※Wキャストについては、囲み取材の様子と共に別記事でお伝えします。お楽しみに!
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ドラァグクイーンを夢見る高校生の、差別や偏見と闘いながら自分らしく生きていく姿がやがて周囲の価値観までも変えていく様を描き、2021年の日本初演で大きな感動を届けたミュージカル『ジェイミー』が、タイトルロールに新キャストの三浦宏規と、初演からの続投となる髙橋颯を筆頭とした再演の舞台が、東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で上演中だ(27日まで。のち8月1日~3日大阪・新歌舞伎座、8月9日~11日愛知・愛知県芸術劇場 大ホールで上演)
ミュージカル『ジェイミー』は、英国の公共放送局BBCで放送されたドキュメンタリー番組を基に、2017年に英国で生まれ、英国最高峰の演劇賞ローレンス・オリヴィエ賞に5部門でノミネートされるなど、一大旋風を巻き起こしたミュージカル。疾走感あるポップなメロディやダンスとともに、家族や親友、取り巻く人たちの応援を得てジェイミーが成長していくビルドゥングス・ロマンとしての一面も持つ作品は、親子の愛、友情、仲間との絆、何よりも、異なるアイデンティティを持つ一人ひとりを尊重しよう、みんな違っていていいんだ、という心に響くメッセージが深く心に刻まれる作品となっている。
【STORY】
ジェイミー(三浦宏規/髙橋颯・Wキャスト)は、ドラァグクイーンになることを密かに夢見ている高校生。
16歳の誕生日、母親マーガレット(安蘭けい)からプレゼントされたのはジェイミーがずっと欲しかった、ゴージャスな赤いハイヒールだった。
喜んだジェイミーは、親友のプリティ(唯月ふうか/遥海・Wキャスト)に教室でこっそりとハイヒールを見せ、かねてから自分を目の敵にしている同級生ディーン(神里優希/吉高志音・Wキャスト)からの侮辱の言葉にも初めて抵抗し、遂に言い負かすことができた。その姿を見たプリティは、高校生活最大のイベントであるプロムにハイヒールと共にドレスを着て出ることを提案する。
そこでドラァグクイーンのドレスショップに足を踏み入れたジェイミーは、店を切り盛りするヒューゴ(石川禅)に出会う。ティーンエイジャーの残酷さを知り抜いているヒューゴは、プロムにドレスで出ようと考えているジェイミーに驚き、その為にはいかなる困難にも立ち向かう勇気が必要だと自身の話をする。彼こそが伝説のドラァグクイーン ロコ・シャネルその人だったのだ。ヒューゴとドラァグクイーン仲間のライカ(泉見洋平)、トレイ(渡辺大輔)、サンドラ(岸祐二)の応援も得て、夢に向かって強く突き進むもうとするジェイミー。だが、担任教師のミス・ヘッジ(かなで/栗山絵美・Wキャスト)をはじめ、学校やクラスメイトの保護者たちは猛反対。苦しむ息子をマーガレットと、その親友でジェイミーを受け入れられない父(岸祐二/二役)に代わり、家族同然に彼を支えるレイ(保坂知寿)は全力でサポートし、ジェイミーが自分のアイデンティティを自由に表現できるよう強く背中を押してくれる。偏見や差別に苦しみながらも、様々な絆に支えられ、自分自身を偽らずに本当の自分を表現し続けるジェイミーの姿は、次第に周囲の目を変えていき……

4年前の初演でこの作品に初めて接した時の感動と、心揺さぶられる思いはいまも鮮烈な記憶として残っている。人種、文化、宗教、言語、更に一人ひとりのアイデンティティ。そうした「自分と相手は違うんだ」ということに怖れ排除するのではなく、多様性を認め合い、尊重し合おうとの声が叫ばれて久しい。つまりはそう言い続けなければならない現実が横たわり、しかも世界を覆った他者と触れ合うこと、話すことも憚られたコロナ禍の閉塞感のなかで、16歳の高校生が自分の心地よい世界を偽らずに表現することを全力で肯定しているこの作品の、まるで宝石のような台詞の数々がどれほど胸にしみたか知れない。16歳の誕生日に真っ赤なハイヒールをプレゼントしてくれる母親。しかも「娘さんの足大きいんですね」という店員の問いかけに「息子のです」と宣言できる母にサポートされ、更に多くの人々との出会いのなかで困難にぶつかりながらも、強く歩んでいくジェイミーの姿はあまりにも眩しかったし、何よりもこの作品が実話をもとにしている力強さは、こうした偏見のない世界が生まれつつあるのかもしれないという、希望をももたらしてくれるものだった。

だが、終わらない戦争、続く不況、富める者と貧しい者との広がる格差が人と人との分断を助長し、ましてそんな空気を掌握して支持を得ようとする大国の指導者までが現れ、世界は4年前よりも悲しいことに混迷を深めている。一人ひとりが自分らしくあろうとすることと、自分さえよければいい「〇〇ファースト」と称されるものとの間には、あまりに深い溝がある。ミュージカル『ジェイミー』が果たしたと感じさせた理想は、むしろ遠のいてしまっているのが現実だ。
けれども、だからこそ『ジェイミー』からは初演よりも更に多様なメッセージが放たれていた。それは、三浦宏規が上演を前にシアター情報誌カンフェティ6月号のインタビューで語った言葉が端的に表している「人と違うことをするのを恐れなくていいよという『ジェイミー』のメッセージに凄く共感します。ただ一方で、人と違うことをしたくないなら、それもまた自由なんだということも描かれていて。変わりたい人も変わりたくない人も何も悪くないよ、という全ての人の背中を押してくれる作品」という面が大きく前に出てきたのを感じる。

自立できない子供時代にとって家庭は世界の全てだし、学校生活のなかで毎日同じ面々と顔を合わせている間に、その輪に馴染めないこともまた、非常に大きな苦痛を伴う。でもその期間には区切りがあり決して永遠ではないばかりか、大人になって振り返れば実は驚くほど短い。そうしたことをこの作品はきっちりと内包していて、辛かったら身をすくめていることも、できる限り波風を立てず嵐をやり過ごすことも、また勇気なのだと語り掛けてくれるのだ。

その上でやはり庇護下にいるしかない親から放たれた言葉が重い楔になり、進みたい道の壁になっているジェイミーが、その壁を越えて行こうとする気概には拍手を贈らずにはいられないし、学校というひとつの世界から出るからこそ、敵対していた者同士が手を取ることができる若い感性とその姿には、浄化されていくものと希望とを共に届ける力がある。ポップでキャッチーで力強いミュージカルナンバーに、ジェフリー・ペイジの小気味よい振付と、椅子にも、積み重ねてテーブルやカウンターにも姿を変えていく箱型の装置を、生徒たちがダンスの流れのなかで自ら動かしていく。そんな初演で非常に強く印象にのこった石原敬の美術とジェフリーの演出による、人の力を信じる、演劇の想像力を信じる場面転換の見事さも、むしろ再演のいま、2025年の演劇界のムーブメントになっていて、先見性を改めて感じさせた。
その再演の舞台で主人公ジェイミーとして初登場した三浦宏規が、作品への深い理解と同時に、次世代ミュージカルスターの先頭を走る経験値の高さと、培ったバレエの素養を存分に活かして魅了する。一挙手一投足、動きの全てが華やかでドラァグクイーンになりたい、というジェイミーの夢に現実感があるし、何よりここまで可愛らしいと思える三浦の表情の数々が観られたことが非常に新鮮だった。役柄によって俳優としてのイメージまでも豹変させる姿はこれまでにも度々目にしてきたが、今回もその役者ぶりが健在で繊細な演技と共に、三浦だから可能なポージングも目に鮮やかだった。
そのジェイミーの全てを肯定し、惜しみない愛を注ぎ続ける母マーガレットの安蘭けいは、初演から更に大きくなった愛を感じさせるのと同時に、息子の進みたい道を肯定し続け、背中を押すことがマーガレット自身の自己実現のすり替えになっていないか?に、ふっと立ち止まる瞬間を感じさせて深い。それがあるから夫婦生活の破綻には諦観も持ちながら、せめてジェイミーの父親としての役割は果たして欲しい、という元夫への想いや経て来た道に忸怩たるものを感じながらも、我が子を得たことが全てに勝るマーガレットの、ジェイミーへの無条件の愛が尊く伝えてくれている。

ジェイミーの親友プリティの唯月ふうかは、持ち味である少女性が存分に生きる役柄を得て愛らしさ全開。その上で、ヘジャブを身に着けていることを、宗教の戒律故でなく、自分らしくいられるから、心地よいからと言えるプリティの信念、医師にもなれる頭の回転の速さと意志の強さをきちんとにじませたのが唯月のプリティ像として屹立している。澄んだ美しい歌声も耳に心地よい。

学校という世界のなかで常に頂点でいないと気が済まないディーンの神里優希は、ジェイミーへの偏見と侮蔑の塊という堅固な役作りで、王道のヒールを堂々と演じ、ジェイミーにとって最も身近な壁のひとつとしての機能を十二分に果たしていていっそ清々しいほど。目に鮮やかなビジュアルの良さが少女漫画の敵役を思わせる神里ならではの在り方でもあって、終幕まで波乱を引っ張る力になっている。

作品を大いに賑わせるドラァグクイーンの1人ライカの泉見洋平は「永遠の21歳」を自称する役柄通りのピンクのツインテールやベビードール型の衣裳が初演以来抜群に似合い、大きな目をくるくる動かす豊かな表情や、仕草の一つひとつがなんとも可愛らしい。そんなライカがびっくりするほど豹変する電話のシーンも大きな見どころで、陰影クッキリと演じているので是非注目して欲しい。

一方、トレイ役で初登場の渡辺大輔はドラァグクイーン姿の美しさに目を瞠るばかり。天下の二枚目だということは重々承知していたが、ドラァグクイーンとしてこれほど美しく登場してくれたのは嬉しい驚きで、クールビューティぶりが作品に華やぎを加えている。ヒューゴの回想シーンでの大活躍も必見で、近年役幅を広げ続けている人だが、怖い者なしの様相を呈してきて頼もしい。

ジェイミーの担任教師ミス・ヘッジのかなでは、お笑いトリオ3時のヒロインの一員として活躍していてこれが初ミュージカル参加となったが、作品への真摯な向き合いぶりが伝わる好演。ミス・ヘッジもジェイミーに立ちはだかる壁の1人であり、教師であるだけに更に厄介とも言える難役だが、かなでの持ち味が極自然にミス・ヘッジにも人間らしさを加えていて、観ていて救いも感じさせる存在になった。声量も豊かでミュージカル俳優としての伸びしろも感じさせる。

ジェイミーの父とドラァグクイーン仲間サンドラの二役も初役で岸祐二が務めた。息子が自分にとっての理想の息子ではなかった、その葛藤はわからないでもないものの、それを言ったらおしまいだろうという言葉を口にする役どころだが、岸が演じることで心の襞が浮かび上がった部分があり、そこからサンドラへの切り替えの妙も抜群。ジェイミーを心から応援しているサンドラを二役で演じてくれることも、観る側の和みにつながっている。

そんな役割を放棄した父親に代わる存在でもあるマーガレットの親友レイの保坂知寿は、こんな親友が家族同然にいてくれたら生涯の宝だなと思える存在を、滋味深くかつ決して重くなり過ぎずに演じていて、最早こと改めて言うことではないがその演技巧者ぶりにただ惚れ惚れする。ミュージカルのリズム感が身体に入っている人だけに、登場ごとに作品のミュージカル度を高めてもいて、ミュージカル『ジェイミー』にとってあまりにも貴重な存在であることは初演以来揺るがない。

そして、貴重と言えばここに頂点をなす存在なのが、ヒューゴ/ロコ・シャネルの石川禅。ジェイミーよりもひとつ前の時代、つまり更に偏見や差別が強かったはずの時代を生き抜いてきたドラァグクイーンとして、ジェイミーを諭し、誘い、自分を卑下する言葉、否定する言葉、美しくない言葉を決して口にしてはいけない、と説く人生訓がジェイミーを鼓舞していく様には大きな感動がある。特に自身が初演より更にそぎ落とした演技を目指しているという趣旨の演技プランを公開稽古で語っていた通りの、所謂見栄を切る的な芝居がナチュラルになっていて、回を重ねて役柄をトゥーマッチにさせない役者としてのクレバーさも際立った。何を演じてもそう思わせてくれる俳優ではあるが、それでもこの役柄は石川のキャリアのなかのベストに数えられるものだという確信を持てる、舞台ぶりに敬意を表したい。
また前述した通り、作品の転換も含め、弾ける若さで躍動する生徒役の面々ベックスの小向なる、サイードの里中将道、ファティマの澤田真里愛、ミッキーの東間一貴、サイの星野勇太、リーバイのMAOTO、ベッカの元榮菜摘、ヴィッキーのリコは、初演からの続投組もいるものの、新たなクラスメイトとしてとても新鮮。一人ひとりの個性もだが、ジェイミーがいまいる世界を織りなしている人々という感覚があるのも、再演版の特徴になっている。
そんなキャストが躍動する舞台から放たれるメッセージが多様に深化を続けているのも、この作品に相応しく、世界が不穏な空気に包まれているいまだからこそ、多くの人に触れて、感じて、それぞれの想いや優しさ、笑顔を持ち帰って欲しい舞台になっている。

取材・文・撮影/橘涼香
【カンフェティ限定】クリエイティブスタッフ公開インタビューイベント開催!
《クリエイティブスタッフ 公開インタビュー》
福田響志さん(翻訳・訳詞)に
・英語台本の翻訳、英語ニュアンスの表現方法
・メロディーに日本語訳をのせるコツ
など、約40分間の濃いインタビューを実施!
※ドラァグスお見送り会後に実施します。
開催日:7月19日(土)13:30公演 終演後
登壇者 :福田響志(翻訳・訳詞)
インタビューアー:橘涼香(ライター)
【対象者】
カンフェティにてミュージカル『ジェイミー』の7月19日(土)13:30公演をご購入の方
【リピートにも!】カンフェティ限定ボーナスポイント付きチケット
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S席当日引換券(平日) :13,000円 +4,000Pゲット!
S席当日引換券(土日祝):13,500円 +3,500Pゲット!
公演概要
ミュージカル『ジェイミー』
■東京公演
期間:2025年7月9日(水)~7月27日(日)
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
■大阪公演
期間:2025年8月1日(金)~3日(日)
会場:新歌舞伎座
■愛知公演
期間:2025年8月9日(土)~11日(月祝)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
ジェイミー・ニュー:三浦宏規/髙橋颯(WATWING)
マーガレット・ニュー:安蘭けい
プリティ:唯月ふうか/遥海
ディーン・パクストン:神里優希/吉高志音
ベックス:小向なる
サイード:里中将道
ファティマ:澤田真里愛
ミッキー:東間一貴
サイ:星野勇太
リーバイ:MAOTO
ベッカ:元榮菜摘
ヴィッキー:リコ(HUNNY BEE)
(五十音順)
ライカ・バージン:泉見洋平
トレイ・ソフィスティケイ:渡辺大輔
ミス・ヘッジ:かなで(3時のヒロイン)
ミス・ヘッジ(女性役U/S):栗山絵美
ジェイミーの父/サンドラ:岸祐二
レイ:保坂知寿
ヒューゴ/ロコ・シャネル:石川禅
学生スウィング:山村菜海、増山海里
※ミス・ヘッジ役のかなで(3時のヒロイン)が出演しない回がございます。該当回はアンダースタディの栗山絵美がミス・ヘッジ役で出演いたします。
■スタッフ:
音楽:ダン・ギレスピー・セルズ
作:トム・マックレー
日本版演出・振付:ジェフリー・ペイジ
翻訳・訳詞:福田響志
音楽監督:前嶋康明
美術:石原 敬
照明:奥野友康
音響:山本浩一
映像:石田 肇
衣裳:十川ヒロコ
ヘアメイク:宮内宏明
歌唱指導:吉田純也
演出補:元吉庸泰
稽古ピアノ:太田裕子
演出助手:宗田梁市
振付助手:隈元梨乃
舞台監督:幸光順平/瀬戸元哲
企画制作:ホリプロ