【公演レポート!】@emotion『NEVER EVER NEVER』

@ emotion(アットエモーション)が、2023年初頭に贈る新作舞台@emotion presents Expression Vol.9 銀『NEVER EVER NEVER』が品川の六行会ホールで上演中だ(29日まで)。

『NEVER EVER NEVER』は、@emotion代表の門野翔が書き下ろし、演出も務める作品。
突然母を亡くしたことを受け止められない“ススム”が、母を探す長い長い旅に出る。その旅路が「ネバーランド」で繰り広げられる、ママを求める攻防戦と絡み合い、月の満ち欠け、海の満ち引きの神秘が司る心象冒険ファンタジーだ。

物語は大人になることを拒む永遠の少年「ピーターパン」にインスパイアされた世界観を中心に形成されていて、ピーターパン→ピーター、フック船長→ジャック(通称・黒ひげ)、タイガーリリー→リリー等々、お馴染みの「ネバーランド」の住人たちが舞台を闊歩していく様が楽しい。
ただ、そこはあくまでも@emotionの描き出す「ネバーランド」で、冒頭、門野演じる黒ひげ海賊団の副長フールが、ジャックと衝突した為に起きる顛末が、フック船長の特徴と重なるなど、ストレートなインスパイアではなく、ドラマには様々な投影と交錯が連なって進んでいく。

特に体感的には全体の8割にも感じる殺陣や華麗なアクションの醍醐味から生まれる爽快感と、各々の役柄が内に持っている思いの深さから生まれる緩急のコントラストが極めて強い。それが「終わりから始める、永遠の旅」の意味、「命は誰のものなのか?持ち主のものだろう?」という問いかけのもたらす終幕の慄きにつながってハッとさせられた。
ここに門野の、そして全員が平成生まれという@emotionの心に響くリアルがあるのだろう。それが畳みかけるように続くアクション満載の舞台から、ポンと提示されるからこそ、考えさせられるものが多かった。

何よりも、六行会ホールの舞台面を、高低差のあるセットで縦の空間も使いつくして、総勢30人が勢ぞろいする迫力は圧巻だし、その30人それぞれに背景のある役割を書き込んでいる戯曲にも驚かされる。

冒頭で母の死を受けとめられず、母を求める旅に出る“ススム”の土屋シオンは、深い闇を抱えている“ススム”の慟哭を、愛らしいと言いたいビジュアルのなかから痛いほどに伝えてくる。おそらくコロナ禍に見舞われ、世界に戦闘が広がったこの3年間で、誰しもが命について考える時間を多く持ったはずだし、大切な人への喪失の不安も募るばかりのいまの世相によって、“ススム”の思いがより現実感を伴って感じられることも大きいのだろう。「ネバーランド」でピーターパンから伸びる影=シャドーも演じていて、ここにも大きな鍵が隠されている作劇によく応えている。

「ネバーランド」のヒーローであり、この世界の象徴でもあるピーターの笠原織人は、ピーターパンという永遠に大人にならないことを選んだ子供、という役柄が本来持っているイメージよりも大柄なことと、常に元気いっぱい笑顔満開の表現と、笠原本人の微かにビターな個性とのアンバランスが絶妙な味わいになっていて、これはキャスティングの妙。@emotionの「ネバーランド」に最適なピーターとして躍動しているのが素晴らしい。

ピーターと共にいる妖精ティンクの斉藤有希は、前半の台詞に仕掛けがあり、本来はわからないはずなのに、斉藤の芝居を観ていれば喜怒哀楽がちゃんとわかる、という離れ業を披露して魅了する。前半の表現と後半の台詞が乖離せず、まるで地続きに感じられることにむしろびっくりさせられたし、奔放な動きも面白い。

「ネバーランド」の迷い子の集団『ロストボーイ』のリーダー、カールの星璃も、誰よりも大柄な体躯で子供を演じることがひと際目を引く存在。『ロストボーイ』のリーダーであることに強いこだわりがあって、他の誰かが仕切る度に「司令官は自分だ」と言い立てるガキ大将らしさをよく表現していて楽しい。

同じ『ロストボーイ』のメンバーでは、くるくるとよく動いて慌て者のトロンを表出した横道侑里。丸眼鏡と水玉の衣裳が抜群に似合いファンタジーそのものの存在感で魅せるハップルの植野祐美。重要な意味を持つ、くしゃみが出るか出ないかの間合いが面白いポップの夢月。見た目と中身の性別が逆な双子という設定のツインズ♂新木美優とツインズ♀の織田俊輝が、双子であることで大フェイントをかける展開でおおいに笑わせてくれる。

また、「ピーターパン」では姉と弟と共に「ネバーランド」へやってきたジョンが、ずっとこの世界にいて、仲間と共に暮らしていたら?のアンサーであるジョンマークの新井雄也が、やはりとても長身なのに、自然にあぁジョンだなと思わせる優しさのあるキャラクターを作りこんでいて、どこにいても目を引く。

彼らに絡む妖精の森の住人達では、海賊から不死の血といわれる妖精の血と森を守る戦士リリーの増本祥子が、颯爽とした闘いぶりと、ピーターの前に出た時に見せるどこか恥じらったような表情のギャップを魅力的に描いたし、その父であるドン・ロンの名倉周は、思い切った作りこみの装束がよく似合い、結界を張る場面では照明効果だけでなく、そこに確かに結界があることがわかる芝居面でも作品を盛り上げた。ドン・ロンとコミカルなやりとりを重ねる妖精の森の見張り番パーチの平野正和も、コメディリリーフとしての役割りと、戦いの場面の引き締まった表現との変化をテンポよく見せた。

この世界で不老の血を持つ人魚も大きな意味を持つ役どころで、ジェリーの高野美幸は、華麗な衣装が映える艶やかな美貌で、黒ひげ海賊団のメンバーと関わる重要な役柄を美しく見せている。アリーの今出舞の溌剌とした立ち居振る舞い。メイの七海とろろの儚さがある憂いの表現と、三者三様のコントラストもよく出ていた。

黒ひげ海賊団に目を移すと、副長マーロの竹内尚文が船長に忠実で寡黙な男の隙のない戦いぶりと、人魚のメイの切ない思いに、応えきれない不器用さの落差の表現を効かせたし、ある意味ではマーロ以上に船長に心酔しているギルダの中山ヤスカの、「強いよ」とサラリと言える役柄通りの殺陣の見事さが小気味いい。一転、戦闘ではなく甲板掃除にはじまる雑務の全てを引き受けているポンドの津田幹土の、おっとりした立ち位置が集団のアクセントになっている。

更に、マーロと副長の座を争い、道を違えるフールの門野翔が、船長と衝突することからもうひとつのドラマが動き出すインパクトのある役柄をさすがの存在感で示して、この人はこれからどうなるのか?の興味が作品に大きな効果を与えている。そのフールに救われるスマイルの遠藤しずかの、役名通りに輝く笑顔が抜群に愛らしく門野との息もぴったり。いくつもの人生が描かれる物語にあって、特段に印象に残るコンビだった。

この世界を司っている謎の人物メダリアの遊佐邦博は、白一色の衣裳に変化はないまま、マスクを用いて様々な役柄に扮することで、更に謎を帯びる役柄を的確に表現している。台詞発声が明晰なのも、大きな魅力だった。

「ネバーランド」を照らす月に住む女神であり、この世界の母である月子の梅田悠に「ザ・ヒロイン」の香りがあるのが、“ススム”との関係性も絡む役どころを十全に支えている。月の満ち欠けの神秘、“母”であること、『NEVER EVER NEVER』とタイトルされた、この作品を象徴する存在だった。

そしてSpecial Guest Starの格で出た、大海賊黒ひげ海賊団船長のジャック通称・黒ひげ の和泉元彌の、どこまでも通る明瞭な台詞回しと大きな演技が「ネバーランド」に立ちはだかる「宿敵」としての存在を際立たせている。繰り出し続ける殺陣やアクションも見事で、アメリカ映画に登場する、死んだと思わせて生きている、今度こそ倒したと思うそばから蘇る、人知を超えた敵役ぶりに通じる不死身感が、作品のひとつの要になっていた。

彼らが展開し続ける華麗な殺陣シーンに欠かせない、dreamer と呼ばれるアンサンブルの澤田洋栄、羽根川洸太、高見彩己子、倭香、山根悠、椿千優の大活躍もそれぞれに見事で、息つく暇もないだろう舞台を縦横無尽に駆け回る姿が、この「ネバーランド」を作り上げた。単なる切られ役でも、単なる群衆でもなく、それぞれの顔がきちんと見える門野の演出も温かく、それに応えた一人ひとりが輝いていた。

そんな大人数で繰り出される物語には、おそらく観た人の数だけ感じ方があるだろうし、世代によってもきっと受け止め方が変わる展開になっている。だからこそ観終わってどう感じたのかを、誰かと語り合いたい。そう思わせてくれる舞台だった。

(取材・文/橘涼香)

公演概要

@emotion presents Expression Vol.9 銀『NEVER EVER NEVER』
公演期間:2023年1月25日 (水) ~2023年1月29日 (日)
会場:六行会ホール(東京都品川区北品川 2-32-3)

★@emotion初の大阪公演 
ABCホール 2023年5月12日〜14日
キャスト一部変更有

■出演者
門野翔
名倉周
平野正和
斉藤有希
高野美幸
増本祥子
土屋シオン
遠藤しずか
(以上@emotion)

GUEST
笠原織人

星璃
竹内尚文
新井雄也

今出舞
七海とろろ
横道侑里

中山ヤスカ
津田幹土
植野祐美
夢月
新木美優
織田俊輝

遊佐邦博

梅田悠

和泉元彌(特別出演)

澤田洋栄
羽根川洸太
高見彩己子
倭香
山根悠
椿千優

■スタッフ
作・演出:門野翔
演出助手:増本祥子
舞台監督・美術:吉田慎一(Y’s factory)
音響:志水れいこ
音響操作 太田智子・宮下奏
照明:若原靖
殺陣振付:門野翔
ダンス振付:増本祥子・門野翔
楽曲提供:小林成宇
衣装:壷阪英理佳
ヘアメイク:青山亜耶・杉浦なおこ
小道具:平野正和
宣伝美術:升田智美(Mdesign)
グッズデザイン:大串潤也(mepakura)
スチール撮影:山下雄基
WEBデザイン:高野美幸
グッズ企画:遠藤しずか
当日運営:スガワラカナエ
制作:土屋シオン・名倉周
プロデューサー:斉藤有希
企画・運営:@emotion

公式Twitter:@atemotion

@emotion(あっとえもーしょん)

門野翔、名倉周、平野正和、斉藤有希、高野美幸、増本祥子、土屋シオン、遠藤しずか らで構成される平成生まれのエンターテイメントユニット。”日常に刺激を”を掲げ舞台に留まらず各方面で勢力的に活躍。

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