「史実を基にしたフィクション」として、戦争や政変を取り扱った作品を発表し続けている劇団チョコレートケーキが、これまでに戦争を取り上げた6作品を連続上演する。今まで他劇団の記念企画で3作品連続上演といったものは行われて来たものの、それすら昨今ではすっかり話を聞かなくなっているだけに、東京芸術劇場のシアターイースト・ウエストを同時に使っての連続上演は異例とも言えるだろう。『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』と題されたこの企画では、新作として上演が予告されていた『ガマ』も含まれるという。
海の向こうから毎日戦争のニュースが伝えられる昨今。そして終戦から77年目の8月。これらの作品を一気に上演する理由や想いについて、脚本家の古川健、劇団員で俳優の岡本篤、浅井伸治から話を聞いた。
―――まず今回の6作品連続上演に至った経緯を教えてください。
古川「きっかけは演劇ジャーナリストの徳永京子さんから東京芸術劇場さんに提案があったんです。『無畏』と『帰還不能点』を観て、僕の戦争観が固まってきた感じがしたので、セットで上演するのはどうだろう?と。劇団に持ち帰って検討したんですが、せっかくなら新作と再演を加えて4本。さらに最近は若い役者向けにワークショップもやっているので、その成果も出そうということで短編を2本加えて合計6本になりました」
―――これだけのボリュームは昨今珍しいし、何より体力の要る作業ですよね。
古川「はい、でも芸術劇場のイーストとウエストの両方を同時に使えることはそうはないので、無茶を承知でやってみようじゃないかと。とにかく集大成というか、1つのお祭りのような気分ですが実行する意義はあると思っています」
―――新作の『ガマ』は沖縄戦の物語ですね。
古川「ガマ、つまり沖縄本島南部にいくつもある洞窟に、軍人・民間人・ひめゆり学徒隊など色々な人が集まってきます。1つのガマの中、生きるか死ぬかの中で人がどんな選択をするか。そういった物語です」
―――新作を含めたこの連続上演。岡本さんと浅井さんはそのうち3作に出演されますが、正直、どんな印象でしょう。
岡本「言っちゃまずいかも知れませんが、いいことである訳がなくて(苦笑)。ただ新作についてはもう4月から稽古をしていて時間をかけて携われますし、旧作も以前の上演から時間が経ったところでもう一度作品に取り組めますから。それに3作品同時に台本を読んでいると、思いのほか色々な繋がりが見えてくる気がします。そりゃ体力的には大変ですけど」
浅井「3作品とも内容は異なりますし、役の状況が軍人であったり民間人であったりと異なりますが、 “戦争”という共通項もあるし、それぞれ時代的に近いですから、当時の時代背景やお互いの作品での経験が役作りにつながってくる気がします。役を深めるにあたっていい参考になっています」
―――こうした戦争にまつわる作品ですが、それを脚本にして上演する皆さんはそうした“戦争”からは離れた位置にあることはどう思われていますか。
古川「ここ10年くらい考えていることですが、いずれ戦争を知っている人はほぼいなくなるわけで、その時に我々はどうやって戦争を描き、その恐ろしさを訴えることが出来るかを考えると、演劇化して物語にするのは1つの問題提起になるんじゃ無いかと。お客さんと一緒に想像力を働かせて考えられれば良いと思っています。舞台、客席双方が戦争を知らない人でも、それなりに伝えて意見を言い続ける、そのために作品を書いているつもりです」
岡本「演じる側としては当然実在のモデルがいても架空の人物でも、時代の中で生きる人間を芝居でやるのは、現代を生きる自分が舞台で当時を演じるわけです。それをお客さんに見ていただくことでビビッドに伝われば良いかなと。ただ当時生きていた人がこの作品を見たらどう思うかは気になりますね」
浅井「僕等は役者なので書かれていることを自分の血肉にして演じるのが使命です。戦争は離れたところにあるものだけど、僕達が演じる事を見たお客さんはその時代につながっていて、追体験ができると思います。その点を役者として真剣に考えるし、つながるところまで持って行けるかが勝負だと思います」
―――ところが、今年になってそんな離れていた“戦争”が身近に感じられるようになってしまいました。
古川「現場がヨーロッパだから情報が多いということもありますが、不幸なことに尽きることなく戦争は続いているんです。(戦争が)止まっている時間より継続の方が長いですから。そう考えるとロシア=ウクライナでの戦争はことさら大きい話ではなくて、われわれは知っていて知らない振りをしていただけなんです。知らないところで戦はある。だから戦争反対を唱え続けなければいけない」
岡本「結局何十年も前に解決しているはずが、また過去の話が持ち上がってしまう。その繰り返しだなと感じます。そして現在の様に突きつけられると我々の出来る事はいったい何だろう?と思ってしまいますね」
浅井「作品によっては戦争を仕掛ける側の人間を演じる事もありますが、そこでよく出てくる状況が、『誰もが戦争はしたくない、でもせざるを得ない事情ができてしまう』というもの。そこは非常に人間臭い部分だと思います。必然的に戦争が起きて、殺したくないのにそういう状況に追い込まれる。人間はそういった生き物なんでしょう」
―――話が飛びました。古川さんの脚本は、戦争のためにある大義が極小の個人的理由でひっくり返る。そういったことも浮き彫りにしますよね。
古川「誰もが理想と生活の両方を持っていますし。どちらも共感の対象になりますから、そのどちらかだけを書くわけにはいかない。その塩梅やギャップに対する葛藤が伝わればと思ってます」
岡本「戦争を描くといっても結局人間ドラマにしないと心に響かないんです。だから我々もあくまで1人の人間として演じます。戦場の軍人にも故郷には妻子がいるわけで、それを意識するし、戦争を描くのはむしろそういうことだと思います」
浅井「うちは演出家と作家が別れているわけですが、(演出の)日澤は(脚本の)古川ほど調べて演出するのではなく、お客さんに近い目線で見て、そこで起こるやりとりといったところに気を遣っています。古川が書く難しいセリフを日澤が血肉の通ったものにするように努力してくれる。バランスがいいと思います。
―――ところで再び沖縄についてですが、今年復帰50周年を迎えて関連の事業や公演が相次いでいます。新作もそれを意識してのことですか?
古川「いえ、偶然です。いつかは沖縄のことを書きたいと思っていました。実は沖縄には2回しか行っていなくて、1回は修学旅行でした。平和教育の一環でみんなで大きなガマに入って、懐中電灯を一斉に消すんです。その時の暗闇を物語に書いてみたいと思っていました。それがたまたま今だっただけですね。本当は取材行も考えましたが、コロナの影響でいくわけにもいかなかったんです」
岡本「僕は今年の5月に行きました。知識としては知っているけれど、実際にその地を踏むとここがかつて戦場だったということが感じられて、そんな感覚をこれから自分で芝居しないといけないなと思いました」
浅井「僕はまだですが、本当に沖縄で戦争があったのかと調べてみるとまあ出るわ出るわ。こんなことが日本で実際にあったのかと驚きと圧倒されました。芝居でやらなければここまで知ろうとはしなかったでしょう。その点は感謝しています」
岡本「そう、沖縄戦すら知らない人もいるからね。一方で原爆はよく語られるのに。だからもっと知られるべきと思って上演します」
―――ベテランの大和田獏さんも迎えての新作。若手による短編。そして2つの劇場を駆使しての連続上演。実に楽しみですね。
古川「大和田さんは劇団としては初の客演ですが、外部の仕事で一緒していますし、うちの西尾(友樹)とは特に縁が深いんです。短編は2日間だけですが、18〜25歳の役者が集まって挑みます。僕等より更に若い世代が戦争を描くとこにも注目して欲しいです」
―――では最後にメッセージをどうぞ。
岡本「ともかく僕は物語を生きるだけなので、それを今の状況と照らし合わせてもらって、皆さんの人生が少しでも豊かになればと思ってます」
浅井「実は劇場入りが8月15日(終戦の日)なんです。普段より深く戦争について考えてもらえればと思います」
古川「短期間で同じ劇団の作品をまとめて観ることができるのは滅多にないことですから。是非劇場へおいで頂きたいです。“戦争”という括りでまとめてはいますが、それぞれが面白い芝居であることを意識して作ってますので、それをご覧頂ければと思います」
(取材・文&撮影:渡部晋也)
プロフィール
古川 健(ふるかわ・たけし)
東京都出身。劇作家。駒澤大学演劇研究部を経て、劇団チョコレートケーキに参加。俳優として劇団作品に出演する傍ら、第16回公演『a day』からは脚本も手がけるようになり、以降全ての劇団作品を手がけている。さらに外部への作品書き下ろしも多数行っている。さらに昨年はNHKドラマとなった『しかたなかったと言うてはいかんのです』、『倫敦ノ山本五十六』で脚本を担当した。
岡本 篤(おかもと・あつし)
栃木県出身。古川や演出の日澤雄介と共に、劇団チョコレートケーキ初期からのメンバー。第2回公演以降、全作品に出演。外部公演への客演も多く、さらにCMやドラマにも活動を広げている。また役者による落語一門「夏葉亭」では、夏葉亭夕顔として高座に上がっている。
浅井伸治(あさい・しんじ)
長野県出身。第20回公演『一九一一年』への客演を経て入団。以降、全作品に出演。また劇団桟敷童子、JACROW、流山児★事務所、トム・プロジェクトなど、外部出演も多い。
公演情報
劇団チョコレートケーキ
『生き残った子孫たちへ 戦争六篇』
日:2022年8月17日(水)~9月4日(日)
場:東京芸術劇場 シアターウエスト・シアターイースト
料:『追憶のアリラン』『無畏』『帰還不能点』『ガマ』4,500円
短編連続上演『〇六〇〇猶二人生存ス』『その頬、熱線に焼かれ』2,800円
※その他、各種割引あり。詳細は団体HPにて
(全席指定・税込)
HP:http://www.geki-choco.com
問:劇団チョコレートケーキ
mail:info@geki-choco.com