマザーを描いた、映画『遠いところ』の共同脚本を務め、第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のクリスタル・グローブ部門にノミネートされた。脚本・演出を務めたhappy happy dreaming vol.12×4121『TOU -JYUKAI-DEN- ◻』が、2018年伊藤熹朔賞(舞台美術:小池れい)のファイナリストに選出。佐藤佐吉賞2021に2作品がノミネートされ、劇団アレン座 第6回本公演『秘密基地』は映像効果にて特別賞を受賞。門真国際映画祭2021 舞台映像部門でも、Allen suwaruプロデュース公演『いい人間の教科書。』東京・大阪ver.と、劇団アレン座 第3回本公演舞台『積チノカベ』の3作品が最終候補に選出される等、軒並み演出作品が注目され始めている演出家である。

栗田学武(くりた・まなぶ)
1985年6月7日生まれ、大阪府出身。劇団アレン座所属。劇団方南ぐみ企画公演 朗読舞台『逢いたくて』の他、『大正浪漫探偵譚』シリーズ、『-JYUKAI-DEN-』シリーズ等、人気作品に続々と出演。出演した映画『Come and Go』(リム・カーワイ監督)が第33回東京国際映画祭・第24回タリンブラックナイト映画祭に、初主演作の映画『未曾有』(工藤将亮監督)が第25回タリンブラックナイト映画祭「Rebels with A Cause」コンペティション部門にノミネートされるなど、近年では映画作品にも出演する。

磯野 大(いその・だい)
1992年12月14日生まれ、千葉県出身。舞台『刀剣乱舞』慈伝 日日の葉よ散るらむ、舞台版『PSYCHO-PASS サイコパス Chapter1―犯罪係数―』、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』”最強の挑戦者(チャレンジャー)”など人気作品に多数出演している。近年では、第25回タリン・ブラックナイト映画祭「Rebels with A Cause」コンペティション部門ノミネート作品『未曾有』(工藤将亮監督)に出演するなど、映像作品でも注目を浴びた。同作はTAMA NEW WAVEのある視点部門でも上映されている。

公演情報

劇団アレン座 第9回本公演『点滅』

日:2022年12月7日(水)~31日(土)
場:サンモールスタジオ
  アトリエファンファーレ高円寺
  下北沢 小劇場 楽園
  ※日時・会場の詳細は団体HPにて
料:一般席4,500円
  ペア割引[2枚1組]8,000円
  プレ公演チケット[12/7]4,000円
  U-18チケット[18歳以下]2,500円
  (全席自由・整理番号付・税込)
HP:http://allen-co.com/allen-tenmetsu/
問:劇団アレン座 mail:info@allen-co.com

インタビューカテゴリの最新記事