名作冒険活劇が全く新しい舞台として蘇る!舞台『未来少年コナン』上演中!

名作冒険活劇が全く新しい舞台として蘇る!舞台『未来少年コナン』上演中!

日本アニメーション制作により宮崎駿が始めて監督を務めたアニメーションシリーズ「未来少年コナン」初の舞台化となる、舞台『未来少年コナン』が、池袋の東京芸術劇場プレイハウスで上演中だ(16日まで。のち、28日~30日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演)。

「未来少年コナン」は1978年、頭角を現し始めていた宮崎駿が監督に大抜擢されたテレビアニメーションシリーズ。最終戦争後の荒廃した地球を舞台に、恐れを知らない野生児コナンがなおも権力にしがみつく人間たちと戦う、胸躍る冒険アドベンチャーで、鳥と心を通わせる能力を持つ少女や、様々な飛行メカ、異変を予知する虫の大群等々、この後に生み出される数々の宮崎アニメの傑作群へと受け継がれていく要素がつまった名作として知られている。

今回の舞台は、そんな作品の初の舞台化で、日本ではミュージカル『100万回生きたねこ』や村上春樹原作の『ねじまき鳥クロニクル』などを手掛け、その唯一無二の空間演出で観客を魅了し続けるインバル・ピントが演出、振付、美術を。表現者として多様なジャンルで才能が光るダビッド・マンブッフが共同演出を担い、異次元の発想力から生み出された独特の『未来少年コナン』が舞台に誕生している。

【STORY】

西暦20XX年。人類は超磁力兵器を使用し、地球の地殻を破壊。これにより引き起こされた大変動で、五つの大陸はことごとく海の底に沈み、栄華を誇った人類の文明は滅び去った。それから20年後、孤島・のこされ島では少年コナン(加藤清史郎)が育ての親・おじい(椎名桔平)と二人で自給自足の生活を送っていた。そんなある日、謎の少女ラナ(影山優佳)が島に流れ着いたことから、コナンの運命が動き出す。島には工業都市インダストリアから行政局次長モンスリー(門脇麦)が飛来し、ラナを誘拐してしまう。コナンはラナを助け出すため、いかだに乗って冒険の旅に出る。

旅先で謎の野生児・ジムシー(成河)やインダストリアの貿易局員・船長ダイス(宮尾俊太郎)などと出会いを重ねるコナン。一方、自然に溢れたラナの故郷・ハイハーバーには、天才科学者・ブライアック・ラオ博士(椎名桔平・二役)の居どころを探すインダストリアの行政局長レプカ(今井朋彦)率いる兵士たちが襲いかかる。コナンは仲間たちと巡り合い、大切な人を守るために様々な困難に立ち向かいながら、人類に残された世界で、新しい未来を切り拓いてゆく。

冒頭、川合ロン笹本龍史柴一平鈴木美奈子皆川まゆむ森井淳黎霞Rion Watleyのダンサーたちが、連なりながら何かを伝播していく様が、幾度も続いていく。その動きは次第に大きくなり、やがては散り散りに弾けてしまう。そんな目を引く示唆的な動きのあとに、照明効果によってブルーに揺れる紗幕の向こうで、巨大なサメと闘いを繰り広げるコナンの姿が浮かび上がる。両者は宙を舞い、時にさかさまにもなりながら、舞台いっぱいを覆う紗幕の向こうで、縦横無尽に動き続ける。それがアニメ版の海中シーンで、コナンを演じる加藤清史郎その人が、宙を舞っている=海中を泳ぎ回っているのだと伝わると同時に、ダンサーたちの意味深長な動きが、所謂「最終戦争」を現していたことも理解できてくる。ここまでの場面だけで、ダンサーの奇想天外な動きや、俳優の身体能力に全幅の信頼を置いた、独創的で、しかも演劇的なインバル・ピントの世界観のなかで、「未来少年コナン」がどう描かれるのか、想像力に訴えるその独自の方法論が観て取れた。

実際、アニメーションと人が目の前で演じる舞台作品を全く同じ手法で表現することはできない。その時最も大切なのは、そのバランスをどこに取るか、という点だろう。LEDパネルを駆使した大がかりな映像効果や、レーザー光線などの照明効果、大迫力の音響のなかで登場人物たちの再現度にこだわり、ある意味エンターティメントに振り切る方向性もあれば、全く別個の演劇作品としての拘りを貫く作劇もある。それはもちろんどちらが正しいというものではないし、1か100かという話でもない。

そうした意味で、今回の舞台『未来少年コナン』は、クリエーター色が濃く、強く出ている舞台面のなかで、アニメーションで躍動していたキャラクターたちが、そのまま生きて動いているという、またひとつ、これまでにはない形でのアニメ作品の舞台化がなされたものになった。端的に言えば、まごうかたなきインバル・ピントの舞台のなかで、「未来少年コナン」のキャラクターたちが駆け回っているのだ。特に、ピントの創造する舞台は、独創的なのと同時にかなりの部分の表現がアナログでもあるから、ピント作品への予備知識がなく、「未来少年コナン」を観に来たという向きには、驚きもあるかもしれない。けれども、コナンだから初めて客席に座るという観客も多くいるに違いない作品から、舞台演劇の全く新しい魅力に触れるチャンスが広がっているのは大きな可能性だろう。

そうした表現を可能にしたのが、ランプや月を手にして舞台を灯すことにはじまり、人はもちろん動物にも木々にも花にも、時には砂漠にもなるダンサーたちばかりでなく、メインキャラクターを演じる面々の身体能力の高さだ。

のこされ島でおじいとたった二人で生きてきたコナンの加藤清史郎は、一世を風靡した人気子役時代から現在まで、映像だけでなく舞台に大きな情熱を注いできた人で、今回もとことんポジティブで素直なコナンを全身で造形している。何よりも、ここまで動ける人だったのかと驚かされたほど俊敏に舞台を飛び回っていて、常人より遥かに優れた運動能力を持つコナン役に説得力を与えた。さらに舞台空間のなかでも印象的な目力の強さがコナンの喜怒哀楽を映し出し、おじい以外の人間を全く知らなかったコナンが、ラナとの出会いから様々な人々の存在を知り、彼女を守ろうとする一心で豊かに成長していく様を見せてくれていて、これを適役と言わずして、と思える主演ぶりだった。

ラオ博士の孫娘でテレパシーの能力の持ち主であるばかりに、追われる身となっているラナの影山優佳は、“日向坂46”のアイドルとして活躍したのち、女優、タレントとして活動を広げるなかで出会ったラナ役に、少女性と同時に神秘性を持たせることに成功している。コナンがなんとしても彼女を救おうとする物語の流れを自然に納得させてくれていて、体当たりで懸命な舞台姿にヒロインらしさが漲っていた。

コナンに勝るとも劣らない運動能力を持つ、天然の野生児ジムシーの成河は、この人の一挙手一投足から目が離せない、抜群の存在感と身体能力の高さで魅了する。高い木に登り、宙を翔ける場面では、木や花に扮するダンサーたちとの阿吽の呼吸もあるのだが、全て自分の力で飛び回っていると信じさせる柔軟性と瞬発力が素晴らしい。友情にも厚いが、食べることへの情熱はさらに人一倍なジムシーの生命力の強さをストレートに届けてくれた。

ラナを追ってくる工業都市インダストリアの行政局次長モンスリーの門脇麦は、任務遂行のためなら手段を選ばない初登場時点から、コナンとの邂逅、さらに彼女自身の過去の記憶から、揺らいでいく気持ちをポイント、ポイントの出番で示している。いつの間にか「コナンたちの仲間になればいいのに」と応援する気持ちにさせられる、懊悩の見えるモンスリー像が魅力的だった。

自由に生きたいと願う海の男ダイスの宮尾俊太郎は、コナンやラナの味方をしてくれたかと思うと保身に走るダイスに、滑稽味とどこか憎めない香りを巧みににじませた表現力に驚かされた。バレエダンサーとして活躍するなかで、『ロミオ&ジュリエット』の死のダンサーをはじめ、踊る役柄でミュージカルや演劇に進出してきた宮尾が、今や堂々とした俳優になっていることを改めて感じさせる演技だった。

インダストリアの行政局長レプカの今井朋彦は、登場しただけで、周りとは全く違う空気と、存在感を発揮するこの人の俳優としての魅力がレプカ役に噴出している。キャラクターを本人に引き付けただけでなく、さらにキャラクターを凌駕していくほどの怪演で、これはまさにキャスティングの勝利。観る度に感じる今井の得難さを、ここでも最大限に発揮してくれた。

コナンを育てたおじいと、ラナの祖父ラオ博士を二役で演じる椎名桔平は、両者を見事に演じ分けながら、最終戦争による地殻変動から生き残った数少ない人類としての、それぞれに抱えてきたものを持つ役柄同士を、椎名が一人で演じることに深い意味を感じさせる。人は一人では生きられない、仲間を見つけ、仲間の為に生きろ、というこの作品が持つ力強いテーマをしっかりと伝える存在になった。

また、コナンの新しい出会いに関わっていくルーケほかを演じた岡野一平の演技が温かく、明かるさから迫りくる不穏な影までを生演奏で届けるミュージシャンの、トウヤマタケオ佐藤公哉中村大史萱谷亮一服部恵も、時に舞台の出演者にもなる作りが作品の味わいを深めている。ミュージカルではないながら「音楽劇」とは名乗ってもいいかもしれないと思える、阿部海太郎の音楽、大崎清夏の歌詞でしばしば歌われる楽曲も、作品の世界観によくあっていた。

思えば、自分たちが暮らすかけがえのない星、地球を、自らの手で住めない場所へと荒廃させてしまう、誰一人勝利者はいない「最終戦争」の後の世界を描いた作品は数多い。こうした作品群が創り続けられるのは、民族や、国、更にはそれらを統べる地位を手に入れた者たちが、互いに共存しようとするのではなく、自分こそが唯一の支配者であろうとし、取り返しのつかない過ちをいつ起こしても不思議ではないこの世界の状況が、一向に改まらないどころか、むしろ一触即発の危機を感じさせているからだろう。

そんな警鐘が鳴らされている、名匠宮崎駿が初監督作品として世に出したこの「未来少年コナン」の世界と、ピントとダビッド・マンブッフの創造の架け橋になった伊藤靖朗の脚本も当を得ていて、新たな発見のなかから普遍のテーマが届けられる舞台になっている。

【取材・文・撮影/橘涼香】

舞台「未来少年コナン」

■期間:2024年5月28日(火)~6月16日(日)
■会場:東京芸術劇場 プレイハウス

■出演:
コナン:加藤清史郎
ラナ:影山優佳
ジムシー:成河
モンスリー:門脇 麦
ダイス:宮尾俊太郎
ルーケほか:岡野一平
レプカ:今井朋彦
おじい・ラオ博士:椎名桔平

<ダンサー> 五十音順
川合ロン、笹本龍史、柴 一平、鈴木美奈子、皆川まゆむ、森井 淳、黎霞、Rion Watley

<ミュージシャン>
トウヤマタケオ、佐藤公哉、中村大史、萱谷亮一/服部 恵

■原作:日本アニメーション制作「未来少年コナン」(監督:宮崎 駿 脚本:中野顕彰 胡桃 哲 吉川惣司)
■演出・振付・美術:インバル・ピント
■演出:ダビッド・マンブッフ
■脚本:伊藤靖朗
■音楽:阿部海太郎

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<おまけ(アザーカット)>

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