新たな構想と新脚本でカリオストロ伯爵夫人視点の物語が生まれる! 凝縮された作品のなかで、悪の鎧を纏った女性の真実を演じたい!

新たな構想と新脚本でカリオストロ伯爵夫人視点の物語が生まれる! 凝縮された作品のなかで、悪の鎧を纏った女性の真実を演じたい!

 去る9月、6年ぶりに上演された代表作『トーマの心臓』を大好評のうちに終えた劇団スタジオライフが、『La Passion de L’Amour -「カリオストロ伯爵夫人」より』を上演する。スタジオライフは2013年に音楽劇『アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』として同題材を扱った作品を上演しているが、今回は物語の視点をルパンから女盗賊カリオストロに移した、全く新しい形態で生まれ出る作品となる。
 そんな舞台で、カリオストロ伯爵夫人役を演じるのが、2013年上演時にも同役をWキャストで演じた青木隆敏と関戸博一だ。自他共に認める、全くタイプの違う役者同士である2人が、同じ役を演じる醍醐味と、9年間培ってきたものをもって挑む新たな舞台への意気込みを語ってくれた。

カリオストロって全然悪い人じゃないなと

───お二人は2013年に上演された音楽劇『アルセーヌ・ルパン カリオストロ伯爵夫人』で、カリオストロ伯爵夫人役を演じられています。今回はタイトルも『La Passion de L’Amour -「カリオストロ伯爵夫人」より』と改められ、大きく内容も変わると伺っていますが、まず2013年公演の思い出をお聞かせいただけますか?

関戸「2013年当時、僕は劇団スタジオライフ入団10年目だったので、“節目の年に素敵な役をいただけた、10年の集大成に”という意気込みで臨んだのですが、カリオストロ伯爵夫人の人物像を捉えるのがすごく難しくて。大変な苦労をしたので、10年なんてまだ全然なんだなと思った記憶が強いです。
 もうひとつ、僕は普段本番前に自分の台詞は全て1回口に出さないと不安になるタイプなのですが、この時はあまりにも台詞が多くて諦めたんです。僕にとってそこを諦めるのは初めての経験だったので、印象深いです」

青木「僕は初演の時に『ルパンとカリオストロの物語です』と言われて、てっきりルパン3世の『カリオストロの城』をやるんだと思い込んだところから入ったんですけど(笑)。そうではなくアルセーヌ・ルパンと女盗賊の話だと聞き、面白そうだなと思っていたところに、『カリオストロ伯爵夫人、悪女をやって欲しい』と言われたので『あ、素のままでやればいいんですね?』と言ったら『そうです』ってことで(笑)」

関戸「否定されなかったんだ(笑)!」

青木「そう、否定もされずに(笑)。でも台本をいただいてやっていくうちに、カリオストロって全然悪い人じゃないなと思って。ルパンとのやり取りも繊細で、傷つきやすくて、感情表現も豊かだし、自分がイメージした悪女とは全く違っていました。ピュアとは言い難いかもしれないけれども、十分シンパシーを感じられる女性だなと、演じてみて思いました」

関戸「ピュアな部分はすごくあるし、脆さもありますよね。ただ、そもそも盗賊だし、間接的には人も殺しているから、その弱さを見せまいとして纏っている鎧の強さは感じました。人を寄せ付けないという意味での怖さ、世間に対する恨みの強さもありましたね。
 また、前回はルパンの視点で語られていた物語なので、ルパンから見たカリオストロというのが大きくて、そういう意味でも堅く纏っているものが大きな特徴としてあるなと思っていましたから、そこに1番苦労しました。そうまでして自分を強く見せて、悪女に見せるというところが難しくて」

青木「(関戸君は)普段がすごくいい人なので、悪の鎧を纏わないと悪女ができないみたいで、ワタクシはそこが正反対なので(笑)、そういう意味でも全く違うWキャストでしたね」

───いえいえ、そんな(笑)。でも主人公と敵対するお役柄というのは、あくまでも主人公視点だから悪に見えるだけで、逆の視点では全く違いますよね。

青木「そうなんですよ。彼女から見ればそれが正義なんです。もちろん世間の規範に照らしての正義ではないんですが、彼女にしたらそうせざる得ない状況や置かれた環境があって、仕方なく行動している部分もあるし、人を傷つけて自分も傷ついている部分もある。一概に『悪い女だな』とは演じる側としては言えなかったですね。
 もちろんご覧になる方から見れば『なんてムカつく女なんだ!』と思われたかもしれませんが、もしそう思っていただけたとしたら、それも光栄なことなので」

関戸「そうですよね! 僕はそういう意味でもやり残したことがあると感じている作品なので、改めて取り組めるのが嬉しいです」

原作に描かれていない場面に倉田淳の作家性が出てくる

───今回そこから大幅に書き換えられての上演ということですが、現在のところ出演者として発表されているのはWキャストのお二人を含めて5人の方々ですね。

関戸「一応、四人芝居とは聞いているのですが、1人がひと役しかやらないのかどうかもまだわからない段階で、2013年の公演とは全く形が変わることは間違いないと思います」

青木「前回は17人ぐらいの劇団員が皆で早着替えもして、生演奏で上演時間3時間の壮大な物語でしたから。『翼をください』で有名な村井邦彦さんの楽曲と、宇野亞喜良さんの美術と、いま映像を見返してもすごく豪華な舞台で、色々なものに僕たちは助けられて演じていたなと感じます。
 今回も村井さんの音楽はアレンジして使わせていただくそうですが、セットもすごくシンプルになるんだよね?」

関戸「八百屋舞台(※舞台面の手前から奥に向かって高くなっていく傾斜舞台)に大きな門が1つあるだけだって」

青木「究極のシンプルだね。そこに4人のキャストで1時間40分の上演時間を予定しているので、何から何まで違うし、僕たちにとってのホームであるウエストエンドスタジオでどんな凝縮された作品になるのかが楽しみです。
 シンプルになるということは、役者の力量にかかっている部分、責任もとても大きくなりますから、頑張らないとなと思っています」

関戸「石飛幸治さんがムッシュMという謎の役柄で現れて、死に瀕したカリオストロが地獄の入り口の前で彼と対峙して過去を回想していく形、カリオストロ目線の物語になるはずなので、そこはルパン目線だった前回とは全く違う物語になりますよね。
 カリオストロが死ぬところは原作にも描かれていないので、カリオストロが死を受け入れるのか、受け入れないのかも含めて、脚本の倉田(淳)さんの作家性がすごく出てくる作品になると思います。カリオストロを演じる感覚としてもちょっと変わってくる可能性がありますし、倉田さんが彼女をどう捉えて描くのかも含めて、本が出来てくるのを僕もとても楽しみにしていますから、皆さまにも楽しみにしていただきたいです」

それぞれがどんな9年間を過ごしてきたかを見て欲しい

───2013年版をご覧になっている方はどう変わるのか?という楽しみがありますし、初めてご覧になる方にはどんな作品なんだろう、という新しい楽しみがありますね。

青木「そうですね。関戸君は2013年が入団10年だったということは、あれから9年だから、もう入団20年が近いっていうことだよね?」

関戸「そうなんです! だから本当にちゃんと成長した悪女を演じられるようにしないとと思うんだけど……」

青木「こんな風にすごく不安がある感じで言うし、確かにカリオストロ以前は優しく包み込むようなヒロインタイプと言うか、正当派の女性をずっとやっていたイメージが関戸君にはあったので、カリオストロで初めて色の濃い女性にチャレンジして、思うようにできなかった、やり残したことがある、と言っていたのも知っています。
 でも、この9年の間に色々なタイプの女性役を演じて、スタジオライフの女役としてどんどんグレードアップしてきたのを僕は見てきたので、今回、今まで培ってきた経験を生かしたカリオストロが出来上がると思うからすごく楽しみですね」

───先輩から素敵なエールですね! では関戸さんからご覧になって、青木さんの魅力はいかがですか?

関戸「爆発力であったり、その瞬間に役を生きているということに関して本当にすごいと思っていて。舞台上で対峙していて、目があった時に吸い込まれそうになる人が何人かいるんですけど、青木さんはその代表的なお一人だと思っています」

青木「嘘だよ! 『眠たそうな目をしてる』とかよく言うじゃない(笑)」

関戸「そういう時もあるけどね(笑)。でも、情念の役をやった時の目力っていうのは本当にすごいんです。だから一緒に組むとすごく心強いんですけど、Wキャストで同じ役をやるとなると脅威と言うか。青木さんの心がぐわーんと動く感じにはとても憧れるし、盗みたいんですけど、それは青木さんだけのものだから、僕には盗めないので」

青木「カリオストロは盗賊なんだからさ、盗めばいいじゃん(笑)!
 でも僕はスタジオライフの女役として定評がある、とよく言っていただくんだけど、実は女役をやるのは6年ぶりなんですよ。普段女役をして日常生活を送っているわけじゃないし、先日まで上演していた『トーマの心臓』では男役だったので、カリオストロのあの豪華なドレスを着て、メイクをしてカツラをかぶって女性として舞台に立つことを6年ぶりにするんです。
 だから実は僕こそ不安もあるし、新鮮な気持ちもあるので、女役としての経験を積み重ねてきた関戸君をよく観察して、勉強させてもらおうという気持ちもあります。Wキャストですから同じ舞台には立ちませんが、同じ役を演じる同志として、刺激をもらいたいと思っています」

関戸「タイプが全く違うから、絶対に違う表現になるので、一緒に頑張りたいです」

青木「そうだね、一緒に頑張ろう!」

───スタジオライフさんのそのWキャストによる個性の違いは、リピートしたくなる大きな要因でもあります。ひとつ、作品から派生して、もしご自身が大怪盗だったとして誰にも見つからないとしたら、盗みたいものはありますか? 物でなくても全く構わないのですが。

関戸「『あなたの心を盗みました』と言ってみたいですけど(笑)。本当に芝居で色々な人にたくさん出会いたいので、神様からチャンスを盗みたいです!」

青木「綺麗な回答だな~! 僕はそうですね。ダイヤとか盗んでもどこで売ればいいのかわからないし、フリマアプリで売っちゃったらすぐに足がつくと思うので(爆笑)。
 色々な土地にいって、フルーツや野菜を盗んで食べたいです。もちろん育ててくださった農家の方の愛情がこもっているからこそあの美味しさが出来上がるんだし、そのご苦労を考えたら盗めないですけど、ひとつなら盗んでいいよと言ってもらえるならば、全国を回ってその場で収穫していただきたいです」

───ありがとうございます! 様々なお話から、本当に新しい作品が生まれるんだなという期待が高まります。では最後に、公演を楽しみにされている方々にメッセージをいただけますでしょうか?

関戸「前回ご覧になってくださっている方も、そうでない方もいらっしゃると思うのですが、今回はカリオストロという女性にスポットが当たるお話、前回とは全く違う印象の芝居になると思います。
 9年培ってきた倉田さんのもの、僕のもの、青木さんのもの、劇団としてのものがすごく出てくる芝居になるでしょうから、そういう意味で僕自身も楽しみですし、それぞれがどんな9年間を過ごしてきたのか?を感じてもらえたらと思います。
 もちろん近年にスタジオライフをご覧になった方には、情念を抱えている女性を描くことは倉田淳の真骨頂のひとつなので、ある意味の『ザ・スタジオライフ!』という感覚が出てくると思いますから、それを是非楽しみにご覧いただけたら嬉しいです。お待ちしております」

青木「9月に6年ぶりとなった劇団の代表作『トーマの心臓』を上演して、過去の公演を観て下さっていたお客様が、コロナ禍で大変な中たくさんいらしてくださったんです。
 そんな代表作をやった後に何を上演するのか?は、スタジオライフにとって毎回とても大事になるのですが、そこでこの作品を上演する。『スタジオライフってこういう劇団なんです』を印象づける、年の瀬にカリオストロ伯爵夫人をやることの意味が、お客様にも我々にもしっかりと見出せたらいいなと思っています。
 最初にも言いましたが、2013年には倉田さんから『素でやっていい』と言われた役柄ですが、素でやってみたところ、とてもヒリヒリした豊かな感情を持った女性だという印象を持ったので、今回は関戸くんが前回した鎧を纏っている女性というアプローチを僕がしたいなと思っています。6年ぶりの女役で、これまでにないアプローチで新たな自分の女性役の道がまた開けるんじゃないかなと思っていますので、精一杯取り組んでいきたいです。是非劇場にお越しください! お待ちしています」

(取材・文&撮影:橘 涼香)

プロフィール

青木隆敏(あおき・しげと)
滋賀県出身。2000年、劇団スタジオライフ入団。女性役に定評がある一方、様々な役柄を幅広く演じる役者として活躍している。主な出演作品に、『トーマの心臓』、『死の泉』、『月の子』、『LILIES』、『歓びの娘 鑑定医シャルル』、『DRACULA』、『ヴァンパイア・レジェンド』などがある。

関戸博一(せきど・ひろかず)
神奈川県出身。2004年、劇団スタジオライフ入団。数々のヒロイン役を含め、近年では多彩な役柄を演じ、また声優としても活躍している。主な出演作品に『トーマの心臓』、『死の泉』、『アンナ・カレーニナ』、『なのはな』、『VANITIES』、『はみだしっ子~White Labyrinths~』、『ぷろぐれす』などがある。

公演情報

La Passion de L’Amour -『カリオストロ伯爵夫人』より

日:2022年12月10日(土)~18日(日) 
場:ウエストエンドスタジオ
料:一般6,500円
  学生3,000円 高校生以下2,500円
  ※学生・高校生は要学生証提示
  ※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
  (全席自由・整理番号付・税込)
HP:http://www.studio-life.com/
問:Studio Life
  tel.03-5942-5067(平日12:00~18:00)

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事