舞台ならではの良いウソをつきたい!“忍者×家族”モノでバカバカしくも温かい作品に


忍者の末裔たちによる『寅さん』みたいな人情モノを

―――“忍者モノ”という企画はどうやって立ち上がったんですか?

「白紙の状態から脚本の竹田新さんとプロデューサーの有本佳子さんとアイデアを出し合いました。主演は駿河太郎くんにぜひお願いしたかったので、その場でLINEをしたらすぐに『やるよ』と連絡いただいて。じゃあ駿河太郎くんを中心にどういう人達でどんな物語にしようかと練っていくなかで、忍者モノを提案しました。こんな時期ですから重たい内容よりは人情的な作品がいいし、さらに舞台ならではのウソもつきたい。忍者ならいろいろな工夫ができるし、楽しいだろうなと。舞台セットも、隠し扉が回転したり、観ていて楽しくできたらいいですね。今いろいろ考えているところなので、親戚に忍者がいたら誰か紹介してください(笑)」

―――忍者の末裔の兄弟が物語の中心ですね。設定のこだわりは?

「“家族”ということを大事にしたかった。家族の関係って独特で、年上でも、先輩には敬語だけどお兄ちゃんには敬語は使わなかったりしますよね。とくに今はコロナで他人に触れられないので、“家族”であれば近い関係性の大切さが描けるかなと思いました。定番かもしれないけど、家族の絆みたいな切っても離れない関係をやりたい」

―――台本を読みましたが、温かい雰囲気が溢れていますね。

「台本にも出てくるのですが、忍者って今の時代にはちっとも需要がない(笑)。忍術よりもスマホのアプリの方ができることが多い。まず忍術って実在するか怪しくないですか? 忍者について調べると、現代人では勝てない“術”ばかり出てくるんです。もちろん想像できるものもあって、屋根の上を走り回るのは身体を鍛えたのかなとか、“火遁の術”は油を使って火を吹いたのかなとか考えますが、水の上をあめんぼのように走るなんて本当にできたのかな。だから作品のなかでは、人助けのためなら忍術を使えるということにしました。そうすれば、僕が描きたい温かい雰囲気になるかなと。物語のなかで忍術を活かすために、どうやってスマホを持っていない設定にするか……なんて竹田さんと相談しています」

―――スマホが使えない設定だからか、どこか懐かしい雰囲気のする作品です。

「“寅さん”みたいなイメージです。どこかもわからない寂れた町での、温かな人間模様がある、ちょっと懐かしい作品。綺麗な女性を追いかけるところも寅さんみたいですよね(笑)。この登場人物たちはすぐ『結婚したい!』と言う。結婚したこともないのに『素敵な人と一緒になることは幸せなんだ!』と思い込んで突っ走っちゃうような真っ直ぐな思いは、僕は素敵だなと思う。褒められたら嬉しかったり、一生懸命になってバカげたことをしたり、そんな様子がほっこりできるんじゃないかな。演劇だからこそ、現実の結婚の大変さとか、忍者は実際にいるかといったことは一度置いておいて、純粋に誰かを求めることを大事にしたい。それが演劇の“良いウソ”だと思います」

さまざまなジャンルで活動する俳優達とともに作る舞台

―――出演者を決める時の、こだわりやポイントはありますか?

「僕は稽古場での笑いや、心の遊びをすごく大事にしています。良いアイデアが浮かぶのはリラックスしている時だったりする。たとえばお酒を飲んでいると『あのシーンこうしたらすごいものができるんじゃないか!?』と大盛り上がりする。次の日に稽古場で考え直したらまったく穴だらけのアイデアだったりするのですが(笑)。でもそういう寄り道が、ものをつくるうえでの血肉となる。今回はコロナ禍なので飲んだりはできないけれど、現場でも『こうやったらどうかな?』と一度はやってみて、失敗しても笑って繰り返していけるようでありたいですね」

――― 一緒につくっていける俳優達が集まりましたか。

「そう思います。(村上)航さんとかどんどん違うことをやりそう。それをどう止めるか、どう野放しにするか……受け止めた瞬間に成立しちゃったりすることもあるんじゃないかな。そういう楽しみが期待できるキャスト達ですね。とはいえ演出家としてご一緒するのが初めての方が多いので、理論的に詰められて僕が困っちゃうこともあるかも(笑)」

―――これまでに福士さんの演出作品に出られたのは駿河太郎さんと、同じ事務所の渡辺哲さんですね。

「そうですね。哲さんにはほかの方より先に台本を渡しました。ご本人も欲しがったので。プロだから舞台を止めることはないのですが、自信を持って大きな声でまったく反対のことを言ったりするんですよ……(笑)。違う人の名前を言って『ガッハッハ』と満足そうに舞台袖に消えていったりするので、できるだけ早く台本を渡さないと!と思いました。
 共演したことがあるのは航さんと岡本玲ちゃん。岡本玲ちゃんのキャスティングは運命だったんです。今回のヒロインを誰にお願いしようか悩んでいた時に、ちょうど時代劇の撮影で京都でご一緒して、いろいろお話しました。舞台にたくさん出ていて、自分で演劇の主宰もやっていて、キラキラしながら舞台について語っていて……『これは岡本玲ちゃんしかいない!』とすぐに京都からマネージャーに電話しました。もう運命ですよ。向こうからすると意味がわからないかもしれないけど(笑)」

―――いろんなキャリアの方々が集まっています。様々なジャンルに出演する渡辺裕太さん、新劇の増子倭文江(しずえ)さん、2.5次元舞台への出演が多い深澤大河さんも。

「裕太くんも素敵な人でした。いじりがいがあるので『もうバク転できるようになったよね?』って今度聞いてみようかな。絶対できないと思うけど(笑)。
 増子さんはとてもお芝居が達者で素晴らしい方なので楽しみですね。こそっと『演劇とは』『台本の読み方は』という話を聞きたいくらいです! とても楽しい方で、ビジュアル撮影の時に『私これ(忍者の衣装)着るの?』って仰っていたのが印象的で、『ニンニンです?』と聞かれるので『ニンニンです』『ニンニンってなに?』『僕もわかんないです』とか言いながら、明るくニンニンのポーズをとってくださいました(笑)。
 増子さんの息子役の深澤大河くんは、実は共演したことはないのですが、とても良い俳優さんがいると紹介いただきました。前回の僕の演出作品を観てくださってすぐに『面白かったです! 今すぐ出たいです!』と連絡をくれて……綺麗な目をして、前のめりな感じが素敵ですね。今回の役はちょっと嫌な奴なんだけど、自分の正義はある。そういう人間の多面的なところはどうしても描きたくて、脚本家の竹田さんにお願いして反映してもらいました。
 いろいろなところで表現されている方々が集まっているので、良い意味で正解はないはず。僕も搔きまわしたいですし、僕がやらなくても搔きまわっちゃうんじゃないかな」

―――福士さんの出演はないんですか? 声の出演とか……? 

「実はちょっと参加したりしてね。『ニャー』とか鳴いたり、旅館に飾ってある写真にいたりしてね。どうしようかな(笑)」

―――探さないといけないですね(笑)。多彩なメンバーが集まり、どんな作品になるのか楽しみです。台本を読むと人情コメディのようですが、かっこいいシーンもありそうですね。

「大河君がかっこいいシーンがあるかも? ……あるかなぁ(笑)。かっこいいって見た目だけじゃないので、ハートのかっこよさ、人間のかっこよさを見せたいです。二枚目を演じようとしている人はかっこよくなくて、むしろ『かっこよくなりたい』と努力している人の方がかっこいいですから。一生懸命な男達を中心に、良い男っぷりをどう見せていくか……まずは俳優達がそれぞれ思う二枚目をアグレッシブに演じてもらって、そのステレオタイプを壊していくことになるかもしれないです」

それぞれの俳優の生き方が出ちゃうのがいい

―――演出はずっとやりたかったんですか?

「はい。25歳の時にユニットを組んでみんなで相談しながらつくったのですが、一人でも演出をやりたいなと思っていました。30代になってもやりたい気持ちは変わらなかったので、相談してやってみることにしました。すると思いのほか面白くて、これからも続けていきたいですね」

―――演出をやることで、俳優としてどんな影響はありますか?

「まず『俳優ってすごいな』と。稽古で作品がどんどん肉付けされていく時に、一瞬で空気が構築される瞬間がある。誰か一人がエンジンかけると、その呼吸にみんなが応じていく。するとそれまでとは比べ物にならないくらい、作品の質が何段階も飛躍するんです。僕も俳優としてそういう現場にいるはずなのですが、演出の立場で客観的に見ると改めて俳優のすごさを感じます。演出をやることで俳優について発見があり、相乗効果になっています。
 あと、本番での心持ちが違いますね。我が子のような気持ちです。失礼ではありますが『ここまで変わるか!』と思う。たとえば初舞台の子が、稽古を重ねるうえでどんどん成長して、本番でとても魅力のある人物になっていると嬉しいです。客席にいてお客さんが喜んでいる様子が見られるのも、演出家の喜びですね」

―――福士さんは、俳優一人ひとりの人間としての魅力を大事にしているようですね。

「僕は、どんなに役を演じてもその俳優の生き方がどうしても出ちゃうと思っています。まず、顔が違うし、感じ方も違う。俳優の個性と台本をミックスさせてその役が完成していくのがいい。演出の僕が台本を読んで思ったことと違っていても、俳優が感じた思いは宝物です。何日かはその思いを大事に稽古してもらううちに、また違う感情が出てきたりもする。最終的には僕が最初に思っていたことと同じになることもありますが、それはとてもいい回り道ですね。回り道をしているうちに役のバックグラウンドができてくる。『台本に書かれているからこういう役!』とパブリックイメージを形にするのも大事だけど、まるきり違うアプローチから攻めていくのもとても面白い。……まぁ、今回は“忍者”なのでパブリックイメージはあるんですけど(笑)」

―――忍者をどう舞台で見せるか、という。

「会話劇ではあるので、所作や立ち回りをどれくらい見せるか悩みますね。数年前に、飲んでいたら流しのマジシャンが来たことがあって、面白いので名刺をもらったんですよ。忍術とマジックは近い気がするので、万が一の時は電話するかも!? 大掛かりなことはできないけれど、僕もマジックが大好きなのでなにか工夫できると面白いですね。美術も、一回も使わない隠し扉があるとかね。カーテンコールでしか開かないの(笑)」

―――楽しい作品になりそうですね!

「バカバカしくていいな!と笑ってもらえるものを目指しています。悩んでいる時にその悩みを吹き飛ばしてくれる人がいると、たいしたことじゃなかった気になることがあるでしょう。そんなふうに、観ていて元気になる作品をつくりたい。そしてシリーズ化したいですね。
 とくに今は、劇場に来るだけでも勇気がいる時期です。そんななか感染対策をしっかりしながら足を運んでくれた方には、来てよかったなと思ってほしい。劇場で他のお客さんと共に楽しんでいただけるのも演劇の良さですから。家に帰っても『ニンニン!』と忍者の真似をしてほしいです(笑)」


(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

福士誠治(ふくし・せいじ)
1983年6月3日生まれ、神奈川県出身。
出演舞台は幅広く、『スーパー歌舞伎II ワンピース』、『俺節』、『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極~』、氷上音楽劇『氷艶2019-月光りの如く』『スリル・ミー』等。ドラマ出演はNHK連続テレビ小説『純情きらり』、『まんまこと~麻之助裁定帳~』、『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』など。舞台演出は『幽霊でもよかけん会いたかとよ』(2016)、『おっかちゃん劇場』(2020)。ほかバンド「MISSION」のボーカル等、活動は多岐にわたる。現在、NHK大河ドラマ『青天を衝け』に井上馨役で出演中。初主演映画『ある用務員』がU-NEXTで配信中。来年はミュージカル「INTO THE WOODS」2022年1月11日~31日@日生劇場 2月6日~13日(梅田芸術劇場メインホール)を予定。

公演情報

プリエール プロデュース
『葉隠れ旅館物語』

日:2021年11月10日(水)~17日(水)
場:あうるすぽっと
料:一般6,500円 
  22歳以下5,500円
  (全席指定・税込)
HP:https://priere.jp/performance/2111/
問:プリエール 
  tel. 03-5942-9025(11:00~18:00/土日祝休)

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