サヨナラワーク『マザー4』:劇評

女性4人の繋がりが明かされていき、想像力の扉が開けられていく
サヨナラワーク『マザー4』

「何階ですか?」「5階です」。

このやりとりで始まる四人芝居。同じエレベーターに乗り合わせた4人の女性は、この言葉を何度も繰り返すことになる。タイムリープものかと思いきや、少しずつ明らかになる謎によって、物語はまさかの展開へと向かっていく。

初演は2014年8月。上演するサヨナラワークは、2020年のコロナ禍に結成された演劇ユニットだ。当時は映像作品を制作・配信しており、どの作品でも映像技術によって、日常的だったはずの世界がいつの間にか非日常と混ざりあっていくような演出で、観客を引き付けてきた。それは劇場での上演でも変わらず、2021年12月に団体初となる劇場公演『眠れぬ姫は夢を見る』でも、プロジェクションマッピングなどを用いて、日常と非日常が入り混じる脚本の世界観をより空間的に表現している。今回はサヨナラワーク劇場公演として二回目であり、さらにその映像演出が大きな役割を果たす一作だ。

場面は、とあるエレベーター。すでに3人が乗っているエレベーターに、最後のひとり遠藤(遠藤千織)が乗り込んでくる。清掃員の制服を着た蒼木(蒼木鞠子)に聞かれる。「何階ですか?」「5階です」。昇降のためのほんの短い時間が過ぎると、いつしかまた遠藤がエレベーターに乗り込むところに戻っている。困惑する4人はなんとかこのループから抜け出そうと、3階で降りてみたり、お互いの共通点を探したりと奮闘する。そのうちに、「どうせ繰り返すのなら死んでも生き返るのではないか」という発想から、自殺を試みる人まででてきてしまう。

舞台上では、4人は奥の壁に沿ってほぼ横一列のまま、立ち位置が入れ替わることもなく、動きは少ない。ループものという設定のため大きな変化が起こるわけでもないが、それでも惹き付ける要素がいくつも散りばめられている。繰り返されるたびに少しずつお互いの背景がわかっていく様子が、謎解きのように積み重なっていく。客席数約70の凝縮された空間密度も、エレベータ内の圧迫感や、登場人物たちの緊張感を引き立てる。

とくにプロジェクションマッピングは存在感が強い。場面転換としての効果だけでなく、観ている者の距離感を一気に変える。それまで平面的だった舞台装置に、とつじょ立体が浮かび上がると、急に前後に揺さぶられたような感覚になって身体が驚くのだ。同時に、緊迫した空気をゆるめるシーンもあり、物語の運びを彩り豊かにしている。そうしていつしか、日常的な感覚と、非日常的な感覚が混ざりあっていったのだということに観終わってから気づいた。

物語もまた、日常と非日常、リアルとファンタジーの境界が曖昧になっていく。お互いの共通点を探るなかで、全員が24歳ということを知った4人。しかしそれはなんの手がかりにもならない。ただ、持ち物などの違いから、どうやらそれぞれが今いる場所も時代も異なっているらしい。1985年の病院、2010年の6階建てマンション、2035年のラブホテル、2101年の宇宙エレベーター。時空が歪んでいるのだろうか。だとしたらなぜか。うち2人が死んで生き返る気持ちよさを覚えて自殺中毒になっていくことで、4人がどうしてひとつのエレベーターに集まることになってきたのかが明らかになっていく。

離れた時代を生きる4人を演じる俳優たちの個性がまったく異なることで、より、その秘密が意味を持ってくる。

下手(客席から見てステージ左)側から、ビル清掃員を演じる蒼木は、お人よしで賑やかで、年齢より上に見える。好きな人のマンションへ向かっていた遠藤は女性らしいファッションや仕草で、どこか控えめでありながら芯の強さと心の脆さをあわせもっている。風俗(おそらくデリヘル)で働く彩原(彩原双葉)は、ラフなスウェットとはすっぱな喋り方で、一見するととくに遠藤とは反対のタイプのように見える。そして、ひときわ派手な服装の舞園/集貝(舞園れいな/集貝はな:Wキャスト)は、表情も動きも抑え気味に淡々と話す。ステージ上の対極の位置に立つ遠藤とは、演技として強調する要素が真逆と言っていい。また、4人とも声の高低にも大きく差がある。

どう見ても共通点がなさそうな4人だからこそ、「実は4人には血の繋がりがあるのかもしれない」と思い至った頃から演劇的な効果がうまれてくる。誰かが、誰かの母親、あるいはその母親の母親なのかもしれない……その可能性は、「未婚の24歳の彼女たちの未来に、いったいなにがあったのか?」と4人の人生が想像させられるのだ。もし4人が一見して似ていると、観客の想像力は刺激されない。おそらくあえて似せないという深寅芥(みとら・あくた)の演出と俳優たちの演技なのだろう。だからこそ、脚本に描かれていないところまでイメージが広がっていく。

登場人物は4人。タイトルの数字に込められた意味を想像した時、観客席の私たちはさらに、まだ見ぬ未来に思いを馳せてしまうはずだ。私たち一人ひとりの人生を越えた大きな流れに飲み込まれていくような錯覚さえあるかもしれない。それは思い違いではなく、フィクションがもたらした未来への切符なのだと思う。

文:河野桃子

サヨナラワーク #5「マザー4」

<公演期間>
2022年12月20日 (火) ~2022年12月25日 (日) 東京・劇場HOPE

<出演者>
【星組】
蒼木鞠子/彩原双葉/遠藤千織/舞園れいな
【月組】
蒼木鞠子/彩原双葉/遠藤千織/集貝はな

<スタッフ>
脚本:雨、稀に晴れ。 / 演出:深寅芥

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