かつて話題を呼んだ大作に、新たな生命が吹き込まれる 戦後の混沌を背景に紡ぎ出される幻想の物語

かつて話題を呼んだ大作に、新たな生命が吹き込まれる 戦後の混沌を背景に紡ぎ出される幻想の物語

 唐十郎による『下谷万年町物語』は、1981 年に西武劇場(現・PARCO 劇場)にて蜷川幸雄演出で上演された。主演を状況劇場の李麗仙と、まだ演劇集団円の研究生だった渡辺謙が務め、さらに100人近い男娼役が登場するという大規模な作品だった。故に再演は難しいと言われたが、2012年に同じく蜷川演出で宮沢りえ、藤原竜也、西島隆弘を主演にシアターコクーンで再演を果たした。

 そんな大作を後期状況劇場で活躍した金守珍主宰の新宿梁山泊が、ホームグラウンドであるテント劇場で上演する。今やテレビや映画で個性派俳優として広く知られる六平直政。そして唐十郎と李麗仙を両親に持つ大鶴義丹も参加するという。

金「いつか手掛けようとは思っていましたが、まだまだ先の話だと思っていた作品。それが義丹くんから声を掛けられて」

大鶴「父(唐十郎)の作品は意外にサイズ感覚が巧妙で、まるでテント劇場に向かって当て書きされている気がします。もともとこの作品は西武劇場を想定して書いたはずですが、もしかしたらテントを想定して書いた気がする。だから『下谷…』をテントに戻したら何かが産まれるんじゃないかと思いました」

金「余計なものを削いでサイズを合わせたら、すごく圧縮されて、僕が理解していたよりもっと深い作品になりました。義丹くんにはかつて僕が演じた役をお願いしたら快諾してくれたし、六平ちゃんも出てくれる。彼とはずっと一緒にやっていて、劇場公演には出てもらっていますが、テントは久し振りで……」

六平「どうも30年振りくらいらしい(笑)。ただ久し振りではあるけれど、テント育ちの俺がそこに
戻ってくることに特別な感情はなにもないね。だって金守珍とはずっと一緒にやっているし、俺
が唯一言うこと聞くのは金守珍だけ。ともかく俺は型に嵌められるのが嫌いだから」

金「放し飼いです(笑)。彼は自己演出できる人だし、もうツーカーの仲だしね」

六平「コクーンでやったときは劇場が広いから寒さを感じて客席とシンクロできなかった。テントは客席の息づかいを感じながらできるから」

 この作品の初演からまもなく、唐は『佐川君からの手紙』で芥川賞を獲ることになる。

金「ある意味、一番脂が乗っていた時代の作品かもしれませんね」

 そんな作品がテントという空間と金の演出でどんな生命が吹き込まれるのか、実に楽しみだ。

取材・文:渡部晋也 撮影:山本一人(平賀スクエア)

プロフィール

金 守珍(キム・スジン)
東京都出身。新宿梁山泊主宰。演出家・映画監督。蜷川スタジオを経て状況劇場に参加。俳優として後期状況劇場で活躍。蜷川幸雄、唐十郎両巨頭から薫陶を受ける。解散後の87年に新宿梁山泊を立ち上げ、俳優としてだけでなく演出家として作品を発表。紫テント公演から劇場公演まで幅広い状況での上演に挑んでいる。さらに外部作品での演出も多数。01年には日韓合作映画『夜を賭けて』で監督を務める。 

大鶴義丹(おおつる・ぎたん)
東京都出身。唐十郎と李麗仙を両親に持ち、自宅が劇団の稽古場でもあるという希有な環境に育つ。大学時代に映画『首都高速トライアル』で俳優デビュー。90年、小説『スプラッシュ』が第14回すばる文学賞を受賞し、小説家デビュー。22年1月には最新作『女優』を出版。95年以降は映画監督として、これまでに6本の映画を監督し発表している。バイクや自動車にも造詣が深く専門誌での連載も手掛ける。 

六平直政(むさか・なおまさ)
東京都出身。武蔵野美術大学彫刻科卒業、同大学大学院修士課程中退という経歴を買われて状況劇場に参加。やがて俳優として舞台に立つようになる。新宿梁山泊の旗揚げに参加し、劇団公演に出演するが、強面のヤクザから叩き上げの刑事役などアクの強い役をこなす俳優として、深作欣二、伊丹十三、北野誠といった監督の作品に参加。映画・ドラマに数多く出演。また美術家として精密な彫刻作品なども手掛ける。

公演情報

新宿梁山泊 第72回公演〈創立35周年テント興行〉『下谷万年町物語』

日:2022年6月12日(日)~25日(土) ※16日(木)休演
場:花園神社境内 特設紫テント
料:一般指定席5,000円 桟敷自由席3,500円 U25[25歳以下]2,500円 高校生以下2,000円 ※U25・高校生以下は桟敷自由席限定/要身分証明書提示(税込)
HP:http://s-ryozanpaku.com/ 
問:新宿梁山泊事務所 tel.03-3385-7971

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