事件や出来事の「その後」にフォーカスを当ててきたTAAC 実際にあった事件をモチーフに、ネグレクトを受けた子どもたちの「その後」を描く

事件や出来事の「その後」にフォーカスを当ててきたTAAC 実際にあった事件をモチーフに、ネグレクトを受けた子どもたちの「その後」を描く

 「その後」に焦点を当てて作品を紡いできたTAAC(ターク)。今回は、1988年に発生した巣鴨子ども置き去り事件を背景に、ネグレクトを受けた子どもたちの「その後」を描く。
 作・演出のタカイアキフミ、次男を演じる安西慎太郎、長男を演じる清水優に話を聞いた。

―――なぜ巣鴨子ども置き去り事件を題材として選ばれたのですか。

タカイ「TAACは今まで、事件や出来事の『その後』、当事者たちはどう生きていくのかというところにフォーカスをあててきました。1988年に起きた巣鴨子ども置き去り事件をきっかけに『ネグレクト(育児放棄)』という言葉や概念が世間に知られ、現在では社会問題のひとつとして捉えられるようになりましたが、当時のネグレクトを受けた子どもたちは、もう大人になっている。彼らは今、どういう風に日々を過ごしてるんだろうと僕自身、疑問に思って。
 暴力的な、いわゆる肉体的な虐待を受けた子どもたちは、自分が親になったら、また子どもに同じようなことをしてしまう――。そういうことは、いろいろな文献でも、映画やドラマでも描かれたりしているのですが、ネグレクトを受けた子たちのその後は、なかなか普通に生きていると目にすることがないですよね。だから、今回題材として選びました」

―――安西さんが次男役、清水さんが長男役ということですが、現状、どういうことを考えられていますか。

タカイ「まだ台本が完成していないのですが……巣鴨子ども置き去り事件では、残念ながら1番下の子どもが亡くなってしまうんですね。そのときにもっとも当事者であったのは下の兄弟たちの面倒をすべて見ていた清水さん演じる長男。事件の当事者として、その出来事をより背負ってるでしょうし、だからこそ、挽回しようというか、罪を償おうというか、そういう思いがあって、能動的な立場だと思います。
 一方、安西さん演じる次男は、まだ年齢が1桁台だったこともあり、自分の意思で動けたわけでもなかった。どちらかというと事件をただ傍観しているような立ち位置なんです。確かに当事者ではあるけれども、傍観しているからこそ、大人になって、この事件をどう捉えたらいいのか、それに償うべきなのか / そうではないのか、どっちつかずになっている。そんな役柄です」

―――それらを受けて、お二人はなぜ今回出演を決められたのですか。ご自身に刺さったポイントがあれば教えてください。

安西「まずは、タカイさんの人柄ですかね。仕事をする上では、いくら作品が良くても、やっぱり人対人になってくると思うので。それからなぜ演劇をやっているのか、なぜ作品をつくるのか。その思いがタカイさんには明確にあって、好きなんです。
 もちろん作品も『その後』を描くという点は、いい意味ですごく引っかかった。ぜひやってみたいなと思いました」

清水「タカイくんと知り合ったのは2年ぐらい前。何本か作品を観たことがあって、タカイくんから『シアタートップスで作品をつくるんですけど、なんか面白いものをつくりませんか』と声をかけてもらいました。コロナ禍でもすごく意欲的に作品をつくろうとしている姿勢が僕は心に刺さって。自分も一緒に前に進めるかなと思ったんですよね。ただただ、心が気持ちいい青年です(笑)。
 正直、作品の詳細はこれからだと思いますが、ものをつくるという点では一緒に前に進めると思った。それが出演を決めた大きな理由です。今回、一部の役は一般オーディションで決めたのですが、同じような心持ちでいてくれるキャストがそろったと思います。なので、タカイくんにすべてを委ねるというよりは、役者と演出家で一緒に作品をつくれたらいいなと今は思っています」

―――どの辺りから役をつくっていこうと思われていますか。

安西「難しいなぁ。役作りというか、今回は別にネグレクトそのものを伝えたいわけじゃないと思っています。ただ僕の役は、事件から時間が止まってしまっている。そこがすごく大切なポイントじゃないかなと。事件に関与して、暴行したわけでもないし、ただ見ていただけ。だからこそ時が止まってしまっているし、ずっと前に進めていない。その曖昧さというか、気持ち悪いところにいることを大切にしてやっていきたいなと思っています」

清水「脚本がまだ完成していないのであまり大きなことは言えないけど、多分、自分なりの答えを出さないと思う。いや、表現する上で多少の答えは出すかもしれませんが、『母親がいない人はこういう行動をする』『引きこもりはこういうことを言う』というような、自分の小さい考えでまとめないようにしたいかな。
 長男と次男の関係性がどうなるかまだ分からないですし、状況が状況というか、特殊な状況でしょう。だけど、みんな当たり前に生活しているとも思うんですよね。大きな答えや予断はあまり持たずに、芝居ができたらいいなと思っています」

タカイ「僕自身が提示したいことも『それは希望なんだよ』とか『愛なんだよ』とか、何かそういうことではない気はしていて。言葉にできてしまうんだったら演劇でやる必要はないというか。なかなか言葉にできない行間だったり、裏に流れているものだったりをお伝えできることが演劇の面白さだと思うから。
 だから清水さんが仰ったように、『伝えたいことは何色の感情』というわけではないし、そういう作品にはしたくないと思っています」

―――皆さんのお互いの印象を伺えればと思うんですけど、安西さんについてはどうですか?

清水「初めて会ったのは、ワークショップでした。僕も参加者の1人だったのですが『うまい子いるな~』と思ったのが最初の印象。そのとき既にタカイくんとこの企画を考えていたので、安西くんという素敵な子がいる話をしました。そうしたらタカイくんも一緒に仕事をしたいと以前から思っていたというので、そこで一致した感じです。
 安西くんの印象は、すごく柔らかいけど、中に何かトゲトゲしたものがたくさんありそうだなと思います(笑)。ちゃんとナイフを潜ませている感じがある。僕はそういう人が好きです」

タカイ「安西さんが出演されている作品をいくつか拝見してきましたが、安西さんが演じる役は結構重めな役が多いですよね。今回の役もそんなに軽い役にはならないでしょうけど、少しでも新たな一面を見出せればと思います。
 一度2人でじっくり話す機会があったのですが、いい意味で、さっぱりでドライなんです。そして、どこにでも行けそうなふわふわしている感じもする。でもその瞬間その瞬間で返ってくる言葉は、早くて的確なイメージ。瞬発力があるんだろうなと思います。

―――清水さんについては。

安西「先ほど清水さんが言っていたワークショップでご一緒しました。ガラが悪そうだなと思いつつも(笑)、お芝居の一つひとつがめちゃめちゃ面白かったんですよ。お芝居を見て、この人のことをなんか知りたくなるなと思ったんです。
 すごく清水優という人間を大切にしながら役を演じている気がします。自分という人間をしっかり大切にしながら、役に向き合っている。だからきっと役をキャラクター化せず、人間を多面的に見せてくれる役者なんだろうなと思います」

清水「正解だよ(笑)」

安西「あとはシンプルに、すごいお酒を飲みそうだなって(笑)。いい兄貴肌な方で、仲良くなれる気がします」

清水「大正解だよ(笑)」

タカイ「僕はまだ一緒にお芝居をつくったことはなく、基本的にお酒を一緒によく飲んでいるだけなんですけど(笑)、飲んでいるときはすごく楽しいです。説教されるわけでもなく、フラットに楽しく飲ませてくれるいいお兄さんです。
 一方で、今回、オーディションの実技のときに優さんにも少し入っていただいたんですけど、お芝居になると結構真面目で、意外と誠実。ちゃんと真面目な方なんだなと思いました」

清水「なんか恥ずかしいな(笑)」

―――タカイさんの印象は。

安西「シンプルに一緒に作品を作りたいなと思える人。2人で食事をしたときも、作品の話からプライベートの話までさせてもらって。僕らって意外と1歳差なんですよ。失礼ながらもっと上の方かと……」

タカイ「老けてますからね(笑)」

安西「いや、落ち着いているから! でもその食事のときは、同世代だなと感じたんですよね。人間としての可愛らしさを持っている人だと思います」

清水「演劇をつくることに意欲がすごくある人だなと思う。多分、一緒にものづくりをすると、タカイくんと僕の価値観は一致しないことが多いと思うんです。役者脳と演出脳の違いというか。
 タカイくんが与えてくれるものも、自分にとっては新鮮なものだと思うし、逆に僕がタカイくんに提示するものは、彼にとって今まで味わったことがないものにしたいなと思っています。いい意味で、違う道で生きてきた感じがするんです。だから、一緒に何かものをつくろうとしたときに、良い作用が生まれればいいかなと。
 人間的には頭がいい人。順序立てて、何かをつくりあげることに長けている。この年齢でしっかりとしているなと思います。一方で、元々広告マンをやっていたのに、コロナのタイミングで会社を辞めて、演劇の世界に来るって! すごく馬鹿なことじゃないですか(笑)。そういうところも好き。頭はいいけど、思い立ったらすぐ行動する前のめりな姿勢がいいよね」

―――最後に観客の皆さまに一言お願いします!

タカイ「今回描く『その後』は、ちょっと特殊な家族間での『その後』になると思うんですけど、タイトルにあるように、人生が始まらないとか、時間が止まってしまったとか、まだ自分が思い描く人生を歩めていない人たちは、この世にもたくさんいると思います。特にこのコロナ禍でそういう風に感じている人たちも多いと思うんですね。
 なので、描いていること自体は、あなたたちのことではないのかもしれないですけど、時間が止まっているとか、立ち止まってしまっている人たちの何かの一歩になればと思います。まずその場から一歩動いてみようと思ってもらえるような演劇を届けたい。開幕のときにどういうご時世か分かりませんが、劇場は安全な場所だと僕は思っているので、ぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです」

安西「まだコロナ禍が続いている中で『絶対観に来て』という言葉は言いづらいんですけど、でも『絶対観に来て』と思わせるぐらいの作品作りをみんなで作っていきたいと思っています。
 僕はまだ全然若手なんですけど、僕の中では、演劇で人の何かを大きく変えるみたいなことは、正直無理だと思っているんです。でも、本当に一歩とか、何か小さなことを拾い上げたり、逆に捨てたりできるとは思う。今回の作品はそういうきっかけみたいなものが、たくさん詰まっていると思うので、ぜひ劇場で感じていただけたらなと思います。

清水「コロナ禍になって配信される作品も増えましたが、やっぱり劇場に足を運ぶと言うこともすごく重要だなと。電車で移動しているときとか、劇場まで歩いている時間とか、そういうことも含めての舞台観劇なんだなと思う。
 最終的にどんな話になるか分からないですが、劇場に来てからしか始まらない。コロナ禍で大変かもしれないけど、1回来てみて、劇場の空気を感じてほしいです。お待ちしています」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

タカイアキフミ
1992年7月27日生まれ、大阪府出身。早稲田大学建築学科卒業。大手広告代理店に勤務しながら、演劇にも取り組む。2018年、タカイの個人ユニット「TAAC」(Takai Akifumi and Comradesの略)を立ち上げ。2021年、演劇活動に専念。TAACで脚本・演出を担当。

安西慎太郎(あんざい・しんたろう)
1993年12月16日生まれ、神奈川県出身。俳優。2013年、ミュージカル『テニスの王子様』」2ndシーズンの白石蔵ノ介役で人気を博し、以降、舞台を中心に活躍。近作に、舞台『象』(2022)、 東映ムビ×ステ舞台『死神遣いの事件帖 -幽明奇譚-』(2022)など。

清水 優(しみず・ゆたか)
1985年2月5日生まれ、神奈川県出身。ドラマや映画、舞台などで活躍する俳優。近作に、赤堀雅秋プロデュース『ケダモノ』(2022)、新国立劇場の演劇『反応工程』(2021)など。

公演情報

人生が、はじまらない

日:2022年8月3日(水)~7日(日)
場:新宿シアタートップス
料:一般[8/3~8/4]5,800円
    [8/5~8/7]6,300円
  U-18[18歳以下・当日指定引換券]1,500円
   ※枚数限定 / 要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://www.taac.co/
問:TAAC
  mail:info@taac.co

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