クラファン133%達成! 俳優・水野奈月による初の自主企画 泥臭くても格好悪くても、それも愛くるしい。憧れのつかこうへい作品に挑む!

 つかこうへいの不朽の名作『売春捜査官』が、水野奈月による初のプロデュース公演として、2022年8月3日から下北沢シアター711で上演される。脚色・演出は、ナイーブスカンパニーの髙橋広大。水野のほか、篠原功(演劇集団SINK)、森大、新原武(劇団扉座)による4人芝居だ。 「初めての夢の自主企画公演」ということで、水野自らクラウドファンディングに挑戦し、目標金額を大きく上回る約125万円の支援を獲得した。企画者で主演を務める水野、演出の髙橋、出演する森の3人に、公演に向けての意気込みや、つか作品の魅力などを語ってもらった。


―――『売春捜査官』は色々な座組みで上演され続けています。演出の髙橋さんは今回、どのような作品に仕上げようと思っていらっしゃいますか。

髙橋「僕は11歳のときに、両親の影響で初めてつかさんの芝居を観て、それが演劇を始めるきっかけでした。色々な団体さんが上演しているのも観ていますし、それこそ★☆北区AKT STAGEさん(元・北区つかこうへい劇団劇団員でなる演劇集団)と縁深くやらせてもらってますけど、本当に今まで何回観たんだというぐらいの演目です。何なら『売春捜査官』を今年の3月にも上演していますしね(笑)
 今回、水野さんにお声がけをいただいて、一緒にやらせていただけることになりました。作品の醍醐味でもあるし、水野さんの思いでもあるのかなと思うし、僕もやりたいこと。それは、狭い捜査室で4人が出会い、自分の抱えてきたものや思いをぶつけ合い、旅立つ者あり、残ってしまう者あり、そういう変化と成長の人間模様を描くことなんですよね。そのためには、4人の役者さんが“生きている”ことが何より大事だと思うんです。
 水野さんが座長として、僕たちを集めた意味を見つけたいし、それを何か作品の中にも投影できたらいいなと思っている。役の中に役者さんが入っていくというよりは、4人の役者さんの中に役がちょっと入るぐらいのイメージですね。我々が出会った意味や、一緒に稽古をしてきた意味がきちんと見えるものを作れたらいいなと思っています」

―――今年の3月にも『売春捜査官』を上演されていたんですね。

髙橋「はい。1年で2回も同じ脚本をやることに、ある種運命的なものを感じています。なんなら12月ぐらいにもう1回やって、1年で3回やることにしようかな(笑)。
 とはいえ、別に前回の反省を活かそうとか、企画の方向性をなぞりたいとか、そんなことは全然思っていなくて。本当に4人と出会ったところから、まっさらな状態から始められたらなと思いますし、それができる作品なのかなと思っています」

―――水野さん、森さんもぜひ本作に懸ける意気込みを教えてください。

水野「今回『売春捜査官』をやるにあたって、誰に演出していただくか、一番悩みました。私は髙橋さんのことを存じ上げていなくて、紹介していただいたんですけど、ホームページや脚本など色々読ませていただく中で、つかさんに対する情熱がすごくある方だなと思いました。
 それに、今もお話されていて感じられるかと思うんですけど、言葉のチョイスがすごく素敵なんです。人の心の動きを繊細に丁寧に描かれる。そこが自分の好みとマッチしたんですよね。つかさんの作品って、熱量や勢いが強くて、乱暴な部分があったりしますが、そこに髙橋さんの繊細なところを紡ぐ力が加わったら、ものすごく面白いものになるんだろうなあと思って、今回オファーさせていただきました。すごく楽しみです!」

森「僕は今年で43歳。演劇を20年以上やっているんですが、つか芝居初めてなんです。観たことはもちろんありますし、(つかの)劇団員の方々とご一緒させていただいたことはあるんですけど、自分がやるのは初めてで。
 最初にお話をいただいたときに、膨大な量のセリフを喋って、ものすごい熱量でやるつか芝居を自分ができるのかどうか。不安が大きかったですね。みなさんが本読みしているのを聞いて、いい年しながら、ちょっと焦るみたいな(笑)。新人の気持ちで向かっていって、何か良い化学反応が起きたらいいな。
 僕が芝居を始めたきっかけは、少年社中という劇団の4人芝居を観たことなんです。それはエレベーターの中で起こる物語だったんですけど、なんか『売春捜査官』と被るなぁなんて思ったりもしましたね。頑張るしかないですよね」

―――ぜひつか作品の魅力を掘り下げていきたいと思うのですが、ここまでつか作品に魅せられる理由は何でしょうか?

髙橋「僕もその理由をよく考えるんですけど、多分『これが理由でのめり込んだ』とか『ここが面白い』という部分が、我々の感情や年齢、環境によってどんどん変わっていくところがすごい作品なんだと思うんです。底知れないと言うか。
 僕の記憶にあるのは、2003年に青山劇場でやった筧利夫さんと広末涼子さんの芝居(『幕末純情伝』と『飛龍伝』)。当時僕は高校生で、芝居が終わった後に、筧さんがものすごく格好良く見えて。そんなところに魅せられた時期もあれば、その作品の中の関係性について深く考察するのが好きだった時期もある。
 “この作品が好き”というのも年々変わるし、“ここが好き”というのも年々変わる。そこがみんなが言う“人間の本質”みたいなところなのかなと思ったりします。変わっちゃうじゃないですか、人間って。だから、自分の心の状態のバロメーター的な存在でもあるんです、つか作品は(笑)。
 観るたびに感想が変わって、やる人によっても全然違った魅力が出てくるお芝居はなかなかないと思うんです。だからこそ、4人が魅力的に見える『売春捜査官』が一番面白いと思う。4人が魅力的に見えなかったら、それは僕のせいなので、頑張りたいですね」

水野「つかさんの作品は、人間の泥臭いところとか格好悪い部分が思い切り描かれていますよね。だけど、それさえも愛くるしく思えてきてしまう。『そうだよね、こういうのが人間だよね』という勇気をくれるんですよね。
 もちろん熱い芝居を観ているとスカッとするし、そこも大切な要素ですけど、つかさんの作品にはどれも常識を覆してくれる感覚があると私は思うんですよね。『自分が思っている当たり前をもう1回見直して考えてみたら? もっと面白いんじゃない?』といつも提案してくれてる感じがする。日常を生きていて、『自分で限界を決めてないか?』とか、そういう問いかけをしてくれてるんです。そこがすごく魅力的だなと思ってます。
 やっぱり元気をもらうし、自分が自分のままでいいんだ、格好悪い自分もそれでもいいんだ、常識に縛られずに自分の価値観で生きていけばいいんだと教えてもらえる。だから、すごく好きです」

―――最後に観劇を楽しみにされているお客様に一言お願いします!

森「熱い、人間臭い、泥臭いお芝居ですが、何かエネルギーをもらえて、きっと観てよかったなと思ってもらえるはず。劇場を出た後に、ふっと足が軽くなるような、そういう芝居を見せられるように精一杯やります。ぜひ劇場に足をお運びいただければ幸いです」

髙橋「つかさんの作品ってすごく難しくて、ともすれば差別的だとか前時代的だとか言われる要素も正直あると思っていて。だからこそ、そこに意味や学びがあるものをつくらないと、本当にそうなっちゃうんです。
 例えば、差別は絶対に良くないですけど、そういう差別的な感情や存在なくして、誰かを特別に愛することってできるんだっけ、とか。今までと世界の見え方が少し変わるような問いかけや学びを持つ芝居が作れると、あぁ観に来た意味があった、価値のあるものだったとなると思うんですね。そのエネルギーをどう総合芸術として4人で表現するか。それが全てだと思います。
 今回、水野さんは主演女優で、プロデューサーで、しかも『売春捜査官』で、本当にすごいことをやろうとしている。『覚悟した方がいいよ』と言っているんですけど、本人もそれをやり遂げたいと思っているし、その覚悟を感じるからこそ人も集まったし、クラファンでお金も集まったし、周囲も期待していると思うんです。その期待に応えられるといいなと思います」

水野「広大さんが言うように、すごいことをやろうとしてると思うんです。1年前の5月にやると決めたんですけど、何かやるんだったら思いっきりやろうと思って。今、自分に一通りのプレッシャーをかけているんです。
 クラファンで注目と支援者を集め、キャストに憧れのベテラン陣を揃え、有名なつか作品をやる。とても有り難くて幸せな反面相当なプレッシャーで毎日ぶるぶる震えてはいるんですけれど、プレッシャーをかければかけるほど、自分でつくった限界を嫌でも超えないといけなくなるので。そうやって自分を鼓舞しています。
 お芝居は自分が経験してきた範囲でしかできない。それは逆に言えば、自分の人生は自分しか生きてないから、自分にしかできないお芝居は絶対あると思うんです。そういう意味だと、今まで幾度もやられてきたつか作品ですけど、私達にしか生み出せないものが絶対あると思っているので、とにかく自信を持って、自分が今まで経験してきた人生をかけて取り組もうと思っています。『みんなの人生を観に来てください』ぐらいの気持ちで挑みたいと思っておりますので、ぜひ楽しみにしてください!」

(取材・文:五月女菜穂 撮影:友澤綾乃)

7月7日は七夕。もしも願いがなんでも叶うなら……どんなお願いをしますか?

高橋広大さん
「あの時、あの言葉を言えていたら、みたいな答え合わせをしてみたいです。人生って、基本的に『時既に遅し』じゃないですか。同時に、そういう経験があるからこそ、言葉やその後の出会いを大切に出来るとも思っていて。だけど一年に一度くらい、そういう答え合わせが出来る日があっても良いのかなって。そんなことを思いました」

森 大さん
「自分の持ち小屋(キャパ150〜200くらいの劇場)と、その地下もしくは2、3階とかに持ち稽古場も完備してる劇場の小屋主にやりながら演劇を続けてくこと。場所は新宿区、中野区あたりで。自分が演劇をはじめたきっかけとなったのは小劇場の熱い演劇。その場を演劇人たちが足掻く場所として使ってもらいながら自分も一緒に足掻く。稽古後はそこであーだこーだ言いながら酒飲んで。そんな場所を自分で持ちながら、バカなことずっと本気でやってたいです」

水野奈月さん
「お金や時間やコロナに捉われずに、お芝居をしながら全国色んなところを旅してまわりたいです。実際に触れて体感して、出逢って共有した時間があればあるほど、人生の幅がものすごく広がっていくなぁとつくづく感じていて。けど、負担やリスクを考えるとそこまで自由に動けず、窮屈な所に自分を押し込めてる日常があって。もし何にも縛られず捉われず、心が向くまま旅して自由にお芝居が出来たら、もっと世界が広がって、可能性に満ちるんだろうになぁと」

プロフィール

水野奈月(みずの・なつき)
2月28日生まれ、愛知県出身。近作に、2022年、ナイーブスカンパニー『ロング・タイム・ノー・シー』など。舞台を中心にマルチに活動。動画配信サービスLINE LIVEでは、フォロワーが1 万人を超え、2018年の「LIVER AWARD 2018」でTOP LIVER に選出された。

髙橋広大(たかはし・こうだい)
1987年8月14日生まれ、東京都出身。演劇ユニット「ナイーブスカンパニー」主宰。近作に2022年 KURAGE PROJECT Vol.1『売春捜査官』、『ロング・タイム・ノー・シー』など。『ロング・タイム・ノー・シー』では、GREEN FESTA 2022 BOX in BOX THEATER 賞を受賞。

森 大(もり・まさる)
1979年5月5日生まれ、千葉県出身。2001年、劇団「少年社中」に入団。2012年、少年社中プロデュース『モマの火星探検記〜 Inspired by High Resolution 〜』出演をもって退団。自身がプロデュースする演劇ユニット「dope A dope」の活動や、殺陣指導もおこなっている。

公演情報

natsuki produce 『売春捜査官』

日:2022年8月3日(水)~7日(日)
場:下北沢 シアター711
料:S席[特典付]7,000円 A席[特典付」4,700円 S席6,500円 A席4,200円(エリア内自由席・税込)
HP:https://natsukiproduce.wixsite.com/home
問:natsuki produce mail:info@nerim.co.jp

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