【公演レポート】ノサカラボ「モルグ街の殺人~最初の探偵デュパンの物語~」

世界中に生まれた探偵小説の元祖
デュパンの魅力に溢れる朗読劇!

「ノサカラボ 2カ月連動企画 名探偵の継承~乱歩とポー~」と冠された 朗読劇『モルグ街の殺人~最初の探偵デュパンの物語~』が、2月22日東京渋谷のCBGKシブゲキ!!で開幕した。(26日まで)

ノサカラボは演出家・野坂実を中心に、世界の名作ミステリーを長期的にひとつずつ舞台化していこうという壮大なプロジェクト。

今回の「名探偵の継承』~乱歩とポー~」は、世界初の推理小説を書いた作家として認知されているエドガー・アラン・ポーと、その名から取った江戸川乱歩というペンネームで「名探偵・明智小五郎」を生み出した、日本の探偵小説の祖、江戸川乱歩の作品を連続上演しようという企画だ。

この朗読劇『モルグ街の殺人~最初の探偵デュパンの物語~』は、1月に上演された朗読劇『黒蜥蜴』に続いて上演される作品。
エドガー・アラン・ポーが生んだ、文学の世界に現れた最初の名探偵C・オーギュスト・デュパンが活躍する三つの作品を、大きくはひとつの作品と感じさせる流れで構築した朗読劇になっていて、密室の事件現場で、見るも無残な殺され方をしたことがわかる母娘にまつわる謎を描いた「モルグ街の殺人」。

実際に起きた若い女性の失踪事件を元にひたすら謎解きが行われる「マリー・ロジェの謎」。
そして、ある秘密が書かれた手紙の紛失事件を鮮やかに解決する「盗まれた手紙」からなる物語は、デュパンと、彼の事件解決を詳細に記録する「私」と、デュパンに捜査協力を依頼する警視総監Gとを中心に進んでいく。

舞台はデュパンを上手、私を下手に配置した中段と、センターからも出入りができる平場の舞台面、更にデュパンたちより高みの高段と、三層になった久保田悠人の幻想的なセットの中で展開されていく。

全員原作が発表された1841年頃のパリにちなんだ扮装をしているが、基本的には台本を手にマイクの前で台詞を読む、朗読劇王道の手法を守りつつ、デュパンと私以外の登場人物たちは、警視総監Gを含めて、舞台のあらゆる場所に縦横無尽の登場の仕方をしてくるのが効いている。

これによって場面の転換や、回想の証言などの時空を超える作品世界が無理なく提示されつつ、あくまでも朗読劇であるという絶妙な落としどころが心地良い。
壁に映し出される窓、時に全体が真紅や、青に染まる岡田潤之の照明が作る効果も手伝って、進んでいくドラマに陰影が生まれ、三つの異なる事件を続けて扱っていく難しさを感じずに、「最初の探偵デュパンの物語」として作品をトータルに通した、構成・演出の野坂実の優れた目配りが際立った。ここで切るか、という絶妙な1幕の終わりも実にシャープだった。

特に、警視総監の相談してくる事件のあらましや、微細な感情の変化、言葉の語尾などによって、真相を言い当てて相手を驚かせる天才・デュパンと、それを聞き驚きと尊敬を持って記録をとる「私」という関係は、のちに世界で最も著名な名探偵と謳われるようになる、アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズとワトソン博士の関係そのままだし、もちろん能動的に動くこともあるが、室内から出ずに、新聞記事などから与えられた情報のみで事件を推理する面もデュパンのなかにあって、やはり後にバロネス・オルツィが書いた『隅の老人』に代表されるアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)=観察力と推理力のみで謎を解く捜査手法も、この舞台で描かれる三作品のなかに既にあることがわかる。

そんなあらゆる意味でエドガー・アラン・ポーが、のちのミステリー小説に与えた影響の大きさが舞台からストレートに伝わってくることに、ノサカラボのミステリー愛の深さが感じられた。しかも原典の小説が書かれた時代的にどうしても文体が古典的な部分も、こうした現代の俳優が朗読で読んでくれる台詞では、脚本を担当した望月清一郎の滑らかな言葉遣いとあいまってスッと耳になじんでくれる。

それでいて、闇夜がいまとは想像できないほど深かっただろう時代だからこそ成立する様々なトリックは、朗読劇の想像力に委ねる部分が過度な疑問やひっかかりを与えない。この相乗効果が、作品世界に初めて触れる人はもちろん、ミステリー好きとしてもたまらない魅力がふんだんにあって楽しめる。

そんな舞台のなかで、天才探偵C・オーギュスト・デュパン、物語の語り手の「私」、事件捜査を依頼する警視総監Gには、日替わりキャストが組まれていて、しかも多くはシャッフルされるので、多彩な組み合わせが提示されているが、初日を前に行われたゲネプロでは、初日ただ1回のみのチームとなった三人が登場。

その一人、デュパンの大平峻也は本人が持つ軽やかな個性がデュパン役にも投影されていて、デュパンの天才故のある種の奇矯さや、こだわりの深さもチャーミングに感じさせるのが実に新鮮だった。それでいてどこかに天才故の孤独がにじむ機微もいい。

一方「私」の金城大和は終始誠実で、デュパンに敬意を持っていることが伝わる温かな演技が役柄に打ってつけ。
なかでも「私」が会話している台詞と、物語の語り部として解説をしている台詞に明確なメリハリがあって非常に聞きやすいのも、作品における役割りを十二分に果たしている。

また、警視総監Gのちゅうえい(流れ星☆)は、こうした名探偵ものにつきものの、事件解決の能力に欠ける警察組織を代表した役柄に、権高さを保ちつつも愛嬌を加えているのが理に適っていて、作品を転がすなくてはならない存在の意義を高めていた。

デュパン役にはほかに、橘龍丸、平野良、渡辺和貴
「私」役には、秋沢健太朗、徳山秀典

警視総監Gには竹若元博(バッファロー吾郎)柳原哲也(アメリカザリガニ)と多士済々な面々が居並ぶし、アンサンブルとしてタイトルロールを含めた重要な役柄を演じ分ける面々には、斉藤隼一、菅原慎介、杉本ゆう、樋口光、前堂友昭、吉川真世と、声優として大活躍しているメンバーが多く揃っていて、声による巧みな演じ分けの妙味もふんだんにある。

そんなリピート欲を誘う舞台には、劇場ではもちろん、アーカイブ付きの配信も複数の組み合わせで行われるので、見比べる楽しみも広く用意されているのが嬉しい。
世界中に生まれた優れた探偵小説、ミステリー小説の元祖の魅力にあふれた舞台を、是非多くの人に体感して欲しい。

(文・撮影/橘涼香)

「モルグ街の殺人~最初の探偵デュパンの物語~」

公演期間:2023年2月22日 (水) ~2023年2月26日 (日)
会場:CBGKシブゲキ!!

内容
「モルグ街の殺人」は1841年に発表されたエドガー・アラン・ポーの短編小説です。
推理小説というジャンルを築いた作品であり、密室殺人を扱った最初の作品とも言われています。コナンドイルや江戸川乱歩など、後世の作家たちにも多大な影響を与えました。

ある日、パリのモルグ街で猟奇殺人事件が起きた――。
犠牲者の母娘は残酷きわまる殺され方をされており、しかも事件現場は密室だった。
密室から聞こえていた犯人と思われる人物の声を複数の者が聞いていたが、証言者はこぞって自分の母国語以外の言語を喋っていたと言う。この殺人事件の解明に探偵C・オーギュスト・デュパンが挑む!!

その他、美しいむすめの失踪事件の謎に迫る「マリー・ロジェの謎」、紛失した手紙の行方をコミカルに解決する「盗まれた手紙」など、
時代を超えて愛される名作をノサカラボがお届けします!!

出演
2月22日(水)18:00 デュパン:大平峻也/私:金城大和/警視総監G:ちゅうえい
2月23日(木)13:00/18:00 デュパン:渡辺和貴/私:金城大和/警視総監G:ちゅうえい
2月24日(金)13:00/18:00 デュパン:平野良/私:秋沢健太朗/警視総監G:竹若元博
2月25日(土)12:00/17:00 デュパン:橘龍丸/私:徳山秀典/警視総監G:柳原哲也
2月26日(日)12:00 デュパン:橘龍丸/私:徳山秀典/警視総監G:柳原哲也
2月26日(日)17:00 デュパン:平野良/私:秋沢健太朗/警視総監G:竹若元博

構成・演出:野坂実
原作:エドガー・アラン・ポー
脚本: 望月清一郎

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